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第25回桜庭メルの心霊スポット探訪:下蜾村 前編

 「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」


 この日配信を始めたメルは、珍しく髪をツインテールに結んでいなかった。


 『あれツインテールじゃない!?』『ストレートも似合ってる!!』『頭どうしたの?』

 「頭どうしたの?って言い方だとちょっと悪口みたいですね」

 『まあメルは実際頭がどうかしてるわけだが』

 「はい100%の悪口で~す。侮辱罪で~す。1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料で~す」

 『なんて?』『よくそんなスラスラ出てくるな』『法学部の方ですか?』

 「という訳で、桜庭メルの心霊スポット探訪第25回!やっていこうと思いま~す」


 パチパチパチ、とメルは自分で拍手をした。


 「ところで皆さん、今日のメルは普段と違うところがあるんですけど、どこだか分りますか~?」

 『今ずっとその話してただろ』『髪型違うって言ってんじゃん』『聞かれる前からもう分かってたが?』

 「実はですね~……じゃ~ん!今日はいつもと髪型を変えてみました~」

 『だから分かってるっつの』『え、コメント見てない?』『ほんとに頭どうかしてる奴があるか』

 「どうですか、この髪型。新鮮でしょ?」

 『かわいい』『似合ってる』『悔しいけど可愛い』『癪だけど可愛い』

 「なんで癪なんですか!?」


 自分が可愛いために腹を立てられるという理不尽に、メルは愕然とした。


 『なんで急に髪型変えたの?』『気分転換?』

 「ふふふ、実はこれにはちゃ~んとした理由があるんです。サクラさん、もうちょっと下がってくれますか?」


 メルの声に合わせてカメラが後ろに下がる。するとメルの全身がカメラの画面内に収まるようになり、メルが跨っているピンク色のバイクの存在が露わになった。


 「じゃ~ん!久々の登場、メルの愛車で~す」

 『おお』『めちゃめちゃ久し振りだな』『そういやバイク乗りだったなメルって』『存在忘れてたわ』『バイク乗るからツインテじゃないってこと?』

 「そうです、ヘルメット被らなきゃですからね~」

 『そもそもなんでバイク?』

 「おっ、いい質問ですね~。メルがバイクなのは、今回の配信でお応えするリクエストに関係があるんです」


 メルは懐から四つ折りにされた紙を取り出した。


 「早速今日のリクエストをご紹介しますね。


 桜庭メルさんこんにちは。いつも配信楽しく見させてもらっています。

 私はドライブが趣味なのですが、先日ドライブの途中で不思議なことがありました。


 私のドライブは地図を見ないで知らない道を走るというもので、その日は行ったこともないような山道を走っていました。

 しばらくは順調に車を走らせていたのですが、途中で道が細くなっている場所があり、車ではそれ以上進めなくなってしまいました。


 車をバックさせて引き返そうか、それとも車を降りて細い道を歩いてみようか。私が車を停めて悩んでいると、どこからともなく腰の曲がったおじいさんが現れました。


 おじいさんは私に、『悪いことは言わんから、今すぐに引き返しなされ。ここから先に進むのはやめなされ』と言いました。

 そのおじいさんはなんだか不気味な雰囲気で、怖くなった私はおじいさんの言う通り引き返すことにしました。


 おじいさんの言葉に従ったおかげか、その後は特におかしなことは起こりませんでした。

 でもあの時先に進むことを選んでいたらどうなっていたのか、あの細い道の先には何があるのか、時々気になってしまいます。

 桜庭メルさん、どうか私の代わりに、あの細い道の先を調べてください。


 ……とのことですね~」


 リクエストを読み終えたメルは紙を元通り四つ折りに畳み、それからその紙を一口齧った。


 『は!?』『何してんの!?』『え、ヤバっ……』

 「ふふっ、ビックリしました?実はこれ、食べられる紙なんです」


 そう言ってメルは残りの紙も口の中に放り込む。


 「この間お友達から貰って、折角だから視聴者さんを驚かすのに使ってみようかな~って」

 『よかった、とうとう狂ったのかと』『メルならコピー用紙でも同じことしかねないからな』『このくだりいる?』

 「まあおふざけはこれくらいにしておいて……今日はこのリクエストにお応えするために、視聴者さんと同じ山道を走ってみようと思います!車で走った視聴者さんとなるべく条件を同じにするために、メルもバイクで走ります!」

