017 巡り合うわかりにくいポンコツ達
白い髪がふわふわ、笑顔が眩しい。悪いことをするにはあまりにも不向きな性格で、私よりもかなり身長が高くて美人……。着ているコスチュームがボロ布みたいな、精一杯の悪いやつ感を出してみましたみたいな努力を感じる……。こっちがジロジロと観察していても気分を悪くせず、うん? うん? みたいな感じでニコニコしている。
圧倒的な、陽の気を感じる……!! ナーノちゃんに興味津々で、どうにかして気を引きたくて変な動きをしているわ。なんだろう、この放っておけない感。
「……と、とにかく、地下で何かやってるのは確定。それもあんまりよくないことがされてるんだと思う。あんたは、帰ったほうが良いわよ」
「カリンも悪いことがしたいです、師匠っ」
「その師匠ってのやめてね、ウェーブって呼んで」
「はい、ウェーブさんっ」
素直に従ってくれる良い子かと思いきや、自分がやりたいことは全く譲らない頑固さもあって……。ソロで活動してたほうが絶対楽なんだけど、どうしようかなぁ……。
「あ、また誰か来ます……」
「あんた……えっと、カリンさんは何レベル?」
「20になったばっかりです~。最近、やっと落ち着いてゲームが出来るようになって、それでえっと……」
「ここで隠れてて、静かにしてて。ナーノちゃん、カリンさんをお願い」
『にゃぁ~……(気を付けてくれ、ここは何やら異質だ……)』
「わぁあぁ~! ネコちゃん、えへ、えへへ……あ、ご飯食べたばっかりですか? いい匂いがします~」
『にゃおおおぉ……(こらこら、服で口周りを拭くんじゃな、うみゃう……)』
さっきの衛兵の口ぶりからして、ここで何かしらの悪事が行われている気配はビンビンに感じるのよね。1人ぐらい捕まえて情報を吐かせても良いんだけど、ターラッシュの門番が持ってた共振石? 共鳴石? そんな名前のアイテムが気になるのよ……多分、無線機みたいなものだと思うのよね。それで仲間を呼ばれる可能性が非常に高いから……直接見に行ったほうが、リスクは少ないわね。
『――ふわぁ~……あ~あ、だりぃなぁクソ……。あんな女を捕まえて何になるってんだよ……』
女を捕まえて……? 殺すのは申し訳ないと思っていたけど、かなり話が変わったわね。死になさい。
「ねえ」
『あ……?』
『【烏兎脳穿衝】を発動、即死! 黒の傭兵団・グレッグ(Lv.60)の脳を破壊しました。経験値 7,500 獲得』
や、やった……。本当に、うっ、なんかモンスターを倒すのとはワケが違うわね。ちょっと、気持ちが悪いわ……。
「わっ……い、一撃、ですか……? やっつけちゃったんですか……?」
「ええ、今ね……地下に女が捕まってるって言ってたわ。それと、こいつは黒の傭兵団ってとこの傭兵みたい。警備がよっぽど暇なのね、全員独り言の多いこと……」
「黒の傭兵団、ですか? 確か、最近ターラッシュにやってきた傭兵で、凄く態度がよくないって、マスターさんが言ってました」
「マスター……?」
「あ、えっと、ギルドのマスターさんです。えへへ、聞いただけなので、詳しくはわからないです……」
ゲームのNPCとはいえ、あまり気持ちがいい行為ではなかったけど……。カリンさんの前で狼狽えるような格好悪い真似はしないほうが良さそうね。私のパニックが感染して、カリンさんに大きな声を出されたら大変だもの。気を強く持つのよ。
それにしても、最近ターラッシュにやってきた傭兵が、こんな辺鄙なところにある貴族の屋敷の警備、そして地下には女性が囚われている……。いよいよ怪しくなってきたわ。よし、この男の死体をこの部屋に隠してから探索に入ろう。
「あ、あの……。パーティを組むと、カリンのカンちゃんのサーチ結果が、共有できると思いますっ」
「…………カンちゃん? えっと、パーティを組んだら、カリンさんの視界が共有出来るってこと?」
「多分、そうです。あ、カンちゃんはカリンの従魔ちゃんです。えへへ、マスターから貰ったんです~……あの、パーティ送りましたっ」
『【ギルド:邯鄲の夢】へ招待されました。招待を受け、ギルドに加入しますか?』
『重要なシステムメッセージ:ギルド【邯鄲の夢】に加入しました』
ん゛!?
