第六話 リリスの嘘とジェシカの過去 後編
イエガーがクズ人間だとわかります。
ジェシカが恨むのは当然です。
ジェシカは闇の中にいた。何も感じられず、何も触れることができず、ただ闇の中を漂っていた。次第に『死』を実感すれば楽になれるという思いしか生まれず、ジェシカは意識を手放し、闇へ身を委ね始めた。だがその時、目の前に朝日の様な光が現れ、ジェシカを包み込んだ。その光は温かく、優しく、懐かしさを感じさせた。光によって意識が戻ってきたジェシカに、誰かが声を掛けていた。
「………ね……ジェ………し……せ…………て……」
何を言ってるかわからなかったが、その声を聞いて、ジェシカはなぜか涙を流した。そして意識が現実へ戻っていく。
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(あ、あれ……?)
ジェシカは闇の中から抜け出し、目を覚ました。朦朧とする意識の中で、彼女は必死に状況を思い出す。
(わたし、今日が、誕生日……お気に入りの服着て、祝ってもらって……ハティーが……神殿が変で……イエガーが現れて……わたし死んで……なんで生きて……あの時お母さんも……お母さん?
……ッ!! お母さん!!!)
母親で先程の出来事を全て思い出したジェシカは、意識がはっきりし、体を起こそうとしたが出来なかった。彼女はイエガーの攻撃から守ってくれたセシルの下敷きになっていた為、起き上がれなかった。ジェシカはセシルの体を数回揺すったあと、横に転がして起き上がり、セシルの体を再び揺すって呼び掛けた。
「ーーねぇ、お母さん? 起きて……起きてよ……。 嘘ついて寝てたら、わたし、怒るよ? ……お願いだから起きて?」
揺すったセシルの体は冷たく、生気も感じられず、目が開く気配も無い。認めたくない事実を前に、ジェシカは涙を流しながら、段々声を荒げていった。
「……! すぐに家に帰らなかったこと、ちゃんと謝るからさぁああッ! 起きてよ! ねぇ! 早く!
起きてってば!! 起きなきゃダメだよ!! ……いやだぁあ、こんなのいやだよぉおお……ッ! お願いだから起きてってば!! お母さん!! お母さぁああん!! おかぁあさぁあああん!!! うわあぁあああああああああああ!!!!」
母親の死体に縋り付きながら、声が枯れるほどジェシカは叫び、泣いた。
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泣き叫び続けるジェシカは次第に泣き疲れ、徐々に気持ちが落ち着き、セシルの死を受け入れる心の準備ができた。ジェシカはハリエットから教わった魔法を使って、セシルの周りに小さな花々を生み出す。今のジェシカができる精一杯の母への手向けだった。
(もっとキレイに天国へ送りたかったけど、ごめんなさい……。さようなら、お母さん。そして、ありがとう)
涙がまた出そうになったが、ペンダントを握りしめて、ジェシカは堪えた。今そんな事してる場合ではないと思ったからだ。冷静さを少し取り戻したジェシカは立ち上がると、あることに気づく。身体に血の跡は残っていたが、イエガーの攻撃で傷ついた筈の自分の胴体と服が無傷の状態だったのだ。不思議に思いながらもジェシカは辺りを見回し、神殿がもう輝いていない事と、チェスターとヒルダ、そしてイエガーがいない事に気付いた。
「おじさんとおばさんはどこに……。そうだ! イエガー! あいつはどこにッ!!」
ジェシカがいない三人を探し始めたその時、シェラ村の方角に大きな火柱が立った。
「ーーッ! あっちはシェラ村が!」
火柱に気づいたジェシカはシェラ村に向かって走り出した。一度セシルの死体の方に振り返ったが、歯を食いしばり、シェラ村の方角の方に向き直した。
狩場の森の樹々の隙間から見える炎に、ジェシカは不安を募らせながらも、全力で走った。そして村に辿り着いたジェシカは……絶望した。
「…………うそ…………」
村の家や倉庫、家畜小屋、丹精込めて育てた花々が全て燃えており、死体があちこちに転がっていた。ジェシカは地獄と化したシェラ村の光景に呆然としていたが、誰かの叫び声を耳にした。
