016 月夜の晩に
えっと、ターラッシュの近くまで戻ってきたのですが……。なんだか、どう見ても様子がおかしいのよね……。
都市のあちこちから争うような声が聞こえるし、外壁の周りを走り回ってる人達が居るし、そもそも門が閉じられているような……。
『(ウェーブ嬢、後ろだ)』
ん!! 後ろから誰か来てる!! 対人戦の脳内シミュレーションを実行しよう!! とりあえず最大火力の煉獄の大斧に切り替えて、相手の出方を見る!!
『【★煉獄の大斧】に変更、【熱斬牛断】を発動』
『ふえ――』
『正体不明が【パーフェクトガード】を発動』
上段からの振り下ろしに即ガード、奇襲への即反撃だったのに反応が良いわね!! これは、よほど戦闘慣れした相手だと見たわ。
私がこの武器を取り出し、熱斬牛断を繰り出した理由は単純。夜の暗い中で急に光源を出されると目が追いつかず、それに反射的にガードした場合は私の行動が見えなくなるから。予想通りガードをしたなら、私の次の手はこれよ!
『【熱斬牛断】をキャンセル、【★キャ・ロッド】に変更、【上段打ち上げ】を発動』
『ん、なぁ――』
『クリティカル! 正体不明に4,901ダメージを与え、【スタン・レベル2】状態になりました』
『ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』
『待ってくれ! 俺達だ、ライノとディッツだ! ほら、いわんこっちゃない!!』
あら、ディッツさんとライノさん……? じゃあ、今ガードをして不意打ちの金的クラッシャーを受けたのは、ディッツさんだったのかしら?
『背後からそーっと近づいて驚かせようなんてするからだ! すまない、殺されてもおかしくないような行為だった。謝罪させて欲しい!』
『にゃぁ~ん……(なんなのだ、この情けない騎士達は……)』
「あ~……。は、はい……謝罪、だ、大丈夫……」
『う゛お゛お゛お゛お゛お゛……!!』
『ディッツもこの通り、今は言葉が出ないようだ……。土下座で赦してくれ』
「は、はぁ……」
なんだって私のことを追いかけてくるような真似をしたんですか? もしもプレイヤーに変なことをされたらってイメージしていた、私流の確殺コンボを叩き込むところだったじゃないですか。危なかったですね? 命拾いしましたね?
『それにしても、守りには定評のあるディッツがこうもあっさりやられるとは、恐れ入った……。あの死の地でその卓越した戦闘能力を活かし、あっという間に成長して帰ってきたに違いないと思っていたんだ。ディッツ、俺の予想で当たりだったようだぞ』
『う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
「そんなに、痛いんだ……」
ディッツさんが落ち着くまで、冷静に話をするのは無理そうだなぁ……。ディッツさんが大人しくなるまで待とうかな……。
◆ ◆ ◆
『――――と、いうわけで。俺達はちょうどあの後交代時間がきたもんで、急いで追いかけてきたってわけさ』
『そして今、ターラッシュは異界の冒険者達が謎の大暴れをしているようでな、厳戒態勢になっていて中に入るのは危険だと門が閉められているんだ』
『ローレイから数十名ほど騎士が派遣されてね、どうしていいかわからずにウロウロしている冒険者を保護しているんだ。それがあの騒ぎだよ』
「はぁ~……」
なるほど、ターラッシュでプレイヤーが大暴れしていて危険だから、今は厳戒態勢になっているんだ。じゃあ、今すぐは中に入れないってこと? う~ん、それはちょっと予定外で困っちゃうなぁ~……。
『そういうわけだから、俺達が一緒ならウェーブちゃんを中に入れてあげられるんじゃないかって思ってね~』
『もしもターラッシュを目指していたのなら、という話だったんだが……』
『重要なシステムメッセージ:【銀翼のディッツ】【銀風のライノ】がターラッシュへの同行を求めています。これに応じた場合、仮パーティ状態となります』
『アラート:貴方はターラッシュで指名手配されています!!』
困 っ ち ゃ う な ぁ ~ 。
え、なんで? なんで指名手配されてるの? 私、特に何も悪いことなんて……あ、したかも。ターラッシュを出る時に、門番に対してイラッとしたから挑発的な態度を取った気がする。それが原因ってこと~? いやいや、器が小さすぎるでしょ……。
「い、え。1人で、行きます……」
『え? 1人で行っても入れないから、こうして誘っているんだが……』
「1人で……邪魔、なんで……」
う~ん、私を同行させても面倒が増えるだけだし、警備の仕事で疲れてるこの人達の邪魔になっちゃうだろうし? 1人で向かったほうが良いかな~……。高さは8メートルぐらいしかない壁だし、上手くやればなんとか登れると思うんだよね。門番が面倒くさいなら、門を潜らなきゃ良いじゃない。ね?
