012 邪魔ばかり
『アラート:女神ペルシアが貴方の潔白を証明する為、貴方の活動記録の一部を一般に公開することを求めています。許可しますか?』
へ、は!? ごめん今凄く忙しいけどペルシア様ファースト! 私のために何かしてくれるつもりなのかな、それなら私は喜んで許可を押すね!!
そして私はSTR50、VIT30、AGI50、スキルポイント余り2の状態。理解できるか!? 煉獄の大斧がセット可能であるこの状況を、お前は理解出来るかぁ!?
『ブモ……!?』
『【普通の両手斧】を解除、【★煉獄の大斧】をセット、【★煉獄の大斧】に武器を変更しました』
下段振り下ろしだと無駄な動作が多いから間に合わない。初手がギロチンスラッシュならいいけど、仲間が2体いきなり吹き飛んだ状態から軽率な攻撃をしてくるとは到底思えない。スマートに、コンパクトに、ローリング回避を自力で出してこれで潜り込みながら、斧を振り下ろす!!
『【ローリングスラッシャー】を閃き、発動! 煉獄のミノタウロス(Lv.68)に5,559ダメージを与え、【右脚負傷・レベル2】状態になりました』
『ブ、モォォオオオ!?』
『煉獄のミノタウロスが【大暴れ】を発動』
しまった、スキルの閃きが暴発した!? しかもスタンしてない状態で負傷させると暴れるんだ!? 回避は間に合わない、なら攻撃を……わざとジャンプして出した攻撃の反動で、後ろに下がって距離を取る! これしかない!!
「ふぅうんっぬぅう!!」
『【強襲離脱撃】を閃き、発動! 煉獄のミノタウロス(Lv.68)に3,229ダメージを与え、【右脚負傷・レベル3】状態になりました』
『ブゥウウウモォオオオオオ!!』
『煉獄のミノタウロス(Lv.68)が【怪力狂化】を発動、【狂戦士化・レベル1】【能力向上・レベル1】状態になりました』
いいいいっ!? こ、こいつ、スタン取らないでHP削るとこんなことになるの!? し、知らなかった! 今まではハメ技というか、真っ向勝負なんてしたことがなかったから……真っ向勝負なんてしたのが間違いだったかも、こいつはハメ殺すか一撃で倒す以外は危険なんだ!
『煉獄のミノタウロス(Lv.68)が【狂乱突進】を発動、680の負傷ダメージを受けました』
『モォォオオオオォオオオオ!!』
どうあっても絶対に殺すという気迫を感じる……! 本気の感情を向けられたのって、こんなの初めて……!!
――――イイ……。凄く、イイ……!!
私を脅威に感じ、普通の相手ではないと認め、己の傷をも顧みずにただ純粋に殺すことだけを考えている、本気の感情!! これが、特別扱いを受けているという高揚感!!
後ろはマグマ、これ以上下がれない。左右はダメ、この突進を回避するには遅すぎる。なら前に、前に!! 前に出るしかないでしょう!?
「あは……!! あははははは!!」
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
『【ローリング回避】を発動――』
敢えて、前に!! 超スピードの突進を、ほんの僅かな無敵判定で回避できることに全てを賭ける!! これがダメなら私の負け、これが通るなら私の勝ち!! チュートリアルで散々やられた突進、体が覚えているタイミングが合っているなら……避けられる!!
『――攻撃を回避しました』
『ブモッ――』
『煉獄のミノタウロス(Lv.68)が【狂乱突進】を解除しました』
私の、勝ちだ。
『【中段突進】を発動、煉獄のミノタウロス(Lv.68)に988ダメージを与え、突き飛ばしました』
『煉獄のミノタウロス(Lv.68)がマグマに呑み込まれ、死亡しました。経験値 59,300 獲得』
『おめでとうございます。 一時的にレベル41へ上昇しました』
お前は、あのクソ羊とは違って、マグマはダメだったのね。もし大丈夫だったとしても、私の連撃は避けられなかったでしょうけどね。
よし……筋力に振ろう。わっ、HPがいつの間にか3万とちょいもある! レベルアップと体力へのステ振りのおかげね……。クソ羊の突進も、一撃だけならなんとか……そうだ、あのクソ羊で思い出した……! あの、羊……!!