「ーッ! 誰かいるのッ!?」
声が聞こえた方に向かうと、そこは宴を開いていた集会所で、イエガーが村長の頭を掴み上げ、黒い力で村長を痛ぶっていた。ジェシカは咄嗟に近くの井戸の後ろに隠れて、様子を窺った。そしてイエガーの近くに倒れているチェスター、ヒルダ、ハリエットがいた。ジェシカは三人に駆け寄りたかったが、イエガーに恐れてしまい、体が動かなかった。その間も村長は苦しみながら、イエガーに抵抗していた。
「イ、イエガァア……がはっ! ぁはぁ、が、……そのちからわあぁ……やめ、ろおぉぉぉ……き、けぇえんだぁああぁっ!」
瀕死になりかけている村長は、イエガーの黒い力を止めるよう警告をしている。だがイエガーは、そんな村長の気持ちを踏みにじるが如く、黒い力で村長を斬りつけたり、打撃を与えていた。
「アンタもしつけーな、あのガキと同じで。……みんなして俺に指図しやがって……チッ!」
平気で人を痛めつけているイエガーに、ジェシカは体を震わせていた。すると突然、痛めつけていたイエガーは不適な笑みを浮かべ、村長に語り出した。
「あっ! そうだ村長さん、冥土の土産としてとっておきの情報を教えてやるよ。……アンタ、心のどこかで、俺はこのあと罰を受けるって思ってるよな? 残念だがそれはあり得ない。俺には俺そっくりの代わりが存在していて、そいつは今リナアタにいるし、周りには証人が用意されている。だから今の俺には"アリバイ"が存在してるんだ、ここには来ていないっていう"アリバイ"がな! だから俺はここで、村に来た証拠を消す為に、村人全員を殺したり、村を焼き払ったりしても、俺は疑われないし、"無実"が証明されてんだよ! あっ! ちなみにこの後、火属性の魔物達がここに来る様にしたから、近隣に届くシェラ村の惨劇の報せはぜーんぶ、その魔物達のせいって事になると思うぜ?」
イエガーは"自分は優位な状態"だと、威を張って語り、村長とジェシカは、残虐すぎる彼の行動に震えていた。そしてイエガーは、見たものが冷や汗をかくほどの邪悪な笑みを浮かべて、高らかに笑い出す。
「……く、くく。あっはははははははははッ!!
残念だったなあッ!! だれも俺の事は裁けないんだよッ!! そう、俺は悪くないんだ!! 俺が正義なんだぁあ!! 俺は許される存在なんだぁああ!! 俺は……ッ! 救世の勇者なんだからなぁ!!!
あっははははははははははッ!!!」
イエガーは掴んでいた村長の頭を更に強く掴み始め、村長は悲鳴をあげる。
「ぐ、ぐぁああああああああああああああ!!!!」
(ーッ! 村長さんッ!!!)
グジャッ!!!
高笑いしていたイエガーは、村長の頭を潰して殺した。村長の頭の肉片と血が地面に落ちたあと、イエガーは村長の死体を火の海に放り棄てた。そして放出していた黒い力を左手にしまうと、手に付着した血を汚物の様に見つめ、振り払った。その光景をただ見ている事しかできなかったジェシカは、己を不甲斐ないと責めていた。
「ったく、きたねぇのが付いちまったぜ。……にしても、こいつはスゲェやッ! やっぱり殺せば殺すほど、俺の思うように動いてくれる!! 証拠隠滅も含めて、村の人間を殺しての実践は大正解だったぜ! ハハ! ーーさて、と……」
イエガーは地面と身体に魔法陣を展開し、すぅっと息を吸う、そして先ほどの邪悪な笑みを再び浮かべて叫んだ。
「村のみなさーーーん!! 力の実践の協力、ありがとうございましたーーーー!! これにて失礼しまーーすッ!! 永久に、さようならーーーーッ!!! ギャハハハハハハハハッ!!!」
イエガーの邪悪な笑いに、倒れていたチェスターが反応し、顔を上げた。その表情は険しく、イエガーに対しての憎しみが満ちていた。
「ーッ! イ、イエ……ガアァァァ……ッ!」
必死に声を出したチェスターにイエガーは気づかず、地面の魔法陣を残したまま、身体に展開した魔法陣の光に包まれ姿を消した。イエガーがいなくなり、ジェシカはチェスターに駆け寄った。
「おじさんッ!!」
「……! ジェシカ、ちゃん? ホン、モノ?
