前日譚 こんな異様な世界にも
『速報です。先月17日未明ごろ関東地方上空に出現したワームホールについて、現代科学では再現不可能な物質が検出されているとのことです』
壁に設置された端末から投影されるホログラムが、僕の朝を支える情報源だ。
『一部地域では未確認の小動物が確認されており、特別委員会で解析を進めているところです』
「晴哉、ニュースばかり見ていないで早くご飯食べなさい」
「……気になるんだからしゃあないだろ。母さんたちの時代だって、些細なニュースから世界中のパンデミックに発展したじゃないか、日本史で習ったよ」
今朝のサンドイッチは、卵焼きの焼き加減や甘さが絶妙で、とても美味しい。毎朝サンドイッチを手作りしてくれる家はあまりないだろう。しかしコンビニのよりも遥かに美味しいのだ。
「うーん……あの頃よりも遥かに想像つかないような事例だからねぇ」
最高の朝ごはんを頬張りながら、またニュースに目を向ける。
『また、心身に超常的な異変を訴える患者も増加しており、新物質との関連性が疑われるとのことです』
「超常的な異変……って、要は超能力が使えるようになる物質ってこと? 死人が出てないとはいえ恐ろしすぎるだろ……」
「晴哉も他人事じゃないんだから、気を付けて外歩きなさいね。それより、早く準備しないと彼女さん来ちゃうわよ」
「はいはい」
ピンポーン。
「ほーら言わんこっちゃない」
「はぁ……。琴子はほんっと毎日毎日……たまには一人でゆっくり予習しながら歩きたい朝もあるんだけど」
「そんなこと言わないの。ほらお弁当」
「はーい、行ってきます」
玄関を出てふと空を見上げると、やはりぽっかりと穴が空いている。さながらブラックホールのようだが、そんなものよりも鮮やかな色彩が広がっているようだ。
奇想天外な異変が起こってしまった世界だから、そろそろ高校に慣れてきた、と感じる気すら起こらない。
「……晴っち?」
「ああごめん、今行くよ」
それでも僕らは、いずれこんな世界にも適応してしまうのだろう。