「あいつだ、いつもいつも私の邪魔をしてきて、恵まれた能力を振りかざして特別だと思っている……!!」
赦せない……。あいつだけは……。何度も何度も大部屋や大空間でスタートしては、こちらを見つけ次第嘲笑うかのように踏みつけてきた! ちょっとやり返してやったら、獄ミノを追い回して私にぶつけてくる!! あいつさえいなければ、煉獄の攻略だってもっとスムーズに出来たはずなのに。あいつだ、絶対に赦さない!!
「…………冷静!」
あの羊は絶対殺すとして、まずは一旦冷静に。この中部屋の先にも通路が続いているから、そっちの探索とモンスター潰しもちゃんとやっておかないと。いきなり後ろからコケッて聞こえたら嫌だもんね。リーダーを倒してその配下は居なくなったって言ってたけど、要するに所属してない野良コッコーは居るってことでしょ? 確実に倒せるように、煉獄の大斧は常に最大威力で振り下ろす準備をしながら進もう。
「……すぐ右に曲がるだけで、分かれ道は……ないのね。一本道か」
一本道はそれはそれで怖いんだけど……。こんなところで獄ミノが突っ込んできたら、それこそ終わりよね。突き当りに何か見える……宝箱っぽいけど、さっきのとは色が全然違うなぁ……?
「えっ、おっ……!?」
『チュートリアル:ミスティックボックスを発見しました! ミスティックレアリティ以上のアイテムが必ず1個以上入っている、非常に貴重な宝箱です!』
「おおおお!! 早速――――」
ミスティックレアリティ以上が必ず入っている……ただし、罠がないとは言っていない……ね?
さっきは正面に猛毒矢を撃つだけのトラップだったから大丈夫だったけど、他にもトラップが仕掛けてあるはずよね。うん、それだけじゃないはず……! 絶対そう!
「…………よし、棒で遠くから突っついて、隙間からトラップを確認しよう」
後ろからモンスターは、来てないよね……。うつ伏せの体勢はちょっと苦しいけど、この体勢でギリギリ届く場所から宝箱を開けてみよう。あの宝箱にセット出来るぐらいのトラップなら、ギリギリこれで避けられる……はず!
『【★キャ・ロッド】を装備しました』
「えいっ……えいっ……!」
今の私、とんでもなくダサい行動してるわよね……。でもトラップが仕掛けられてたら嫌なんだもん、仕方ないじゃな……ああああああああ!?
『アラート:【スパイクトラップ】が作動しました』
「お゛……」
あ、ぶなぁ~……!! 宝箱から無数のトゲが、四方八方に伸びたんですけど……!? これ、後ろから開けようが横から開けようが、関係なく開けたやつをぶっ殺すみたいな強い殺意を感じる!! ただ、今回は棒で遠くから突いたのが功を奏したわ。手元まで伸びてきたけど、ギリギリで止まってくれた……。ほっ……。とりあえずこのトゲ、壊しちゃお!
「全くもう、宝箱ぐらい楽しませなさいよ、もうっ……!」
宝箱ぐらい楽しませろって思ったけど、ここって煉獄……インフェルノモードなのよね。
この感じだと、宝箱は全てトラップ付きだと思ったほうが良さそうだなぁ。取り敢えず今はこれ以外に対処方法がないから、遠くからツンツンして開ける以外に回避方法はないね。さて、問題の中身は何が入っているんでしょうか~っと……。
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【★★名刀・神威】(ミスティック・刀・エンチャントスロット【●◯◯】)
・【要求】純粋なTEC75以上
・【固有スキル】神威:次に発動するアクティブスキルの威力を2.0倍にする
・物理攻撃力+1420
・魔法攻撃力+540
・攻撃時成功時に出血が発生した場合、重篤化させる
・【エンチャント】
┣固有:斬鉄・レベル2
┣なし
┗なし
――寄らば、斬る。
強化可能・所有者登録【ウェーブ】・重量0.8kg
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ほひぃぃいい……!? め、メチャクチャ強そうな刀が入ってるー!? え、もしかしてこういう武器が……まともな武器ってこと? 刀を扱うのに技量を要求してるのも合ってるし、固有スキルもバッチリ噛み合ってるし、斬鉄・レベル2は……斬撃耐性を持つ相手の耐性を一定値無視!? レベル2で40%も無視出来るの!? あ、他にもまだ残ってる!!
