001 プロローグ
全国のゲームをプレイしたことがある皆さん、初めまして。そうでない方も初めまして、七瀬 真波と申します。早速なのですが聞いてください。
皆さんはコンプレックスってありますか? 少なからず何かしらありますよね? 私にもコンプレックスが多少あります。その中でも『普通』と言われたり思われたりするのが苦手です。社交界の中心、まるでお姫様のような腹違いの姉。イケメンで文武両道、金髪碧眼が眩しすぎる腹違いの兄。天才秀才鬼才と持て囃され、実際その通りの頭脳を持つ実の兄。地味な黒髪に薄暗い黄色の瞳、パッとしない容姿の普通な私。兄姉に比べて普通だなと思われるのが、苦痛なんです。
「――――普通を超えたぐらいじゃダメ。もっと凄いの、ないの?」
『シークレットモード【ハードモード】が選択可能です』
「ハードモードかぁ……」
それで本題なのですけど、たった今見つけたばかりのただならぬ雰囲気を醸し出しているVRオンラインゲームの【ペルシアオンライン】にログインしたところでして、他人の目が嫌になって引きこもったついでに、人生初のVRオンラインゲームというもので遊んでみようと思いまして。
そしたら『難易度はベリーイージー、イージー、ノーマルから選択可能です』って言うもんだから、普通!? 普通が最高ランク!? そんなの嫌、もっと上の難易度! って頼んだら、シークレットモードのハードモードがあるんですって。でも、普通をちょっと超えた程度では兄姉達と同程度かなと思ったので、それ以上は無いかと聞いたんですけどね?
「ハードモード以上はないの?」
『これ以上の難易度は提供出来ませ』
「使えない!!」
『ン……。エ、ラー、深刻な、エ、ラ、アッアラララァアア、error code 不明――――』
ないって言われて……。
と り あ え ず 殴 り ま し た 。
ええ殴りました、殴りましたとも。本気で。私、リアルでは絶対そんな粗暴なことはしないのですけれど、ゲームとなれば話は別です。気に入らない奴は殴る、重要人物であったとしても気に入らない場合倒せるなら倒す。絶対です絶対。例えメッセージボックスであろうとも容赦はしません!
『豺ア蛻サ縺ェ繧ィ繝ゥ繝シ豺ア蛻サ縺ェ繧ィ繝ゥ繝シ豺ア蛻サ縺ェ繧ィ繝ゥ繝シ』
「うっるさ」
『――――――』
……というわけで、ゲーム開始前に終了しましたこのゲーム。深刻なエラーを吐き出してアバタークリエイトが進みません。いやまさか、こんな事で話題の新作ゲームに手も付けられずに終わるなんて……。もうログアウトしていいですか? だって、進まないんですもの。
『その機械じゃ提供出来ないけどぉ、ワタシはあんたに特別な難易度を提供出来るわよぉ~?』
――――どうしよう、呼吸止まった。
え、このゴスロリの娘、誰? 金髪ツインドリルの、ザ・お嬢様感MAXのゴスロリお嬢様、誰? いつから居たの? 今? 今来た? もしかして、もしかしなくても、画面を殴ってエラーを出したことに対する救済措置!? やった、やった! 神ゲーだ、こういうのも予測して演出が組み込まれてるんだ、すっごぉい!
やだどうしよう、Sっ気ムンムンのロリっ子、派手でダイナミックな衣装……。こういうのに凄く弱いんだよね……。自分が地味だから、派手なものに憧れちゃう……。お母様みたいにあの歳になってもゴスロリ衣装を着こなして美しくあり続けるとか出来そうにないし……。とにかく、そういうの大好きなの! もう、どうしよう!! 抱きつかせて欲しい!! サインください!!
いやそれより、どうしよう! 考えてもなかった。まさかハードモード以上が本当に存在するなんて……。というかオンラインゲームなのに難易度があるってどういうこと? 何事なの?
『――――インフェルノモード』
「いん、ふぇるの、もーど」
『やるわよねぇ~? もっとスゴイの、欲しいんでしょ♡』
「ほ、ほひいでしゅ!!」
ハードを超えた先が、急に地獄級!? わあ、すごぉい……。絶対に、普通じゃない……!!