『ウェルカムメッセージ:ようこそ、邯鄲の夢へ。ペルシアオンラインを全力で遊びたい貴方を歓迎します』
「あれ? あれれ、ごめんなさい。ギルドの招待と間違っちゃいました~……。こっちですっ」
『プレイヤー【カリン】から【臨時パーティ】へ招待され――――【臨時パーティ】に加入しました』
あ、誤爆とは言え、流石になんの確認もなしにギルドへ入るのはまずいよね。えっと、ギルドってどうやったら抜けられるのかな?
「え、えっと、ごめん……。私も何も確認しないで受けちゃって、抜けたほうが良いよね」
『染一夜 紫乃:カリンさん? 今どちらにいらっしゃるのですか? 皆が探していますよ』
『ルフラーン:え? ウェーブ? え? え、え? え? え? え?』
『203BW66Y:カ~リ~ン~。ど~こ~』
「あ、また誰か来ます……! カンちゃん、お願いっ」
どうしよう、ギルドを抜けるよりも先に厄介事が……!! 烏兎脳穿衝はまだ使えないし、ちょっと物音がするかもしれないけど……ぶっ殺すしかない!!
『カリンが従魔スキル【感知・レベル2】を発動、周囲の状況を感じ取ります』
『チュートリアル:パーティメンバーの共有スキルが発動しましたね! 今回のような共有スキルは――――』
後で絶対チュートリアル切っておこう。絶対要らないわこいつ。今みたいな緊急事態を更に悪化させられたことが、もう一度や二度じゃない。絶対にオフにしてやる……!! それと、カリンさんのスキルで感知出来たお前も、一撃で葬ってやる!!
『【★煉獄の大斧】に変更、【熱斬牛断】を発動――』
『ん、なんだ? 明る』
『クリティカル! 黒の傭兵団・マジェロ(Lv.62)に77,450ダメージを与え、撃破しました。経験値 7,500 獲得』
『カリンがレベル21に上昇しました。お祝いしましょう!』
「あ、まだ来ますよっ……! ええと、ポイントはテクニックに振って……」
1人やったのは良いけど、まだ来るの!? この奥の倉庫、もしかして黒の傭兵団ホイホイだったりする? ああ、ここで皆の消息が途絶えてるから怪しくなって巡回してきてるのかも……。とりあえず、煉獄の大斧は明るすぎるから引っ込めよう。あと、カリンさんマイペース過ぎ!! この緊急事態にステータスポイント振ってる余裕があるってどういうこと!?
『【★キャ・ロッド】に変更、【★★ぶどうジュース】を使用し、MPが50%回復しました』
『おーい、マジェロー。何処に行ったんだ~? ここか~?』
『【★煉獄の大斧】に変更、【熱斬牛断】を発動、クリティカル! 黒の傭兵団・エゼル(Lv.63)に77,550ダメージを与え、撃破しました。経験値 7,500 獲得』
『カリンがレベル22に上昇しました。お祝いしましょう!』
「わあ~いっぱいレベルが上がります~」
『【★キャ・ロッド】に変更しました』
カリンさんの従魔? カンちゃん……? まあなんでも良いけど、その感知ってスキル強すぎない!? 壁の向こうから歩いてくる人の輪郭が表示されて、何をしているか、どっちを向いているかまでわかっちゃう。こんなのチートスキルじゃない!? レベル2ってことは、これ以上の性能のものもあるってことだよね。レベル3とか4になるとどうなっちゃうんだろ……。
「こいつら片付けるから、手伝って」
「は~い。あ、ギルドメッセージはなんだか、マスターさんが一時的に切っちゃったみたいです~」
「え、あっ、抜けないと……」
『ウェーブ嬢、私が地下へ降りる階段を探してこよう。可能な限りここで衛兵を迎え撃つと良い』
「うん、わかった。ありがとうナーノちゃん……あ、ダメ。騒がないで」
「~~っ!? ~~!!」
あ~危なかった、ナーノちゃんが喋ったのにびっくりして、カリンさんが大きな声を出すところだったわ。幸いにも騒ぐ前に口を押さえられたから大丈夫だったけどね。
ふう~……よし、落ち着いたみたいね……。お願いだから静かにしてね?
