プロローグ
「これはどういう状況ですか?明瞭簡潔に1秒でお答えください」
「、、、、、、。知らん、こっちが聞きたい」
「はぁ、、、あなたがわたくしの質問に回答するまで3秒かかりました。よってあなたは”ゲロ”馬鹿です。哀れですね」
「おい、なに校長みたいなこと言ってんだ。それに切り捨てるのが早い。もっと己の教育に責任を持てよ」
「頭の回転が遅いだけでなく、いやはや、言っていることも意味不明ときましたか、、、」
自分の口が、意志に反してそう言った。
不思議な感覚。
自分の口であるのに、思ってもみないことを勝手にべらべらと話す。
まるで、自分の中に、自分とは違う意識主体が存在しているように。
「へぇ、、、、、、ふぅーん」
「なんだよ」
「いやいや、、、あ、っそう、、、はぁ、、、なるほどねぇ」
周囲からすれば、本当に頭がどうにかなってしまった人に見えるだろう。
にやにやと、へぇ、はぁ、と言ったかと思いきや、次の瞬間にはまるで別人かのように厳めしい顔をしている。
「あなたの記憶、すっごく面白いわね」
「、、、、、、ちょっと待て、記憶?」
「日本、、、フランス、、、イタリア、、、そう。これは違う世界なのね」
「おい、やめろ、マジなのか?本当に記憶が見えるのか?」
「見えますねぇ。見えるというか、全部覚えています。なかなか波乱万丈な人生じゃないですか」
「人の人生の浮き沈みより、異世界についてもっと驚けよ」
「なぜ?この世界の創造主には兄弟姉妹がいると、そうエレリア様が仰っていました。ならば、それぞれの神がお造りになった世界があってもなんら不思議はありません。神学の基本ですが?やっぱり馬鹿なんですね、あなた」
「記憶読めんなら、あっちの常識も分かるだろうが」
「八百万の神、あなたがたが信奉しているものと、そう変わらないと思いますよ。ならば、あなたが今、内心、えぇ、異世界ってまじか、これは夢なのか、ありえないありえない、嘘すぎる!帰りたいよイサラぁ、と本当はどっくんばっくんしているのは、あなたの知能が低く、理性的でないためであって、世界の違いに罪を着せない方がよろしいかと」
自分の顔が、勝ち誇ったように頬を持ち上げるのを感じる。
彼女の方では俺の記憶が読めるのに、こちらは全くだ。
俺は掘っ立て小屋のようなぼろい家の中で、鏡に正対する。
そこには、金髪の髪を流麗にして、瞳が赤く、華奢な体を白いワンピースで覆った美しい女性がいた。
「どういうことだよ、これ、、、俺は死んだはずじゃ、、、」
項垂れて、頭を抱える。
その手の小ささ、軽さに驚いたとき、そこが現実だとようやく直感した。
そして、立ち遅れたように、痛みがこの体を襲う。
「そういえば、さっき殴られてたけど大丈夫?」
「くそが、、、お前は痛み、、、感じねぇのかよ、、、ずる過ぎんだろ、、、」
「気絶するのはいいけど、なるべく早く起きてね、夜に約束あるから」
最後に自分の口から出た言葉を耳に聞いて、ばたりとその場に倒れ込んだ。