第4回桜庭メルの心霊スポット探訪:殺人トンネル
「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」
深夜0時過ぎ、某県某所。すっかり夜の闇に包まれたとある山中に、可愛らしい声が響く。
声の主は1人の少女だった。長い黒髪をツインテールに纏め、黒いマスクを装着して顔の下半分を隠している。ピンクのブラウスに黒のスカートという出で立ちは、山の中では少々不釣り合いだ。
「桜庭メルの心霊スポット探訪、今日は第4回目です。今までは1回も心霊現象に遭遇できていないので、今日こそ何かが起きるように頑張りま~す」
メルは左手に持ったスマホのカメラに向かって1人で話している。現在メルは動画配信サービスでの生配信の最中なのだ。
現在の視聴者は10人程度。お世辞にも賑わっているとは言い難い。
「今日の心霊スポットはこちら!」
メルが大袈裟な仕草で背後を指し示す。
そこにあるのは古いトンネルだった。トンネル内に照明は無く、中の様子を窺うことはできない。
月明かりすら届かない真っ暗なトンネルは、まるで怪物の胃袋にでも繋がっているかのような錯覚を見る者に与える。
「こちらは某県のとある山の中にあるトンネルなんですが、地元では殺人トンネルって呼ばれてるんです。どうしてそんな風に呼ばれてるのかっていうと……」
メルは声を低くして恐ろしい雰囲気を演出しようとするが、元の声が可愛らしいため効果は薄い。
「20年前、この地域で連続殺人事件があったそうなんです。詳しいことは分からないんですけど、10人近くの方が犠牲になったとか。それで犯人は警察に追われたんですが、逃げ切れないと思った犯人はこのトンネルの中で自分の首を切って自殺したんですって」
すると配信に寄せられた『説明が分かりづらい』というコメントが機械音声で読み上げられた。
「ごめんなさい、メルはお喋りあんまり得意じゃなくて……」
『ストリーマーとして致命的じゃね?』
今度はメルを揶揄うようなコメントが読み上げられる。
「と、とにかく!このトンネルは連続殺人犯の幽霊が出るっていう曰く付きの場所なんです。ここならきっとメルも心霊現象に出会えると思います!それじゃ早速、れっつご~!」
メルは小さく拳を突き上げ、トンネルに向かって歩き始める。
トンネルの入り口に差し掛かったメルは、まず目を凝らしてトンネル内の様子を窺った。
「うわ~、すっごく暗いですね……全然見えないなぁ」
メルが懐中電灯を取り出してトンネルの中を照らす。だが懐中電灯で確保できる視界は僅かなものだった。
まるでトンネル内の暗闇が、光を吸収しているかのようだ。
「これは……雰囲気ありますね~。心霊スポット探訪、今回こそ成功しそうな気がします。それではメル、行きます!」
右手の懐中電灯で前方を照らし、左手のスマホでトンネル内の様子を撮影しながら、メルは遂にトンネル内へと侵入する。
「う~ん……このトンネル、かなり古くなってるみたいですね……古いトンネルって感じです」
『何だその感想』『0点のコメント』『幼稚園児レベルの語彙力』
「みんなひど~い。あ、0点のコメントで思い出したんですけど、メル小学生の頃、道徳のテストで0点取ったことがあって~」
『えっ』『やば』『そんなことある?』『激ヤバ女じゃん』
視聴者数の割に、メルの配信のコメント欄は活発だった。ほぼ絶え間なく何らかのコメントが機械音声で読み上げられている。
メルがトンネルの様子を説明しつつ、時折コメントに反応しながら歩くこと約5分。
「あれ?あそこに何かありますね~……」
ここまで地面と壁以外何も無かったトンネル内部で、メルは初めてそれ以外の物を見つけた。
距離が離れているため、メルにはそれが何なのかまだ分からない。辛うじてそれが白っぽいことだけが判別できた。
「何でしょう、もっと近付いてみますね……」
白い何かに光を当てながら、メルはゆっくりと足を進める。