『じゃ、邪魔って……そんなぁ~……』
『夜道に後ろから驚かそうとして、こっそり近づく悪漢とは同行できないって言ってるんだぞ、ディッツ!』
『本当、つい出来心だから、本当に赦してくれ~……!!』
じゃあ~……そうだ、よし。それなら手伝って貰おうかなぁ~?
「じゃあ、踏み台……」
『え?』
「踏み台、なって。上に、弾いて、ください……」
『…………良かったなぁディッツ!! また踏み台になって欲しいそうだぞ!!』
『え? え? え……ええええええ!?』
ジャンプしても高さが足りるかわからないし、ここはまたディッツさんに協力して貰おう。それじゃ、ターラッシュの壁まで移動しましょ~!!
『待って、待ってくれ、踏み台って!? どこで!? どうして!?』
「ターラッシュ、壁。挑戦、です」
『ターラッシュの壁を登ってみたいってことかい? それはまた、大胆な挑戦だね……? ああ、大地の古傷の時は幅で、今度は高さに挑戦しようっていうことか!』
「そ、です」
『登るのぉ!? あれ、あの壁、ほぼ垂直だよ!? どうやって登るのさぁ!?』
それは、あの羊よりも更に上を取る方法として考えていた、とっておきの方法があるんですよ。まあ結局使わなかったんですけど、まさかターラッシュで使うハメになるとは。
『にゃぁ~?(どうして正直に門を潜らないのだ?)』
「私、指名手配……」
『に゛ゃ゛ん゛……?(にゃんだって……?)』
『それにしてもその猫、随分と懐いているようだけど、いったいどこで拾ってきたんだい? それは首輪代わり?』
『赤い蝶ネクタイの黒猫……? どこかで、聞き覚えがあるような……』
「到着、ここ、お願い……します」
よし、ターラッシュの良さげな壁に到着。手順を再確認しておこう! 武器はキャ・ロッド、ねこちゃんの爪、たまちゃん。これを上手く使いこなしてあの壁を登るよ! まずはディッツさんを踏み台にして、それで高さを稼いで飛び越そうっていう計画。たまちゃんを撃ったらちょっとうるさいかもしれないけど……そこは、全く心配なさそう。
――――ドォォオオン!!
『うわ、なんだ!? 中から凄い音が……』
『戦争でもやってるんじゃないかってぐらいの音だな……』
「じゃ、やります……」
ターラッシュの中でも派手にドンパチやってるみたいだから、私の大砲の音が混ざっても誰も気が付かないよ。ちょうど都合よくプレイヤーが大暴れしてくれてて助かった~……でも、なんでそんなに暴れてるんだろう? 理解不能だわ。
『え、やるって、あ!? ちょっと待っ――』
『【★キャ・ロッド】に変更、【下段振り下ろし】を発動します』
大丈夫よ。ディッツさん、さっきだって咄嗟にガード出来るぐらい反応が良かったもの。万全の態勢で挑むより、咄嗟に出る100%の方が信用できるタイプの人だわ。ほら、やっぱり咄嗟にガードしようとしてるもの。いくわよーっ!!
