第3回桜庭メルの自分探しの旅:リアルシアター 一
「皆さん成層圏からこんにちは、祟り神系ストリーマーの桜庭メルで~す」
『こんにちは~』『今日も成層圏は快晴だな』『地上はめちゃくちゃ雨降ってるのに』
「そしてこちらが~?」
「っ……あなたのハートに神解雷螺!怪異系レッサーパンダの常夜見魅影で~すっ!!」
メルの腕の中で、魅影が顔を引き攣らせながらカメラに向かって可愛い子ぶる。
『めちゃめちゃやらされてるじゃん』『順調にメルに調教されてる』『裏でどんだけ脅されてんだろ』
「は~い、常夜見さんよくできました~。可愛かったですよ~」
「おっ……ぼえてなさいよ桜庭ぁ……!」
『桜庭呼ばわりは草』『すごい歯軋りしてる』『ギシギシ言うとる』
「さあ、常夜見さんの可愛い可愛い挨拶からスタートしました、第3回桜庭メルの自分探しの旅!メルティーズが見つからなければ配信できないこの企画、今回もまたメルティーズを見つけてくれた常夜見さんには感謝してもしきれませんね~」
『感謝してるならもうちょい扱い考えてやれよ』『メルティーズって何だっけ?』
「メルのそっくりさんです」
『説明雑っ』『そっくりさんで済ませられないだろ』
「だぁって、メルティーズの説明難しいんですもん。いいんですよメルの配信見るのにあんまりややこしいこと知らなくて。どうせメルの配信なんてメルが適当なこと喋りながら何かしら殺してるだけなんですから」
『あっそれ言っちゃうんだ』『それ言ったらお終いだろ』『コンテンツが殺害1本のチャンネル』『この世の終わりみたいなモノカルチャー』
「という訳で常夜見さん。今回見つかったメルティーズのことを教えてください」
「どういう訳よ……」
いきなり話題を飛躍させるメルに、魅影は呆れたように溜息を吐く。
「今回探査術式によって判明したメルティーズの居場所は、リアルシアターという廃業した映画館よ。調べたところ怪しい噂や心霊現象の目撃情報などは見当たらなかったけれど、まあメルティーズが住み付いているくらいだからどうせただの廃映画館ではないのでしょう」
『リアルシアター?』『聞いたこと無いな』
「メルも聞いたこと無いところでした。でもネットで場所は調べたので、早速行ってみましょう!」
メルがいつものようにフィンガースナップの仕草をする。
するとメルの背後の成層圏の光景にノイズが走り、次の瞬間にはメルと魅影はどこかの街の郊外のような場所へ移動していた。
『相変わらず指鳴らないなぁ』『進歩が見られない』『やり方教えてあげようか?』
「いいんですよ別に。何ならこれやらなくても移動できるんですから」
『やらなくていいのかよ』
「で、ここがそのリアルシアターですか~」
メルが前方にある建物を見上げ、それに合わせてスマホのカメラもその建物を映した。
「……なんか、こう、建物ですね」
『なんて貧弱な感想なんだ』『確かに特徴らしい特徴は無いけど』『建物見て建物ですねって感想は終わってる』
かつて映画館として営業していたその建物は、ただの白い箱のような外観をしていた。
リアルシアターという看板の類も見当たらないため、言われなければここがかつて映画館だったと気付くことはできないだろう。
「常夜見さん、ここにメルティーズがいるんですよね?」
「そのはずよ。ただ1つ気がかりなことがあって……」
「気がかりなこと?なんですかそれ、そんなのあったなら来る前に言ってくださいよ」
「いいじゃない入る前には言ったんだもの」
『喧嘩すんな』『仲良くしろ』
「で、何ですか気になることって」
魅影は会話を一旦仕切り直すように軽く咳払いをする。
「この映画館を拠点にしているメルティーズがいることは、私の探査術式での調査結果からも確かよ。けれどメルティーズが常にこの映画館にいるわけではない、というよりいない時間の方が多いくらいだったわ」
「えっ、じゃあここメルティーズの拠点じゃないんじゃないですか!?」
