019 ぶっちぎりでイカれた初心者・3
カリンさんが帰ってくるまで暇だから、少しお話をしようよということで、ルフラーンさんとお喋り――お喋りと言っても、私が一方的に聞き続けてるだけ――をして過ごすことになりました。
このギルドが誕生した経緯や、紫乃さんやにゃおみさん、カリンさんとはどのような関係なのか、今後の活動の目標などなど……色々と教えて頂いたので、簡単にメモを取っておきました。ではまず、このギルド……邯鄲の夢が誕生した経緯についてです。
【ペルシアオンラインについて】
約1年前に、伝説的オンラインゲーム『バビロンオンライン』の正式な続編として発表され、全プレイヤーの夢と希望を背負い、遂に正式サービスを開始…………したものの。蓋を開けてみれば、バビロンオンラインとは比べ物にならないほどにモンスターが強く、ダンジョンも軒並み高難易度。レベルの上限も100と低く、バビロンオンラインのようにサクサクとレベルが上がる快感が得られない。他にも様々な部分で小さな難点が多くあり、ペルシアオンラインの評価は最終的に『神ゲーから生まれたクソゲー』と呼ばれる程になってしまったそうです。
実際はクソゲーと呼ばれる程のクソさではないそうですが、求められていたハードルの遙か下をくぐり抜けるような内容だったため、全盛期から比べてプレイヤー数は1割ほどまで減ってしまったそうです。それでも1割のプレイヤーが残っている理由は、バビロンオンラインにはない対人戦の絶妙なバランスの良さであったり、深堀りしてみれば非常に奥深いステータス配分の悩ましさ、そしてあちらにはないコスチュームの数々、退廃的でダークな世界観……そして、未だにストーリークリアがされていないという新鮮さ。これらに惹きつけられたプレイヤー達が、今もなおこの世界で奮闘を続けているそうです。
大ボスとして存在が知られている魔王達の討伐も未だに成功しておらず、もし討伐に成功すればオンラインゲーム界隈で再び話題に上がり、活気を取り戻すキッカケになるかもしれない……と、ルフラーンさんは仰っていました。
【邯鄲の夢について】
全ギルド内で一番最初に作られたギルドだそうです。創設者はルフラーンさん、紫乃さん、にゃおみさん、カリンさんの4人。この4人はリアルでも付き合いのある間柄だそうで、新作のオンラインゲームという文面に惹かれてこの世界にやってきて、独特な世界観に惹かれ、すっかりドハマリしてしまったそうです。
ギルドの名前の由来は、話題沸騰の新作と期待して大勢の人が集まったのに、短期間ですっかり人気を失ってしまった栄枯盛衰の様子を嘆き、この名前をつけちゃったんだとか。特に深い理由はないので、まあ気にしないでよ~と仰っておりました。
【染一夜 紫乃さんについて】
お名前はあの有名な桜、ソメイヨシノからこの名前にしたそうです。
ルフラーンさんと同い年で22歳、ルフラーンさんの身の回りのお世話をしている家政婦さんだそうです。家政婦さんをロボットではなく人を雇っているなんて凄く珍しいですが、どうやら紫乃さんはルフラーンさんに大きな借りがあってこの道を選んだんだとか……。詳しいことまでは聞かないことにしました。
和風のゴシック、ロリィタ系のコスチュームが好きだそうで、先程着ていらっしゃった【◆幼き吸血鬼の魔装】は特にお気に入りだとか。
刀、片手槍と中盾、双剣を好んで使用する、スピード重視の近接物理型アタッカーだそうですよ。あのコスチュームで舞うように戦う姿は、とても良く映えるでしょうね。
従魔は子狐型モンスターの『こん吉くん』で、能力の減少を防いでくれる従魔らしいです。狐耳はにゃおみさんに装着させられたそうです。可愛いですね!
