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第四話 リリスの嘘とジェシカの過去 前編

ジェシカの過去が徐々に明らかになります。


「昼飯付き合ってくれてありがとう! とても楽しかったし、リリスのおかげで、いつもより飯が美味く(うま)感じたよ!」


「私も楽しかったわ、とても……。トニー、素敵なお店に案内してくれて、ありがとう」


 食事を堪能した二人は会計を終わらせて、『農民の秘密基地』の店外の路地裏で、互いに感謝を述べていた。トニーはもっとリリスと一緒にいたかったが、トニーは昼までの巡回記録を報告しに兵舎に戻る必要があり、リリスも舞踊の練習がある為、お互いここで解散ということになった。


「でも……ごめんなさい。私の分まで食事代、払ってくれて……」


「誘ったのはこっちだし、気にしないで大丈夫だよ! それに……」


 上機嫌だったトニーは、急に真面目な顔つきに変わり……


「どっ、どうしたの! トニー!」


トニーはリリスに深々と頭を下げた。リリスは当然驚く。


「こっちこそゴメン! オレは誇り高い帝国の兵士なのに、帝国内の問題に気づかずに、感謝祭やイエガー様の活躍に馬鹿みたい浮かれちまって……。アルバークの問題に気づかなくて、ホント、ゴメン!!」


 トニーの謝罪する姿は、今までの初心な感じとは全く違い、国と民を心から心配してくれる責任感の強い兵士の姿だった。リリスは優しく声を掛ける。


「トニー……顔を上げて? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、遠征や出撃は別の人達が担当しているのでしょう? あなたはあなたの仕事をしっかり務めていただけ。だから……そんなに自分を責めてないで? 私は……一緒に食事を楽しんでくれる、明るいトニーが良いわ……」


「リリス……、このあと兵舎に戻ったらすぐに、遠征部隊や出撃部隊にお願いしてみるよ。

また現れるかもしれない盗賊に備えてもっとサーリネの警戒強化をしてほしいって。だから安心して! いざとなったら移動届を出して、オレも出撃部隊になって盗賊退治に行くからさ!」


 右手の握り拳を胸にどんっと叩き、トニーは笑顔を向ける。まだ出会って間もないが、彼は本当に純粋で、真っ直ぐで、帝国の平和の為に尽力してくれる人間なのだろう。


 リリスはそう感じながら、トニーの為にある行動をする。


「……じゃあ、そんな優しいトニーに、女の秘密を教えてあげる……」


「えっ、なに……ってえ! ちょッ!!」


 微笑みながらトニーの両手を握り、徐々に顔を近づけるリリス。それにトニーは、また顔を赤らめた。頭は混乱と喜びでいっぱいになり、緊張感と高揚感で体から湯気が出そうな状態になってしまった。そしてリリスはトニーの耳元で囁き始める。


「女性の分の食事代を奢る際、女性が男性の優しさに甘えず、自分の分をしっかり払うタイプだったら、その男性のことが好きってことよ? また食事に誘ってくれるなら……私……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……あなただけにね?」


「えっ……えっと、それは……つま……り…………ぇっえーーーー!!! そそそそそそそそれって!!!」


 その時、昼一時を告げる鐘が帝都(アダルバリエ)に鳴り響き、動揺していたトニーは正気に戻った。


「ハッ! もっ、もう一時か、……あッ、え〜とその、リリス……、今度は、どこか遊びに行かない? それか感謝祭、キミと一緒に見て回りたいな……ダメ?」


 赤く染まった頬を右手の人差し指で掻きながら質問をしたトニーに、リリスは微笑みながら勿論と肯定の返事をして、トニーを大いに喜ばせた。


「私は今日と同じ、西区の大広場にいるから、見かけたら声を掛けてほしいわ。ふふふ、トニーなら大歓迎だからね?」



「もちろんそうするよ! 約束する! じゃあ、オレ、こっちだから行くね! 舞踊の練習頑張ってね! 明日も見にいくから! またね! リリス!」


「ええ、またね、トニー……」


 リリスとまた会える喜びを得たトニーは、上機嫌のまま、リリスに挨拶と応援をした後、背を向け、兵舎のある中央区に駆け出した。そして走りながら、徐々に上機嫌な気持ちが落ち着いたその時、トニーはある違和感に気付いた。


(あれ? そういえばオレ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ……たぶん

言ったんだよな! オレが自分から言ったのを忘れただけだよな!)


 美少女(リリス)と夢のようなひと時を堪能したトニーにとっては、リリスに対しての疑問など些事なことだった。


 一方リリスは、去って行くトニーの背を見つめながら、心の中で謝罪をしていた。彼の確かな真摯さに、罪悪感を感じたから。


(ごめんなさい、トニー……、踊り子リリスは、嘘の私なの。本当の私は、(イエガー)に復讐をする為に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だって、私の話した過去は嘘と作り話が殆どだから。全部、本当じゃないから)


 ジェシカは、顔を隠すヴェールを身につけながら、踊り子リリスになるまでの経緯を思い返した。トニーに対する罪悪感と向き合う為に。

 


 


 帝国がある中央大陸のすぐ隣の東には、三つの小大陸が存在し、そこは『三小大陸』と呼ばれており、三つの国がそれぞれの小大陸を治めていた。そして七年前、「保護法の強奪戦争」事件で三つの国は結託し、帝国に攻戦を仕掛けた。しかし結果は惨敗、国土を奪われ、三つの国は帝国の属国と化した。

