023 ぶっちぎりでイカれた初心者・7
ダブル致命インパクトぴょんぴょん丸……。両手槌を2個装備して、切り替え時に二重で落下致命を出すことで繰り出せた、私が現状で思いつく最強の攻撃方法。これでレベル1のダメージランキングを見事に更新して、るんるん気分でターラッシュまで帰ってきましたよ……爆速で!! ああ、ちなみに煉獄の大斧は出ませんでした。ドロップしたのは牛の鼻輪、換金アイテムだけだったわ。
ルフラーンさんが何か言っていた気がするけど、私はとある検証がしたくてたまらなかったので、ササッとギルドハウスを出てきてしまいましたね。ごめんなさい、どうしてもすぐに確認したかったんで……。
『ウェーブ嬢……。転生というものをすると、2倍近く移動速度が速くなるものなのかね?』
「ん? うーん、ナーノちゃんになんて説明すればいいのかしら……? これはね、ダブルインパクト走法って言って……まあ! ちょっと難しいけど速いのよ!!」
『そう、か……。それで、なぜそのようなボロの両手槍をわざわざ購入したのかね』
「ん! これはねぇ!! 大事な大事な、とある現象の確認に使うのよ!!」
『そう……か……』
私がターラッシュに到着して、ドッサリとあるシルバーで購入したもの……。それは、これです!!
『【粗悪な両手槍】【普通の両手槍】【普通の両手槍】をセット、【粗悪な両手槍】を装備しています』
粗悪な両手槍!! なんでこんな、初期装備以下のゴミを購入したのかって? これにはね、深い理由があるのよ。
まず、ダブルインパクトの発動するメカニズムについてね! これは私の予想だと、同じ武器を呼び出そうとした時に起きる一種のバグのようなものだと思うのよ。メインにセットしている普通の両手槍、サブにセットしている普通の両手槍、これを強制モーションで手元に戻すという処理を実行した時、特定のタイミングで両方を手元に戻してしまう。この時にダブルインパクトが発生する、ということね!!
チュートリアル中に確認できた現象として、違う武器種のダブルインパクトは何回やっても成功しなかった。違う武器ならこの辺りの処理がキチンと実行されて、交換した後の武器でしか強制モーションが出せなかったわ。だけど、同じ種類の武器で違う名前の武器だったらどうなるか? 私はこれが知りたい……。もしも、私の予想通りであれば……。
『【ダッシュ】を発動、【普通の両手槍】に変更、【中段突進】を発動しました』
「…………」
『おや、今のはゆっくりだったね』
『【ダッシュ】を発動、【普通の両手槍】に変更、【中段突進】【中段突進】を発動しました』
『おお、さっきのスピードだね。とてつもないスピードだ』
「同じ武器だとね、2倍の効果量で発動可能なのよ」
タイミングはほぼ完璧と思う。でも、粗悪から普通に変更した時はダブルインパクトは発動せず、変更後の普通の両手槍でインパクト走法が出来ただけだった。逆に、普通から普通に変更した時は、これまで通りダブルインパクトが発動したわ!!
つまり、ダブルインパクトを成功させるには、全く同じ名前の装備が必要だってこと!! 武器の種類があっていれば良いわけじゃなくて、名前が全く同じじゃないとダメなのね!!
この予想を確実なものにするため、私はまだ買ってあるものがあるのよ。これも絶対確認しないといけないわ。
『【粗悪な両手槍】【粗悪な両手槍】【粗悪な両手槍+1】をセット、【粗悪な両手槍】を装備しています』
これよ。同じ名前の装備だけど、強化してある場合はどうなるのか。
これは果たして、同じ名前の武器として扱われるのか、それとも扱われずにダブルインパクトが発生しないのか。これも私の予想通りであるならば……大変なことになってしまうわね!
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍+1】に変更、【中段突進】を発動しました』
「…………」
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍】に変更、【中段突進】を発動しました』
『同じ武器なら、2倍の効果量が得られるのではなかったのかね』
「どうやら、同じ武器とは認められないようね……」
『ふぅむ?』
ああ、予想通りだった!! 大変なことになってしまったわ!!
ダブルインパクトは非常に強く、安定して発動出来れば、最強のプレイヤースキルとして頂点に君臨するレベル。だけど……その発動条件は、あまりにも厳しいようね……!
