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第18回桜庭メルの心霊スポット探訪:滅三川 前編

今回は平和回です

 「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す。心霊スポット探訪、今日は18回目で~す」

 『こんばんは~』『メルちゃ~ん!!』『こんばんはっていうにはちょっと早くないか?』

 「あはは、ですね~。でもこんにちはだとちょっと遅くないです?」

 『確かに』


 この日のメルの配信は、夕方の何とも微妙な時間帯に始まった。


 「今日はちょっと変な時間に配信始めちゃったんですけど、これにも一応理由がありまして……今回の心霊スポット探訪は、視聴者さんのリクエストにお応えしていこうと思うんですけど」


 メルが視聴者からのリクエストをプリントアウトした四つ折りのコピー用紙を取り出す。


 「とりあえず読みますね。


 桜庭メルさん、いつも配信楽しく見させてもらっています。

 今回メルさんに探してほしいものがあってリクエストさせていただきました。


 私が小さい頃の話です。私は近所の友達と、家の近くでかくれんぼをして遊んでいました。

 隠れる場所を探してあちこち歩いていた私は、気が付くと知らない道に入ってしまいました。

 私はすぐ元の道に戻ろうとしましたが、どういう訳かどこに行っても知らない道しかありません。


 私は不安になり、泣きながら歩いていました。

 どれほど歩いたか分かりません。気が付くと私の前には、1軒の駄菓子屋さんがありました。


 そのお店には腰の曲がったお婆さんがいて、店先で泣いている私を慰めに出てきてくれました。

 中々泣き止まない私に、お婆さんは特別だよと言って1粒の飴玉をくれました。

 その飴玉は金色で、宝石のように綺麗だったことをよく覚えています。

 飴玉はとても美味しくて、私はすぐに泣き止みました。


 お婆さんは私の頭を撫でて、お家に連れて帰ってあげると言って私の手を引いて歩き出しました。

 その後、どこの道をどういう風に通ったのかは覚えていません。気が付くと私は自分の家の前にいて、お祖母さんはいつの間にかいなくなっていました。


 お婆さんにお礼を言って、できればあの飴玉をもう1度食べたいと思った私は、次の日にお小遣いを持って駄菓子屋さんを探しました。

 ですがどれだけ歩いても、その駄菓子屋さんは見つかりませんでした。


 その後も何度も駄菓子屋さんを探して歩き回りましたが、結局1回も見つけることはできませんでした。

 あれから何年も経って大人になった今でもこのことが忘れられません。


 桜庭メルさん、どうか私の思い出の駄菓子屋さんを探してください。お願いします。


 ……とのことですね~」


 文章を一息で読み終え、メルはコピー用紙を仕舞った。


 「まず1つ言わせていただきたいんですけど、小さい頃に1度だけ行ったお店を探してほしいっていうのは探偵のお仕事だと思うんですね」

 『草』『確かに』

 「ただこのリクエストは、気が付いたら知らない道にいたとか、お家の近所にあるはずの駄菓子屋さんがその後何回探しても見つからないとか、ちょこちょこ不思議なところがあるので。心霊系ストリーマー案件だと思ってやらせていただきますけれども」

 『心霊系ストリーマー案件?』『必ずしもストリーマーである必要は無くね?』

 「ただ、いいですか視聴者の皆さん!今回のリクエストで味を占めて『もつ鍋の美味しいお店を探してください』みたいなリクエストを送ってくるのは止めてくださいね!」

 『草』『しねーよ』『そんくらい自分で探すわ』

 「まあそういうことで、この駄菓子屋さんを探すにあたって、リクエストをくれた視聴者さんにもう少し詳しくお話を聞いたんです」


 メルは視聴者から聞いた情報をまとめてプリントアウトした四つ折りのコピー用紙を取り出す。


 『2枚目あんのかよ』『1枚にまとめろよ』

 「視聴者さんによると、駄菓子屋さんを見つけたのは空が赤くなり始めた時間帯で、多分4時頃。思い出せる道順は、近所の公園を出て細い路地裏に入ったところまで。駄菓子屋さんの名前は覚えてないけど、看板には漢数字の『三』の字があったような気がする。手掛かりになりそうなのはこれくらいでしたね」