生きてたのか……?」
死んだと思っていた存在が現れて、チェスターは驚愕していた。
「わたしの事より、おじさん大丈夫!? あっ! ハティーッ! おばさ…………え?」
そばに倒れているハリエットとヒルダを確認したジェシカは、また絶望した。ハリエットとヒルダは、心臓が貫かれており、既に死んでいる状態だった。先程まで遠くで見ていたジェシカはそれに気づけず、
"チェスターが生きているから、二人も生きている"という、淡い希望を抱いていた。そしてその希望は、二人の死体を見て、跡形も無く崩れた。二人の死体を見つめているジェシカに、チェスターが事の顛末を話した。
「ジェシカちゃんとセシルさんが死んだ後……奴は黒い力に高揚して、俺とヒルダに目もくれずに村の方に行っちまった。後を追いかけて村に着いたら……村ではイエガーが放った黒い力が、魔物みてーに暴れまくっていて、村長とハリエットが抵抗していたんだ……。助けに行った俺は、黒い力に吹き飛ばされて気を失っちまった……。意識が途絶えそうになる前に、ハリエットとヒルダが……暴れる黒い力から、俺を、守って……くっ!!」
話し終えたチェスターは涙を流し、後悔してもしきれない思いに、心が押しつぶされそうになっていた。そしてジェシカは、チェスターの涙と、ヒルダと親友の亡骸を前に、耐え続けた心が限界を迎えていた。
「や、やだ……やだやだ、やだやだやだッ!!
なんで二人までッ!! もう……もう……やめてよぉおおおおおおおッ!!
おばさぁああん!! ハティーーーーーッ!!!
イヤァアアアァアアアアアアアッ!!!」
頭を抱えながら取り乱したジェシカに、チェスターは落ち着かせようとする。
「ジェシカちゃん!! 落ち着けッ!! いま俺達は生き残っ……?」
突如地面に、大きな魔法陣が展開された。それは村全体まで広がり、次に紫色の妖しい光が噴き出した。光を浴びた二人は、何故か力が入らなくなっていた。
「な、に……これ……?」
チェスターは魔法陣に描かれている術式を読み取り驚愕をした。
「ーーこれはッ!? 吸収魔法陣!?」
吸収魔法陣 魔法陣の中にいる人物の生命力を奪う魔法。熟練者によって、魔法陣を拡大できたり、吸収する時間延長、生命力以外の吸収などができる。先程イエガーが地面に展開した魔法陣の正体はこれのことだったのだ。
「くッ! しかもコレは、魔力まで吸収しやがる……クソッ! イエガーの野郎ッ! どこまで腐ってやがるんだ!!」
魔力も吸収する吸収魔法陣に、チェスターはすぐ理解した。これは生き残りが村から出られない様にする為に、イエガーが用意した"檻"だと。現に、魔力吸収が発動した事で、魔法で逃げられる方法が無くなってしまった。
「ウオォオオオオオオオオン!!!」
「な、なに!?」
突如、遠くから謎の声が鳴り響き、ジェシカは驚く。そしてチェスターは声を聞いた瞬間、信じ難い思いを抱いていた。
「今のは……フレイムウルフッ!? 生息地は此処じゃないはず……。! これもイエガーの仕業か!」
「さっ、さっきイエガーが、証拠隠滅の為に、火を使える魔物を用意したって……」
「クソッ! せめて魔法が使えればッ!」
その時ジェシカは"魔法"という言葉で、ある事を思い出した。彼女は魔力がなくても魔法が使える物をポケットから取り出し、チェスターに見せた。
「おじさん、これが、使えるはず……」
「それ、魔石か? なんでそんなもん……」
「ハティーが……もしもの時にってくれたの。
魔力切れになっても使えるって……あっ! これで『ワープ』が使えるから、一緒に逃げられるよ!」
「ハリエットが……」
親友がくれた魔石にジェシカは希望を抱いていた。しかし、その後のチェスターの言葉で、希望はすぐに潰えた。
「……残念だけどジェシカちゃん、その魔石の魔力で二人分のワープはできない。……一人が限界だ」
「えっ?」
「だからジェシカちゃん……君が逃げるんだ。俺が詠唱するから」
「ーーダメだよッ! わたしだけなんて絶対ダメ!