「ダブルインパクトはね? 武器種が異なる場合は絶対にダメ。これは必ず失敗するの」
『ふぅむ……』
「武器種が同じでも、武器が異なる場合はダメ。普通と粗悪の差だけでも失敗しちゃったわ」
『うむ、失敗していたな』
「そして、武器の強化値は同じでなければならない。これが……とんでもなく辛いわね」
『市販の武器なら強化も容易だろうが、ふぅむ……。非常に珍しい武器の強化となると……にゃぁ~ん』
「そう、にゃぁ~んなのよ」
ダブルインパクトを出すには、全く同じ強化値の全く同じ武器が必須。条件を満たしていない武器の組み合わせでは絶対に発動しないから、強化値まで揃える必要があるのよね。あ、強化についてはまだ+1を作っただけだから詳しくは知らないけど、後でちゃんと確認しておこうと思います。
つまるところ、私の中で何が問題になっているのか? 答えは『非常にレアな武器の場合でもそれぞれ2本揃える必要があり、しかも強化値も揃えなければならない』ということよ!! 煉獄の大斧をもう1本、キャ・ロッドをもう1本、デストロイヤーをもう1本……。考え始めたら悪寒がし始めたわね!
さっき手持ちのレジェンダリー武器とミスティック武器を検索したんだけど、1件もヒットしなかったし販売履歴もなかったのよ。つまり、誰も不用品として売りに出している人がいないってこと……。もしも買い取るとなっても、それ相応の凄まじい値段になってしまうってこと!! しかも更に大問題なのは……強化値よね。
「強化って、数値が大きくなると武器が完全に破壊されてロストする可能性があるんですって」
『なんと、それはリスクが大きいねぇ』
「そのリスクを2本分、それも非常にレアリティの高い武器で、しかも強化値を高くしたいなんて考えたら……」
『うぅむ、ウェーブ嬢が悩んでいる理由が、遂に私にも理解することが出来た。なるほど……うみゃうみゃう……』
「そう、うみゃうみゃうなのよ……」
ああ、なんということでしょう。運良く+10とかそういう強化値の武器が出来たとしても、更にもう1本を運良く作らないと、その武器でダブルインパクトをすることは不可能!! じゃあ低い強化値で揃えれば良いじゃないと思うかもしれないけど、低い強化値でダブルインパクトをするよりも、高い強化値で殴ったほうが強い可能性があるの!
そもそも、ダブルインパクトは失敗する可能性があるハイリスクな技!! それに武器のセットが1個潰れるわけだから、攻撃の選択肢も狭くなってしまうわよね。その上、レアリティの高い武器を強化するというリスクとコストまで背負うことになる……。たまたま発見して素晴らしい技だと歓喜したけど、研究を進めたら絶望が深まるとんでもない技だったわ……。
「とりあえず、ギルドハウスに戻りましょうか。安全地帯で防具の性能とセット効果、デストロイヤーの性能を確認しておかないと」
『おや、まだ確認していなかったのかね』
「忙しかったし、急に『迷惑料は自由に選べ』なんて大胆な補填がきて焦ってたしね。ちょうど落ち着いたし……」
「――あ、あの~……すみませ~ん!!」
う、誰……? プレイヤー……? 目立たないようにターラッシュの夜の草原でこっそりやってたのに、わざわざ私に話しかけてくるなんて……。面倒な気配がするわ、逃げようかしら。
「あの!! あの、さっきの、インパクト走法より、ずっと速かった!! あれはいったい……あ! 自分はハヤテって言います! ターラッシュでインパクトレースを開催している、え~っと……暇人です!!」
「…………」
『にゃぁ~ん(ウェーブ嬢、頑張って話をしてみては如何かな?)』
頑張って話をしてみろって……? 話すも話さないも私の自由よ、それに今は…………。うーん、私のことをジロジロと変な目で見てこない。純粋にダブルインパクトが気になって仕方ないって言う顔ね……。
「…………スピード、証明して。インパクトの、テクニック」
「ス、スピードの証明!? インパクト走法の練度を見せろということ……ですか!?」
「そう……。半端な、メンタルお豆腐マンには、説明するだけ時間が、も、勿体ない……」
「わかりました!! 見ててくださいね!!」
気になるからって、そこら辺で跳ねてるだけの、哀れなぴょんぴょんマシーンと同じような人だったら説明するだけ無駄。ある程度練度の高い人じゃないと、ダブルインパクトへの挑戦はやるだけ無駄。
「はっ!! はっ!! これが!! 僕の、インパクトの!! 練度です!!」
「…………」
なるほど、レベルがどれだけ高いか知らないけど、インパクトレースなんて酔狂なものを開催しているだけはあるわね。確かに速い、私のインパクト走法よりもずっとね。でも、ダブルインパクト程のスピードじゃない……。
「オーケー……。インパクトは、パーフェクト……。ここからは……自分とのバトルフェイズ……」
「じ、自分との、勝負……!?」
「まず、インパクトダッシュ……」
『【ダッシュ】を発動しました』
「ここまでは、ファーストステップ……」
「ファーストステップ……」
今、貴女がやっていたインパクト走法は、既に過去の移動方法……。それはファーストステップに過ぎない。問題は、ここからよ。よく見ておくことね!!