 『手掛かり少なっ』『え、それだけで見つけるの無理じゃね?』

 「少なくともネットで調べた感じだと、この辺の地域に『三』がつく名前の駄菓子屋さんは見つかりませんでしたね……」

 『じゃあ無理じゃん』

 「でもネットで調べて見つかるようなお店なら、視聴者さんもメルにリクエストしないでしょうし。心霊系ストリーマーとしては、ここは足で稼ぐところですよ!」


 メルがスカートの上から自分の脚を叩く。パァン!といい音が響いた。


 「今日の配信が中途半端な時間に始まったのも、視聴者さんがその駄菓子屋さんを見つけた時となるべく状況を同じにするためなんです」

 『なるほど』『そういうことだったのね』

 「という訳で、視聴者さん思い出の駄菓子屋さんを探していこうとっ、思います!」


 カメラに向かって敬礼のポーズを取り、メルは歩き始めた。


 『何か当てはあるの?』

 「とりあえず、視聴者さんの記憶にある駄菓子屋までの道をできるだけ辿ってみようと思います。まずは視聴者さんのお家の近所の公園ですね」


 公園の具体的な場所も事前に視聴者から聞いてある。地図まで貰っているので、メルは迷うことなく公園に辿り着くことができた。


 「ここですね~……なんか、公園のステレオタイプを抽出したような公園ですね」

 『どういうこと?』『難しいんだけど』『もっと噛み砕いて言って』

 「なんかベタな公園ですね」


 滑り台があり、砂場があり、ブランコがあり。メルがやって来た公園は、日本人が「公園」と言われて何となくイメージするものを、そのまま形にしたような場所だった。


 「で、小さい頃の視聴者さんは、この公園を出たところにある細い路地に入ったそうなんです」


 メルは公園の外周をぐるりと回りながらそれらしい路地を探す。


 「あっ、これですかね」


 そうしてメルが発見した路地は、メルの想像よりも更に一回り細かった。

 一応他にも無いかと探してはみたが、それらしい路地はこの1本だけだ。


 「これ……メル通れると思います?」

 『いやあ……』『どうだろ』『いけるか……?』『無理っぽくね?』


 メルの目にも視聴者の目にも、メルがその路地を通り抜けることは難しいように見えた。

 小さな子供なら普通に通行できるだろうが、大人の体格では少し厳しい。


 「でも絶対に無理って感じもしないですよね……うん、メルちょっと1回行ってみます」

 『大丈夫か?』『挟まって動けなくなるなよ』

 「挟まっちゃったら……最悪壁壊して脱出します」

 『やめろ』『本当にできそうなのやめろ』


 メルは体を横に向け、恐る恐る路地へと侵入していく。


 「んっ……ちょっと、つっかえますね……」

 『おいおい』『本当に大丈夫?』

 「でも進めそうではあります……んっ」


 実際に路地に入ってみると、胸が壁につかえるものの、挟まって動けなくなるようなことは無かった。

 蟹のように横向きのまま足を進め、少しずつ路地を進んでいく。


 「せっまい……何でこの道こんなに狭いんですかね?これじゃホントに小さい子しか通れないですよね」

 『そもそも道じゃないんじゃね?』『道じゃなくて隙間なんでしょ』

 「えっ、そんなことあります?」


 蟹のようにゆっくりとした動きで20mほど進み、メルは細い路地を抜け出した。


 「あ~狭かった……うわっ、結構服汚れちゃいましたね……」

 『そりゃあんだけ壁に擦ってたらな』


 路地を歩いている間、絶えず体が壁に擦れていたため、メルのピンクのブラウスは煤けたように汚れてしまっていた。擦りすぎたせいで心なしか生地が薄くなっているようにも見える。