「……静かに、ね?」
「は、はい~……」
「ナーノちゃんは喋れる猫ちゃんなの。驚かせてごめんね」
「そうですよね、ここはファンタジーの世界ですし、喋れる猫ちゃんが居ても不思議じゃないんでした~……」
「そう、不思議じゃないのよ」
そうそう、ナーノちゃんが喋れるのは不思議なことじゃないのよ? どっちかというと、私はカリンさんのほうが不思議ちゃん過ぎて怖いわ。
「とにかく、ここで暫く衛兵を迎え撃つから…………あれ、衛兵は?」
「感知できる距離には、居ないみたいです~」
「感知できる距離ってどのぐらい……?」
「レベル2だと、10メートルぐらいでしょうか~?」
半径10メートル以内に誰も居ないって、それはもうほとんど殲滅したのと同じじゃなくって? あれ、しかもナーノちゃんが颯爽とこっちに戻ってきたわ……。
『ウェーブ嬢、すぐそこにあった。それと、急いだほうが良さそうだ』
「え? うん、わかった……MPがまだ回復しきってないんだけど……」
「あ、良いのありますよ。はいっ」
『カリンが【★★★不完全な無限エリクシール】を使用、貴方のHPとMPが75%回復しました』
「…………」
あ、ちょっと待ってねカリンさん。今ねえ、ぶどうジュースの上位版が現れて心にダメージが入ったような気がするのよ。ああ、役に立てて嬉しいです~みたいなニコニコ笑顔が可愛いね……。コスチュームさえしっかりしてたら、最高に可愛いのに……。
「それ、高い?」
「ええっと、マスターが結構手に入れてくるので、無料で貰っちゃったのでわからないです……」
「それをポイッとあげちゃうマスター、凄いねえ……」
「はい、マスターはこのゲームで一番凄い人だと思います~」
そっか、凄いマスターさんの居るギルドに所属してたのね。そんなヤバいところ、早いところ抜けておかないと迷惑になっちゃうのに……。早く地下に行ったほうが良いってナーノちゃんが言っているし、邯鄲の夢の人達は急遽ギルドメッセージを流すのをやめちゃったし……。そもそも抜け方がわからないし! こういう時でしょうが、チュートリアルでギルドについて解説する場面は!!
「とにかく、急ごう。地下で何かあるみたいだから」
「は、はい~」
『残念だが、地下に続く鉄格子に鍵がかかっていてね。私は隙間をすり抜けられたが、ウェーブ嬢の肉体では……』
「カリンは鍵を開けるの得意ですよ~?」
『う、うん?』
そういえば、この屋敷に忍び込んできた時も、外から窓の鍵をカチャッと開けてたね……。そういう系のスキルに特化してるプレイヤーだったりする……の、かな?
『カリンが【鍵開け・レベル6】を発動、鉄格子を解錠しました』
「簡単な鍵でした~。鍵を開けて脱走するのは、慣れているんです~」
「そ、そうなの、ね……! 凄いスピードだったわ……」
「わぁ~初めて褒められました~嬉しいです~」
『おおう……。なんという早業……』
いやいや、鍵開けが爆速過ぎるわ。ちょこっと鍵穴に棒を数本突っ込んだと思ったら、あっという間にカチャッと開いちゃったよ……? 見た目の世間知らずお嬢様感に反して、やってることが私よりも悪どいじゃないの。十分悪いことやってるわよ、貴方……。
『ウェーブ嬢、こっちだ。急いだほうが良い』
「うん、わかった……」
それにしてもナーノちゃん、かなり急かすわね。そんなに急いだほうが良い状況なの? このゲームって一応、年齢制限があるにはあるけど、18歳未満の未成年プレイヤーにはマイルドな表現になってたり、一部規制されていたりするって書いてあった気がするんだけど……。
『――さあ吐け!! お前達が不老長寿の霊薬を持っているということは知っているんだぞ!! 薬師であるお前が知らないはずがないだろう!!』
『…………なんのことか、サ、リーちゃん、わっかんなぁ~い……うっ――――ゲボッ……!!』
「ひど――」
堪えてね、カリンさん。今声を出したら、どうにか出来そうなものが、どうにも出来なくなっちゃうから。
あの大きな牢屋の中で拷問を受けている人が、上で傭兵達が話していた捕らえた女ってわけね。名前は多分、サリーっていうみたい。これだけ痛めつけられているのに、頑張って声を作って耐えてるところを見るに……この人達には絶対渡しちゃいけない何かを持っているのは、間違いなさそうね……。
「……あの牢屋の鍵、開けられる?」
「(こくこく)」
「これまでで最も早く仕事をして、開け終わったらダッシュで上に逃げて……いい?」
「(こくこく)」
牢屋の中にはデブのおっさんが1人、拷問官みたいなのが2人、そしてサリーさん。こちらの侵入には全く気がついていないから、一撃離脱でどうにかすればどうにかなると思う……。物凄く、ザックリとした作戦だけど……!! どうせ私達は、ここで殺されたとしてもどこかで生き返ってリスタートするだけ。それにあの様子じゃ、サリーさんはいずれ死んでしまう。外の大混乱で衛兵に相談出来るような状態じゃないし、そもそも私は指名手配されているし……。一発勝負だけど、やるしかない。
「……よし、やって!」
『カリンが【鍵開け・レベル6】を発動――』
『ん? 誰だ? ここには誰も入れるなと――』
気が付かれた、だけど想定の範囲内。まだデブのおっさんしかこちらを認識していないし、拷問官は壁に立てかけてある自分の武器を手に取っていない。さっきと同じぐらいの鍵だったら、もう開くはず……!!