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【★★上質な無限パープルポーション】(ミスティック・特殊アイテム・ポーション)
・【制限】レベル30~75で適正使用可能
・【制限】レベル76~回復量半減
・【制限】このポーションを使用した時、他の回復系消費アイテムは全て120秒間使用出来ない
・HPとMPを25%瞬時に回復し、10秒かけて更に25%回復する
・再使用0秒/120秒
・使用回数制限なし
――このポーションが凄いのか、それとも瓶の方が凄いのか……?
強化可能・所有者登録【ウェーブ】・重量0.1kg
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これ、今まで出たどんな装備よりも凄いじゃん。もうね、即使用よこんなの。
『【★★上質な無限パープルポーション】ーー名称変更ーー【★★ぶどうジュース】を使用、HPとMPが回復しました』
ああ~モリモリHPとMPが回復する~……!! もうね、見た目がぶどうジュース。味もそんなに悪くないっていうか、さっぱりした系のスポーツドリンクみたいな感じ? 甘ったるくなくて良いじゃない、最高最高!! いやぁ、装備は正直持って帰れなくても良いから、このポーションだけでも絶対に持って帰りたい。これ、ぶっ壊れてる!
まあ120秒っていう制限があるから、戦闘中にガブガブ飲んで回復しまくりーってのは出来ないし、他の回復系消費アイテムも120秒間使えないから……応急処置というか、心の余裕ってやつね! 回復薬があるから大丈夫っていう、気持ちの面に余裕が出る! 名前は長いからぶどうジュースでいいや。
『重要なシステムメッセージ:女神ペルシアが貴方の一部の戦闘シーンを公開する許可を求めています。許可しますか? 許可を求めているのは以下の通りです』
『要請:両手斧【下段振り下ろし】からの【ジャンプ】のシーン』
『要請:両手槍【下段振り下ろし】からの【ジャンプ】、更に【中段突進】のシーン』
「ふぇ……?」
あ、そういえばさっきもこのログ流れたなぁ……。なんだろう、面白い動きしてるから見て~みたいな活動をしてるのかな? ペルシアちゃんって、意外とユーザーフレンドリーな感じで活動してるのかな~。まあ、そんなに特別なことをしてるシーンじゃないし、別に良いかな。許可っと。
『重要なシステムメッセージ:許可を選択しました。ご協力ありがとうございます』
「ん~……。ペルシアちゃんだからそっちは良いけど、これってシステムメッセージ越しだからシステムが悪いよね? 高難易度のダンジョン攻略中に手を止めてきたんだから、そういうのに補填とかお詫びってないの? もしかしたら余計なことを考えて死に繋がってるかもしれないのに?」
『世界の管理者:ウェーブ様、大変申し訳ございません。仰る通りで御座います。チームに情報を共有し、検討させて頂きます』
「ふぁぇええ!?」
い、今の、運営!? そ、そんな、まさか独り言だったのが、運営に聞かれてるとは思わなかったなぁ~!?
「ちょ、ちょっともやっとしただけで、特別扱いして欲しいわけじゃないからね!?」
『…………』
「今度は返事ないんかい……!!」
都合が悪くなると黙るの、システムメッセージそっくりだねぇ!? こんのぉぉぉ~……まあ、うん。確かにこうして手が止まってるのは事実だし、ちょっと検討して欲しいのも事実よね。
まあ、いいや! 気持ちを切り替えて次に進もう! まずは安全を確保して、あの羊をどうやったら倒せるのか考えてみよう。目にはダメージが通って潰せたんだし、顔は弱点っぽいのよね。逆に胴体はダメね、あのもこもこの毛が物理攻撃も魔法攻撃も通しそうにない。射撃は~……よし、とりあえずやってみよう。じゃあたまちゃんのクールタイムを待って、羊がこっちに気がついてないタイミングで奇襲を仕掛ける。出口に張り付いてたら問答無用で大砲を撃つ! これで決まりね!!




