015 善も悪も急げ
ログインから6時間経過すると、強制的にログアウトされるっていうシステムが存在していたわ。鳴り響く警告音と共に、30分後には強制ログアウトするから一度休憩を挟みなさいって怒られちゃった。
とりあえず大地の古傷に辿り着いたから、そこでナーノちゃんに『ご飯食べてくるね』って伝えてからログアウトしてきた。ナーノちゃんってばクタクタな様子だったけど『うむ、そういう報告をしてくれるのは偉いぞ』って褒めてくれた。褒めてくれる猫、好き。
『真弓ママ:暫くお仕事で帰れないの、本当にごめんなさい。真波ちゃん、何か吐き出したくなったらいつでもママの職場までいらっしゃいな』
『燐音お母様:とりあえず好きな服を当てるまでガチャ引きなさい。あとね、どこでも倉庫はバビオンと同じみたいだから、それかなり便利だから永久権で買うと良いわよ。それと、倉庫は課金して最大拡張、もしもお友達が出来たらシェアボックスも買っておくと良いわ。アイテムの清算の時に便利だから。今は好きなことに集中して、嫌なことからは逃げても良い。でも、好きなことや好きな人からは逃げないで頑張ってみて』
ママとお母様からのメッセージ、心にグサグサと何かが刺さるのを感じる。ママやお母様のことが大好きだから、逃げている現状がちょっと辛い。
悠一兄さんと幸二兄さんからのメッセージは届いてない。私とは関わらないようにしたのかな……。いつも七瀬家の恥にならないように努力を~って言ってたし、七瀬家の恥である私には……。あ、お姉ちゃんからはメッセージが届いてる。お姉ちゃん……キラキラしてて、優しくて、芯の強い……私とは、全然違う。
『真琴お姉ちゃん:ペルシアオンラインというゲームを始めましたのね! わたくし、1年前にそのゲームのPVを頼まれて、ゲームのプレイチケットとPVで使用したコスチュームの引換券を貰っていましたの! 譲渡可能だと書いてありましたから、真波ちゃんに使って欲しいですわ! それと、真波ちゃんが本来着るはずだった服の引換券もわたくしに届いていましたから、それも送りますわね! あと……もし、嫌な奴が居るなら言って頂戴ね。わたくしが使える全ての力を活用して、その方には一生後悔させて差し上げますから!!』
お姉ちゃん、ありがとう……。でも、嫌な奴は私自身なんだ。ごめんね……。
皆に、ありがとうって返事しておこう。それにしても、お母様は随分とこのゲームに詳しいのですね……? どこでも倉庫と、倉庫の拡張と、シェアボックスか~……。あ、ナーノ男爵もシェアボックスが使えたりするのかな? 後で確認しておこう。お姉ちゃんからは、う~ん……。蒼炎の姫騎士のレオタードorドレス引換券……。それと、紅氷の武闘家のドレス引換券? この、武闘家のドレスが私が着るはずだったコスチュームなのかな。私、なんでこの時お姉ちゃんと一緒に撮影してないんだろう。あ、お姉ちゃんと並んで写真なんて絶対無理って、その時も引きこもってたんだったわ。
『真波様、お食事の用意が出来ました』
「ん、ありがと……こんなに?」
『育ち盛りの真波様に必要な食事です。VRダイブシステムの長時間使用は、非常に多くのカロリーを消費します。この後、軽い運動をされることを推奨します』
「この量を食べた後に運動って……」
『軽いストレッチです。沢山汗をかくほどのものでは御座いません』
「ん~……とりあえず、頂きます……」
猫耳メイドロイドのミケちゃん、私を肥え太らせようとしてない……? でも、今までずーっと私の体調を管理し続けてくれて、これまで大きな病気もなく過ごしてこられたのはこの子のおかげだし……。うーん、1人で食べるには多すぎる気がするけど、食べようかぁ……ハンバーグに、ステーキねぇ……。他にもサラダとかが沢山……。
『ストレッチの後は、入浴になさいますか?』
「うん……」
『それでは、バスルームの再点検をして参ります。ごゆっくり……』
「ありがと……」
美味しい……。でも、なんだろう。凄く……味気ない……。
◆ ◆ ◆
『【◆蒼炎の姫騎士のレオタードorドレス引換券】を獲得しました。このコスチュームは【コスチュームガチャチケプレミアム】でのみ出現します』
『【◆紅氷の武闘家のドレス引換券】を獲得しました。このコスチュームは【コスチュームガチャチケプレミアム】でのみ出現します』
あ~このダイヤマークのアイテムって、プレミアムなほうのガチャからしか出ないやつなんだ~。ほえ~……。
『マンマル・ナーノ男爵が【実体顕現】を発動しました』
『戻ったか。む、にゃぁぁ~お……。無言で顎の下を撫でるとは、む、む、むあぁ~お……』
ナーノちゃん、ずっと待っててくれたんだ。ごめんね、長い時間待たせちゃって。ミケちゃんが『美容に良いので!』って盛り上がっちゃって、なんちゃらアップマッサージとか色々してくれたおかげで、2時間近くかかっちゃった。ターラッシュに到着したら、好きなご飯買ってあげるからね~。
「ただいま。お腹、空いた?」
『私はそういうものとは無縁なのだよ。空腹を感じることはなくて』
「かつおぶしとか、嫌い?」
『カツオブシ!? だ、大魔女様より一度だけ授かったことはあるが、あれは忘れられない味だ……』