 『条件を同じにするならバイクじゃなくて車の方がいいんじゃないの?』

 「メル二輪の免許しか持ってないんで……」

 『普通免許も取れ』


 企画の趣旨を説明し終えたメルは、バイクの車体と同じ色のヘルメットを被った。


 「それじゃあ早速出発します!」


 そしてメルは慣れた様子でバイクを発進させた。


 『意外と安全運転だよな』『もっと法定速度の40キロオーバーとかで走るのかと思ってた』


 安全運転でバイクを走らせるメルの姿に、驚きのコメントがいくつか書き込まれる。

 日頃の配信では縦横無尽に暴れ回っているメルだが、道路交通法には従順なのだ。


 「ふふふふふ~ん、ふふふふ~ん、ふ~ふふふ~ん」


 鼻歌を歌いながら山道でバイクを走らせること十数分。山の中腹辺りに差し掛かったところでメルはバイクを停車させた。


 「視聴者さんが言ってたの、ここのことでしょうか……?」


 ここまでは車がすれ違える程度の道幅があった山道だが、メルが停まった場所より先の道幅はその半分も無いように見えた。更に言えばここまでの道がアスファルトで舗装されていたのに対し、ここから先は土が剥き出しだ。


 「確かに車じゃこの先は無理そうですね……」


 路肩にバイクを停め、ヘルメットを脱いで道の先を覗き込むメル。だが夜な上に街灯の類もないため、暗すぎて碌に見えはしない。

 するとその時。


 「その先に進もうとしているのならやめなされ」

 「ひゃあっ!?」


 突然背後から嗄れた声が掛けられ、メルは驚きのあまり1m近く跳び上がった。


 『めっちゃ跳んでて草』『どんな身体能力してんだ』『化け物……』

 「なっ、何ですか!?」


 振り返るとそこには、頭頂部が禿げ上がった白髪の老人の姿があった。

 暗闇の中に佇む腰の曲がった老人はかなり不気味な印象だ。


 「えっ、と……どちら様ですか?」


 恐る恐る尋ねつつ、メルは「桜の瞳」を通して老人を観察する。

 これだけ怪しい登場をしたのだから、きっと幽霊か怪異だろうと思ったメル。しかし予想に反して、老人の周りには何色の光も見えなかった。


 「悪いことは言わん。この先に進むのはやめなされ」

 「おじいさん、この近くに住んでる人ですか?」

 「そうだ。この先にある家に住んでおる」


 老人が指差した先には、メルが見ていたものよりも更に細い道があった。人1人通るのがやっとというような道だ。老人に言われなければ存在すら気付かなかっただろう。


 「行くのはやめたほうがいい、っていうことは、おじいさんはこの先に何があるか知ってるんですか?」

 「勿論知っておるとも」

 「もしよかったら、この先に何があるのか教えてもらえませんか?」

 「……いいだろう」


 試しにメルが聞いてみると、意外にも老人はあっさりと頷いた。


 「この道の先には、かつては下蜾村(からむら)という小さな村があった。今は無くなってしまったがな」

 「どうして無くなっちゃったんですか?」

 「……人が住めるような環境ではなくなったんだ。ヒサシという、とある1人の男によってな」

 「それって、どういう……」


 一体何がどうなれば、たった1人の手によって村が住めないようになってしまうのか。メルは興味をそそられた。


 「ヒサシは心優しい男だったが、内気な性格が災いして良縁に恵まれなかった」

 「彼女さんとかができなかったってことですか?」


 老人は頷く。


 「村の女子もヒサシのことを悪く思ってはいなかったが、とりわけヒサシを好いてはいなかった。そうして誰とも結ばれることなく独り身で暮らしていたヒサシは、病に罹って30の若さで死んでしまった」

 「あら……可哀想に……」

 「病が村に広がることの無いよう、ヒサシの亡骸は村から離れた山の中に埋められた。だがそれからしばらくして、村では不可解な現象が起こるようになった」

 「それはどんなですか?」

 「……村中の女子の下着が、一夜にして消え失せたのだ」

 「は?」

 『草』『真顔で何言ってんだ』『なんだそのバカな怪奇現象』


 老人の口から語られた予想の斜め下を行く怪奇現象に、メルは目が点になりコメント欄は盛り上がった。


 「村の男衆は慌てて里に下りて女物の下着を調達してきたが、それもまた翌朝には全て消え失せていた。もう1度里で下着を集めてきても、やはり同じだった。村で女子は下着を履けんようになったのだ」

 「えっと……真面目な話してます?」

 「それだけでは収まらんかった。それからまた少しして、今度は下着以外の服も消え始めてしまった。これは女子を知ること無く死んでいったヒサシの呪いだろうと、村の者は全員がそう考えた」

 「満場一致でその考えになるの酷くないですか?」

 「服が消えてしまうようでは、女子はもう村に住むことはできない。村の女子達は1人また1人と村を離れ、それを追って男衆も村を去り始めた。そうして下蜾村には誰もいなくなり、廃れてしまったのだ」