わたし、もういやだよ! 大切な人とまた離れたくない!」
一人しか逃げられない事実と、チェスターがここに残る事に、ジェシカは取り乱した。
「ジェシカちゃん!!! 聞いてくれ!!!」
「ッ!」
チェスターの大声に、ジェシカはたじろいだ。そしてチェスターは、穏やかな表情と声で、ジェシカを説得し始めた。
「ジェシカちゃん、俺はずっと父親の代わりとして、君を見守り続けていた。でも、十二年間傍にいて、俺にとってジェシカちゃんは、ハリエットと同じ、娘同然の存在に思えてきたんだよ。ジェシカちゃんが男を連れて来たら、その男に向かって、"俺の大事な娘に手ェ出しやがったな!"ってキレる気満々だったんだぜ?」
「おじさん……」
「だから、生きてほしいんだよ。俺の大事な娘が未来へ生きられるなら、親としては最高の幸せなんだ」
チェスターの愛に、ジェシカは大粒の涙が溢れだし、チェスターにしがみつく。
「いやだあぁぁ……おじさんが生きてくれなきゃ、おじさんのこと嫌いになるよおぉぉ……」
「嫌ってくれて構わない、親っていうのは、嫌われても、自分がどうなろうと、世界がどうなろうと、子どもを愛して守りぬく、不器用な存在なんだ。……ゴメンな、ジェシカちゃん……」
ジェシカの頭をチェスターは優しく撫でた。その表情は、我が子を愛する父親の顔だった。
「ジェシカちゃん、ここから南西の港町『リナアタ』に行くんだ。そこに行けばなんとか助かる。ほんとはそこまで送りたかったんだけど、もう……俺は……」
吸収魔法陣によって、魔力を吸い尽くされたチェスターの身体が光の粒子になりかけており、ワープをさせる気力も吸収されている状態だった。もうすぐ消えてしまうなか、チェスターはジェシカに笑顔を向けて、別れの挨拶と詠唱を始めた。
「安心しろ、ジェシカちゃん。 安全そうな場所まで送るから」
「まっ、待って!! おじさん!!」
「さよなら、ジェシカちゃん。元気でな。
……『隔たりに囚われぬ、遍く源よ……』 」
「待ってってばッ!! おじさん!!」
ジェシカの静止を無視し、チェスターは詠唱を続ける。
「 『彼の者を導け、ワープ』 」
チェスターが唱え終わると、ジェシカが転移の光に飲まれていく。
「ッ! お父さあああぁぁああああああん!!!」
転移で消える寸前にジェシカは、父親のように感じていたチェスターを、最後は"父"と呼び、チェスターの前から消えた。
ジェシカは気がつくと、村の外の林道に立っていた。茫然としていた彼女だったが、前方に火属性の魔物達が村に向かっているのを目の当たりして、正気に戻った。そして最悪な事に、火属性の魔物の通った道が燃えて、それが樹々に燃え移り、ジェシカの近くまで火の手が迫っていた。
ジェシカは後ろの方向に走り出し、火の手から逃げた。走ってる間、ジェシカは今までの惨劇を思い返してしまい、『悲しみ』『後悔』『別れ』の感情が一気にジェシカを襲い、涙が溢れ出た。ジェシカは泣きながら走り続け、遠くからシェラ村を見通せる丘にたどり着く。救世の勇者の悪逆によって、滅びゆくシェラ村の光景を見たジェシカは、憎しみと怒り、そして絶望の感情に染まり、イエガーに復讐する事を誓った。
これが、ジェシカが復讐少女となった経緯である。
