010 嵐の如く
『【ラビットキック】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.62)に13,488ダメージを与え、【スタン・レベル3】状態になりました』
お母様の教えを思い出すのよ。
どんな不利な状況であっても常に冷静さを忘れず、自分が有利になるように考え続けること。逃げることが最適解であるならば、恥を捨てて逃げなさい。
まずどれだけ不利か、私は体格で完全に負けていて、突進を受けるだけで致命傷になる程には脆い。天井が低いためにハンぴょん丸が使えず、ハメも使えない。数的不利も背負っており、獄シープには居場所がバレている。
逆に考えて何が有利か、天井が低いということはギロチンスラッシュが使えない。斧を振り下ろそうとしても天井にぶつかるから、この行動が恐らくなくなる。そして片方はスタンのレベル3、ふらふらの状態で移動するのもままならない。片方はピンピンしているけど、仲間との連携が取れてなくて苛ついている。ここから更に、私が有利な状況にするには……!!
『モォオオ!! モォオオオ!!』
『ブ、モ……』
まだピンピンしている方から逃げて、ふらふらのやつを壁にするように回り込む!! これで数的有利を潰し、更に連携が取りづらくなる。ここから更に有利を取るなら、私ならこうする!!
『【中段突進】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.62)に4,770ダメージを与え、【右脚負傷・レベル1】状態になりました』
『ブ、モォオオ、ォオオオ!!』
『【ラビットキック】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.62)に12,114ダメージを与え、【右脚負傷・レベル3】状態になりました』
『煉獄のミノタウロス(Lv.62)が体勢を崩し、転倒します』
『オオオォ、オオオオオオオ!!』
こいつは大斧を右側に構えてるから、攻撃するには右脚が要になるはず。徹底的に膝を攻撃して、突進攻撃の択を潰す! スタンが解除されても出来る行動は薙ぎ払い、もしくはヤケクソになって斧を投げつけてくるぐらいしか出来ない。
『モォオオ、モォオオオ!!』
『煉獄のミノタウロス(Lv.64)が【薙ぎ払い・斧】を発動』
仲間のピンチを救うために獄ミノがやるであろう行動は、倒れている仲間に当たらないよう斧を横に振るのが精一杯のはず。私に当たるよう、かつ仲間には当たらないように攻撃しなくちゃならないから、少し慎重になる。つまり、いつもより攻撃が少しだけ遅い! 間に合う、自力だと怪しいけど、これなら間に合う!!
『【ジャンプ】を発動、煉獄のミノタウロス(Lv.62)を踏みつけ、2ダメージを与えました。【スタン・レベル3】が解除されました』
『モォ!?』
いくらそれだけの体格があっても、重量武器を振り回したからには急に止まることは出来ないはず。派手に空振った攻撃、相手の姿勢は低い、私は空中……ッ!? いつもよりジャンプが高い!? こんなにジャンプするつもりじゃ……敏捷性!? 50振っただけでジャンプ力が1.5倍ぐらいになるものなの!? こんなに飛ばなくても良かったのに、マズイ、振り下ろしは天井が低いから……!!
『【ラビットキック】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.64)に13,104ダメージを与え、【スタン・レベル3】状態になりました』
『アラート:残りMP20%』
『ブ、モ……』
顔面にラビットキック! 急降下キックの反動を活かして更に空中を維持、したけど……MP残り20%!? あと1回しか使えない、使いどころは良く考えて――――いや、今だ!! リソースを出し惜しんでこの状況が打開できるもんかーっ!!
「ぜいやーっ!!」
『【ラビットキック】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.64)に13,211ダメージを与え、【失神・レベル1】状態になりました』
『煉獄のミノタウロス(Lv.64)が体勢を崩し、転倒します』
このまま失神したレベル64に追撃したい気持ちをグッと堪えて、既に転倒しているほうの獄ミノを先に始末する! 私は天井スレスレ、向こうは地面にうつ伏せの状態から起きるところ、これだけの高さがあるなら……軽い武器じゃダメ、重い武器のほうが良いはず!!
『【普通の両手斧】に変更、【落下致命攻撃】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.62)に45,410ダメージを与え、撃破しました。経験値 59,300 獲得』
『おめでとうございます! 一時的にレベル32へ上昇しました!』
仕留めた!! このまま一気に――――いや、落下致命。有利な時も冷静に、有利を更に有利なものにするには、焦らずにその有利をより確実なものへする必要がある。お母様の教えよ!!