「話は最後まで聞きなさい。メルティーズはこの映画館にいない時間が多かったけれど、かといって他の場所に移動している様子も探査術式には引っ掛からなかったわ」
「ん~……?メルティーズは映画館にいない時も多いけど、かといってその時別の場所にいる訳でもない、ってことですか?」
「そうね」
「それ、って~……どういうことなんですか?」
少しは自分の頭で考えてみたメルだが、結論が出なかったので大人しく魅影に尋ねた。
「これはあくまで私の予想だけれど、リアルシアターの中には何らかの異空間が存在しているわ」
「異空間……」
メルは何度か異空間に足を踏み入れたことがある。そのいずれもが現実世界とは大きく法則の異なる空間だった。
「リアルシアターが異空間に繋がっていて、メルティーズがその異空間に出入りしているとしたら……メルティーズがあまり映画館にいないことにも、それ以外の場所でも見つからないことにも、一応の説明がつくわ」
「映画館から繋がってる異空間……どんな場所なんでしょう?」
「さあ?本当に異空間が存在しているのかも定かではないし。それもこれも、中に入ってみればすぐに分かることだわ」
「ですね。建物の前でだらだら喋ってる場合じゃないんですよ」
「最初に話しかけてきたのはあなたでしょうに」
『なんで今日そんなに仲悪いん?』『裏でなんかあった?』『そりゃあこの2人元々敵だし……』『そういやそうだったな』
「じゃ、入りま~す」
メルはガラス製の扉を押し開け、リアルシアターの中へと足を踏み入れた。
「わっ、思ったより映画館ですね~」
シアター内は券売機らしき機械や売店などがほぼそのまま残されており、廃業しているようにはとても見えなかった。
ただ当然電気は通っていないので、館内は真っ暗だ。
『何も見えないんだけど』『メルには何が見えてるの?』
「……あっ、そっか!暗いですよねこれ。メル祟り神になってから暗くても見えるようになったんで、明かりが必要なこと完全に忘れてました」
『こんな暗いのに見えてるの!?』『目に赤外線カメラでも搭載してる?』『定期的に人外であることをアピールするのやめろ』
「はっ!」
メルが右手を前方に翳して気合を入れる。
すると館内の照明が一斉に光を放った。
「ふぅ……とりあえずこれでしばらくは明るいと思います」
『どういうこと!?』『何してんの!?』『無茶苦茶すぎる……』
「さ、行きましょうか」
光源を確保したメルは、館内を奥へと進み始めるが、
『てかこれ普通に不法侵入じゃね?』
「……あっ!?」
至極真っ当なコメント欄の指摘で、メルは重大な事実に気が付いた。
メルティーズを探して当り前のように廃業したリアルシアターに足を踏み入れたメルだが、廃墟に勝手に入ったら大抵は不法侵入にあたる。
「どうしよう……メルティーズのことしか考えてなくて法律のこと完全に忘れてた……」
『草』『ダメじゃん』『何やってんだよ』『今までその辺結構ちゃんと気を付けてたのに……』
「……ま、まあ、侵入する正当な理由があれば不法侵入にはなりませんから……娘を探しに来たっていうのは正当な理由になるはずですから……」
『ホントかぁ~?』『確かに娘を連れ戻しに来たなら正当な理由、か……?』『目を覚ませそもそも娘じゃないだろ』
「娘です~。メルから生まれた女の子だから実質娘です~」
『実質じゃダメだろ』
法を犯してしまっているこの状況を打破するべく、メルは大量の冷や汗を流しながら必死で頭を巡らせる。
「あら。不法侵入なんて気にすること無いじゃない」
すると魅影が何ということのないようにそう言った。
「法律が適用されるのは人間だけだもの。私やあなたには関係の無いことだわ」
「常夜見さんくらいアナーキーだったらそうやって割り切れるのかもしれませんけど!メルの自認はまだかなり人間寄りなんですよ!?」
