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灰色大戦  作者: 灰色のネズミ
第一章 炎路のラスボス
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再戦の約束

 タールを民家から離して、炎路は敷地から出てまた路地に戻る。タールも戻るために塀を軽々と登る。その途中で今いた民家の窓を確認する。



「なあ、なんか人間界の入り口って小さいよな。オレとしては関係ねーけど、魔界だと30メートルとかだし」


「魔界のことなんざ知らねーがよ、だがこれでもデケェ方だ。なんせこの街にゃ2メートル越えがゴロゴロいる。中央街もそんな感じだってテレビ特集でやってたが、この街は魔界にちけーからゴツいやつも多くてな。俺だって180前……んな話はいいんだよ、身長の話なんて死國(しこく)行ってもできんだろ! ジラールペル!」



 塀の上でしゃがんで止まっていたタールに向かって、さらに炎の針ジラールペルで追撃する。



「死國に堕ちろ!」



 伸ばしてきた針をタールは真横に動いて躱す。

 炎路は横薙ぎで追いかけるが、タールは塀から降りて一気に炎路の元まで詰め寄った。炎の針はリーチが長い分、近距離まで迫られると対応しきれない。



「と、思ったか? ジラールペル、二針!」



 炎路はもう片方の手からもジラールペルを出した。タールはそれも躱してさらに詰め寄る。最初に伸ばしたのが右腕から発動したもの、二本目は左腕。

 タールは炎路から見て左側に大きく回り込むようにして躱した。つまり右腕の針では対応できない位置。右腕のを解除して、すぐさま左腕に乗っける形で右手をタールに向けて伸ばし、放つ。

 それも横に躱され、追いかけるように左の針を横薙ぎに振う。タールは低身長を活かしてしゃがむ事で横薙ぎを回避。そしてまた一気に詰める。

 その一連の動き、何度も近づいてこようとする動きを見て炎路はタールが遠距離勝負に弱いことを見切った。



「読めたぞ! お前、遠距離に対応できないんだろ!」


「かもな」



 そうとわかると炎路は針二本を解除して、瞬間的に切り替えて炎の弾幕を展開。弾幕は炎路の全身を覆うようにして縦横に広がり、そのまま球は平行に飛ばされて、近距離接近を防ぎながら遠距離で攻撃するタールに対して有効な攻撃を繰り出した。



「さらに!」



 最高の有効打。しかし炎路は両手に針をまた作り出して構える。

 タールは、飛んできた炎の球の弾幕を真正面から殴り飛ばして破壊し、突き進んできた。しかしそこへ炎路の針が二本同時に襲い掛かる。



「火炎・ジラミー弾幕プラス火炎・ジラールペル! 隙はない!」


「あるぜ」



 タールは真下。アスファルトの地面を殴りつけて、粉々に砕いた。粉塵が飛び交い、炎を揺らす。そしてタールは砕いたアスファルトの瓦礫を一本の針の先に目掛けて投げつける。

 ガキン!

 硬いもの同士が衝突して、どちらも砕け散った。



「お前は何でも作れる凄い能力者だ。でも、何でも作れるからこそ周りの使えるものを考えられない」



 砕いた針を伝い、タールはやっと炎路の元までたどり着いた。

 確実に殴れる距離で拳を握る。



「ッ! 火炎———」


「誰だって弱点は自分の中にある」



 拳を突き上げて、炎路の顎に強烈な一撃が入る。一撃で炎路の意識はぶっ飛んだ。白目を剥いて真後ろに倒れる。

 タールは倒れた炎路を、人間界に来ていつも通りの無機質な表情で見下ろした後、そういえばと真田の方を見た。



「さな……」



 もしかして戦闘中ずっと残らせてしまったのではと思い、真田を探すと、真田がさっきまでいた場所には炎の壁が展開されていた。下から上に高く聳え立つ壁。



「真田?」


「声は……届かねぇぞ」



 真下から声がする。タールが目だけ下に向けると、炎路が目をくらくらさせながらも起きあがろうとしているところだった。



「壁は何枚も重ねて作ったから声は届かない」


「お前、あの中に真田を?」


「ああ」


「なんのつもりだ?」


「人質」



 それを聞いてタールは、すぅ、と目を細めた。失望した。

 ふらつく足でなんとか立ち上がり、タールから距離を取る炎路をその失望した目で見下す。

 が、炎路の次の発言はタールも予想できなかった。



「俺が、死ぬまで戦え」


「……は?」


「俺が死ぬまで戦えっつってんだよ!」



 ダメージも吹っ飛ぶほどの気迫で炎路は激昂した。



「アイツはそのための人質だ! 俺が死ぬための人質だこの野郎! 魔王なんだろ! 殺せよ! 殺せるだろ! 黒校行きなんて考えなくてもいい、誰にも迷惑かからねぇ一番の自殺方法だ! 殺せよ! 魔王!」


「……死にたいのか」


「殺せないなら」



 今度は炎路の目が細まった。諦めて、覚悟した、狂気の顔。だが不気味ではない、正義の精神を持っている。



「俺が全人類を殺すだけだ」



 普通の人間から見たら歪んだ正義だろう。普通の人間なら止めるだろう。

 だが幸か不幸か、語っている相手は魔王の子だ。人類の決まり事から逸脱した世界から来た。



「どういうことだ?」


「“音の鳴らない世界が欲しい”。悲鳴も、泣き声もない、真空の世界」


「なんだ? 何があった? お前……」


「うっせぇな! ぶっ殺すぞ! ぶっ殺されたくなきゃぶっ殺せ!」



 炎路の覚悟に、炎路の能力が共鳴した。

 炎路の広げた手先に、炎がぐるぐると蠢いて球体を作り、中で炎のパワーを産み続け、溜め続ける。ぎゅうぎゅうに詰められたエナジーの爆弾を、炎路は掲げる。



「火炎・死國スパーク!!!」


「ッ! まずっ!」



 炎路が投げつけようとしているもののパワーを見て、魔界で味わった魔王の力を連想したタールは、すぐさま防ぎにかかる。

 『神の力』で辛い体を無理やり動かして、高速で近づき、炎路の腹に重い一撃を食らわせた。

 炎路が気絶して倒れる。作り上げた破壊の爆弾は消し去り———炎路は最後に優しく包まれる感覚を記憶した。



「また戦おう、オレも強くなる。一ヶ月後、またな」



 暖かいその感覚は、後から炎路を病院に送ってくれた同級生の花村キツネの証言によると、タールの胸に炎路は抱かれていたのだとか。

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