3話 電話
「早速、木戎さんに変わってもらえますか。はい、はい。よろしくお願いします」
烏はそう言うと、こちらを見て、
(雪子さんが木戎に流れを話してくれるらしい)と言った。
今の状況、話を聞いて、一番信用できる―――アリバイがあるのは、木戎、瀬和洲、真理子―――この3人だろう。その中の、まずは木戎から話を聞いていく。
―――3分後
俺が状況を整理しているうちに、木戎への話はついたらしく、通話は再開される。
【容疑者に聞くべきこと5つ】
1.行方不明になるまで、そしてその前後、何をしていたか
2.一輝をどう思っているか
3.機内に人を殺しうるものはないか
4.趣味はなにか
5.一輝について、知っていること
この5つをこれから全員に聞いていく。4に関しては、なんの役に立つのか俺もいまいち分かっていない。何ていうか、その人の人間性が分かるっていうか……
対して重要ではなさそうなので、次の段階に進む。
次の段階というのは、ホントの事情聴取だ。そのためのこれだ。
1はアリバイが、2は動機、関係が、3は証拠が、4はその人の人間性が、5は被害者の情報が分かるようになっている。
俺は、この5つを書いたメモを、(このメモに書いてあること聞け)と言い、烏に渡す。
「えぇーっと?まず、一輝さんが行方不明になるまでの時間、そしてその前後、何をしていましたか?」
(確か、行方不明になる前はAIの操縦を見守ってました。なるまでの時間は、荷物の確認。なった後は、また操縦の見守りに戻りました。あ、いや、行方不明だと瀬和洲さんが気づいたときに、トイレに探しに行きました)
受話器から微かに漏れている声を聞く。
(木戎はほぼ白だな)と朝凪と烏に言う。
「次に、一輝さんのことはどう思っていましたか?」
(そう、ですね、豪快な方だなと)
特に思っていることがないのか、印象が薄いように思える。一周まわって冷静なのか?あの状況に置かれて、冷静なのは少し目に余るな…。
「では、機内に人を殺しうるものは?」
(……それは、分かりかねます。叡さんに聞いてみてはどうでしょうか?あの方、飛行機に乗った時に、機内を散策していたみたいですし)
行動が不自然だな…。機内を散策…子供じゃあるまいし…。いや、その可能性はなきにしもあらずか?
…まあいい。今考えることじゃないのは確かだ。
「木戎さんの趣味は?」
(……趣味?)
「はい。聞くことにしているんです。その人の人間性が垣間見えますからね。もちろん、全てというわけではありませんが」
(ええと…そうですね、仕事でしょうか)
「最後に、一輝さんについて、何か知っていることは?なんでもいいです」
(………特にないです、ね。仕事上話すことはあっても、知っていることは、特にないです)
―――この質問で分かったことで、木戎を犯人と言うのはあまりにも無茶苦茶だ。だから、木戎は間違いなく白と言ってもいいだろう。
木戎は根っからの仕事人間であり、公私混同しないタイプらしい。模範的な人間だ。
恐らくリスクリターンの計算も人並み以上にできるだろう。よって、木戎は白。
何より、犯行に移る時間がない。それが何よりの証拠だろう。なんたって、一輝に頼まれて、荷物を確認しに行っている。
次は、瀬和洲への質問を開始する。
瀬和洲も木戎と同じく、アリバイのある人間である。荷物を確認しに行った3人全員が、3人全員のアリバイを証明できる。
しかも、執事と来た。なんか信用できる。よく分からないが、謎の信頼感があるのだ。
(木戎に瀬和洲に変わるよう頼んでくれ)と俺は烏に頼んだ。
結果は、木戎とあまり変わらず。瀬和洲は、一輝のことを慕っており、息子のように思っている。
そして、趣味は仕事。木戎と同じくタイプなのだろう。
一輝について知っていることは、飛行機に乗る、そして乗った後も、トイレに行きたがっていた。それ以外は、特にいつもと変わりない様子だった。と。
この情報もあまり役にはたたなさそうだ。それでも一応メモしておく。不必要な情報も、時には役に立つだろう。
ハチドリはエネルギー効率がめちゃくちゃ悪いとか。
読んでいただきありがとうございます。