【203BW66Yさんについて】
お名前は、大変悪戯好きな愉快過ぎるお母様に騙され、シリアルコードを名前入力欄に打ち込んでしまったものだそうです。203の語呂合わせでにゃおみと呼ばれています。
カリンさんと同い年……というか、私とも同い年で15歳。海外の大学を卒業した後、治安悪化の影響から日本に引っ越してきて、なんとなく日本の高校に興味を持って通い始めてみたものの、あまりにもつまらなくてサボっているそうで……。今はお母様と一緒にお仕事をしたり、お菓子を食べて過ごしたり、ゲームをしている時間が殆どだそうです。
大変な運動嫌いが原因で少し体型が……と、気になさっているそうですが、それでも運動は嫌いだそうです。せめてもの抵抗でVRダイブシステムは自動トレーニングモードという、筋肉に負荷をかけながら遊んでいるそうですが、なかなか痩せないと嘆いていらっしゃいました。あ、大変な美食家でもあらせられるそうです。
足を止めていても良いからという理由で、戦闘よりもサポートを選び、後方から回復・支援・妨害の魔法を使い分けて戦うそうですよ。そういえば、サンクチュアリという安全地帯生成魔法みたいなのを使ってましたね。
従魔はカピバラ型モンスターの『フドーさん』、のほほーんとお風呂に入ったまま動かない、大人しいカピバラさんです。魔法を使う能力を強化したり、魔力が強化されるそうですよ。
【ルフラーンさんについて】
まずご容姿が、どこかの国のお姫様かと思うほど可愛らしいです。実際は22歳で既に成人済み、自称『お酒が大好きな自由人』さんです。
カリンさんとにゃおみさんの保護者様から『一緒に遊んであげて欲しい、暫く面倒を見て欲しい』と頼まれ、これを快く受け入れて今に至る……内容を詳しく聞きたいのですが、どうやら込み入った事情があるそうで……。今回、外で大変なことが起きている最中にカリンさんが居なくなり、顔面蒼白になるぐらい焦っていたそうですよ。
体型は自分でネタにする割に、どうやらかなりコンプレックスみたいです。周囲に巨乳しか居ないのが毎日辛いと仰っていました。ごめんなさい、私も大きいですね……。
戦闘は近接、射撃、魔法の全てを使い分けて戦うオールラウンダー。でも、魔法の派手さを話題にされるせいで、大魔法使いとして一般的には認知されていると嘆いていました。確かに、困ったら魔法を使う傾向ではあると自覚はあるそうです。
従魔は幼竜型モンスターの『ドラネスちゃん』、どんな人にでも懐いておやつをねだる、非常に愛らしいドラゴンです。能力は……尋常ではないそうですよ……。ハードモードでとあるダンジョンを4桁に届きそうなぐらい周回して、やっとドロップした従魔だということだけ教えて頂きました。
「メモは終わりましたか~? ウェーブちゃん、約束ですよ~?」
「うん……うん……そうね……」
ああ、はい。ここで悲しいお知らせがあります。
あれだけドジっ子な印象が強いカリンさんでしたが、逃げることだけは非常に得意なんだそうで……。ええ、2分間獄ミノから逃げ切るぐらいなら、数十回リトライすればなんとか出来ちゃったみたいなんですね……。誤算、あまりにも大誤算……。そもそもカリンさん、盗賊系のスキルを持ってた時点でその可能性に気がつくべきでしたね。
「カリンさんも」
「ちゃん、ですよ~」
「……カリンちゃんも、メモしておくから」
「じゃあそれが終わったら、約束を果たしてください~! えっへへ~!」
「お互いに仲が良さそうで、僕は嬉しいよ~」
「あ、あはは……」
そして、お互いに同い年ということがわかった途端、さん付け禁止ということに……。ああ、どうして、どうしてこんなことに……。とりあえずメモ、しよ。
【カリンちゃんについて】
悪いことをすることに憧れている、ふわふわドジっ子手癖悪いガール。基本的には素直だけど、意外と頑固なところもあって、全体的に不思議ちゃん。
リアルでは外に出られない事情があるらしくて、VRダイブマシンを安定して使えるようになったのも割と最近。リアルの事情まで不思議ちゃんな感じ……ちなみに学校は行ったことがないんだって。
白い髪がふわふわ、身長がスラリと高くて脚が長い。可愛らしいと美しいのいいとこ取りみたいな容姿の美人さんね。
ルフラーンさん達がダンジョンから持って帰ってくる、鍵付きの宝箱の解錠をして遊ぶのが好きだそうで、自然と鍵開けのスキルが上がったそうよ。本当はダンジョンに一緒に行って遊びたかったみたいなんだけど、リアルの事情が事情で長い時間遊べなかったから、こういう遊びしか出来なかったんだって。
従魔は金糸雀型モンスターの『カンちゃん』。毒属性を半減、毒系状態異常無効、感知レベル2がついた優秀な獣魔ね。戦闘は本格的にやったことがないから、何が得意なのかわからないそうよ。
コスチュームは私がプレゼントした【◆蒼炎の姫騎士のドレスフルセット】。レオタードのほうは恥ずかしいから無理だって。お姉ちゃんはレオタードの方で撮影してたんだけど……?
