025 ノリと勢いと猫
カリンちゃんと遊ぶのが楽しみだったのと、ペルシアちゃんのばいば~いが尊すぎてソワソワしていたので、朝の5時に起きてしまいました。
メイドロイドのミケちゃんは、私が何時に起きても朝の支度を全てやってくれる。着替えに、歯磨きに、料理に、本当に全部やってくれる……。
「――ねえ、そろそろこういうことは自分でやるから……」
『え?』
「歯磨きも、着替えも、自分でやるから……」
『それでは、私の存在価値がなくなってしまうではありませんか』
いやいや、何もそんな大層な話じゃなくて……。
『やる気になったら何でも出来てしまうお嬢様が、その気になってしまったら料理も何もかも私から仕事を奪ってしまうではありませんか』
「いや、それは流石に……」
『うう、ミケは要らない子です。廃棄処分です。さようなら真波様、今までありがとうございました……』
「そこまで言ってないから!! せめて、歯磨きぐらい自分でやるって言ってるの!!」
『歯磨きもさせてくれない!!』
「あーあーわかったわかった、歯磨きもお願いするから……」
『あら、そうですか。それは良かったです。にゃ~ん』
取ってつけたようなにゃ~んで、急にコロッと元の態度に戻るじゃない。全く、どうしてこう、なんでもかんでもしようとしてくれるかなぁ……。まあそれがお仕事なのはわかるんだけど……。
『昔のようになでなでもさせて貰ってよろしいですか?』
「それはダメ」
『うう、ミケはお仕事だけが取り柄の道具です。いずれ真波様に捨てられてしまうオンボロロボットです。さようなら真波様、今まで』
「あーあーわかったわかった! ちょっとぐらいなら撫でても良いから!!」
『あら、そうですか。それはとても良かったです。にゃははぁ~ん』
なんだかミケに振り回されている気がするわ……。まあ、ミケが楽しそうだから別に良いけど……。
『ん~……。大きくなられましたねえ~……』
「私が一番小さいんだけど……」
『真波様はお胸が一番大きいではありませんか?』
「それは一番気にしてることなんだけど……」
『実はミケも初期モデルは胸が大きかったのですが、足元がよく見えないと真波様に気が付けない可能性があるということで、今のようなぺったんこモデルに変わったのですよ』
「私もぺったんこで身長高いモデルに変わりたいわ……」
『にゃははは~』
いいわね、あんたはそうやって気軽にボディが交換出来るから。身長も高いし、可愛いし。
『結局スカート内部にもカメラがあるので、ぺったんこモデルにする必要はなかったのですが』
「じゃあ私のこれぐらいデカいのに交換してあげるわ。すぐ手配するから」
『いーやーでーすー。絶対重いですー。それに、お嬢様のご立派は本物だからこそ美しいので、私にあってもただの悪趣味な産物にしかなりませんよ』
「あっそ……ん、じゃあ私は」
『運動ですね! 食後は運動、燐音様も食後の運動は欠かしたことがありません。さあ、真波様もしっかり運動しましょう!』
「…………はいはい」
あーあ、ペルシアオンラインがやりたかったんだけど。まあでも、そうね……引きこもり続けてたらこの無駄に大きい胸が、更に巨大化してしまうかもしれないし……。適度に運動をして絞っておかないと。
『その後はバス……ん、んっ! マッサージもして差し上げますね!』
「今なんか言いかけたけど、何?」
『いえなんでもありません! にゃ~ふふ~ん……バストアップバストアップ~……』
「…………?」
鼻歌を歌いながら何かを口にしてる気がするんだけど、絶妙に聞こえない音量なのよね。私が聞き取れない音量のギリギリをわかってる、全く悪いメイドロイドだわ……。はあ、運動しましょうか~。
◆ ◆ ◆
『にゃんにゃぁ~……。うにゃうにゃうにゃうにゃ……』
『マンマル・ナーノ男爵が【けりけり】を発動、エビフライ人形に1ダメージを与えました』
「…………んふっ」
わあ……。運動とマッサージを終えてシャワーを浴びてーなんて悠長なことをしていたら、いつの間にか7時30分を回っていたわ。
急いでログインしてきてみたら、幸いにもまだカリンちゃんは居なかったんだけど、その代わりににゃおみさんがナーノちゃんと遊んでた……。エビフライ人形って何? うわ、本当にエビフライの形をした、でっかいぬいぐるみだ……。エビフライを抱っこして、一生懸命後ろ足でけりけりしてる!!