『銀翼のディッツが【パーフェクトガード】を発動、完全に防御されました』
『うわあああ!?』
『よーし、いけいけー!』
ほら、完璧なタイミングだったわ! 絶好のスタート、ここからキャ・ロッドを足場にしてジャンプよ!!
『【ジャンプ】を発動、【ねこちゃんの爪】に変更、【上段打ち上げ】を発動――』
『あ、見えた』
『は?』
え、見えたって何が!? あ、わ、私の、スカートの中!? バカ!! 変態!! 死になさい!!
『【★たまちゃん】に変更――』
『あああああ、俺は知らねえ!!』
『え、嘘。それってもしかして、俺のこと……』
『発射ッスよ!! あー惜しい、銀翼のディッツが【パーフェクトガード】を発動して完璧にガードしたッス!!』
普通、そういうのは見えても口に出しちゃダメなのよ!! それにもう、撃つのが早かった上に角度が悪かったから、もしかして絶妙に届かないんじゃないの!? あ、届かない!! んもぉおおおおお~!!
『風よ!!』
『銀風のライノが【風魔法:エアーボム】を発動、787ダメージを受け、吹き飛ばされました』
「きゃあっ!?」
『ライノてめえ、ウェーブちゃんに何すんだ!!』
『いや、どう見ても届かなかっただろ。手伝おうかと思って……』
『にゃあ~!(おお、ライノの助けが効いたな!)』
『おお、ウェーブちゃんが手を振ってるぞ! 無事なようだ!!』
『かなり手加減したからな。良かった、上に登れたようだ』
ああっ! ライノさんありがとう!! お陰様でどうにか壁の上に到達しました!! これでターラッシュに潜入出来たわね……。中の様子は……?
『…………なんだ、これは? ウェーブ嬢、ひょっとして貴方のあの移動方法は、流行っているのかね?』
「いや、えっと、私がここを出るまでは皆普通に歩いてたけど……」
え、なんで皆インパクト移動をやってるの? しかも結構遅いし、下手な人ばっかりだし……。あ、今プレイヤー同士がぶつかった! うわぁ、怒ってる~……。あわわわ、喧嘩が始まっちゃった……!! もしかして、これがターラッシュ厳戒態勢の原因よね……? そして、この事態を引き起こしたのって、もしかしてもしかして~…………私?
だとしたら、私のことをちらっと見たプレイヤーさん達がこの移動方法に触発されて、見様見真似で試してみたら上手くいく人が居て、それが物珍しさで皆に広まってしまって……この異常な状況を引き起こしてしまったの!? その元凶が私なんだもん、指名手配されてるのも無理はないかもー!!
『つまり、ウェーブ嬢の影響を受けた人々……ということではないのかね?』
「た、多分……。あ、かつぶし缶買ってあげる!」
『にゃぁ~……』
もうちょっと壁の内側に入ればターラッシュ入場の判定になるかな? もう少し動いてみようっと……。
『アラート:ターラッシュに入場しました。貴方は指名手配されている!!』
『重要なシステムメッセージ:オークションの売上がメールボックスに届いています』
『【●ねこちゃん満足かつぶし缶】を購入しました』
よし、問題なく購入できたわね! なんか見えた気がするけど、気のせいよね!