「はい! おしまい、おしまいです~! 約束通り、あの服を着てくださいね~!」
「あああ~……こんなに派手なのは……」
「僕には今のほうが派手だと思うんだけど」
「むふ~っ! ウェーブちゃんのドレス! ウェーブちゃんのドレス!」
「約束は約束よね……」
ああ、もう、意を決してお姉ちゃんから送られてきたコスチューム、着るかぁ~……。
今のコスチュームも大概だけど、このコスチュームもまた……派手で、目立つなぁ~……。
「ウェーブ、角。残して。絶対似合う、絶対」
「え? つ、角ですか?」
「にゃおみちゃんはそういうところセンスが良いからね~」
角は残すんですね、ああ~……この際もうね、大人しく従います。従わせて頂きます……。
『【◆夜の魔王フルセット】を【◆夜の魔王の角と飾り】以外解除、【◆紅氷の武闘家のドレスフルセット】を装備しました』
「……ど、どう、ですか」
「90点。はい、これも着けて」
「え゛」
『203BW66Yから【コスチューム:黒い――』
え、これもですか……? これって……ああ、足装備のコスチュームじゃなくて、アクセサリー系のコスチュームとしてカウントされるんですか。いっぱい装備出来てお得ですね~……。
「あ、ありが、とう……ごご、ございます……」
「お礼は後。まず、着る」
にゃおみさん、さっきまでは途轍もなく気怠げそうな女の子って感じだったのに、コスチュームの変更になった途端別人のような目つきに……。このギルドの人達のコスチュームが華やかなのって、もしかしてにゃおみさん監修だからだったりします……?
『【コスチューム:黒いタイツ】を装備しました』
「完璧。100点」
「わああ~!! カリンの青と対になってるみたいで、凄く可愛いです~!!」
「ルフ様、その手はなんでございますか?」
「いや、ちょっと触っておこうかと思って……」
駄目です、触らないでください……。ああ、なんだろう……!? 素足だった時よりも、何故か脚に視線を感じる……!! ど、どうして、タイツで隠してるはずなのに、何故か恥ずかしいようなこの感じはいったい……。
「このドレスも、下着がレオタードタイプだから見える系だ~!!」
「こら!! ルフ様!!」
「ん、見える系コスチューム。最高、120点」
「カリンのも見えますか?」
「こら、カリンさん!! はしたないですよ、自分でスカートを捲るなんて!!」
「んぶほっ……。良いものが見れて、僕は幸せだよ……」
あ~もうやだぁ~……!! ルフラーンさん、頼りになるお姉さんだと思ってたのに、ディッツさんみたいな変態さを感じます……。でも、これを脱いで元の夜の魔王セットに戻しても、あれもレオタードタイプの衣装だからスカートの中が見えるし……。どっちも着ないとなれば、ペルシアちゃんに怒られちゃいそうだし……!!
「あっ! もう夜の10時です~! カリンはねんねの時間なので、また明日です! ウェーブちゃん、明日の8時ぐらいから一緒に遊べませんか~?」
「ウェーブちゃん、レベル41だったよね~? レベル差が大きいから、カリンちゃんの取得経験値がかなり減りそうだけどなあ~」
あら、カリンちゃんはもう寝ちゃうのね。明日一緒にって、平日なんだけど……。ふ、不登校だし、まあ良いか……。
それより、レベル差が大きいと経験値が減っちゃうんだ……ふぅ~ん……。それだと、一緒に遊んでても楽しくなさそうだね。それじゃ、差を解消しよう。
「…………転生、ど、どこ、ですか?」
「え?」
「はい?」
「ん、マップに位置送る。ここ」
『203BW66Yが【導きの教会】の位置情報を共有しました』
なるほど、この導きの教会で転生が出来るんですね。ありがとうございます、にゃおみさん!
「あ、ありがと……う……」
「ううん、こちらこそありがとう。そのタイツ、あげる。大事にして」
「は、はい……! じゃあ、行って、きます……!」
「え、ちょっと……!?」
大丈夫です。さっき聞いた話によると、転生して失われるのはレベルとスキルの情報だけってことですし、レベル41ならまたすぐに達成出来ると思うんで!
『にゃぁ~ん……!?(まさか、転生というものをして、カリン嬢と足並みを揃えようというのかね……!?)』
「そうよ、そっちのほうが絶対楽しい!」
それに、せっかくだから共有したいじゃない。レベル10そこらで死にまくる、あのルナフェルノで味わった絶望感を! 同じ苦労をお友達と分かち合う、素敵な経験になると思うのだわ!! さあ、明日が楽しみね、カリンちゃん!! 今日はゆっくり眠るといいわ!!