発見した地点から半分ほどの距離まで近付いたところで、その正体がメルの目にはっきりと映った。
「ひっ!?」
メルの喉から引き攣ったような声が漏れる。
メルが見つけたのは、白骨化した人間の死体だった。
「こっ、これ……本物……?」
おっかなびっくりといった様子で、メルはゆっくりと白骨死体に近付いていく。
『え、ガチ?』『これ配信して大丈夫?』『流石に偽物じゃね?』『ヤラセか?』
この白骨死体が本物か否か、配信のコメント欄でも意見が割れていた。
「本物、なのかなぁ……」
手で触れられるほどの距離にまで近付いたメルだが、間近で見てもやはり白骨死体が本物かどうかは判然としなかった。そもそもメルが白骨死体など目にするのはこれが初めてのことなので、真贋など分かるはずもない。
「もしこれが本物だとしたら、20年前にこのトンネルで自殺した殺人犯の、ってことになるんですかね~……」
『そうかも』『だとしたら放置されてるのおかしくね?』『ヤラセだとしたら演技上手いな』
「う~ん……あれ?あっちの方にも何かありますね」
白骨死体のもう少し奥の方に、メルはまた新しい何かを見つけた。
「あれも……白骨?」
照らしてみると、それもまた白骨死体だ。
「白骨死体が2つも……」
『いや、2つじゃない』
「ひっ!?」
そこには白骨死体の山が築かれていた。
全身の骨が無秩序に入り混じっており、その骨の数は1人分2人分では利かない。素人目にも分かりやすい頭蓋骨の数は20個は下らなかった。
「な、何で、こんなに……」
『何だこの数』『ヤバくね?』『手の込んだヤラセだな』『てか何か聞こえね?』『助けてって言ってる?』『ほんとだ助けてって聞こえる』
「え?え?」
コメント欄が俄かに騒然とし始める。
今では100人ほどに増えた視聴者が、「助けてという声が聞こえる」という旨のコメントを次々と書き込んでいるのだ。
コメント内容を受け、メルは口を閉じてトンネル内の音に耳を澄ませた。
「――けて、たすけて……」
「ほ、本当だ……」
「たす、けて……」
「助けてって言ってる……」
『結構音近くね?』『ヤラセじゃないの?』
「きゃああっ!!」
突如、甲高い悲鳴を上げるメル。
『うわびっくりした』『鼓膜破れた』
「あ、足、足掴まれた……きゃあああああっ!!」
足元に視線を下ろしたメルは、先程の数倍の声量で絶叫する。
メルの右の足首を、うつ伏せになった血塗れの女性が掴んでいた。
「たす、けて……」
その女性の背中には十数か所ものグロテスクな刺し傷があり、大量の血液が背中を真っ赤に塗り潰している。
「たすけて」
「たす、けて」
「たすけて……」
女性だけではなかった。メルの周囲ではいつの間にか、血塗れで蹲る十数人もの老若男女がメルに助けを求めていた。
「いやあああああっ!!」
メルは縋りつく女性を無理矢理引き剥がし、来た道を全速力で駆け戻った。
『グロ』『流石にやりすぎ』『BAN不可避』『え、今のガチの幽霊?』『んなわけw』『マジだったらメルちゃんヤバくね?』『ヤラセに決まってんじゃん』『今時こんなヤラセに引っ掛かるとかw』
コメント欄では議論が紛糾していたが、今のメルにはコメントに構っている余裕はなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
5分ほど全力で走ったメルは、やがて限界を迎えて立ち止まった。
『大丈夫?』『喘ぎ声エッロ』『ありがとうございます』
「なんで……?なんで外に出れないの……?」
メルはトンネル内を5分ほど進んだところで、白骨死体を発見した。
そこから来た道を5分間全力で走ったにもかかわらず、メルは未だトンネルの中にいる。トンネルの外に出ることはおろか、まだトンネルの出口すら見えてこない。
これは明らかな異常事態だ。
「もうとっくに外に出るはずなのに……」
『確かに』『トンネルめっちゃ長くね?』『そういう問題じゃないだろ』