 「多分日本で1番おバカな理由で廃村になった村でしょうね」

 「だが村が無くなった今でも、村の呪いは残り続けている。かつて村があった場所に近付いた女子は、1枚ずつ身に付けている服を失うことになるだろう。だから悪いことは言わん。この先に進むのは止めなされ」

 「あっ、それでそこに繋がってくるんですか」


 メルはてっきり、この先には強力な怪異か何かが潜んでいるのかと思っていた。この先に進めば命の危険があり、老人はそれを知っているためメルを引き留めようとしているのかと思っていた。

 しかし実際は、老人はメルの服が消えることを危惧してメルを引き留めていたのだ。


 勿論服が消えることも、メルにとっては一大事だ。こんな出先で服が消えてしまったら、どうやって帰ればいいか分からない。

 だがそれでもやはり、「この先に進むと服が消える」と言われたらメルは「はぁ?」と思ってしまう。


 「もし儂の話が信じられず、どうしてもこの先に進むというのならこれ以上止めはせん。だが儂が言ったことは決して忘れるな。そして少しでも異変を感じたらすぐに引き返せ」


 老人は最後にもう1度メルに忠告し、それからメルに背中を向けた。


 「はい、ありがとうございました」


 メルに背中を見送られ、老人が家へと続いているという道へと消えていく。


 「さて……どうしましょうか」


 老人がいなくなり、メルは改めて細い道へと目を向けた。


 「この先に進むと、着てる服が無くなっちゃうらしいですけど……」

 『行け』『早く行けよ』『さっさと行け』『何チンタラしてるんだ』『キビキビ動けよ』

 「ちょっと露骨すぎませんか!?」


 是が非でもメルをこの先に進ませようとする強い意志を感じるコメントの群れに、メルは思わずたじろいだ。


 「なんなんですか、メルのことはそういう目では見れないっていうのがこのチャンネルの定説だったじゃないですか」

 『それはそれだろ』『時と場合ってもんを考えろよ』『そもそもそんなこと言ったか?』『少なくとも俺は言ってないなぁ』

 「このっ、ダブスタ視聴者ぁ……!」


 メルはプルプルと震えながらカメラを睨みつけていたが、やがて諦めたように溜息を吐いた。


 「はぁ……ここで引き返したら心霊スポット探訪にならないので、どっちにしても行くんですけど……」

 『やったぜ!!』『FOOOOO~~!!』『信じてたぜ桜庭メル!!』『一生ついていきます!!』

 「うわぁ今日のコメント欄ヤだな~」


 メルはいつもより3割増しで下品なコメント欄に辟易しながら、村へと続く道に1歩踏み出した。


 バイクを路肩に置いたまま、剥き出しの土を踏みしめて進むメル。


 「もうずっと人が通ってないって感じの道ですね~」


 進路を遮るように伸びる枝を払い除けながら、メルはそう感想を漏らした。

 道の両端からは枝や草が伸び放題で、路面には大小さまざまな石が転がっている。歩きづらくて仕方がない。


 「これはバイクで来なくて正解でしたね~」


 車では到底通行不可能なこの道だが、道幅に限って言えばバイクであれば通り抜けられる。

 だからメルは最初徒歩ではなくバイクで下蜾村を目指そうかとも考えていたが、そうしなかったのは正解だった。これほど状態の悪い路面をバイクで走ろうものなら、メルと言えども事故は避けられない。


 「やっぱりメルってば、ここぞって時の判断は間違えないんですよね~。さっすがメルちゃん!」

 『なんだそのキャラ』『ここにきて急に新キャラを試すな』『25回も心霊スポット探訪やっててまだキャラ定まってないんか?』

 「えっ、なんか皆さん今日あたり強くないですか」

 『みんなそこまで言ってやるなよ』『そうだよ、可哀想だよ』

 「あっ、味方になってくれる視聴者さんも……」

 『メルだってただ暗い山道を歩くだけの退屈な配信をどうにかしようと必死なんだよ』『そうだよ、唐突な変なキャラ付けだってメルちゃんの苦肉の策なんだよ』

 「ちょっと!擁護派の人の方が何ならイヤなこと言ってるんですけど!?」


 暗い道を賑やかに進んでいくメル。するとその時、メルはふと右足に違和感を覚えた。


 「ん~?」


 メルはその場に立ち止まり、右足を確認する。


 「あれっ!?」


 すると奇妙なことに、そこに確かに履いていたはずのハイソックスが綺麗さっぱり消え去っていた。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] でぇじょうぶだ、クッキーがある。 返信したら服が変わるのはこの為にあったのか
[一言] 過去一番ヤバい怪奇現象で草
[良い点] 魅影にぶつけたい超常現象ですね。メルは露出こそないものの汚れ役を熟してきていますから。
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