「誰がアナーキーよ誰が。それにいつまでも人間気分でいるのは止めなさいと言っているでしょう」
「はぁ……いいや。このまま行ってもここで帰っても不法侵入には変わりないですし。メルティーズ探します」
『大丈夫?』『無理しない方が……』『通報しました』
「もし警察に見つかったら成層圏に逃げます」
『草』『無敵過ぎるだろ』『絶対捕まらないじゃん』
いざという時は成層圏に逃げればいいや、という予防線は、メルの心理的負担をいくらか軽減した。
「とりあえず、近くにあるスクリーンから順に見ていきましょうか」
気を取り直したメルは、「スクリーン1」と書かれた扉を開く。
「あんまり広くないんですね~」
メルの馴染みのある映画館と比較して、リアルシアターはあまり席数の多い映画館ではなかった。
「ふ~ん……」
どこかにメルティーズが隠れていないかと捜索しつつ、メルは座席を1周する。
するとその時、大きなスクリーンが突如として光を放った。
「ひゃっ!?」
驚いたメルがスクリーンに視線を向けると、映画上映中の注意事項についての映像が流れていた。
「ど……どうして映像が……誰もいないはずなのに……」
メルはその鋭敏な聴覚で、館内にメル達以外誰もいないことを確認している。スクリーンに映像を映し出す者は存在しないはずだ。
「心霊現象ね。とりあえずどんな映像か見てみましょう」
魅影がそう言って近くの席の上に陣取ったので、メルもそれに倣ってスクリーンを見守る。
程なく注意事項についての映像が終わり、映画本編と思しき映像が流れ始める。
「どんな映画なんでしょう……」
「ホラーだと嬉しいのだけれど」
「メルは爆発する系がいいな~」
映画は寝室のような薄暗い部屋で始まった。1組の男女が裸で情熱的に絡み合っている。
「うわぁ……」
メルは顔を顰め、スマホのカメラをスクリーンから背けた。
『なんでカメラずらすの』『見せてよ』
「これは~……ちょっと、ダメかもです」
『ダメかもって?』『なんで?』『どして?』
「ちょっと~……か~なりえっちなのでぇ……」
『エッチなの!?』『余計見たいんだけど』『映して~』
「ダメですよ~、BANされちゃったらどうするんですか~」
「ちょっと桜庭さん、上映中は静かにして頂戴」
「うわかぶりつきで見てる……」
男女の情事のシーンはしばらく続いたが、やがて男性の様子に異変が現れ始める。
目を血走らせ、獣のような唸り声を上げ始める男性。訝しんだ女性が声をかけても、男性はそれに答えない。
すると突然、男性が大きく口を開いて女性の首筋に噛みついた。
女性の悲鳴と共に大量の血が飛び散り、画面が真っ赤に染まる。
「ひゃっ」
耳を劈く悲鳴と血液を利用したジャンプスケアに、メルは小さく悲鳴を漏らす。
画面の中では女性が喉を噛み千切られ、ぐるんと白目を剥いて絶命する。
すると男性が女性の白い腹を食い破り、ぐちゃぐちゃと女性の肉を咀嚼し始めた。食い破られた女性の腹部からは、大量の血液と共に精巧な造りの内臓が覗いている。
「わぁ~……エログロだぁ~……」
「なかなか素敵な映画ね」
メルと魅影がそれぞれ小声で感想を呟く。
そして画面には、おどろおどろしいフォントで「ZOMBIE REVENGER」という文字が表示された。
「ゾンビリベンジャー……ってタイトルなんでしょうか?」
「そうでしょうね、恐らく」
その時、メルの意識に急速に靄が掛かり始めた。
「あっ!?なんか頭がぼ~っとしてきました!これ多分異空間に入る時のやつです!これ多分異空間に入る時のやつですよ常夜見さん!」
「分かってるわよ、一々大袈裟に騒がないで。みっともないわ」
キャンキャン騒いでいる間にもメルの意識は薄くなっていき、やがて完全に意識を消失する。
そして次に気が付いた時には、メルは殺風景な部屋の中に立っていた。
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