メルが感じている異常に、コメント欄も徐々に気付き始めていた。
『これガチでヤバいんじゃないの?』『マジもんの心霊現象?』『メルちゃん本当に大丈夫?』
「大丈夫じゃないかも……」
その時。
コツン、コツン……と足音のような規則正しい音が、トンネルの奥から響いてきた。
勿論メルの足音ではない。メルは今立ち止まっている。
「だ、誰!?」
音のする方へと、メルは懐中電灯を向ける。
コツン、コツン……。
懐中電灯を向けてから凡そ10秒後、足音の主がメルの視界内に現れる。
それはやせ細った男だった。外見年齢は40代後半。頭髪は少なく無精髭は濃く、眼窩は窪み頬はこけている。
そんな貧乏神めいた様相とは裏腹に、男の両目は異様にぎらぎらと光っていた。まるで獲物を前にした肉食獣のよう、と例えるには、男の目の輝きはあまりにも悍ましかった。
男が身に付けているくたびれたタンクトップと半ズボンは、元の色が分からないほど赤黒く染まっていた。赤黒さの正体が血であることは、一目見れば直感的に理解出来た。
そして男は右手に三徳包丁を握り締めていた。男の衣服と同様に、あるいは衣服よりも遥かに色濃く、包丁の刃は血で染まっていた。
「あ……あ……」
男を目にした瞬間、メルの足は震え出し、カラコン入りの両目からはボロボロと涙が零れ始めた。
『何だあのおっさん』『絶対ヤバい奴じゃん』『連続殺人犯の霊ってやつ?』『メルちゃん逃げて!』
「きゃああああっ!!」
メルは男に背中を向けて走り出す。
しかし震える足が思うように動かず、数m進んだところで足を縺れさせてしまった。
「ああっ!」
勢いよく転倒するメル。
痛みに蹲るメルに、男が近付いてくる。メルにより一層の恐怖を与えるように、必要以上にゆっくりとした足取りで。
「こ、来ないで……来ないで!」
転んだ痛みですぐに立ち上がることのできないメルは、半ば無意識的に右手の懐中電灯を男に向かって投擲した。
くるくると回転しながら空を舞う懐中電灯は、意外にも正確なコントロールによって男の顔面へと吸い込まれていく。
しかし懐中電灯が男を怯ませることは無かった。何故なら懐中電灯は男に命中することなく、顔面をすり抜けて後方の地面へと落下してしまったからだ。
落下の衝撃で壊れてしまったのだろう、懐中電灯の光が消失する。
「なんで……なんで!?」
懐中電灯が人間をすり抜ける。それは本来有り得ない現象だ。
その有り得ない現象が起きたということが、男が異常な存在である何よりの証拠だった。
『すり抜けた!?』『どうなってんの』『トリック?』『これもしかして生配信じゃなくて編集した映像?』
「いやああああああっ!!」
メルは半狂乱になりながら、地面に落ちている石のようなもの(老朽化で剥離したトンネル壁面の一部)を手当たり次第男に投げつける。
しかし懐中電灯と同様に、それらの投擲物も全て男をすり抜けてしまった。唯一男が握っている包丁に当たったものが、キンッと甲高い音を響かせただけだ。
男はメルの抵抗を愉しむかのようにニタニタと気色の悪い笑顔を浮かべながら、なおもゆっくりとメルに近付いていく。
だがメルの抵抗は完全に無意味では無かった。男に物を投げつけている間に、メルは幾分か冷静さを取り戻すことができた。
「いっ、つ……」
未だに転倒時の痛みが残る身体を庇いながら、メルは立ち上がって再び走り出す。
メルが走って逃げていくのを見ても、男が歩みを速めることは無かった。まるで自分から逃げ切ることなどできないと確信しているかのように、ただニタニタと笑っているだけだった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
息を切らしながらメルは全力で走る。
男に全力で物を投げつけた時に、左手のスマホだけは手放さなかったのは幸運だった。
『メルちゃん頑張れ!』『がんばれー』
