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第7回桜庭メルの自分探しの旅:糸繰村 中編

本日2話投稿しております

こちらは1話目です

 ツインテールに結んだ黒髪、黒いブラウスに黒いスカート。全身を黒一色に染め上げたそのファッションは、洞窟の闇に溶けていくかのようだ。


 「ひひひひひっ!」


 その少女はメル達に背中を向け、一心不乱に何かを削っている。メル達がやってきたことにすら気付いていない様子だ。


 「……オニキス?」

 「わっひゃあああっ!?」


 メルが試しに呼びかけてみると、少女は座ったまま飛び跳ねるという非常に器用な真似を見せた。


 「わっ、やっ、えっ、誰!?強盗!?」


 少女は背後を振り返り、メル達の顔を見て再び飛び跳ねる。


 「オリジン!?何でここにオリジンが!?」

 「とりあえず少し落ち着いてくださいオニキス」


 振り返った少女の顔はメルに瓜二つだ。

 大方予想できていたことではあるが、やはり少女の正体はオニキスだった。


 「ひぇぇ……」


 オニキスはメルの視線から逃れるように、近くの岩の陰に隠れる。

 そして岩陰からひょっこりと顔だけを出し、視線をあちこちへと彷徨わせながら口を開いた。


 「お、オリジン……どうしてここに来たの……?」

 「あなたに用事があってきたんですけど……その、大丈夫でした?」

 「あっ、うん。だ、大丈夫……」


 最初に声を掛けた時の飛び跳ねっぷりは全く大丈夫には見えなかったが、本人曰く大丈夫とのことだった。


 「ねぇオニキス」

 「うっひゃあああっ!?」


 いつの間にかオニキスの足元に移動していた魅影が声を掛けると、オニキスはまたしても悲鳴と共に飛び跳ねる。


 『漫画みたいな驚き方するよなぁ』『ビックリして飛び跳ねる人って現実にいたんだ』『リアクションがよすぎる』『ドッキリ映えしそう』


 腰が抜けかけているのか足をガグガグと震わせているオニキスに、魅影は細長い石を手渡す。


 「これ、さっき落としたわよ」

 「あ、ありがとうございますワンちゃん……」

 「犬ではないわ。常夜見魅影よ」


 熱したやかんに触れるようなおっかなびっくりとした手付きで、オニキスは魅影から石を受け取った。


 「彫刻を作っていたの?」

 「え、えっ……?」

 「それ。岩を削って何かを作っている途中のように見えたのだけれど」

 「あっ、や、まあ、彫刻って程のものじゃないですけど……」


 魅影の質問に、もにょもにょとした声ではっきりとしない回答をするオニキス。


 「彫刻って……もしかしてああいうのですか?」


 メルは少し離れた岩の上に、石を削って作成された像をいくつか発見した。

 それらの像は蜘蛛や熊や蛇など、生物を模って作られてる。


 「あれ全部オニキスが作ったんですか?」

 「あ、あっ、はい……」

 「え~すごい!近くで見てもいいですか?」

 「あっ、ど、どうぞ……」


 オニキスの許可を得て、メルは彫刻に近付いていく。


 「わ~、すっごいよくできてる……」


 近くで観賞すると、それらの彫刻の精巧さがよく分かった。蜘蛛の像などは、きちんと色を付ければ本物と見紛うほどだ。


 「オニキスは器用なんですね~」

 「い、いやぁ、それほどでも……」


 口では謙遜しているオニキスだが、その表情は嬉しそうににやけていた。


 「わ、私、他人と話すのが苦手だから……1人でできる、物作りとかが好きで……」

 「これだけ上手に作れるなら、物作りも楽しいでしょうね~」


 メルはオニキスと会話しつつ、他のメルティーズ達に思いを馳せる。

 現在彩女の森に住んでいるメルティーズ達は、ログハウスを建設中だ。物作りが得意だというオニキスは、きっとログハウス建築で大いに活躍することだろう。


 「と、ところで……オリジンは何しに来たの……?」

 「あ~……」


 オニキスの問い掛けにメルは逡巡する。

 他人との会話が苦手だというオニキス。そんなオニキスに包み隠さずメルの目的を伝えれば、話がこじれてしまうかもしれない。


 「ん~……」


 しかし考えてみれば、相手がオニキスでなくとも、「あなたを殺しに来ました」などと告げて話がこじれない方がおかしい。

 という訳でメルは特に何も工夫せず正直に話すことにした。


 「あなたを殺しに来ました」

 「あっ、そ、そうなんだ……」

 「これでは驚かないんですか!?」


 魅影が足元から話しかけただけで飛び上がるほど驚いていたオニキスが、メルの目的を聞いた時には特に驚いた様子を見せなかった。その淡泊な反応に、逆にメルの方が驚かされたほどだ。


