俺の親友が多分転生した。
俺は親友と喧嘩をしている。
理由なんざ覚えちゃいないが、何となく疎遠になっている。
今度会ったら謝ろう。
塾の帰り。22時をすぎたあたりだろうか。
小さな車道を挟んだ先の歩道に親友『一之宮 俊』。
俺は「おーい」と声をかけ、小走りで向かいの歩道へ。
せっかくだし仲直りがしたかった。
もちろん、いつもは車に細心の注意を払うが、今夜ばかりはそんな気持ちはなかった。
一之宮は鬼の形相でこちらに猛ダッシュしてきた。
その瞬間、一之宮は俺を尋常じゃない力で吹っ飛ばす。
2メートル、いや3メートルは吹き飛んだ。
吹き飛んでから気づいたが、どうやら軽トラがある程度のスピードで来ていたみたいだ。
そして吹き飛ぶ前俺が立っていた地面に怪しげな光る円。
丁度真上で俺を押した後空中で逃げることのできない体制を一之宮。
トラックに一之宮跳ねられる寸前、光る円はさらに光を発し、目を瞑る。
視界が良好になった時には、軽トラは通り過ぎ、一之宮は何の痕跡もなく消えた。
無論、転生である。
一週間後。
1限目開始5分前に教室を開けたら、彼、一之宮はいた。
彼は朝日に照らされ神々しさがある。
なんというか、一之宮とわからなかった。
メガネは外し、顔には二つ傷があり、転けたら今にも崩れそうな体型だった彼が筋骨隆々になっていた。
何より変わったのは、身長だろうか。
座っていても最低5センチは伸びているように見える。
俺と身長は変わらないが、筋肉などで俺よりデカく見えているだろう。
「お、どこ行ってたんだよ」
とは言えなかった。
喧嘩していて、気まずかったし俺はどこに行ったか知っていたからな。
絶対異世界行ってた。
確証はないが理由はいくつかある。
一つ目、転生、若しくは転移瞬間を見た。
馬鹿げているかも入れないが、魔法陣でビュンッ!っと瞬間移動していた。
二つ目、今日の授業で黒板に文字を書く時、日本語じゃない文字を誤って書いていたことだ。一之宮は慌てて消していたがあれは確実に異世界語であろう。
三つ目、さっきも言ったがめちゃデカくなっていたことだ。163センチくらいと言っていたが一週間で167センチの俺と大差ないのだ。
四つ目、これは昼休みの時間だ。
俺は決死の思いで一之宮にお昼を一緒に食べようと誘ったんだ、そうすると彼は右手を前に出してこう言った。
『ステータスオープン』と、
食べ物を出そうとしたのだろうか、ステータスがオープンしないことにき気づき微妙に頬を赤らめている。
これはさすがに中二病でもしないだろう。見てるこっちが恥ずかしい。
以上の理由から俺はあいつが転生したと思っている。
でもまあ転生したからなんだっていうんだ。
見た目はだいぶ変わったが、お昼の時は全然変わった様子はなかった。
「なあ、20時にサークル公園に来てくれないか?」
サークル公園。本当の名前はもっと違うんだろうが、公園が丸いので小さいころからそう呼んでいる。
懐かしい。
「あ、あぁいいけど…」
それだけ会話を終わらせて帰宅した。
わざとではないが一緒には帰らなかった。
約束の20時
公園のベンチには一人の男が座っていた。
近づいてみると、一之宮だった。
靴が薄い。
「よおぉ」
「おう」
俺も隣に座る。
気まずい時間が流れる。
「信じないかもしれないが、俺、転移したんだ」
きた。やっぱりだ。
「知ってたよ、目の前で見てたんだぜ?」
一之宮は一息ついて、口を開ける。
「話していいか?」
「あぁ。話せ」
「俺はお前の代わりに転移してしまったらしい」
「へ、へ~」
俺はこれしか言えなかった。
お前らも、こんなこと真顔で言われたら、そんなもんだって。
「国王様がさ、やっと成功した転移魔法にのっかてはるばる来たのがなんの素質もない俺なんだ。当然、イレギュラーできたんだから、チート染みた能力もないし、もちろん魔力もない。でも魔王を倒さないと帰れないと言われたんだ。まあでもあっちの世界でもそれなりに楽しかったさ、みんなでドラゴン討伐したり、ギルド入ったり、飲み屋でバカ騒ぎしたり、」