そっか~……。でも、食べなくても良いんでしょ? なんて言ったら、渋くてダンディなボイスで『そんにゃあ~!!』って言いそうだなぁ~。ふふふっ……。可哀想だから、それはしないであげるけど。
「ターラッシュに到着したら、買ってあげる」
『本当かね!? それは、なんとも嬉しいな……!!』
かつおぶしなんてレアそうな食べ物、ターラッシュに売ってる確証はあるのかって? それがね、あるのよ……。ゴールドショップを覗いた時に、ネコちゃん満足かつぶし缶っていうアイテムが15円ぐらいで売られてたの。満足グレート缶が30円、大満足プレミアム缶が60円だった。たま~に買ってあげるのも良いかな~って。
『それでは、早速橋を渡って向こうに行こうではないか』
「渡れないよ?」
『む? 誰も邪魔者は居ないようだし、特に何も問題はないように見えるが、なぜ渡れないのかね?』
「だって、この橋はレベル51以上じゃないと弾かれるって、向こうにいる騎士さんが言ってたもん」
『では、どうやってこちら側へ? む? 意味がわからな…………』
ナーノちゃん、橋が渡れないなら、橋を渡らずに渡るしかないんだよ? あら、どうしたの? そのビックリしたような表情。まあいいや、とりあえず渡っちゃおう。
「来た時より敏捷性が上がってるから、多分踏み台なしでも届くと思う。それに、移動方法が増えてるから」
『まさか、いや!? いくらなんでもこの距離は無理だろう!! 早まるな、ウェーブ嬢!!』
「大丈夫大丈夫、ほら行くよ。しっかり掴まるか、霊体化してついてきて」
『ほ、本気かね!? にゃぁあああ!?』
『ナーノ男爵が【霊体化】を発動しました』
距離の確認、大丈夫ね。手順の再確認、バッチリ。それじゃ……レッツジャンプ!!
『【★キャ・ロッド】に変更しました』
「……はぁっ!!」
『【下段振り下ろし】を発動、【ジャンプ】を発動、【★煉獄の大斧】に変更――』
あの時はバグみたいな挙動で空中アッパーを出して高さを稼いだけど、高度を維持したまま回転しつつ前進できるスキルを煉獄で覚えたのよね~。移動速度はさほど早くないけど、確実に距離を稼げるから安全に渡れると思う。
『にゃあああ、落ちる!!』
『【ローリングスラッシャー】を発動』
『にゃああああああああ!? にゃんなのだぁあああ!?』
ここまでがインパクトローリング移動、そしてこれでも飛距離が足りないので、更にもう一度武器を変更して距離を稼ぐ!!
『【★たまちゃん】に変更ッス! 【★たまちゃん】をぶっ放すッスよ、あちゃぁ~! 誰にも当たらなかったッス!!』
『あぁ!? な、なんだ!?』
『ディッツ、見ろ! あの娘が帰ってきたぞ!!』
『に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
『な、なんか猫の鳴き声がしなかったか!? というか、飛んでるぞ!!』
『違う、何かすごいパワーでふっ飛ばされてるだけだ!!』
あ、これは飛距離出過ぎ。たまちゃんを進行方向と逆に撃った反動で距離稼げるかと思ったら、余裕で届くどころか大きく通り越して場外ホームランコースだわ。あ、丁度いいところにスライムが……。
『【★煉獄の大斧】に変更、【落下致命攻撃】を発動します』
高さもあってターゲットが存在している。つまり落下致命攻撃が出せる! 本来なら落下ダメージを受けるはずだけど、この場合はどうなるのかな?
『ぴっ?』
「ふぅん!!」
『クリティカル! スライム(Lv.1)に144,780ダメージを与え、撃破しました』
『チュートリアル:著しくレベルの低いモンスターを討伐しましたね! この場合、ドロップアイテムの抽選はありますが、経験値は獲得することが出来ません!』
あ、落下致命攻撃の強制モーションのおかげで、勢いが全て落下致命攻撃のベクトルに変換されてる。そして本来は発生したであろう落下ダメージが……ない!! おお~、これは今後も使えそうなテクニック。しっかり覚えてマスターしよう!
『だ、大丈夫か!?』
「あ…………っす…………じゃ、じゃあ…………」
『ちょっと待ってくれ。今の異常行動を見て、さすがにこのまま帰すわけにはいかない。今のはいったいなんなんだ、説明をしてくれないか!』
『やめろよライノ、困ってるだろ! ほら、こんなに夜遅くまで逃げ回ってたんだろうし、今日は帰してやろう? なっ!?』
『いや、しかしだな! お前だって聞きたいくせに、好みの――――』
『それは別に関係な――――』
ライノさん、ディッツさん、夜でもテンション高いですね……。じゃあ、私はターラッシュに帰るんで。またターラッシュまでぴょんぴょんするか~。
『……移動だけでこれとは、この先私は、どうなってしまうのだろうか』
「うん? う~ん……慣れて?」
『に゛ゃ゛あ゛……』
帰ったらまずは、それっぽい屋敷に忍び込んでみよ~!! 悪いことっていうのは大体、夜に行われるのがお決まりだからね!! さあて、潜入潜入~。いきなり当たりを引き当てちゃったらどうしよ~? まあ、その時はその時だよね! 周囲のプレイヤーに『こいつ悪魔の手先です!! 討伐手伝ってください!!』って言うしかないか。お、大きい声を出す練習とか、したほうが良いかな……? まあ、そういきなり当たりなんて引き当てないでしょ。大丈夫大丈夫、平気平気~!!




