表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の寝室がいつの間にか【女神が転生者を異世界に送る白い空間】になってた…。~転生の女神は今日も俺と添い寝する~  作者: 八゜幡寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

12:厄介者がやってきた!

 ある晴れた日のこと。

 たまの休みに、ベッドの上で、ゴロゴロ惰眠を貪っていた。


 白い空間は外の気候は関係ない。気温も湿度も一定に保たれていて、暖かな陽気と清々しい空気にあふれている。

 最初はいささかまぶしく感じていたものだが、今ではもうすっかり慣れた。もともと俺は、真っ暗じゃ寝付けないタイプ。オレンジの小さな灯りをつけたくらいがベスト。

 これくらい、朝の陽ざしよりもまろやかな白い光なら、じゅうぶん、許容範囲内だ。


 女神の脚が絡んでくるのも、適度な圧迫感があっていい。

 細い腕はその見た目に反して割とちからがつよいので、いつも出社時は抜け出すのに苦労するのだが、今日は休みだ。

 仕方がない。いっぱい抱っこされてやろう。


 ――突然、世界は闇に包まれた。


 温かな陽気は瞼を通して、白い闇の中で俺はまもなく、二度寝の夢の中に至る寸前だった。

 突如として辺りは暗くなり、冷たい風が布団の中まで潜り込んでくるので、驚きと共に一気に目が覚めたのだった。


 白い空間は、暗雲が立ち込める、夜の世界に変貌していた。

 なんだこれ……? さ、さむっ!

 熱を求めて、女神に抱きつく。あったけ〜。やわらけ〜。


「抱き枕くん……怖がらなくても大丈夫です。あなたは私が……守りますっ!」


 いつの間にか起きていた女神は、いつもとは違う、神妙な声で俺を励ました。

 いや怖くない……いややっぱ怖いな。

 物理法則を無視した白い空間ってだけで普通は不気味なのに、それがなんだか、いつもと違う黒く異様な空間になってしまった。不安ではある。


 女神は険しい表情で、一点を睨みつけていた。

 俺もそれにならって、女神の視線の先に目を向ける。

 視界がそこに行き着くまで、みるみる闇は深くなっていった。

 そして闇の中心。発生源といってもいいかもしれない。

 そこに、一人の人間が佇んでいた。


 転生者……。

 しかし、これまでとは明らかに異質な人物だった。

 黒い鎧を纏う男だ。

 その男は、にやりと笑って俺に人差し指を向け──。


「危ないっ! 抱き枕くんっ!」


 女神の叫び声。刹那、黒いいかずちが俺めがけて、瞬いた。

 間髪入れず、ピシャリと甲高い爆音に鼓膜が震え上がった。


 俺は、情けないことに、ビクリと跳ねて、女神により強く抱きついてしまった。

 だが……無事。痛み一つなく、何事もない。


 いつの間にか手を伸ばしている女神が、振り払うように手を下ろした。

 透明なカーテンがふわりと開くような感覚があった。

 もしかして、黒い男が俺を攻撃して、それを女神がバリアみたいな力で守った……?


 ……え!? 俺、攻撃されたん!?

 なんで!?


「ふん、腕は衰えていないようだな……女神よ!」


「腕はってなんですか! 他は衰えてるみたいな言い方しないでください! 衰えてません!」


 男はふふふと笑って、女神もなんだか、親しげに話し合う。

 黒い男がこちらに歩き出すと、だんだんと闇が晴れていき、次第に、元の白い世界へと戻っていった。

 男の顔が、よく見える。

 齢80は行ってそうなクソジジイだ。白いヒゲを生やして、シワの数が生きた証といった貫禄がある。


 クソジジイは次いで、俺に対して、怒りの表情を向ける。


「それはそうと貴様……! 白昼堂々! しかも人前で! 何しとるんじゃああああ!」


 再びクソジジイから闇が溢れ出した。

 しかし今度は女神が事前に食い止めることに成功したようで、途中で闇の進行は止まり、みるみる引いていく。


「……いやここ俺んちだから。お前が勝手にやってきといて、人前で何しとんじゃって、いやお前が何しとんじゃ?」


「なぁにぃ? このワシに口答えをするとは……礼儀がなっとらんな?」


 クソジジイが意味深なこと言って俺に手をかざす。おそらく、何か魔法じみた能力で俺を無理やり跪かせたりするのだろう。

 もしくはブチュン! って殺すか。


 だからすぐさま、俺は女神に抱きついた! 守っておねがい!

 呼応してしっかり俺の前に立ちはだかる女神の、なんと頼もしいことか! かっこいい!

 クソジジイは素直に、俺に何かをすることを諦めてくれた。やーいやーい。


「ちっ女神め……、まあいい。本題に入ろう。──女神よ、ワシを転生させろ!」


「はあ〜〜〜〜。やっぱりそうだと思いましたが……またですかぁ? いい加減にしてくれません?」


「黙れ! 今度こそ……今度こそ最高の人生が送れるはずなのだ! だから頼む! 女神ぃ! ワシを転生させてくれえっ!」


 クソジジイはわなわなと震えて懇願する。

 女神のクソデカため息と話の流れから推理すれば、おそらく、このクソジジイは何度も転生を繰り返しているっぽいな。

 こんなおじいちゃんになって、何十年と人生を満喫しておきながら、おかわりを要求しておるのか……。


「え……往生際が悪すぎね……?」


「黙れ貴様ァ! 殺すぞっ!」


 その上癇癪持ちかよ……。こっわ……。

 クレーマーみたいだな。

 こんな年になるまで生きて、大往生したんだろ。そろそろ、終止符を打つべきだろ。


「女神、成仏させてやれ。それがこいつのためだ」


「抱き枕くん……。まあ、そうなんですけどね。ですが、その……なんというか……」


 んん? 女神にしては歯切れの悪い返答だな。

 なんだか、このクソジジイに肩入れしてるように見える。

 クソジジイは不思議に思う俺の心を見透かしてか、ふふんとニヤケ面を浮かべた。


「おやおや、気になるか? ワシと女神の関係が……! 昔の男であるワシが気になるかぁ?」


 なぬ……?

 昔の男……?

 女神をちらと見ると、目が合った。そしたらビクっとして、首をめちゃくちゃ早くブンブン振るのだ。


「あーもー! 抱き枕君に変なこと言わないでください!」


 クソジジイにそう怒って、俺の頭をぎゅっと抱く女神。ぽよぽよだ。


「あの人は、その……とても可哀想な人なんです。だから昔、親身に話を聞いてた時期がありまして……でも、それ以上なにもありません! 本当です!」


 いや何を必死に弁明しているのかわからんが……それを俺に言われましても。

 まったく関係ないんですが。


「ふん、確かにワシと女神の間に肉体関係こそなかったが……ワシは確かに、感じていたぞ! 心の繋がりを! それに引き換え貴様はなんだ! 『抱き枕くん』だったかな? 所詮、女神の愛玩具止まりだろう? 心の繋がりも! ましてや肉体関係などないんだろう!?」


 勝ち誇って熱弁するクソジジイ。高笑いせんばかりだ。

 いや……しかし……それは……。


「あー、うん……ソウダネ?」


「……」


 俺はなんだか、申し訳なくて、クソジジとも女神とも、目を合わせられなかった。

 女神も途端に、押し黙るし。


「……え? え?」


 クソジジイの無様な声が、か細く聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