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桜庭メルの自分探しの旅:後日談

本日2話投稿しております

こちらは1話目です

そして短めです

 「こんにちは、お邪魔するわね」

 「あっ、魅影!?」


 レッサーパンダ姿の魅影が彩女の森に現れると、即座に7人のメルティーズが魅影を取り囲んだ。


 「ちょっと、何があったのよ!?」


 メルティーズを代表して、クリメイトが慌てた口調で魅影へと問い掛ける。


 「そう訊いてくるということは、何か変わったことでもあったのかしら?」

 「ついさっき、急にアタシ達に力が戻ってきたのよ!ほら!」


 クリメイトが右手を開くと、掌の上に小さな火の玉が出現する。


 「アタシ達の能力はオリジンが預かってるはずでしょ!?それが急に使えるようになるなんて……もしかして、オリジンに何かあったんじゃ……」


 メルティーズ達は、メルが最強の怪異との戦いに赴いたことを知っている。

 メルが預かっていたはずの能力が突然自分達に戻ってきたことで、メルティーズ達はメルの身に何か起きたのではないかと心配していたのだ。


 「ああ、そういうことね」


 メルティーズ達が慌てている理由が分かり、魅影は納得顔で頷いた。


 「単純な話よ。あなた達に能力が戻ったのは、桜庭さんがあなた達に能力を返したからよ」

 「えっ」


 魅影の口から語られたあまりにも単純明快な理由に、クリメイトは一瞬呆気に取られる。


 「オリジンが能力を返したって……アイツ、めちゃくちゃ強い怪異と戦ってたんでしょ!?それなのにアタシ達に能力返して大丈夫なの!?」

 「だから怪異を殺した後に返したのよ」

 「えっ、オリジン勝ったの!?」

 「ええ。というか桜庭さんが勝ったから私がこうしてここいるのよ。桜庭さんが負けていたら、今頃この世界は滅んでいるわ」


 魅影が彩女の森に足を運んでいる時点で、メルの戦いは終了している。そして戦いが終結してなお世界が滅んでいないということは、結果はメルの勝利以外有り得ない。

 少し考えればすぐに分かることだが、動揺していたメルティーズはそれに気付けていなかった。


 「そう、オリジンは勝ったのね……よかった」


 安心したようにほっと息を吐いたクリメイトが、ここで何かを探すように周囲に視線を向ける。


 「そういえば……魅影アンタ、オリジンは一緒じゃないの?」


 戦いが終わっているにもかかわらず、メルの姿が見当たらないことに、クリメイトは首を傾げた。


 「ええ、桜庭さんはここにはいないわ」

 「ふ~ん……どこにいるの?」

 「私が殺したわ」


 明日の天気の話でもするかのような気軽な口調で、魅影が衝撃の事実を口にする。


 「……え?」


 あまりにも気楽なその口調に、クリメイトは一瞬呆気に取られた。


 「オリジンを……殺した?」

 「ええ」

 「アンタが?」

 「ええ」

 「……どうして?」


 魅影を取り囲むメルティーズ達が俄かに殺気立つ。

 魅影の回答次第では、メルティーズ達は取り戻したばかりの能力で即座に攻撃を仕掛けてくるだろう。

 だが祟り神以上に強力な怪異7人から殺気を向けられても、余裕の態度を崩さなかった。


 「桜庭さんを殺した理由なんて、桜庭さんを人間に戻すために決まっているじゃない」

 「オリジンを人間に……?」

 「命を落とした祟り神は、長い時間をかけて元の神格として生まれ変わるわ。そのことはあなたもよく知っているでしょう、百万頭神」

 「ああ、そうだな」


 魅影に呼びかけられ、小さな柴犬が姿を現す。


 「祟り神は命を落とすことで祟りを失い、本来の存在を取り戻すことができる。故に祟り神にとって死は唯一の救いなのだ」

 「まあ……そうでしたわね」


 百万頭神の説明に、1番の親友であるファンファーレが小さく頷いた。


 「しかし常夜見魅影よ。私の記憶が正しければ、桜庭メルは元々神格ではなく人間だったはずだが……彼女も私と同じように、命を落とすことで元の人間に戻ることができるのか?」

 「できると思うわよ、確証はないけれど」

 「確証無いの!?アンタ確証無いのにオリジン殺したの!?」

 「仕方ないじゃない。人間が神格を得た後に祟り神に身を窶した事例はあるけれど、人間が直接祟り神になった事例なんて、常夜見家の長い歴史の中でも初めてなんだもの。何が起きるかなんて分からないわ」


 他人事のように言っているが、メルが祟り神になった元凶は魅影である。


 「しかし桜庭メルが人間に戻るとしても、祟り神の転生には100年以上かかるはずだが……もしや、そのための転生術式か?」

 「流石に鋭いわね、百万頭神」


 百万頭神の言う通り、命を落とした祟り神が元の神格として生まれ変わるには、100年単位の長い時間がかかる。

 しかしその時間を大幅に短縮する、転生術式という技術があるのだ。少し前にメルに殺されたばかりの百万頭神が既に転生を終えているのも、魅影が転生術式を使用したためである。


 「そう言えば常夜見魅影。私に転生術式を使った時に、試運転というようなことを言っていたな?あれはもしや、桜庭メルに転生術式を使うことを想定していたのか?」

 「ええ。世界の滅亡を阻止することができたら、桜庭さんを人間に戻すというのが、私と桜庭さんの約束だったの」


 魅影はかなり早い段階でメルを殺害することを想定していた。百万頭神を利用して転生術式の実験をしたのもその一環だ。


 「ごめんなさいね、百万頭神。あなたを実験台にするような真似をして」

 「何を言う。君のおかげで私はいち早くファンファーレと再会することができたのだ。君には感謝しかないよ」

 「……そう」


 真正面から感謝を伝えられ、魅影は顔を背けた。


 「それにしても魅影、アンタよくオリジンを殺せたわね?めっっっちゃくちゃ強かったでしょ?」

 「大変だったわよ。最初は怪異との激戦で消耗した桜庭さんを不意討ちで殺すつもりだったのだけれど、桜庭さん圧勝するんだもの。全く消耗していないんだもの」


 たまたまメルが「反霊力を宿す包丁」などという代物を作り出していたために騙し討ちでメルを殺すことができたが、そうでなければお手上げだったことだろう。


 「とりあえず今日は、桜庭さんがどうなったかの報告に来たの。あと何日かして桜庭さんが人間に戻れたら、きっとまたここを尋ねてくると思うわ。それじゃあ私は常夜見家での仕事が山積みだから、そろそろお暇させてもらうわね」

 「あら、そう?ごめんね、何もお構いできなくて」


 魅影はクリメイトからアソート謹製お菓子の詰め合わせを持たされ、彩女の森を後にした。

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