20 :たまにはバブあじを感じてオギャるのも良い
今日は久々に、上司に怒られた。
部長じゃない。常務だ。
生意気なんだと。ちょっと大きな取引を成功させたからといって、最近態度がデカいんだと。
社長の息子だから口答えの一つもできない。
そのうえ、俺よりも年下に、勤務態度を説教されたわけだ。
めっちゃヘコむ……。
部長がカバーしてくれたけど、それも常務の逆鱗に触れたらしく、最近、仕事上の上司と部下にしては距離が近すぎる。お前らまさかデキてるんじゃあないか!? なんても言われた。部長からすれば、とんだとばっちりだ。
彼女のためにも、必死で弁明しておいた。
くそー。
この鬱憤は、いつかあのボンボン常務のケツに【流れ星】ブチ込んで晴らしたい。
……いやそんなこと、絶対に無理なんだけど、そうでも思わなきゃ、この気持ちに踏ん切りをつけられない。
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさーい! ねえねえ抱き枕くん! 見てくださいこれ、夏希ちゃんが来てお料理作ってくれたんです! 酢豚ですよ酢豚!」
「おっうまそうだな。助かるわ〜」
スーツの上着を脱いで、シャツの襟元のボタンを一つ外す。ようやく、詰まりそうだった呼吸が、すんなりと行えるようになる。肺が酸素で満たされて、思考がクリアになっていく。
クリアな思考で今日の出来事を振り返ると……余計に切ない。
やっぱ辛えわ……。
「……はあ」
こたつに座ると、ため息が漏れた。
意図せず、不意に、無意識にあふれ出した。
──気がつくと俺は、温かな柔らかさに包まれていた。
俺を抱く細い腕。
たわわな弾力。
肩に乗る小さな顔の程よい重み。
女神の抱擁……。
それと知った瞬間、途端に、顔が真っ赤に熱くなるほど恥ずかしくなった。
あからさまに、構って欲しいアピールしすぎた? それを見透かされた?
め、女々しい〜! 恥ずかしい〜!
「な、なんだよ。やめろよ」
そんなつもりじゃないんですけど? みたいなテンションで突っぱねる。
しかしこの女神、ちからつよい。逃げるコマンドは失敗に終わった……。仕方なく、いやほんと、仕方なく。俺は女神の法抱擁を享受したのだった。
「お仕事お疲れさまでしたね~。いっぱい頑張りましたね~。いい子ですね~」
……今日の女神は母性を持て余しているようだ。
毒を食らわば皿まで。甘んじよう。
ご飯もあーんしてもらった。
なんか元気出た。