「インフェルノモードにします!」
『あら、自ら地獄に飛び込もうなんて自殺志願者~♡ そういうの好きよ♡ じゃあアンタは、インフェルノモード開始で決まりよ! それとこっちの世界でのアンタの容姿を決めるのだけど、ど~れ? 身体情報は……。身長148センチ』
「155センチです!!」
『嘘をおっしゃいな、148センチって出ているわ』
「くぅ~ん……」
身長もコンプレックスの1つです……。兄姉に比べて、低い……低すぎる……。皆170近いのに、どうして私だけ? ママもお母様も170近いのに、どこからそんな遺伝子が……。
『バスト88、ウェスト54、ヒップ80。ワタシと大して身長が変わらないのに、なんなのその恵まれた魅惑のボディ? ねえ、アンタ可愛いし、このままで良いんじゃないかしら~♡』
「え、普通……」
『アンタが普通ならこの世の女は全員もやし以下よ』
「くぅ~ん……」
『このままで良いわよね? 文句でもある?』
「あ、ありません……」
か、完全なリアルモジュールアバターでプレイするんですか……? そ、それはちょっと……。でも、見た目を偽るのは『普通の人』がする行為だよね。私は普通になりたくないから、100%そのままでいきます!!
『適正クラスは後から勝手に決まるわ。アンタの戦闘スタイル次第ってことね~……ま、どうしても適正外のクラスがやりたいなら、無理矢理決定することも出来るケド? 頑張りなさいね~♡』
「は、はい……」
『うっふふ、じゃあ~最後に……アンタの名前を教えてくれる?』
「は、はい!! 私は――」
職業とかは後から決まるんだ、それでえっと……名前!? そっか、ゲームの中で使う名前!! どうしよう、何も考えてなかったんだけど。こういうのは、単純に付けちゃえば良いかなぁ? 今、パッと思いついた名前にしちゃおう!!
「ウェーブです!」
『そう、ウェーブっていうのね。さあて、精々頑張りなさ~い?』
「はい! 頑張りましゅ!!」
『システム:冒険者支援システム再構築中……。冒険者名【ウェーブ】、難易度【インフェルノモード】、30秒後にチュートリアルマップへ転送します』
わあ、始まっちゃう……。本当に、インフェルノモードで……。しかもリアルモジュールアバターのまま!! 知り合いに出会ったらどうしよう? どうしようって、どうしようもないか……。
『そうそう、ワタシの名前はペルシア♡ この世界で一番偉い神様なんだから~♡ よぉ~く、覚えておきなさぁ~い?』
「はぁ~い!!」
『それとアンタ、可愛いんだからちゃんとした服を着なさいね~♡ セクシーなのとか、キュートなや~つ♡ 命令よ~?』
「えっ」
『システム:転送5秒前……3、2、1……』
セセセ、セクシーでキュートな服を着ろって、それもインフェルノモード故にですか!? 服装まで難易度高めのやつを……!? ど、どうしよう、そういうのを着るのは苦手で……。
『ばいばぁ~い♡』
『システム:転送』
◆ ◆ ◆
わあ……。透き通るような青空、心地よい風、草葉が揺れる音……。コンクリートジャングルの東京とは大違いの大自然だぁ……。本物みたい……。
『システム:ようこそ、ペルシアの大地へ。まずは』
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「は?」
え?
『煉獄のミノタウロス(Lv.60)が【ギロチンスラッシュ】を発動、55,780ダメージを受けました』
『貴方は死亡しました』
は?
『初心者期間のため、デスペナルティは発生しませんでした』
『チュートリアル待機マップへ移動します』
え、死んだ? 今の、何? ようこそ、ペルシアの大地へ。まずは……死ね!? これがペルシアオンライン流の挨拶ってことぉ!?
「は、はぁ……? はぁ!? なな、なにこれ!? こんなの絶対おかしいじゃん、普通は――」
そうだ、普通じゃないんだった!! これが、これがインフェルノモード……!! チュートリアルから既に、地獄は始まっているんだ!!
これは……。並大抵の覚悟ではプレイできそうにないゲームだわ、ペルシアオンライン……。いいわよ、やってやろうじゃないの。受けて立つわ、地獄級のチュートリアルとやらを!! かかってらっしゃい!!