配信にはメルを応援するコメントが寄せられているが、生憎メルにはそれを励みにするだけの余裕がない。
「はぁっ……はぁっ……」
1分ほど走ったところでメルは立ち止まり、そのまま壁にもたれながらへたり込んでしまった。
元々メルは白骨死体の場所から5分ほど全力で走り、その分の体力が戻り切らない内にまた男から走って逃げた。運動不足気味なメルにとってはハードすぎる短距離走だ。
そしてそれだけ走ってもなお、やはりトンネルの出口は見えてこなかった。
「私……このまま殺されちゃうのかなぁ……」
疲労と恐怖から、思わず弱気な言葉が零れ出る。目尻からは1筋の涙が流れ落ちた。
『そんなことないよ!』『諦めるのよくない』『これ警察に通報した方がいい感じ?』
コメント欄には激励の言葉がいくつか流れるが、メルは画面を見ていない。
「まだまだやりたいこといっぱいあったのに……こんなところで死んじゃうのかなぁ……」
『元気出して』『なかないで』『メルちゃん助けに行きたい』
「うう……うぇぇぇん……」
感情が閾値を超え、メルは膝を抱えて子供のように泣き出してしまった。
『泣かないで』『かわいそう』
しばらくの間、メルの泣き声だけがトンネル内に反響する。
「……こんなのおかしいよ」
ひとしきり泣いたところで、メルはぽつりと呟いた。
「なんでトンネルに入っただけのメルが死ななきゃいけないの……?メル、何か悪いことした……?」
『してない』『してない』『廃トンネル勝手に入るのは不法侵入じゃね?』『確かに』『そうかも』
「ここ廃トンネルじゃないもん……全然使われてないだけの現役のトンネルだもん……歩道だってあるし……」
『そうなの?』『それはごめん』『なら悪いことしてないわ』
「メル、殺されるようなこと何もしてないのに……」
『それはそう』『それはそう』
「それなのにこんな目に遭うなんて、絶対おかしい……!こんなの、メルは認めない……!」
『お?』『お?』『流れ変わったな』
ガバッ、とメルは膝の間から顔を上げる。泣きじゃくって充血した両目は、今や完全に据わっていた。
「メルはこんなところで絶対に死なない……!殺されるくらいなら、逆にメルが殺し返してやるんだから!」
『覚醒してて草』『いきなりどうした』『メルちゃん危ないことしないで!』『この状況で殺し返そうと思えるメンタルがすごい』
強い決意と共に立ち上がるメル。
「みんな、見ててね……」
カメラがトンネル内の様子を撮影できるよう、メルはスマホを壁面に立てかける。
コツン、コツン……。
同時に、男の足音が聞こえてきた。
「……」
メルは据わった目で、足音の方向をじっと見つめる。
程なくしてトンネルの闇から染み出すように、包丁を持った男がぬぅっと姿を現した。
男は逃げ出す素振りもなく自分を睨み付けるメルに、一瞬困惑したような表情を浮かべる。しかしすぐにまたニタニタと気色悪い笑みを浮かべると、瞳をギラギラと輝かせた。
男はそれまでのゆっくりとした足取りから不意に強く地面を蹴り、地を這うような走り方で一気にメルとの距離を詰めた。
男が突き出した右手の、そこに握られた包丁の先端がメルの左胸を貫こうとした、その時。
「あああああああああっ!!」
メルが肺の空気を全て吐き出すように大声を上げる。それは今までの悲鳴とは違い、全身全霊の気合を込めるような、或いは自棄を起こしたかのような勇ましい声だった。
迫り来る包丁を迎え撃つようにメルも両手を伸ばし――包丁の柄を、両手でがっちりと握り締めた。
包丁の切っ先はメルには届かず、男とメルとの間で包丁が膠着する。
男の表情から笑顔が消え去り、明らかに動揺し始めた。メルが自分の凶行を食い止めることなど、全く予想していなかったのだ。
そして動揺によって男には隙が生まれ、その隙をメルは逃さなかった。
「あああああああああっ!!」
メルは喉がはち切れんばかりに叫びながら、力づくで包丁の切っ先を自分から逸らす。そしてそのまま包丁の向きを180度反転させ、男の胸へと突き刺した。
