006 ターラッシュの悪魔……?
「カード。ください」
『は、は、はい……!? あ、あの』
「カード、ください。冒険者の」
凄い、私……今もの凄く……堂々としてる。順番待ちの列だって物怖じせずに並んだし、数回来た虫も全部払い除けた。私、堂々としてる!!
『冒険者カードの発行でございますね。う、承りました……。あの、失礼ですが、種族の方は……』
「人間、身長155センチ」
『は、はい、ええと!! それらの身体情報の方は、大丈夫ですので!! 人間用の水晶球は、こちらです』
このソフトボールみたいな大きさの水晶球に手を乗せればいいの? ちょっと前に流行ってた漫画とかの展開だと、主人公の力が規格外過ぎて水晶玉がパリーンって割れる~!! みたいなお約束展開があるけど、まあ私は普通にレベル10の初心者なんで……。そんなことは起きませんねー。
『重要なシステムメッセージ:【詳細なステータス情報】が解禁されました。より詳細な情報を確認することが可能です』
『はい、終わりました。身長は、ええと……。角込みで155センチですね!』
「…………」
『し、失礼しました……』
私は155センチある。150以下じゃない。ちっちゃくなんて、ないんだもん……。お姉ちゃん、私に身長を10センチだけでいいからわけてよ~……。どっちかのお兄ちゃんでもいいけど。
それより重要なのは、冒険者カードの登録が終わった瞬間に詳細なステータス情報解禁ってほうだよね。なるほど、初心者の内はわけのわからないステータスがズラリと並んでも困惑するだけだから、最初は必要最小限の情報だけを表示してくれてたのね。これが終わると、いよいよ本格的なスタートってことかな。
「あ、りがと。ござます、た……」
『は、はい……。あの、あの!! 初心者の冒険者様にオススメの』
「あ?」
『いえ! なんでもありません! よい冒険者ライフをー!!』
え、聞かせてよ。初心者の冒険者にオススメの、何!? ああもう次の冒険者の相手をしてるし、説明してくれる雰囲気じゃないわ……。も~、この街のNPC……嫌い!! 私のことを悪魔だとかなんだとか、とにかく人間扱いしてこない!! もういいもん、自分のやりたいことは自分で見つけるも~ん。
とりあえず、期間限定イベントの【黄金の輝きに魅せられて】!! これは今の期間限定、ゴールデンウィークにちなんだイベントみたいで期間が一番短いから、まずはこれをやりたいなと思ってたのよ。
やることは単純で、ターゲットのモンスターを狩ればクエスト達成。狩ったモンスターの強さに応じて報酬がどんどん豪華になるって内容で、最後までクリアすると1万円分のゴールドチケットが貰えるんだって!! まあ最後の方は高難易度のレベル100モンスターとか書かれてるから、そこまではクリア出来ないだろうけど……。それでも、経験値増加アイテムとか、レベルアップポーションとかが手に入るみたいで、これはやらなきゃ損だと思うのよ。
「……とりあえず、スタンプラビットを10体。その次だと一番近いのは、ここから西にある死都ルナリエット郊外に居るらしい、ヴェノムゴーレム25体ねぇ」
スタンプラビットは高く跳ねてこちらを踏みつけようとしてくる、バレーボールよりちょっと大きいウサギのモンスターね。これはインパクト空中移動で狩れるから問題ないけど、ヴェノムゴーレムは名前からして強そうだなぁ。それに死都ルナリエットって、名前からしてどう考えても初心者が行くべき場所じゃないよね。
――――普通は。
普通なら行かないだろうけど、初心者のうちはデスペナルティもないから死に放題だし、今のうちに強いモンスター達を見に行っておいたほうが絶対に良いよね! それに、ちょこっと調べてみた感じだと、死都ルナリエットってダンジョン化してるらしい! 中にはゴールデンウィークの討伐対象が4種類も居るみたいだから、倒せるなら倒したいよね~!
それじゃ、ステータスを~……全部筋力でいっか! 27ポイントを筋力に振って、後は敏捷性が足りないと思ったらそっちに振り分ければ良いよね。幸いにもレベル30までの初心者期間中はステータスリセットし放題だし、30を超えても2回まで無料リセット出来るみたいだから! 筋力もりもりにしたらどのぐらい変わるのか、実験も兼ねてってことで~。
「あ、そうだ……」
そうだそうだ、街を離れたらオークション機能が使えなくなるし、今のうちにさっき引いたコスチュームを売りに出しちゃおう。オークションのタブの登録から、さっき引いたコスチュームを選択して~……。騎士のグリーブは50万シルバーが平均相場か~……。魔女っ子ローブは700万!? ピ、ピンクリボンは1500万!? ええ、意味わかんない……。なんなのこのメチャクチャ過ぎる相場は。
試しに、さっき引いた夜の魔王セットの相場検索をしてみようかな……。え、は……? 売却履歴なし……? 過去1年間で、1件も売りに出てないってこと? あ~、せっかくレアなのが出たから売らずに持っておこうって感じで出てこない系かな? それか、お友達同士で取引してオークションを経由してないとか? ん~、そもそも売値がわからないアイテムだったなら、着て正解だったのかな~。
「よし、全部登録出来た。売れたら嬉しいなあ~」
『【騎士のグリーブ】が即決で購入されました。売上はメールボックスに送信されました』
「ええ……」
え、売れちゃった。本当に50万シルバーが相場だったのかな……。とんでもない爆速で売れちゃったんですけど? まあもう売れちゃったからにはどうしようもないし、それに最序盤の50万は超大金!! これで普通シリーズの装備から別の装備に買い替えて、ちょっとはマシなもので狩りに出かけようっと。
ああ! そうだ! 私でも扱えそうな武器をオークションで買えば良いんじゃない!? 50万もあれば、何か1つぐらい良さげな装備が買えるんじゃないかな。私のステータスでも装備出来る武器に絞り込み、両手槍と両手斧と両手槌で検索……え? 出てこない? なにもないってこと!? はぁ~……。じゃあ、逆にどんな武器なら扱えるのよ。全武器で検索してみよう。
「…………ねこちゃんの爪、大鉈、くだものナイフ、くたびれた強弓。まともそうな武器が全然ない」
なんなのよこの、ねこちゃんの手を模したグローブに爪が生えた拳武器とか、果物を切るのに適したナイフとか……。え!? あ、強いじゃんこれ!! ねこちゃんの爪は小型の獣・小型の鳥系モンスターに対して追加で攻撃力+60!? くだものナイフは植物系モンスターに追加で攻撃力+60……。限定的だけど、凄く強いじゃないこれ!!