下段振り下ろしから……ううん、私の今の敏捷性と筋力なら、もうこれは必要ないはず。最初の手順を、省略する!!
『【★キャ・ロッド】に変更、【下段振り下ろし】を発動、【ジャンプ】を発動――』
『煉獄のミノタウロス(Lv.64)が【失神・レベル1】から回復しました』
もう復活した!? だけど間に合う、手順を省略したのが活きた! 私は既に、お前の頭をかち割る準備が整っている!!
「おりゃーっ!!」
『【普通の両手斧】に変更、【落下致命攻撃】を発動、クリティカル! 煉獄のミノタウロス(Lv.64)に45,102ダメージを与え、撃破しました。経験値 59,300 獲得』
『おめでとうございます! 一時的にレベル33へ上昇しました!』
「っしゃぁああああああ!! ふんーっ!!」
どうだ、これが私の――いや、半分ぐらいかそれ以上はお母様の教えによる勝利ね。お母様の教えを守った賜物だわ……。この才能を社交界で活かせたら良かったのに……。いや、反省は後で! MPは使い切ったし、まだ別のモンスターがここへ来るかもしれない。早くポーションで回復して次に備えないと。
『【初心者用MP回復ポーション】を使用、効果がありませんでした』
「あ……?」
え、だってポーション……。ああああああああ!? レベル30までしか効果ないんだった、この初心者用のポーション!! ヤバい、MPの回復する手段が…………ん? さっき目玉を潰してやった獄シープが、向こうから戻ってきてるような……? 別個体、ではなさそうだけ……どぉおおおおおおおお!?
『ヴェエエエエエエ!! ヴェエエエエエエエ!!』
『ブモォオオオオオオ!?』
『モォオオオオオオオオオオ!!』
『ブモ、ブモォオオオオオオオ!!』
「ば、びっ!? ぶ、べっ、ぼぼぼぼっ!?」
あのクソ羊、自分がこの部屋に入れないからって、周囲に居た獄ミノを追いかけ回してこの部屋に誘導しようとしてるんですけど!? ちょっと待って、マジで信じられない!! どうしよう、どうする……あいつら同士で話が通じているなら私がここに居るのはバレているけど……通じていない! 通じているなら、追いかけ回して誘導なんてしないはず!
この部屋から出よう! 左は行き止まりだったけど、右はまだ希望がある。チキンデリバリーが現れたのは右側の通路から、だったらそっちが別の場所に繋がっている可能性があるということ! よし、逃げると決めたからには逃げる…………んんんんん!? 獄ミノからまーた金色の袋が落ちてるじゃん! 急いで回収して逃げよう!!
『【★煉獄の腰ミノ】を入手しました』
ミノタウロスだけに腰蓑ってこと!? うるさいわ、今そういうのに突っ込んでる場合じゃないんだっつうの!!
『――コケッ?』
コ、コ、コッコォオオオオオオオ!? クソチキン!? 殺す、絶対に殺す!! 爆発なんてさせたら絶対バレる……!! お前を、ここで殺すよ。ここで、今……!! どんな性能か知らないけど、万が一にも攻撃力が上がる効果があったらラッキーだから、ダサい装備だろうけど腰ミノを装備する!!
『【★煉獄の腰ミノ】を装備、【★キャ・ロッド】に変更――――』
『コ、コケッ……』
鳴かせるかぁあああ!! 口を開けたらその頭を、このニンジン棒で貫いてやる!!
『コ――――』
『【烏兎脳穿衝】を閃き、発動! 即死! 煉獄の血禽照発(Lv.65)の脳を破壊しました! 経験値 100,801 獲得』
『おめでとうございます! 一時的にレベル35へ上昇しました!』
『チュートリアル:スキルを閃きましたね。スキルの閃きについて解説します』
今はそれどころじゃないのぉおお!! だけど、これで少し希望が見えた。さっき一緒に現れなかったチキンデリバリーが現れたってことは、この先のどこかから流れ込んできた可能性が高い。そこが私の活路、生き残れる可能性がある唯一の場所だわ。急いでそっちに向かわないと!!