『カリンが地下牢の鍵を解錠しました』
『【ラビットキック】を発動、クリティカル! 黒き右腕のゲリ(Lv.70)に34,700ダメージを与え、【スタン・レベル3】状態にし、大きく吹き飛ばしました』
『なんだお前は!? おい、私を守――』
『【★煉獄の大斧】に変更、【熱斬牛断】を発動、ガード……失敗! クリティカル! 黒き左腕のゴリ(Lv.70)に58,990ダメージを与え、【両腕負傷・レベル4】【火傷・レベル2】状態にしました』
『グ、オォオオオ……!!』
「ふぅぅうんっ!!」
勢いよ、勢いが大事なのよ!! これで殺せなかったのは驚きしかないけど、目標を達成出来る程度の隙は生まれた!! 邪魔よ、脂ギトギトのおっさん!!
『【ぶんまわし】を閃き、発動。バブイ子爵(Lv.35)に5,702ダメージを与え、大きく吹き飛ばしました』
『ほぎ、ほぎゃああああ!?』
『蠍の魔女・サリーの拘束を解除しました』
「逃げるわ、掴まって」
『…………無茶、よ。正義の、ヒーローさん』
無茶かどうかは、やってみないと!! とても歩けるような状態じゃないし、お姫様抱っこでごめんなさいね!! 筋力のステータス的に、これが一番手っ取り早いのよ!!
『ま、ひぇ、ひゅかまへろ!! ひかひへ、かえひゅら!!』
『オ、ォォオオ』
『マ、デ、トマ、レ』
止まれって言われて止まるやつは居ないのよ! この階段を登れば、後はもう逃げるだけ!! よし、1階に出られた!! 後は屋敷さえ出てしまえば、このサリーさんっていう動かぬ証拠を持ち出して私達の勝ちよ!!
「ウェーブさ~ん、こっちです~! こっちから抜けましょ~!!」
「カリンさん、感知!!」
「あ~!!」
『カリンが従魔スキル【感知・レベル2】を発動――――』
ここで念には念を、安全なルートを確かめるために感知を発動すれば……!! すれ、ば……!?
『動くな!! 止まれ!!』
『侵入者は生かして帰すなとのご命令でね、うへへ……悪く思うなよ?』
『殺す前にさあ、なあ? 良いだろ? 下の連中ばっかりズリいよなぁ?』
『死ぬ前に楽しませてくれよなぁ、お嬢ちゃん達~?』
逃げ場が、潰されてる……!? 下で誰も倒せなかったのが原因としか言えないわ……。上に居た連中へ緊急事態だと伝えて、先に出口を塞いで待っていたのね……。
『逃げ、な……。サリーちゃん、なんて、置いて……』
「そんなのダメよ、どんな理由があってもあんなの赦されないし、見殺しになんて出来ない!」
「ウェーブさん、どうしましょう~……!!」
『へへ、諦めな……』
『ここにゃあ誰も助けになんかこねえんだからよぉ』
『これだけの大騒乱だ、お前達の声なんて誰にも届かねえさ』
『(ウェーブ嬢、どうする……!? 逃げ場がないぞ!!)』
サリーさんを抱えたまま、臨戦態勢の傭兵達を相手にするのはほぼ不可能よね……。1人ぐらいは倒せるかもしれないけど、その後はどうにもならないだろうし……くっ……!! 勢いだけの行動は粗が出る……お母様に教わった言葉の通りになってしまったわ……!!