 「まあ……これくらいなら洗えば落ちますよね。買い替える必要はありませんよね、うん」

 『服の買い替え多すぎて服のダメージに敏感になってるの草』

 「それにしても、ここはどこなんでしょう?」


 狭い路地を抜けた先にあったのは、そこもまた路地裏のような場所だった。人ひとり通るのでギリギリというほど狭くはないが、それでも車が入ってくるのは難しそうな道だ。

 メルが出てきた道から向かって左側はすぐ行き止まりになっており、右側は50mほど進んだ先で道が右に曲がっている。


 「視聴者さんのお話にはこんな場所は出てこなかったんですけど……とりあえず進んでみましょうか」


 メルは右手側の道を進んでいく。角を曲がると、今度はすぐに丁字路がメルの前に現れた。


 「これは……皆さん、どっちに行けばいいと思いますか?」

 『右』『左』『どっちも行ってみたらいいんじゃないの?』『とりあえず左右両方チラッと見てみたら?』


 当然と言えば当然だが、視聴者達の意見はバラバラでどうにも参考にならない。


 「ん~……そうだ、コイントスで決めましょう」


 メルは財布を取り出し、その中から100円玉を1枚手に取った。


 「表が出たら右、裏が出たら左にします」

 『100円玉の表ってどっちだっけ?』

 「桜の花がある方が表です。それじゃ、行きま~す」


 メルが親指で100円玉を上空へと弾く。

 約20秒後、落ちてきた100円玉をメルは左手の甲で受け止め、右手でそれを隠した。


 「さて、結果は~?」

 『てか今100円玉の滞空時間めちゃくちゃ長くなかった?』『どんだけ上まで飛ばしたんだよ』

 「あっ、表ですね~」


 右手を退けると、左手の甲に乗った100円玉は桜の模様が見えていた。


 「表だったんで、右に行ってみようと思います!行き止まりだったら次は左に行きますね」


 コイントスの結果に従い、メルは右の道へと進む。

 進んだ先では道が左に曲がっており、その角を曲がると再びメルの前に丁字路が現れた。


 「また分かれ道……もう1回コイントスしますね」


 メルはもう1度コイントスを行い、その結果に従って今度は左の道へと進む。

 道に沿って曲がり角を右に曲がると、またしても丁字路がメルを待ち受けていた。


 「また分かれ道!?ちょっと多くないですか?」

 『確かに多いな』『路地裏ってこんなに道分かれてるもんなのか?』『なんか迷路みたい』

 「あっ、いいこと言う視聴者さんがいましたね。メル今ホントに迷路の中にいるような気分です」


 路地裏の分かれ道の多さに、メルは幼い頃訪れた遊園地の巨大迷路を思い出していた。


 「でも迷路なら話は早いです。メル実は、こういう迷路の攻略法をちゃんと知ってるんですよ」


 ふふん、と得意気に鼻を鳴らすメル。


 『攻略法?』『どんなの?』

 「それはですね~……こうやって、左手を壁にずっとつけたまま歩くんです!そうすれば絶対にゴールに着けるんですよ」

 『なんだ左手法か』『有名なやつね』『それって使えない迷路もあるけど大丈夫?』

 「えっ、これ使えないことあるんですか!?」


 メルは驚きのあまり大きく目を見開いた。


 『スタートとゴールが迷路の外周にあれば左手法で出られるけど、ゴールが迷路の中にある場合はただ壁に左手を当てたまま進むだけじゃ出られないよ』

 「そ、そんな……」

 『ちょっとショック受けすぎじゃない?』『そんなに凹むことか?』

 「左手に壁を付けながら歩けば迷路から出られるのはこの世の真理だと思ってたのに……」

 『大げさすぎる』『左手法の何がそこまでメルを惹きつけたんだ』『左手法の狂信者っていたんだ』

 「……まあそれは冗談としても」

 『冗談かよ』『ふざけるなよ』

 「とりあえずこの方法で進んでみようと思います。これで迷ったらまた別の方法を考えます」


 メルはそう言って、壁に左手を付けたまま歩き始めた。


 (サクラさん、どう思います?)

 (どうって、何が?)


 歩きながらメルは脳内でサクラに話しかける。


 (この迷路のことです。何か怪異とかが絡んでると思いますか?)

 (う~ん……確かにここの構造は妙だとは思うけれど、少なくとも私には怪異の気配は感じられないわ)

 (そうなんですか?)

 (ただ、私の感覚も絶対ではないから……それに、私が気付きにくい呪術か何かで路地裏の構造が変化している可能性もあるわ。いずれにせよ警戒しておいた方がいいわね)

 (分かりました~)


 サクラの忠告を受け、メルは周囲に注意を向けながら足を進める。


 「……っていうか、壁がざらざらしてるから、左手付けたまま歩いてると痛いです……」


 メルは涙目で左手を振る。ざらついた壁を擦りながら歩いたせいで、掌は赤くなってしまっていた。


 『ずっと壁擦ってるから……』『何も馬鹿正直に左手ずっと付けたまま歩かなくても……』『触らなくても左の壁に沿って歩けばいいんじゃね?』

 「……あそっか!」

 『おバカさんなのかな?』


 メルは決して馬鹿ではない。ただ天然なところがあるだけだ。

 その後も左側の壁に沿って歩き続け、迷路のような路地裏を彷徨い続けること30分。


 「あれ?」


 メルは不意にポッカリと広がった空間に出た。

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