002 ぶっちぎりでイカれた初心者・1
さて、チュートリアル待機マップっていう非常に聞き慣れない場所にきてから早くも30分。段々と理解してまいりましたわ、ペルシアオンライン!!
まずこの待機マップから出て次のマップへ行くポータルに入ると、レベル60の煉獄のミノタウロスが待ってる場所に転送される。こっちは当然レベル1だから勝ち目がないわけで、じゃあどうすれば良いのか? 答えは簡単で、2分間逃げ切ればクリアなんですね。数回攻撃を避けたら『ではまず、敵の攻撃を避けてみましょう』って言われたもん。言うのが遅いし、もう避けてるし、避けなきゃこのメッセージ見えないんですけど。なんか致命的な欠陥だと思うんですけど。
まあそれはさておき、2分逃げ切るのは正直…………可能。可能というか、この空間で体を動かすのが慣れてきたのと、獄ミノ――煉獄のミノタウロスは長いから獄ミノ――の動きは意外と遅い。そしてモーションが読みやすい……。じゃあなんでまだこの待機マップに居残っているのか。
『システム:メイン武器・サブ1武器・サブ2武器を変更しました』
それはこの待機マップに並べてある、ズラリと揃えられた武器が原因ね!! 初心者用に揃えられた武器を色々と試しているのよ! どの武器が扱いやすいか、あわよくば獄ミノにダメージを与えられる方法はないか、それを探っているところなのよ!!
いや、2分逃げれば良いんだからサッサと次に行けって? そうよね、普通はそうするわよね。普通は。2分逃げ切れば勝ち……そんなんじゃ普通過ぎて面白くないのよ。
時間いっぱいまでに出来る限り獄ミノにダメージを与えてみたい!!
逃げるだけじゃ面白くないし、それに何回死んだってペナルティが存在しない。再挑戦もたったの10秒ぐらいで出来る……隣のマップに行けば良いだけだからね。そしたら、ハイスコアを狙いたくなるじゃない! 普通に通過するだけじゃ面白みに欠ける。私はね、ゲームを楽しみにこの世界へ来てるんだから。
『システム:両手斧・両手槍・双剣の基本的な扱い方を、強制モーションで体験なさいますか?』
「いや、別に――」
またこれだー。このシステム、初心者の応援のためにって用意されてる運営のとびっきりの善意なんだけど、これがまた使えないんだ!!
まずね、決まったモーションしか出せないから無駄な動作をしているように感じる。隙を突いてすぐ離脱したいのに、もっさりもっさりと大振りしてたら獄ミノにミンチにされちゃうって。
それに武器をどう扱うかなんて、自分で決めることであって誰かに決めて貰ったものを真似するのはナンセンスだと思うのよね。こういうのって、独自にマスターしていくものじゃないの?
『システム:強制モーションの体験をキャンセルしました。ユーザーインタフェースのアクションタブから、いつでも確認することが可能です。また、特定の行動をショートカットに登録してクイック発動することも可能です。登録はスキルと合わせて10個までですのでご注意ください』
「スキルのショートカットと場所を取り合うの!? うわあ、余計に使えないじゃん……」
しかもスキルなるものと発動ショートカットの場所を取り合うらしい。余計に使えない……。こんなの誰が使うのよ……。普通に考えて使わないわよね。
普通に考えたら使わない……。普通は使わないのかぁ……。ふぅーん……。
『システム:アクションタブをオープンします』
「基本モーションに、えーっと……? 後半のモーションには中段突進、上段打ち上げ、下段振り下ろし、ダウン追撃? こんなに細かく強制モーションがあるんだ。ダウン追撃とか、どんなモーションなんだろ……あれ? 発動出来ないじゃん」
『アラート:ダウン追撃を仕掛ける相手が存在しません。発動に失敗しました』
うーわー。モーションを確認しますかって言ってくるくせに、ダウン追撃をする相手が居ないから強制モーションがアクティブになってない!? だから確認出来ません!? ふざけてんのこのゲーム……? いいや、こんなの使えないわ。外しておく……いや、一応アクティブになる瞬間とか発動は見たいかも。今はスキルがないし、セットしておくかな。
「あとは~……。へえ、落下致命攻撃にバックスタブまであるんだ。これもアクティブにならないと発動出来ないのね。まあ一応見てみたいからセットで……」
まあとりあえずわかったわ。強制モーションはアクション下手くそな初心者のために用意されてる救済措置で、これを発動すれば最大限にダメージを与えるモーションを取ってくれるって説明に書いてある通りね。今はスキルがないからセットしておくけど、後で外すだろうなー。
『システム:中段突進、上段打ち上げ、下段振り下ろし、落下致命攻撃、ダウン追撃をショートカットにセットしました』
「どれ発動してみ、うわぁああ!?」
『システム:【中段突進】を発動します』
「……へぇ~」
うわああ!? 発動した瞬間自分の意志とは無関係に、体が勝手に動く!! 発動後は次の行動に移れるように体勢は整えるけど、いやあこれは……獄ミノ相手に出すのは怖いわ。でも、これを両手槍で繰り出したら結構ダメージ出そうだなぁ……。よし、試してこよう!!