にゃおみさん、猫耳を着けてるぐらいだし、やっぱり猫ちゃんが好きなんだなぁ~。手元に猫用のオモチャがいっぱいあるように見えるんですが……? あ、こっちに気がついた。うう、挨拶……挨拶……。
「おはよう、いや――Good morning……。Welcome、こっちのWorldへ……」
「え、なんですかその挨拶……お、おはよう、ごご、ございます……」
『うみゃうみゃあああ~~』
『マンマル・ナーノ男爵が【ぱんちぱんち】を発動、エビフライ人形に1ダメージを与えました』
いや、なんだろう、私のほうがダメージを受けているような気がするんだけど……。な、なんですか、その挨拶……? にゃおみさんの挨拶、クセが強すぎませんか?
「ハヤテとミサオがハマってる。ウェーブ師匠リスペクト語録」
「……だ、誰、ですか?」
「え? 昨日会ってる。ハヤテ、赤い髪の。わたしと、同じぐらいの身長の子」
「…………あ!! ダ、ダブル……イ、インパクト……」
「そう、ダブルインパクターを名乗ることが赦されない、哀れなぴょんぴょんマシーンさ……」
ハヤテさんって、昨日の夜に出会ってダブルインパクトを教えたあの女の子ですよね? え、私をリスペクトでそんな喋り方って……ど、どこをどうやったらそうなるんですか……? いやでも、哀れなぴょんぴょんマシーンは言った気がするなぁ……。
「今、掲示板で大流行」
「え?」
「ウェーブ語録、ダブルインパクター語、レーシング語、いろんな呼ばれ方してる」
「え、う、嘘……」
「本当。にゃんにゃお~? エビフライ、気に入った? にゃんお~?」
『にゃぁぁぁお~』
『マンマル・ナーノ男爵が【けりけり】を発動、エビフライ人形に1ダメージを与えました』
ちょっと脳が理解を拒んでる、ああナーノちゃんがローリングしてて可愛いね。ごろごろ~。お腹撫でても良いかな……あれ? そういえばお家から出てこっちで遊んでるんだ。向こうは居心地悪かったのかなぁ……?
『にゃ!!』
『従魔【マンマル・ナーノ男爵】が【従魔の豪邸】に移動しました』
「あ、潜っちゃった」
「も、ぐ……?」
『従魔【マンマル・ナーノ男爵】が【従魔の豪邸】を退出しました』
『みゃうみゃ~』
「欲しいの? 良いよ、あげる」
『にゃぁぁああ~』
『従魔【マンマル・ナーノ男爵】が【エビフライ人形】を獲得、【従魔の豪邸】に移動しました』
え゛!? 人のものを勝手に、えっ……良いの!? 大丈夫なんですか!? ナーノちゃんが自分のお家にエビフライ咥えて持ってっちゃったけど……。
「あ、あの、かか、勝手に……す、すみませ……」
「ん? 大丈夫、いっぱいある。うちのフドーさん、ぬいぐるみ系興味ない。処分、困ってた」
「あ、ありがと、ご、ざい……」
『203BW66Yからフレンド申請が届きました』
「お友達。従魔がお友達の家、行けるようになるよ。見てて楽しい」
「え、あっ……は、はい……!」
『203BW66Yのフレンド申請を許可しました』
にゃおみさん、大人しそうな雰囲気とは違って、物凄くグイグイと迫ってくる……。流れでお友達も受け入れちゃったけど、大丈夫かな……?
「よろしく……あ、なっちまったのさ、Friend……」
「よろしくおねが、あの……それ、あの……」
「ふふ、嫌そうだから、やめてあげる。私、眠いから。またね」
「えっ、あっ……」
『203BW66Yがログアウトしました』
多分ね、にゃおみさんは猫ちゃんが好きというより、にゃおみさんが猫ちゃんそのものだね……。動画で見る猫ちゃんの生態を人間バージョンにしましたって、そんな感じ。今度から猫ちゃんを相手に話をしてると思えば、意外とすんなりお喋り出来るかも……? が、頑張ってみよう。
それにそうだ、このギルドの偉い人はみんな動物の耳生えてるし、皆も動物だと思えばちゃんとお喋り出来るかも……。カリンちゃんは、まあ、カリンちゃんだから大丈夫かな。ルフラーンさんは……うーん、頑張ろう……。
『従魔【マンマル・ナーノ男爵】が【従魔の豪邸】を退出しました』
『うむ、失礼した。おはようウェーブ嬢』
「おはよう。けりけり満足した?」
『うぅむ、狩猟本能を刺激されると言うべきか……。どうにも楽しくなってしまう道具でね……』
ナーノちゃんはダンディなオジサマと思いきや、やっぱり本能が猫ちゃんだからなのか、ああいう系のオモチャも好んで遊んでくれるのね。よーし、オークションで面白そうなオモチャを見つけたら、頑張って買ってあげるからね!