 「な、何となく、そんな気はしてたから……いつかオリジンが、私を殺しに来るんじゃないかって……」

 「そうなんですか?」

 「う、うん。それじゃあ、今から戦うん、だよね?」

 「メルはそうしたいですね」

 「じゃ、じゃあ、洞窟の外の方がいい、よね。出ようか?」


 オニキスが焚火を足で踏み消し、洞窟の出口へ向かって歩き出す。


 「意外とすんなり話が進んだわね」

 「ですね」


 メルと魅影もオニキスの後に続いた。

 洞窟を出たオニキスは、迷いのない足取りでどこかへと向かっていく。洞窟を住処にしているだけあって、周辺の地形には精通しているらしい。


 「……うん。ここならちょうどいい、かな」


 オニキスは森の中の開けた空間で足を止めた。


 「こ、ここなら、少しは周りを気にしないで戦える……と、思うん、だけど」

 「ですね。いい場所知ってますね、オニキス」


 メルとオニキスは10mほど距離を取り、互いに向かい合った。


 「先に言っておきますけど、メルに殺されてもあなたはまた復活できますから」

 「そ、そうなんだ……でも、私がオリジンを殺しちゃっても、いいんだよね?」

 「……意外と好戦的ですね、あなた」

 「ひひひっ!そう、かな?」


 特徴的な笑い声をあげるオニキス。するとその目付きが不意に鋭さを増した。


 「行くよ、オリジン」

 「ええ、いつでもどうぞ」


 瞬間、オニキスが地面を蹴ってメルへと迫る。


 「っ、速……」


 その速度にメルが驚く暇もなく、距離を詰めたオニキスがメルの顔目掛けて拳を振るう。

 メルは咄嗟に頭を動かし、紙一重でオニキスの拳を回避した……


 「がっ!?」


 かと思いきや、オニキスの拳は吸い付くような不自然な挙動でメルの頬へと突き刺さった。

 メルは大きくよろめき、口の中には血の味が広がった。


 「くっ!」


 メルは反撃にオニキスの頭部を狙ってハイキックを繰り出す。

 だがメルの足はオニキスに命中する直前、見えない壁に阻まれるようにして弾き返されてしまった。

 そうして体勢を崩したメルの腹部に、再びオニキスの拳が突き刺さる。

 メルの動体視力を以てしても視認が困難な一撃。その威力は凄まじく、メルは息が詰まって呻き声を零すこともできなかった。


 「何なんですか、あなた……」


 メルはオニキスの殴打の勢いを利用して後退し、オニキスとの距離を取った。そして口の端の血を拭いながら、オニキスに向かって問い掛ける。


 「あなたの攻撃は避けても当たる、メルの攻撃は当たらない……そんなのズルじゃないですか。一体どんな裏技です?」

 「ひひっ!何だろうね、当ててみて?」


 オニキスが再び超高速でメルへと迫る。

 繰り出される拳は、どういう訳か避けたつもりでも不可解な挙動で命中してしまう。そのことを身を以て学習したメルは、拳を避けるのではなくオニキスの手首を掴み、攻撃を食い止めた。


 「なるほど、こうしたら防げるんですね~」

 「っ……」


 掴んだオニキスの腕を、メルはそのまま引き寄せようとしたが、


 「ひゃっ!?」


 手の中で爆竹が爆ぜたような衝撃と共に、メルはオニキスから弾かれてしまった。

 その感覚は、先程ハイキックを弾き返された時とよく似ている。


 「桜庭さん」


 メルの足元に、音もなく魅影が忍び寄ってきた。


 「オニキスの能力、その大凡の正体が掴めたわ」

 「えっ、ホントですか!?」

 『流石トコヨミさん』『さすトコ』

 「へぇ……ホントに分かったの?」


 オニキスが魅影の言葉に興味を示す。


 「ええ。これでも私、怪異には詳しいものだから」

 「そうなの?じゃあ言ってみて、私の能力は何?」

 「簡潔に言うならば、引力と斥力かしら」


 オニキスの眉が僅かにピクリと動く。


 「あなたは任意の2点間に、引力と斥力を自在に発生させることができる。拳と桜庭さんとの間に引力を発生させれば、桜庭さんが回避行動を取っても引力によって拳は桜庭さんに命中する。あなた自身と桜庭さんとの間に斥力を発生させれば、桜庭さんの攻撃は弾かれてあなたには届かない。桜庭さんの動体視力で捉え切れないほどの高速移動も、引力を利用したものかしら?」

