黒染めの暴波
「速いな、けどなんか、吹っ切れてないな」
「はあはあ……クソが!」
「なんか足りない、なんか、なんなんだろ」
幾度となく飛び交い交差し攻め合った二人は、島の体力が無くなった頃に終わった。
タールは平然としている。そしてタールは終わらせるため、島の顔面に蹴りを突き刺した。
意識が吹っ飛ぶ島。倒れて、力無く崩れ落ちる。
「分析力は誉められるが、お前多分、魔界や魔王に恨みがあるタイプか。けどどこか迷いがある。激しい性格の中に優柔不断な部分が見えた。島、お前、もうちょっとゆっくり考えた方がいいと思う」
タールは倒れた島から目を離して、立ち去ろうとした。
だがタールの後ろで、島はゆらりと立ち上がった。その顔は、なんと真っ黒に染まっていた。
「———ッ! な、なんだ、これ!」
タールは島の変化に驚愕した。何が起きているのかさっぱりわからなかった。
「な、何だあれ⁉︎」
丘の公園に来ていた利用客も、それを見て驚く。
黒。暴走。
景色が揺らぎ、島は理性を取り外し襲いくる。
その島の体を覆う景色の揺らぎを見てタールは気づいた。
「……お前、の、ヒーロー能力! 速さじゃなくて、“音”なのか? いやもっと純粋な———」
島の拳がタールの顔面に突き刺さった瞬間、“振動”がタールの体を駆け巡った。それは体を麻痺させた。そこへ島のラッシュパンチが叩き込まれる。
頭、喉、肩、腕、肘、胸、腹、鼠蹊部、腿、膝とあらゆる箇所に打ち込まれる。
「執魔破!!!」
最後に“振動”が島の拳を揺らし、狙いが乱れるが、ちょうど腕がまっすぐになった瞬間にタールの顔面に叩き込んだ。
振動はタールの頭を貫き、地面に輪っかの紋様を刻み、タールの意識ごと引き裂いた。