『システム:チュートリアルモンスターとの戦闘マップへ移動しますか?』
このシステムメッセージの最初に付いてる『システム:』って表記結構邪魔かも。アラートとか以外は消そうかな……。うん、消しても問題ないよね!
「移動~」
『戦闘マップへ移動します』
これでよし! なんとなく煩わしかった表記が消えて、獄ミノと戦うのに集中出来るわね!!
『ブモォオオオオオオオオオ!!』
『煉獄のミノタウロスが【ギロチンスラッシュ】を発動』
まず獄ミノのステータス、私より2倍以上はデカい。身長は3メートルぐらいで、私より大きいバトルアックスを両手で構えてる牛頭人身タイプのモンスター。かなりのマッチョで、初手確定で繰り出してくるギロチンスラッシュは……!!
「どっこいしょぉ!!」
『【ローリング回避】により攻撃を回避しました』
横方向に前転して回避可能! ここまでは3回ぐらい死んでマスター出来た。問題は次で、そのまま薙ぎ払いに移るか突進してくるか、それともキックしてくるかの三択。薙ぎ払いはジャンプ、それ以外はもう一度横方向前転で対処なんだけど……。
『煉獄のミノタウロスが【突進】を発動、【ローリング回避】により攻撃を回避しました』
『ブモォオオオオ!!』
よーし、一番良い行動だわ!! 突進してきたらローリング、この時斧を振り抜くのに苦手な方向に回避すれば斧は使ってこなくなる……はず。まだ試行回数少ないからなんとも言えないんだけど、そしたら次は……。
『【中段突進】を発動します』
「あ゛」
やば、変な体勢のまま強制モーションのショートカットに触っちゃった!! こんな攻撃に移れるわけない体勢からの攻撃なんて、どう考えてもヘボカスみたいな動きしか出来ないって!!
『煉獄のミノタウロスに55ダメージを与えました』
『ブモォォオオ!!』
「え、お……」
『煉獄のミノタウロスが【ラリアット】を発動、27,140ダメージを受け、貴方は死亡しました』
『初心者期間のため、デスペナルティは発生しませんでした』
『チュートリアル待機マップへ移動します』
お……? 今の最悪の体勢から、過去最高ダメージが出たんですけど……? しかも、ボーッとしてなければ後隙もなかったから回避出来たような……?
「強制モーション……。もしかして、メチャクチャ便利機能だったりする……?」
アリだわ……。この強制モーションとかいう機能、使えるかもしれない。ローリングした直後の体勢からでも突進出来るなんて、かなり優秀な機能だわ。ちょっと他の武器の強制モーションも確認しよう!!