声が震えている。きっともっとひどいことを言われたのだろう。それを自分のせいにして、相変わらず一之宮は優しんだな。
「だから仲間を旅をしながら募って、やっと一個だけ加護を授かったんだ」
加護?たぶん固有スキルとかそういう言い回しなのだろうか。
「加護って、どんな加護なんだ?」
「天秤の加護。文字通りに制約をしてその分強くなるんだ」
「どんな制約をしたんだ?」
「すべてだ。自分とパーティーメンバーの命だ」
俺は思わずゾッとした。
親友が命の駆け引きなど当然のような口調で話しているー
わけではなかった。空を見上げながら、涙を必死にこぼさないようにしている。
「もちろん、最初からそうしようとしたわけじゃない。コツコツ筋トレとかしたり、魔力がなくても使える魔道具とかで経験値を上げて身体能力を上げたり、メンバーと旅して、7年だ。こっちじゃ7日しかたってなかったが、濃い7年だった。でも、魔王に完封された。かなわなかったんだ、だから俺は、俺たちはすべてを捧げた。あ、今ここにいるのは魔王を倒した時の報酬みたいなもんだ、もうじき消える。」
「え、?もうじき消えるって、なんでそこまでするんだよ!」
柄にもなく叫んでしまった。
本当かどうかもわからないが妙に信ぴょう性があるのだ。
現に、一之宮の足はもう消えている。
膝から上少し消えかかって透けている
「まあそりゃ、親を殺されたやつもいたし、ただの戦闘狂ってやつもー」
「ちげーよ!なんでお前がそこまでするんだよ!生涯あっちで暮らせばいい話だろ?あんまわかんないけど、魔力ないとかって相当苦労しただろなんでそこまでするんだ!」
また、柄にもなく一之宮のしゃべりを上からかぶせてしまった。
もう一之宮は胸当たりまでしか無い。
「お前にこれだけ言いたかったんだよ」
一之宮はもう涙をこらえようとしない。涙すら消えつつある。
「ごめん。仲直りしたい。」
「いいに決まってんだろ…俺もごめん」
一之宮は傷だらけの笑顔で。はにかんで笑って消えた。
なんのことで少しギクシャクしだしたのかも覚えてないし、そんなこともなかったのかに覚える。
彼は俺に『ごめん』というために魔王を殺し、自分も殺し、帰ってきた。
もちろん、そのためだけかと言われると違う気もするが、これが目的であったことも事実だ。
俺はベンチで一人になり、ぼーっとしていたその時。
俺のちょうど真下が発光していた。
「やっとか。」
きずいたときには宮殿
「おお、これこそ選ばれし勇者。我が国を隣国のリント王国から守ってくだいますか」
魔族の次はとうとう内戦か。しょうもないやつらだな。
いや、ここが一之宮が転生した場所とは限らない。様子を見よう。
「勇者様。こちらの魔晶玉にお触れください。勇者様の加護や魔力量が分かります。」
俺は黙ってそれに手を置いた。
「こ、これは!先代の勇者が認めたものでないと、現れない『勇者の加護』!素晴らしい…。魔力量も魔王の倍以上」
俺はどうやらチートなようだ。
それからしばらくして俺は魔力の使いかた、加護の使い方を覚えた。
でも俺はこの世界にも元の世界にも特に興味はない。
だからとりあえず俺は魔王になってみることにした。
3年ほどで俺は魔王になった。
人間だが、魔族たちを助けて国ぶっ潰してたら自然に魔族たちが祭り上げた。
さらに2年ほど。俺は神が本当にいることと、神の居所を見つけた。その際に、自由に異世界に行き来できるようになった。
一年かけて様々な世界を回った。一之宮はどの世界にもいなかった。
50年くらいたった時、俺は70前後だろうか。
ようやく気付いた。一之宮は死んだのだと。
そして「死」の恐ろしさに。
もう何も思い残すことはない。だからこそ恐怖した。
徐々にじっくりと決して抗うことのできない運命に。
体が震え、食も喉を通らなくなり、睡眠もできず。
ただ待つだけ。
彼は死んだ。