「か、買っておこうかな……。ものは試し、だよね」
『【ねこちゃんの爪】【くだものナイフ】を購入しました。メールボックスを確認してください』
「おお~……お金なくなっちゃった……」
なるほど、わざわざお店に出向かなくてもポチポチすれば買えて、しかも即座に手元へ届くシステム……。リアルの通販で買うより便利だわ。これは、オークションに掘り出し物がないかずーっとチェックしているようなプレイヤーとかも居そうね~……。ああ、居るわ! だから騎士のグリーブがあんなに早く売れたのよ! なるほどね。
「とりあえず、ねこちゃんの爪は両手槌と交換しようかな……?」
『サブ2武器の【普通の両手槌】を解除、サブ2武器・右に【ねこちゃんの爪】を装備しました』
「あっ、これ……片手武器!?」
あっ、しまった。ねこちゃんの爪って片手武器だったんだ! てっきり両手用なのかと思ってた……。じゃあ、左手にくだものナイフをセットしておけばいいかな。空いてるし、そうしておこうか。
『サブ2武器・左に【くだものナイフ】を装備しました』
「よ~し、外で試してみようっと……」
ん、これでよし! それじゃあ外に出て早速スタンプラビットに試してみよう!! ねこちゃんの爪はスタンプラビット相手なら効果を発揮するはずだよね。筋力も上がったし、サクッと大ダメージが出て快感を得られるかも!!
『外に出るのか? あと数時間で暗くなるから、気をつけるんだぞ冒険者……って、お前は……!?』
『あ? どうした……さっきの奴か!? なんだ、その格好……!?』
『それにその角、やっぱり悪魔憑きか!!』
うるさいなぁこの門番、ちょっとは黙って仕事出来ないのかな。
『お、おい! 無視するな!!』
『止まれ!! 止まれと言っているんだ!!』
もうこの街、戻ってこなくていいや。こいつらメチャクチャ嫌い。二度と顔を見たくない……さっさと離れたいから、インパクト空中移動で出ちゃお~っと。
『【普通の両手斧】に変更、【下段振り下ろし】を発動、【ジャンプ】を発動、【普通の両手槍】に変更しました』
『うわあああ!? こ、攻撃された!!』
『武器を抜いたな、この悪魔が!!』
『斧の上で、ジャンプしたぞ!!』
『【下段振り下ろし・空中】を発動、【ダッシュ】を発動、【中段突進】を発動、キャンセルしました』
お!? おお、凄い!! 筋力が上がったからか、武器を振り下ろすスピードが上がってる!! 気のせいじゃない、さっきは『ふん、は、とう、ほっ』って感じだったのが『ふんはっとういやーっ!』って感じに素早くなってる!! それにダッシュした時の加速も、筋力が上がった分だけ蹴る力が強くなってる。これは、もっと筋力を上げたら更に速くなるわ……。よし、筋力最優先! 60まで上がったら体力で、最低限の30だけ振ったら後は敏捷性を上げてみよう。
『貴様――――止ま――――』
『待――――』
『【下段振り下ろし】を発動――――』
居た居た、スタンプラビット! 最初の獲物決定~。街の近くまでモンスターがうろうろしてるなんて物騒だなぁ~。ど~れ、飛び跳ねるのはそっちの特権じゃないってことを理解させてあげようかしらね~……あ、そうだそうだ! これだけの高さがあれば、落下致命攻撃が発動出来るんじゃない? せっかくだから特効武器のねこちゃんの爪に変更して、それで落下致命攻撃を使ってみよう!
『プッ?』
「ふぅん!!」
『【ねこちゃんの爪】【くだものナイフ】に変更、【落下致命攻撃】を発動』
落下致命攻撃の威力は獄ミノで確認した通り。まさに致命的な大ダメージを与えることが出来る超威力の一撃! さあて、これでどれぐらいダメージが出るかなぁ~?? ぶっ潰れろぉおおパァアアアンチ!!
『クリティカル! スタンプラビットに33,333ダメージを与え、撃破しました。経験値 45 獲得』
『おめでとうございます! レベル11に上昇しました!』
「ほへええ~……!?」
こりゃまたキリの良い数字が出たぁ!! あの時の3倍近いダメージが出てる……。レベル差とステータス差、それに特効武器ってのもあるだろうけど、これは……ミンチね!!
「うん、筋力で間違いない。筋力に振っておこ……」
これなら、ヴェノムゴーレムっていう強そうな名前のモンスターでもある程度ダメージが通るんじゃないかな!? 獄ミノだって顔面にハンマー叩き込みまくれば倒せたんだから、ゴーレムだってなんとかなるでしょ、きっと!! そうと決まったらさっさと残り9体を狩って、西に向かいましょ~!!