『それじゃあ、可愛がってやるよぉ!! 覚悟し』
『――――吹き荒れろ、銀の風よ!!』
『正体不明が【風魔法:エアロバースト】を発動、黒の傭兵団・ジャック(Lv.61)が67,401ダメージを受け、死亡しました』
『正体不明が【シールドブーメラン】を発動、クリティカル! 黒の傭兵団・ボンゴ(Lv.64)が17,452ダメージを受け、【失神・レベル1】状態になりました』
『こっちだ!! 走れ!!』
この声は……!? 今はそれより、走る!!
「走るよ、カリンさん!!」
「わああああ~!?」
『…………白馬の、王子様って、居るんだぁ~』
『残念ながら馬は居ない、ついでにいうとそいつは白髪のお兄ちゃんだ!!』
『やかましいぞディッツ!! 来るぞ!!』
ディッツさんと、ライノさん!! どうしてここにと言いたいけど、本当に大ピンチだったから助かりました!! この屋敷の敷地から出ちゃえば、ここであったことはぜーんぶ明るみに出るはず。それが、私的な勝利条件の達成ってやつよ!!
『ニガ、サン……!!』
『黒き左腕のゴリが【デススクリューキック】を発動――』
「しまっ……!?」
こいつ、もう復帰してきて……!? しまった、避けられる状態じゃ……!!
「――斬り捨て御免!!」
『染一夜 紫乃が【疾風斬】を発動、クリティカル! 黒き左腕のゴリに338,999ダメージを与え、撃破しました』
「寄るな寄るな~。あっちいけ~」
『203BW66Yが【サンクチュアリ】を発動、周囲に聖なる結界が生成されました』
『黒き右腕のゲリが【デススクリューパンチ】を発動、ブロック! 結界により攻撃が無効化されました』
この名前、さっきギルドチャットで見た……もしかして、応援に来てくれたの!? どうやってここがわかったのかとか、そういうのは全然わかんないけど……!! でも、た、助かった……!!
「――絶望の怨嗟、底知れぬ深淵、軋み、蠢き、轟き、全てを破壊する怒りの炎となれ!!」
「ルフ様!? それはいけません!!」
「僕のカリンを虐めた罰だああああああ!! 滅びろクソデブ子爵があああああああああ!!」
「あ~あ~。やば~い」
『マ、ズイ』
『黒き右腕のゲリが【全力逃走】を発動』
あ、なんか鬼の形相でキレてる人が……。ああ、絶対ヤバいです、その魔法の詠唱みたいなの……。ライノさんが発動してた魔法よりも、魔法陣の数が数倍も……あわわわわわ……!!
『ルフラーンが【獄炎殺】を発動――――MPが足りませんでした。発動に失敗しました』
「あ……」
「あ……あら?」
「あ~……」
「えっ、えっ……?」
え、ええっと……。さっきまで展開されてた、どう見てもヤバい魔法陣が全部、消え……ました……ね? これ、は……?
「あ、マスターです~!! マスターは転生したばっかりでカリンより弱いので、その魔法は使えないと思います~!」
『……サリーちゃん……さ? 助かった、って、ことで……良い……――――』
「大変~。治療治療、急患だ~……あ、ネコちゃん。にゃん? にゃん? にゃんお~?」
「にゃおみさん、今は猫ちゃんよりもこのお方の治療を!!」
「あ、あははは……。うわ、僕もしかして、凄く……ダサい?」
凄く、ダサかったですけど、格好良くもあって、えっと……。助かりました!!
「は、はい……。あ、ありが、ご、ござまし……た……」
「…………うわあああああああ!! 本物のウェーブ様だぁあああああ!! うわ、あああああああああ!! 僕、死にたい。死ぬね、またあとで。じゃ……」
『ルフラーンが【サクリファイス】を発動、蠍の魔女・サリーが完全に回復しました。ルフラーンが死亡しました』
どうしよう、余りにも衝撃的過ぎて理解が追いつかない……。とりあえず、助かったってことでいいですか……? いいですよね、ごめんなさい。暫く、何も考えられそうにないです。あ~……。
「にゃんお~? にゃおにゃお~?」
『にゃ~……(ウェーブ嬢、ウェーブ嬢、助けてくれ……)』
「ルフ様~!? 返事がありません、ただの屍です……!」
「にゃんお~です、にゃおみさん! ナーノさんってお名前だそうですよ!」
「ナーノナーノ、んふふふ~」
――――なんなの、この人達は……。