 

 花と泉の国『ヘカーカル』 『三小大陸』の中で一番の国土を持っていた国。豊かな水源によって育てられた花々が名産。


 遺跡の国『チェウモ』 古代の遺跡が各地に存在しており、考古学者の町が存在する。


 濃霧の国『ヒュサーピ』 深山幽谷(しんざんゆうこく)で有名な国。ヒュサーピの村や町、都は全部、一年間に約百回ほど霧に呑まれている。


 そしてヘカーカルの北に、ジェシカの故郷のシェラ村が存在していた。人口は三十人ほどの小さな村だったが、村人達は平和に暮らしていた。


 そしてルクアーディア暦 3060年 4月21日


       シェラ村に悲劇が襲う


 春を迎えたシェラ村は、開花した沢山の花々に囲まれていて、村人達は前向きな気持ちで、次に咲く新しい花々の世話をしていた。風車を穏やかに回す、心地よい春風を受けながら。


 そして十一才のジェシカも、母親の(セシル)と共に、雑草を抜いて、肥料を植え、種を植え、水を撒いて、これから咲く花、そして咲いた花の世話に励んでいた。大変な作業だが、育つ花を見るのがこの親子にとって、何よりの幸せだった。だから苦行だと感じたことは無いらしい。朝から続いた作業を終わらせ、二人は近くの木陰で休憩を始めた。


「ふぅ〜、いい汗かいたわ!」


 木に寄りかかりながら地面に座るジェシカの言葉に、母セシルは驚く。


「ちょっ、ジェシカ、おじさん臭いわよ?」


「汗をかいて働いたらこう言った方が良いって、チェスターおじさんが言ってたよ?」


「チェスターさん……女の子に何て事言ってるのよ……」


 (チェスター)とは、親子の隣に住んでいる、駄洒落と子どもが大好きな男で、村の大人達に頼られ、子ども達から好かれている妻子持ちの狩人だ。妻の(ヒルダ)はセシルと昔から仲が良く、娘の(ハリエット)はジェシカと親友の関係であり、お互いに良好な関係を築いている。物心がつく前に、病で父を失ったジェシカにとってチェスターは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そしてチェスターに呆れているセシルと、持参した革袋に入った水を飲むジェシカの耳に突如、二人の名前を呼ぶ大声が聞こえた。それは、()()()()()()()、朝から森へ狩りに行き、無事に帰って来たチェスターだった。


「おーーーーーーい! ジェシカちゃーーーん!

セシルさーーーん! 戻ったぞーーー!!」


「おかえりーーーーー! おじさーーーーん!」


 ジェシカの返事にチェスターは満面の笑みを浮かべ、仕留めた鹿を携えながら二人の前に現れた。


「ジェシカちゃん! セシルさん! どーよ!

立派な鹿を仕留めたぜ!! ……ところでジェシカちゃん? 俺が朝から居なくて、寂しくて泣いてなかったかい?」


 無精髭を触りながらニヤニヤするチェスターのからかいにリリスは当然怒る。


「わたしもうそんな泣くような年じゃないよ! わたしを何才だと思ってるのよ!? それにおじさんがくれたこのペンダントをつけてから、わたし泣いたりしてないでしょ!?」


 ジェシカは十才の誕生日の時、チェスターから不思議ペンダントを贈られ、その時からずっとつけている。そのペンダントは、晴れやかな青空を感じさせる空色の宝石が付いており、握りしめると、何故か悲しい気持ちや苦しい気持ちが薄れて、心を穏やかな感じにしてくれる不思議なペンダントだった。


「ははは! ごめんごめん! 今日のジェシカちゃんの為にこの立派な鹿を狩ったんだ、これに免じて許してよ〜〜」


「ふふ、しょうがないな〜、特別に許してあげる!」


 そんな二人のやりとりをセシルは愛おしく感じ、優しく見つめていた。そして両手を叩き、話を切り上げる。


「さぁさぁチェスターさん、早く鹿を家に持って行きましょ? ヒルダと急いで調理に取りかからないと! 何せ今日は……」

 

 セシルはチェスターと目を合わせ、そしてジェシカに向かって笑顔で……



「今日はジェシカの誕生日だからね!」

「今日はジェシカちゃんの誕生日だからな!」



 二人の言葉と笑顔にジェシカは頬を染めて、母のセシル、父親代わりのチェスターと一緒に喜び合い、笑い合った。


 4月 21日 この日はジェシカの十二歳の誕生日だった。だがこの日が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


  



 その頃、シェラ村から山を超えた南西にある港町『リナアタ』に、帝国から来た豪華な船の一室で、金髪碧眼の青年が下衆な笑顔を浮かべていた。


()()()()()()()()()()殿()に、俺がもっと強くなれる力が……それを手に入れれば、俺はもっとみんなから名声を……くっふふふふふ……」



    シェラ村の滅びの時が、近づいてる。


(ジェシカ) そういえばおじさん、昨日のお昼、工具箱を持って行って何してたの?


(チェスター) あ〜、村長の家の本棚が壊れたから、それを直しに行ったんだよ。んで、無事に直したぜ!


(ジェシカ) さすがおじさんだね!


(チェスター) ありがとよ! いや〜綺麗に直った本棚には、やっぱり似合うのは、本だな!


        なんちゃって!!


(ジェシカ)  …………直せてよかったね。



読んでくれてありがとうございます!


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