その後ジェシカは、近くの川で服と体を洗い、山を越え、歩き続け、二日後の深夜に、南西の港町『リナアタ』にたどり着く。深夜なので町は人気が無く、ジェシカはひとまず飲食店の裏にある残飯を漁って空腹を満たし、路地裏で休んだ。この頃からジェシカは、復讐の為なら汚い姿になっても平気と感じる様になっていた。
そして昼時に、ジェシカは町の人達の"イエガーは昨日の朝、帝国に帰った"という会話を耳にし、帝国行きの商業船の荷物の中に隠れた。狩りで鍛えた聴覚力と、気配を消せる能力を身につけたジェシカには造作もない事だった。そして船は出港、ジェシカは帝国へ旅立った。荷物の中で、ジェシカはペンダントを握りながら、愛する故郷に別れを告げていた。
「行ってきます、みんな。いつかまた、帰ってくるからね」
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夕方頃、ジェシカを乗せた商業船は、帝国の霊山領サーリネの東側にある港町『アデネイ』に到着する。町で地域の情報や盗賊問題を聞き、ジェシカは路地裏でイエガーに復讐する為に必要なことを考えていた。そして、思いついた数々の計画を実行に移す。
まずジェシカは、今の名前と経歴は復讐の弊害になると考え、別の人物になりきる事を決意する。それにはたくさんの準備が必要だが、彼女は今の状況を冷静に分析し、奴隷になることを思いついた。奴隷は名前ではなく、番号や商品名で呼ばれているのが殆どで、子どもの奴隷なら、過去の詮索は皆無に等しい。だがもちろん、ジェシカは本物の奴隷になる気は無く、奴隷の姿だけを手に入れようと思いつき、霊山の盗賊達を利用することにしたのだ。盗賊達なら、奴隷に扮する事ができる物を持っていると感じたからだ。そして身寄りのないジェシカは町ではなく、霊山で生活を始めた。
数週間後、チェスターの指南のおかげで、霊山で生き抜いていたジェシカは、真夜中に盗賊達のアジトに潜入していた。魔物を引きつける実や、興奮させる草をあちこちに設置し、魔物達を襲撃させ、盗賊達を全滅させることに成功していた。魔物達が去った後、アジトには奴隷がいなかったが、ジェシカの予想通り、奴隷用の服や道具があった。ジェシカはそれを手に入れ、奴隷の身にならずに、姿を奴隷に変える事ができたのだ。そして彼女は、次の行動に移る。
ジェシカは霊山潜入前に、"霊山の近くの町 『アルバーク』の教会は、奴隷の子も引き取る"という話を『アデネイ』で聞き、奴隷に扮した後、そこで匿ってもらおうと画策していた。霊山で過酷な生活をしていたおかげで、ジェシカの奴隷姿は違和感がなく、アルバークに赴いた際、すぐ兵士に保護されて、なんの疑いもなく教会で匿われる事ができた。そして彼女は教会に、名無しの奴隷だと嘘の事情を話し、 "リリス"という名前を授かった。
こうしてジェシカは、名前と経歴を隠す事に成功し、新しい名前と人生を手に入れた。そして後に舞踊を評価されて『踊り子リリス』になったのだ。
全てを思い返したジェシカは、自分を信じてくれるトニーに、改めて申し訳ないという気持ちだった。
「踊り子リリスになったのは情報収集がしやすい為……お城の従者になりたいって言うのも、あなたから地下道の情報を得る為の嘘……
私は嘘まみれの女なの……
本当に、ごめんなさい……トニー…………」
罪悪感に苦しみながらも、ジェシカは今晩、城に通じる地下道に潜入する事を決意する。
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