「はい……あ、テーブル出したほうが良い?」
『いや、器に入っているなら、それを床においてくれて構わない。喋れる以外は基本的に猫なのでね』
「じゃあ、はい。どうぞ」
『うむ、頂こう……にゃぁああ、んにゃんにゃ、んにゃ……!? にゃああ~……』
おお、言葉を喋れる猫が言葉を失って悦に浸ってるわ……。満足そうにしているし、私はその間にオークションで稼いだお金を回収しよう。
『メール:まとめて受け取りを実行中……。4450万シルバーを受け取りました』
「よ゛ん゛」
『ん゛み゛ゃ゛ん゛み゛ゃ゛』
いちいち値段を気にしたら負け、これを気にしたら負けよ……。多分、コスチュームの相場はこれが普通なのだわ……。うわ、全部売れてる。え、じゃあお姉ちゃんから貰ったアバターの引換券は幾らぐらいで売れるのかな? う~んと……あら、どっちも売却履歴なし? 引き換え後の単品も、売却履歴なし……。相場がわからないから、売りに出せないなぁ~。私が着るにはちょっと派手過ぎるし、こういうのは高身長ですらっとした体型の人に似合うものだと思うのよね。
はあ~……。それにしても、この場所から眺めるターラッシュの夜景は……異質ね。どこもかしこも、プレイヤーがぴょんぴょんぴょんぴょんって……。あ、そうだ! それっぽい貴族の屋敷はないかな~? ああ、結構あるわ。意外と数が多くて、どれに忍び込むか迷っちゃう~……うーん? うん? なんだろう、西側にある屋敷だけちょっと雰囲気が違う感じがする。
「ねえねえ、ナーノちゃん」
『ん゛み゛ゃ゛……』
「あ、駄目だ……」
ナーノちゃんが半分ぐらい一気に食べて、自分の世界に入っちゃってる。目を閉じてかつぶし缶の味を噛みしめるようにもぐもぐしてるわ……。ナーノちゃんの意見を聞こうと思ったんだけど、うーん……どうしようかな。私の中ではあの雰囲気が異質な屋敷に決まりなんだけど。
まずあの屋敷だけ、灯りの数が少ない。必要最低限って感じで、他の屋敷みたいに『金持ってますよ~』っていうアピールが弱い感じ。庭の手入れも疎かで、他の屋敷はこれだけ暗くても綺羅びやかに照らし出されてる庭園が美しいのに、あの屋敷は……草がボーボーね。雑草庭園って感じ。それに衛兵の数もかなり少ない……この異常事態で多くの衛兵が鎮圧に出てるのもあるかもしれないけど、それにしたって屋敷の警備がザル過ぎる。何かあるとしたら、あの屋敷よね~……よし、あの屋敷に決まり!!
「ナーノちゃん、先に行っても良い? 追いつける?」
『ウェーブ嬢が、どこに行っても、すぐに転移で追いつける、にゃぁん……。ふみゅぅん……』
「じゃあ、先に行ってるね!」
『まぁお……』
悦に浸ってるナーノちゃんはそっとしておいて、私は早速あの屋敷に潜入しようと思います! この壁の上を西側エリアまで走って、そこから直接屋敷に忍び込めそうね。確か、ナーノちゃんの力で足音を殺せる力があったはずだから、落下致命じゃなくてラビットキックで降下すれば無音で着地出来るはず。
「よ~し、いっくぞ~!」
『【★キャ・ロッド】に変更、【ラビットキック】を発動します』
急降下キーック!! しかし無音、されど小さいクレーターが出来る程の威力!!
『ん? なんだ、今の衝撃は』
『外で暴れているバカ共だろ。全くなんなんだってんだ……』
『ん、ああ~……そうだな』
うわ、衛兵が居た。足音は殺せても、衝撃が伝わるのは防げないのね……。気をつけないと……あ、そうだ。ねこちゃんの爪はもう用事がないから、いざって時に役立つたまちゃんに変えておこう。
『【ねこちゃんの爪】を解除、【★たまちゃん】をセットしました』
これでよし……。屋敷の裏は、誰も居ないみたいね……。この部屋は~……結構広いみたいだけど、物置きかな? 人が居る気配はないし、ここから侵入しよう。鍵はさすがにかかってるよ……うわっ……。窓枠が腐ってて、窓がそのままボロっと取れちゃった。それだけ管理されてない証拠よね、お邪魔しま~す。
『アラート:無断侵入です! 衛兵に発見された場合、罪に問われる可能性があります!』
まあまあ、そんなの百も承知なのよ。そもそも指名手配されてるんだし、捕まったら罪に問われるのなんて確定よ、確定!