『カリンがログインしました』
「あ、カリンちゃんがきたわ」
『おお、そうか。ところで、本当に2人でルナフェルノに向かうのかね?』
「え? うん、行こうかなって思って」
そうだよ、今日はカリンちゃんとルナフェルノに行って、あの地獄のような煉獄を2人で貸し切り大冒険するんだよ?
『どうやって渡るのかね』
「え?」
『あの橋は、弱き者では通れないと聞いたが……』
「え??」
え、それはだって、飛び越えれば……ダブルインパクトもあるし、今度は踏み台が要らな…………い…………。要るわ。
「カリンちゃん、どうやって飛び越えればいいの……?」
『完全に考えていなかった顔だね。なるほど、君は良いかもしれないが、彼女は……』
「おはようございま~す!! カリンのこと、呼びましたか~?」
うっ! 太陽!! 眩しいッ!! 目が焼ける!!
「お、おはよう、カリンちゃん……呼んだ呼んだ……」
『御機嫌よう。朝から元気そうで何よりだよ』
「はい! お祖母様に今日は新しいお友達と遊ぶと伝えたら喜んでくださったので、カリンも嬉しいです!!」
「そ、そうなんだ……。良いお祖母ちゃんだね……」
「えっと、キヌエお祖母様もかえでお祖母様も夢乃お祖母様も、とってもいい人です!! 翔吾お祖父様はちょっと怖いです……」
「あ!! あのね、あの……な、名前は出さないほうが良いかなって……」
「あっ!? ご、ごめんなさい、忘れてください!!」
この子ねぇ~……!! うっかり屋も度が過ぎるのよ、隠しごとに向かないタイプよ、絶対!! でもまあ、そういう常識がないというか、今まではそれを口走っても問題ない人達に囲まれてたんだろうなって感じ? ルフラーンさん達とはリアルで知り合いみたいだしね。キヌエにかえでにゆめのにショーゴ……なんか、お母様から聞いたことがある名前な気がするんだけど……どこでだっけ……?
「それよりね、ちょっと問題があるのよ」
「はい? 問題、ですか?」
「うん。あのね、カリンちゃんにも……ダブルインパクトを使えるようになって貰うか、それとも新技を開発するか、はたまた別の場所に遊びにいくかなんだけどね……」
「だぶる、いんぱくと? ウェーブちゃんが行きたい場所は、どんな場所なんですか?」
ん~……どうしよう、バカ正直に説明しても良いんだけど、超激熱空間に、お肉の元がウヨウヨ徘徊しているところって感じ……? あ~いや、そうだ。カリンちゃんが喜びそうな情報があるわ。
「……トラップ付きの宝箱が、ゴロゴロと転がっている場所ね」
「トラップ付きの宝箱ですか!? 聞いたことがないです~!! 絶対行きたいです~!!」
「それじゃあ、ダブルインパクトか新技開発で決まりね……」
「は~い!!」
『ああ~……。ま、まあ、頑張ってくれたまえとしか……』
大丈夫よ、あんなに爆速で扉の鍵を開けちゃうような子だし、テクニックはきっとゲキヤバよ。それこそ、ダブルインパクトなんて特別じゃないですね~なんて、ちゃちゃーっと成功しちゃうかもしれないわ。それはそれでショックなんだけど、まあまずは挑戦してみてからね!!
「それじゃ、外に行こ。結構長時間武器を振り回すことになるから」
「あ、地下に訓練場がありますよ~?」
「…………広い?」
「広さは変えられます~!! ターラッシュの平原エリア再現の訓練場にも設定出来ますよ~!!」
「おお~。じゃ、そっちで練習しよ」
「は~い!!」
へえ~ギルドって、そういう施設もあるんだ。それは便利ね~……他のマップも設定出来るのかしら?
「他のマップも設定出来るの?」
「はい! ターラッシュの近郊、ローレイ近郊、ルテオラ近郊は自由に設定出来ます~!!」
「…………大地の古傷は?」
「出来ると思います~……?」
へえ……。それは、朗報ねえ……。
それじゃあ、カリンちゃんが渡れるようになるまで、そこでた~っぷり練習しようじゃないの……。うっふっふっふっふ……!!