その時メルは、包丁が何かに突き刺さっていく確かな手応えを感じた。
男の口から、この世の言語とは思えないような聞くに堪えない絶叫が溢れ出す。懐中電灯や石とは違い、その包丁は男に苦痛を与えていた。
苦しんでいる男の手から、メルは強引に包丁を奪い取った。
そしてメルは男に向かって、出鱈目に包丁を振り回す。
包丁の刃が男の体を通り抜ける度に、男は絶叫を上げて身悶えした。
メルが包丁を振った回数が10を超えたところで、男はメルに背中を向けて逃げ出そうとした。
しかしメルは手を緩めない。男の無防備な背中に向けて、何度も何度も包丁を振り下ろす。
包丁を振った数が30を超えた頃、男の体が徐々に崩壊し始めた。風に吹かれた砂の城のように男の体がボロボロと崩れ、細かな粒子となって消えていく。
「はぁっ、はぁっ……」
男の姿が完全に消えて無くなったところで、ようやくメルは手を止めた。
有言実行。宣言した通り、メルは見事男を殺し返して見せたのだ。
『ヤバ』『うわマジか』『本当に殺し返してるじゃん』『すご』『何を見せられてんだ』『配信主怖すぎて草』『山姥かと思った』『メルちゃん強い!!』『強い弱いの話かこれ?』『地雷系ファッションに血塗れの包丁は仕上がりすぎだろ』
配信の視聴者は今や1000人を超え、コメント欄は大盛り上がりだ。メルのアカウント史上類を見ないほどに、この配信は伸びていた。
「ありがとう……」
メルは背後にか細い声を聞いた。
振り返るとそこには1人の女性が立っている。それが白骨死体の場所で足に縋りついてきた女性だと、メルはすぐに分かった。
だが最初に遭遇した時とは違い、女性は血塗れでは無かった。
女性の背後には、老若男女様々な人々が20人ほど立っている。女性と同じく白骨死体の場所に血塗れで蹲っていた、そして今や血塗れではない人々だ。
「ありがとう」「ありがと!」「ありがとう……」「ありがとね」「ありがとうございました」「ありがとう!」
彼らは口々にメルへの感謝を告げ、安らかな笑みを浮かべながら光の粒子となって消えていく。
そしてトンネル内には、メルだけが残った。
「あ……」
1人になったメルは、前方に微かな光を見た。
その光の正体が月明かりであることに、メルはすぐに気が付いた。
「出口、見つけた……」
メルは壁に立てかけていたスマホを回収し、月明かりの方へと向かう。本当は今すぐにでも走り出したかったが、生憎そうできるだけの体力は残っていなかった。
鉛のように重く、それでも確かな足取りで、メルは出口へとたどり着いた。
「んん~っ!」
ようやくトンネルを出ることができたメルは、月明かりを浴びながら思いきり体を伸ばす。
『あの状況から生還したのすげぇ』『幽霊と遭遇して幽霊殺して帰ってくる心霊系ストリーマー斬新過ぎるだろ』
メルを称える幾つものコメントが、次々と機械音声で読み上げられる。
メルは思い出したかのようにスマホのカメラを自分に向けると、乱れた前髪を整えてから笑顔を浮かべた。
「第4回心霊スポット探訪、皆さんいかがでしたか?今回は見事、幽霊と会うことができました~」
『ついさっき殺されかけてた人間のテンションじゃないだろ』『メンタルが強すぎる』
「心霊スポット探訪初の大成功ということで、今日の配信はこの辺でそろそろお別れにしたいと思います」
『お別れ寂しい~』『まってなんか普通に終わろうとしてる?』『あれだけ突飛な配信内容でよくありきたりなエンディング始められるな』
「それではみなさん、また次回の第5回桜庭メルの心霊スポット探訪でお会いしましょう!またね~!」
こうして初の成功を収めたメルの心霊スポット探訪は、その衝撃的な内容から、配信終了後にSNS上でそれなりの話題を集めた。
結果としてメルの配信チャンネルの登録者数が、一夜にして10倍に膨れ上がるという大躍進を遂げた。
……元の登録者数が少なかった、という話ではあるが。