6話 翌日
「穴を見つけとく」と烏が言って、一晩。
果たして穴は見つかったのだろうか。いや、見つかっていないだろう。なんか、年の功と言うか、関係値と言うか、なんとなくそれで分かるような。
時刻は7:55。昨夜に8時頃に来てくれと烏は言っていた。それは、その時刻までに穴を見つけるという意味なのか、その時刻が早起きの限界という意味なのか。
…恐らく後者なのだろう。これも、今までの関係を踏まえての、経験というやつだ。
あいつは、紛れもなく、残念イケメンだ。
ドアをノックする。
「ぁあーい」と気の抜けた返事が返ってき、恐らく徹夜しただろうことを察する。
ドアを開け、あいも変わらず汚れている廊下を進み、昨日話し合った部屋へと向かう。
「あったぞ!!穴ァ!!」
部屋のドアを開けた後の烏の第一声はそれだった。予想外の回答に、俺は少し驚いた。
が、元々見つけると思っていたという風に振る舞う。まずは取り敢えず「お前なら出来ると思ってた!」とおだてておいた。
「――で、その穴ってのは、どんなのだったんだ?」
朝凪が問う。その問いに、烏はまだ答えない。
「…いや、まだ秘密だな。これから、プライベートジェットへの連絡を行う。準備してくれ」
そう言った烏は顎で俺たちをこき使い、俺たちに黒電話を用意させた。
前と同様、*を押し、プライベートジェットへ繋げる。待つこと数十秒、電話の返答は返ってくる。
(はい、もしもし)と雪子さんと思しき声が聞こえてくる。
「雪子さん。犯行の手口も、誰がやったのかも、全て――と言うのはおこがましいかもしれませんが――分かりました」
電話からは(まあ、本当ですか!?あなたに頼って良かったわ!本当に!)と、雪子さんの称賛の嵐が聞こえてくる。そんな大層なことか?口にこそ出さないが、俺はそう思った。烏なんて、実質詐欺師みたいなもんだろ。結婚詐欺師とか似合いそう。
(早く聞かせて頂戴!)という、雪子さんの急かすような、興奮気味な声が聞こえてきた。それと同時に気を取り直す。
「まあまあ、お待ちくださいよ。順序ってもんがあるんすよ」
と烏が雪子さんをなだめる。
「まず我わ…私は、3つの仮説を立てました。」
こいつ、自分の手柄にしやがった……こういうところが俺の残念イケメンという評価に繋がっていくのである。
それから烏は、俺たちが上げた3つの仮説を説明していった。
1つ目は特別な穴がある。2つ目は死体をトイレに流した。3つ目はそもそも死んでいない。である。
この3つを説明した後、雪子さんは少し考えて、(……それで、1つ目が一番可能性が高いと考えた……ということかしら?)と言い、こちらを――というより、電話相手の烏を――伺うように無言になっている。
「……そういうことです」先に言われた。と言わんばかりに烏がそう言うと、電話口から雪子さんがホッとした雰囲気がした。
続けて烏は「そして、我、私は、プライベートジェットの見取り図からその穴を見つけようとしました」と言う。
(…それで、その穴とやらはあったのかしら?)
「ええ。だから私は雪子さん、あなたへと電話したのです」と烏は自信満満に、まるで自分一人で成し遂げたように振る舞っている。実に腹立たしいことである。だから残念イケメンなのだ。……デジャヴを感じる。
(ふふっ。随分と自信がおありね。楽しみだわ。あなたがこの謎を解くのが……)
何やら雪子さんは意味深な言葉を放った気がするが……それはそれでまた今度分かるだろう。な〜んか雪子さんってどことなく、妖しい雰囲気を放ってるよなあ。大人の余裕って言うか、何て言うか。
「では、これから推理を開始します。全員電話の近くに集めてください」
烏はそう凄むと、まっすぐな眼差しで、外を見ていた。それは、俺にとってもとても不愉快な表情であった。
読んでいただきありがとうございます。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。