8話 推理(2)
烏は穴を見つけたと言った。推測するに、トイレに何かがあるのだろうか。俺は本格的に嫌な予感がしてきた。それはきっと、俺の予想――トイレにハッチがあって、そこから死体を海へと捨てた――が当たりそうだからだろう。気分悪い。
「トイレには、何故か特別に設置されている、ハッチのようなものがあると思います」
(……どう?瀬和洲?ハッチはあるかしら?)
雪子さんは、声を響かせ、瀬和洲さんにそう聞いた。瀬和洲さんからは数秒経った後(……ええ、ありました、奥さま)と声が聞こえてきた。
持ち主が構造を理解していないのはどうかとは思うが、兎にも角にも穴が見つかったのだ。幸子さんには、アリバイもない上に犯行を実行する時間もある。これで確定と言ってもいいだろう。
(…ここから幸子は死体を捨てた。そう言いたいんですね?烏丸さんは)
「ええ。アリバイなしで、時間はある。なんて犯人の要素が全て揃っている上に、メイドなら、飛行機の構造を把握していても何もおかしいことはない。だから私は、幸子さんが犯人だと、そう思うに至りました」
電話の向こうの雪子さんは黙り込んでいる。すると雪子さんは、軽く息を吸い(なるほど……)と納得のいったと言うのには少し違うような、何か感心しているような、そんな印象を受ける声を発した。
(……推理は穴だらけだけれど、出来ないこともないわね。でも、幸子はどう一輝さんを殺したのかしら?幸子は女性で、鍛えたとしても、力は限られている。とても一輝さんを殺せるとは思えないのだけれど)
と雪子さんは冷静に烏の推理の穴をついた。だが、それにも対策していたのか、憎たらしいキメ顔を崩さない。やはり、一発くらいぶん殴ってもいいんじゃなかろうか。ストレスが止まらないというかなんというか。
「飛行機の機内で配られる飲み物などに、毒に入れた、もしくはそれ以前に毒を盛っていた。とにかく、力がなくても殺せる手段を取ったんでしょう。ここも、メイドだからこそ出来ることです」
(…確かに理にはかなっているわ)
ふと俺は、違和感を抱いた。それは、犯人だと言われた、幸子さんからの弁明も言い訳もないこと。そして、暴れも何もしないこと。ただ黙っている。
不自然さが目立ってきたと言うべきなのだろう。
「お前、嵌められてんじゃないか?」
と烏と雪子さんの会話に割って入った。烏はこちらを見て、何かおかしな視線を送ってくる。
俺は、そう思うに至った理由を烏と朝凪に説明した。勿論、雪子さんにも聞こえるようにして。
「…なるほど。まあ確かに、そう言われればそうだが、嵌められてるなんてことはないだろ」と烏は真に受けず、これ以上言っても駄目だと、俺は諦めた。
(……)
だが烏とは違い、雪子さんは沈黙している。
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