成吉思汗高原の王者への道1 ジェベとカダアン
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「山の上から射たのは馬なんかであるものか!お前の首筋だ!矢が残っていたなら次こそは仕留めたものを!」
ジルゴアダイの答えは明確だ。こいつだ。こいつが犯人だ!
「貴様かー!」
ジェルメが激昂する。必死の看病をしていたのだから。こっちの苦労も考えろって言う。
「おう!俺は死しても名は残せたようだな!さあこの首持ってけやー!」
「跳ねとばーす!」
ジェルメの振りかぶりをテムジンが押さえ込む。
「待て!」
「ジルゴアダイと言ったな。生憎お前の名は残らない。何故なら俺は正直者が好きだからだ」
ジルゴアダイもジェルメもきょとんとするしか無かった。
「お前は知らないと惚けていれば済む所を名乗り出た。だからお前はジルゴアダイと言う名は残さない。何故なら俺からお前にジェベと言う名を与え、今日から俺の側近として仕えるからだ!」
その日、ジルゴアダイと言うタイチウトの弓の達人は死んだ。
代わってジェベと言う名の側近が産まれたのだ。
ジェベだのソルカン・シラだのジェルメだのボォルチュだのの側近とタイチウト族の捕虜を眺める。相変わらず職人は助けるが、戦士は皆殺しだ。
その時聞き慣れない声で救助を求めた声が聞こえた。
「テムジン、助けて!」
声の主はチンベとチラウンの妹。言い替えればソルカン・シラの娘だった。
「久しぶりだなカダアン。あの時は助かったよ。どうしたんだい?」
「遅かったわ」
カダアンは肩より低く頭を垂れて泣き出しながら答えた。
「今。夫が斬られたわ」
「そうか。すまない」
さしものテムジンもそう答えるしか無かった。失意のカダアンを助ける事は難しそうだ。
コイデンの戦いでの勝利はかなり苦い物にもなった。
しかし、遂に昔年の恨み深きタイチウト族はここに潰えた。
ジャムカはケレイトの追撃を逃れ、どこかの野に下ったようだが、今のところ誰かがテムジンを狙う事は無くなったようだ。
でもテムジンは考えていない。天に二つの太陽は無いように、地に王は二人も要らないのだ。と言う事を。
テムジンは次なる戦いに転がり込むのである。
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