『【普通の両手斧】に武器を変更しました』
「普通って名前が気に入らないわねぇ~……まあいいわ」
『【下段振り下ろし】を発動します』
「う!? わああ!!」
いやいやいやいや、両手斧を全力で振り下ろしたせいで、反動で体が浮いたんですけど!! こ、これは流石に使い物にならないモーションかな……。いやいや!! 強制モーションは神機能だって今思ったばっかりなんだから、これだって何かしら使い道があるはず。
あ、そういえば細かく分類されたモーション以外にも、ダッシュとかジャンプまで強制モーションがあったなあ~。走り方がわからないとか、ジャンプの仕方がわからないなんて人は居ないのに、こんなのまで強制モーション作るなんて……。変なゲームだなぁ。
――――普通なら、セットする人なんて存在しないよね。
『【ジャンプ】【ダッシュ】【ローリング回避】【バックステップ】【ガード】をショートカットにセットしました』
「誰が使うのよこんなの……。ああ、流石にジャンプ中にダッシュとかジャンプは使えなくなるのね」
普通なら登録するわけないものまで入れてみた。とりあえずこれで、普通の人はやらない行動はやったわね。まあ当然だけど、自分でジャンプした後に強制モーションでジャンプなんてことは出来ないし、ジャンプしてる最中にダッシュすることも出来ない。無理なものは当然無理ね。
「それにしても、両手斧のモーションは全部大振りなのかな~」
『【中段突進】を発動』
「うわぁあただのタックル!!」
『【上段打ち上げ】を発動』
「おお、綺麗な振り上げ攻撃……。軽い敵なら打ち上がりそう』
『【下段振り下ろし】を発動』
「うっわ、ああっと!! やっぱりモーションがデカすぎ……ん?」
あれ、今の……気のせいかな……? ちょっともう1回だけ試してみよう。
『【下段振り下ろし】を発動』
「……うん!?」
いや、いや!? 気のせいじゃないな!?
『【下段振り下ろし】を発動』
「え、あ、やっぱりそうだ……!!」
本来アクティブになっちゃいけないはずのショートカットが、一瞬だけアクティブになってた!! 目の錯覚かな、風景でチラついてそう見えただけかなと思ったけど、違う!! 間違いない!!
両手斧を振り下ろして地面を叩いて、その反動で体が浮いて空中に浮いた頂点……! この瞬間、ほんの一瞬だけだけど!!
『【下段振り下ろし】を発動』
「ここだ!!」
『【ジャンプ】を発動』
「うわあああああああああああああああああああ!!」
振り下ろした斧の柄を足場に、強制モーションのジャンプを発動するとジャンプすることが出来る!! 両手斧で2段ジャンプが出来るー!! うわ、凄い!! 変なテクニック見つけちゃった。だから何って感じ…………。
――――いや、待ってよ? これ……もう1回いけるかも……?
『【下段振り下ろし】を発動』
「ここでジャンプ!!」
『【ジャンプ】を発動』
ここで素早く操作、武器チェンジ!!
『【普通の両手槍】に武器を変更しました』
『【下段振り下ろし・空中】を発動』
両手斧より柄が長い両手槍なら、ここから更に高く飛べるんじゃない!? これも発動するでしょ、強制モーションのジャンプ……連打連打連打連打……!!
『【ジャンプ】を発動』
「い!? やったぁああああああああ!! ああああ高い、うわっ」
『落下により15ダメージを受けました』
「痛~……!!」
凄い、何もない場所で落下ダメージを受けるほどの高度までジャンプ出来た! これはもしかしたら、獄ミノの頭に攻撃が届くんじゃ……? いや、もしかしたらもっと凄いことが出来るかもしれない!!
「強制モーション……ある……!! これは、ある……!!」
今の技、なんて名前を付けよう……。単純に2段ジャンプ? 武器ジャンプ? 多段ジャンプで良いかな!! 多段ジャンプで辿り着ける高度を元に、脳内で戦闘のシミュレーションをしてみよう。獄ミノの頭部と同じぐらいまでジャンプ出来るし、多段ジャンプの後に攻撃することも当然可能……。なら、もしかしたら出来るかもしれない。
脳内で思い描いた動きがそんなに上手くいくか~と思うところだけど、強制モーションのお陰で再現性は非常に高い。なら、上手くいくまで思考すれば良い……。
「やってみよう……。普通のプレイヤーなら絶対出来ないこと。到底思い浮かばないようなことを……!! 普通に攻略したんじゃ、面白くないからね!!」
幸いにもこっちは引きこもり、時間ならたっぷりある。やる気もあるし、成功するビジョンも見える。よし、やるぞ!! ぶっちぎりで普通じゃないチュートリアル攻略、スタートよ!!