 「……へぇ、ホントに詳しいんだね」

 「まぁね。これでも元常夜見家征伐衆筆頭だもの」


 せいばつしゅう?とオニキスは首を傾げた。


 「流石は常夜見さん!小難しいことを喋らせたら右に出る人はいませんね!」

 「褒めようという気が欠片も感じられないわね」

 「それで常夜見さん。その引力と斥力の能力はどうやれば攻略できますか?」

 「そんなの知らないわ」

 「ちょっとぉ!?」


 それくらい自分で考えなさいな、と魅影はメルから離れていった。


 「思ってたより早くバレちゃったな」


 ひひひっ、とオニキスが楽しげに笑う。


 「さて、と。能力がもうバレちゃったし、もっと思いっきり戦うのもいいよね?」

 「どうでもいいですけど、戦い始めてから喋り方が流暢になりましたねオニキス」

 「ちょっ……それは言わないでよ!」


 メルの指摘に、オニキスの顔が一瞬で真っ赤になる。

 直後、メルは真後ろから何かが飛来する気配を感じた。

 メルは即座に背後を振り返り、飛んできた何かを右手でキャッチする。それは拳大の石だった。

 石が独りでにメルに向かって飛んでくるはずがない。オニキスが引力によって飛ばしたものだ。


 「よく気付いた、ねっ!」


 メルが石に気を取られている隙に、オニキスがメルへと超高速で接近する。

 メルがオニキスに視線を戻した時には、既にオニキスの拳が眼前に迫っていた。


 「グラビティインパクト!」


 引力によって超加速した、絶対命中の一撃。

 その凶悪な拳がメルの左頬に突き刺さる。


 「なっ……」


 しかしオニキスは拳に手応えを感じることは無かった。

 拳が命中する瞬間、メルはパンチの方向と同じ方向に顔を動かし、その威力を受け流したのだ。

 ボクシングではスリッピング・アウェーと呼ばれるような技術だ。


 「てやぁっ!」


 攻撃を受け流されたことにより体勢を崩したオニキスの隙を突き、メルは反撃の回し蹴りを仕掛ける。


 「くっ……」


 オニキスは回し蹴りを両腕で受け止める。


 「アサルトリパルサー!」


 直後、メルの足は斥力によって弾き飛ばされた。


 「あれ?オニキス今、一瞬腕でメルのキックを防ぎましたよね?」

 「……それが、どうかした?」

 「さっきみたいに斥力で防げばよかったのに、どうしてそうしなかったんですか?」


 結果としてメルの回し蹴りは斥力によって弾かれたが、それはオニキスが回し蹴りを腕で防いだ後のことだ。むしろ腕で防御したことを誤魔化すために、斥力を用いたようにすらメルには思えた。


 「ひょっとして……引力と斥力は、片方ずつしか使えなかったり?」


 引力と斥力が同時に使用できないとすれば、斥力を使わず腕で攻撃を防いだことにも説明がつく。

 メルが回し蹴りを繰り出した時、オニキスはグラビティインパクトを放った直後だった。タイミングからして、咄嗟に引力と斥力を切り替えることは不可能だっただろう。


 「……だったら何だって言うの?グラビティインパクト!」

 「何って、そんなことはあなたの方がよく分かってるでしょ?」


 オニキスが引力の加護を受けた拳を振り被る。


 「引力と斥力が同時に使えないってことは……」


 グラビティインパクトがメルに命中する直前、メルの体が素早く動く。


 「がはっ……!?」

 「カウンター攻撃は斥力で防げない、ってことです」


 オニキスの拳を体捌きで受け流したメルは、貫手によってオニキスの胸を貫いていた。


 「急所は外しちゃいましたか……」


 オニキスから腕を引き抜いたメルは悔し気に顔を顰める。今の一撃で決着をつけるつもりだったが、残念ながら決め切れなかった。

 貫手がオニキスの胸を穿つ直前、オニキスが僅かに体を動かし、狙いを僅かに急所から逸らしたのだ。


 「ビックリしたぁ……私の能力が、こんなに早く攻略されちゃうなんて……」


 胸と口から大量の血を流しながらも、オニキスは笑っていた。


 「こんなことなら、最初から最強形態になっておけばよかった……」


 そう呟いたオニキスの体が、天体を思わせるような黒い球体の外殻に覆われる。


 「今から最強形態になっても間に合うと思いますよ?メルとしてはならないでほしいですけど……」

 「ひひひっ!そういう訳にはいかないよぉ」

 「ですよね~……」


 天体めいた外殻に徐々に罅が入り、その隙間から黒い光が溢れ始める。

 そして内側から爆発するように外殻が弾け飛ぶと、そこには黒い星雲のような翼を背負い、最強形態となったオニキスの姿があった。


 「『アルティメナス』……最強形態になった私は、引力と斥力を同時に使うことができるんだ」

 「……それホントに言ってます?」


 折角メルが看破したオニキスの能力の弱点が、速攻で克服されてしまった。

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