成吉思汗の父さん時代4 十三翼の戦い
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さすがに弟タイチャルの死に黙っていられるジャムカではなかった。
ジャムカは即時軍を編成し、テムジンの集落に向けて移動を開始した。
テムジン側もその動きは掴んでいた。
「よし!迎撃の準備を!」
その言葉にジェルメ、チンベ、チラウンが動き出した。しかしボォルチュだけがその場で体育座りをしたまま動かない。
「何か言いたい事が有るようだな」
テムジンが察した。
「有るよ」
ボォルチュはテムジンに顔だけ向けて話し出した。
「テムジン、勝てると思ってる?」
「数は互角だ。やりようによっては……」「勝てない」
ボォルチュはテムジンの希望的観測を打ち砕いた。
「この集落自体が単なる寄合所帯。中にはジャムカに内通する奴や日和見決め込む奴も現れる。これでは勝てない。ましてやここでテムジンが死ねば集落は崩壊する」
「じゃあどうしろと?」
「ひとつ、テムジンは死んではいけない。ひとつ、旗色が悪くなったらあそこの森を抜けて逃げるように話を通しておく。ひとつ、裏切るより先に心を心服させる。こと」
「ふ。なるほどそうだな。確かにこの寄合所帯に戦は重いな。ボォルチュ。全面的に受け入れよう」
「うん。では皆に伝えて来よう」
やっとボォルチュが動き出した。
動き出したボォルチュの背中にテムジンは改めて感謝した。
初めてテムジン自身が指揮するこの戦いは、十三の陣に分散して始まった。モンゴルの陣立ては独特で、指揮官の周囲を円形に囲む。これはモンゴルという一種独特の戦闘体系の国ならではの陣形だ。
森や地平線の向こうから敵が回り込んだ場合、普通の方陣だと対処出来ないのだ。
普通の国では国軍が移動する速度は日に15キロ。これはだいたい世界的に同じで、中国には『舎』インドでは『ヨージャナ』と言う単位が有り、まさしく軍隊の1日の移動速度を以て単位にしている。
しかしモンゴルは歩兵という兵科が無い為、行軍速度は1日70キロにもなるのだ。
地平線に見えた敵に背後を守りきる事が出来ない為、こんな陣立てになる。
意外にも近代戦でも使われている。大戦中に砂漠の狐ロンメル将軍が採用した防御陣地もこれと良く似ている。
中国はこれを『翼』と呼び、モンゴルでは『クリエン』と呼んでいる。
テムジンはそんな翼を13個に分けての指揮をしているわけだ。
だから十三翼の戦いという訳。
ちなみに秘史はこれをテムジンの敗北と捕らえているが、他の史書はテムジンの勝利としている。
どんな戦いだったのか見てみよう。
テムジンが指揮を取りまともに動いたのは一翼と二翼だけだった。一翼はテムジン本隊。二翼はなんと母親ホエルンと、母親の育成した親衛隊部隊だ。
他の翼の動きは緩慢だ。ボォルチュが言った通り、まだ忠誠心が足らない状態なのだ。
テムジンはジェルメに殿軍を頼み、森の中を全軍通過させた。
森は深く、追いかけたらトイトブルクの森より酷い目にジャムカは遭っただろうが、そこは戦上手のジャムカ。
ここで72名の捕虜を捕まえ戦闘を打ち切った。テムジンは一見負けた。
しかし、ジャムカのその後の行動が酷すぎた。
捕虜を殺すのは良いとしても、それを釜茹での刑にしたのだ。
草原の戦士は割と潔い。戦った彼らをすんなり頚を跳ねたならそうはならなかったろうが、残酷刑を見せられても嬉しくない。そもそも戦利品も無いこの戦いで酷い物見せられたのだ。これにはがっかりしてしまう。
ジャムカ陣営から次々住民が離脱しテムジンについた。
長い目で見るとテムジンは勢力を更に蓄える結果になるのだ。
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