「これが、セカンドステップ……!!」
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍】に変更、【中段突進】【中段突進】を発動しました』
「……お、おお!?」
「そして、サードステップ……!!」
『【粗悪な両手槍】に変更、【下段振り下ろし・空中】【下段振り下ろし・空中】を発動しました』
「ファイナルステップ!!」
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍】に変更、【中段突進】【中段突進】を発動しました』
これが、ダブルインパクト走法の基本よ。高速の突進を繰り出した後に、足元へ爆速で槍を振り下ろして地面に刺し、その慣性を活かして次の中段突進をまたダブルインパクト。このスピードに、貴女は対応出来るかしら?
「どういう、原理なんだろう……! 武器交換をしていたように見えるのに、武器は変わっていなかったように見えた……」
「貴女は……ヒントを、欲する……?」
「せ、せめて、武器交換について!!」
そこがこのダブルインパクトの真髄なのだけど、う~ん……。ふっふっふ……そうだ、いいことを思いついたわ……。
「特別に、教えてあげる……。特別な、スペシャル……」
「特別とスペシャルって意味が一緒な気がす……いえ!! 教えて、ください……!! この、特別でスペシャルなレーシングナイトに!!」
「オーケー……。全く同じ、武器……それが、ルール……」
「全く、同じ……。それが、ルール……!?」
ふふふ、特別に教えてあげたわ!! これでこの走法がチープで普通な走法ではなくて、特別な走法として広まるじゃない! インパクトは普通の走法、ダブルインパクトは選ばれし者だけが使える特別な走法!! 高難易度の走法だから、特別感マシマシよ~!!
「じゃあ……」
「あ、あの!! 師匠、せめて! せめてお名前を!!」
「…………ウェーブ」
「ウェーブ師匠……! あ、ありがとうございます!! あの、レース参加者に配る用の同じ槍を持っているので、えっと、もしかしたら出来るかもしれないので!! 見てください!!」
ほほ~ん、大した自信ね。これを一発で決められたら、私はダブルインパクトを上回る走法を見つけてあげるわ。その時は、その走法が大して特別なものじゃないと認めてあげる。さあ、やってみなさいな。
「はぁっ!! ふ、え、あっ!? 突進が出ない!! うわああああああ!!」
「…………ふっ」
「し、師匠! お願いします、もう一度チャンスを……!!」
「所詮、ノーマル……。貴女は、哀れなぴょんぴょんマシーン……」
「あ、哀れな、ぴょんぴょん、マシーン……!?」
貴女にはまだ早かったようね。それじゃ、私はターラッシュに帰らせて貰うわ。
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍】に変更、【中段突進】【中段突進】を発動しました』
「待ってください、師匠! 待っ――――」
「夜は、待ってくれないのよ……!」
『ウェーブ嬢……』
さて、帰ったら早速デストロイヤーの性能と、確認していなかった防具の性能を……。うん? ナーノちゃん、何か言いたいことでもあるのかしら?
『【粗悪な両手槍】に変更、【下段振り下ろし・空中】【下段振り下ろし・空中】を発動しました』
「なあに?」
『【ダッシュ】を発動、【粗悪な両手槍】に変更、【中段突進】【中段突進】を発動しました』
『その……喋るのが苦手なのは理解したのだが、あまりにも気障ったらしい喋り方であった』
「えっ」
え、そんな気障ったらしい喋り方になってたの……!?
『【粗悪な両手槍】に変更、【下段振り下ろし・空中】【下段振り下ろし・空中】を発動しました』
『ショックを受けながらでも全くブレない、君は……うむ。間違いなく特別な才能の持ち主だよ……』
「そうかな!?」
『そうだとも……』
わあ、ナーノちゃんに特別な才能だって認めて貰っちゃった! 他者から特別だと認めて貰えるって……凄く、嬉しいね!! うっふふ、嬉しい~!!
ハヤテちゃん「僕を突き動かす圧倒的Speed……最速を求める感動的Fighting Spirit……感じる、神速のRighting……」
インパクター「どっかで頭打った?」
ハヤテちゃん「僕達は、まだFirst step……哀れなぴょんぴょんMachineさ……」
インパクター「いかん、ハヤテちゃんの様子がおかしいぞ!」