さて~……この部屋、本当に物置きみたいね。古い家具やら変な絵やら、趣味の悪いものがごろごろと……。
――――カチャッ…………。
え、別の窓の鍵が、勝手に外れた!! ど、どういうこと!? まさか、ここに忍び込んだのがもうバレたの!? ヤバい、どこかに隠れ――――。
「うん、しょ……。あっ、あっ!」
「……!?」
『正体不明が落下により33ダメージを受けました』
「あう~……痛いです~……!」
だ、誰……!? すっごいドジな子が窓を越えようとして落ちて、お尻からビターンといったけど……!? まさか、この騒ぎに乗じて……ど、泥棒……!?
「あれ? あっ、だ、誰かいらっしゃいますね……!? カリンにはわかります、ごめんなさい! カリンは、えっと、えっと、泥棒さんではないんです!」
「…………!?」
しかもバレてるんだけど!? 完璧に隠れてるはずなのに、なんでわかるのよ!? まさか、隠れてる相手を発見できるスキルか何かを持ってる系? それにしてもこの子、声が大き過ぎなんだけど! その大きな声のせいでバレるって、ダメよそんなに大きな声を出しちゃ!!
「こっち、きて……!! 静かに……!!」
「は、はい……!!」
意外と素直に従ってくれたわね……。この子、もしかしたら私に殺されるかもしれないのに、そういうのは考えてないのかしら……。同じ侵入者として、色々と不安になるんだけど……。
「だ、誰かきますー……!」
「え……静かに、ここに隠れて」
『――――ん? 窓が開いている……? この部屋は古いからなあ、あっちの窓なんて壊れてるじゃねえか……』
ボロいクローゼットの中に2人で隠れたけど、狭っ……!! この子意外に大きいわ、白い髪がもこもこして邪魔だわ、あら……結構……いや、かなり可愛い顔してるわね。
『外側に落ちてやがる、ああ~拾いに出るのが面倒くせえなぁ~……ったく、俺も下の奴らに混ざりてえぜ……。今頃イイことしてんだろうなぁ~くそぉ~……』
「いい、こと……?」
「しーっ……!」
「あっ……」
『ん? ん~……?』
――――キィィィイイ……。キィィィイイ……。
『みゃぁ~う……』
『なんだ、猫か。あっちいけ、シッシ!』
今のは、精一杯高い声で鳴いたナーノちゃんの声! 注意を逸らしてくれたのね! ナイスアシストよ!!
『ったく、はぁ~……。面倒くせえなぁ……』
出ていった……かな。離れていってる感じがする……。
「外に、向かってるみたいです~」
「…………そう。出ましょ」
「はいっ! えっと、カリンは、カリンです! 貴方は、泥棒さんですか?」
どうしよう、並外れた常識知らずの天然娘を拾ってしまった気がするんだけど。でも、探知するスキルがあるみたいだし、地下で何かやってるのは確定しちゃったし、この子の協力が欲しいのは事実なのよね……。ええ、でも、どうしよ~……。
「わ、私は、ウェーブ……。冒険者よ。あと、声はもっと小さく……」
「はぁ~い……! えっとえっと、カリンは……悪いことをしにきたんです。ここの主は、何か隠し事があるって聞いたので、抜け出してきちゃいました~」
凄いわカリンちゃん……。聞いてないのに全部喋ってくれる。ニコニコ笑顔が眩しいわ、今日のお月様より輝いて見える。
「ウェーブさんは、どうしてこちらにいらっしゃったのですか?」
「私は、そうね……。なんとなく怪しい屋敷だから、忍び込んでやろうと思って……」
「わあ! 情報もなしに、ですか? カリンより悪い人です。悪い人のお師匠様ですねっ」
――――この子を野放しにしておくと、かなりマズイ気がする。よし、とりあえず頑張って保護しよう……。
どうして、どうしてこんなことに……。私はただ、怪しい屋敷を見つけて上手く忍び込んだだけだったはずなのに……。ああ、笑顔が眩しい……。陰の者にはその笑顔、眩しすぎるわよカリンちゃん……。




