第十七話 イエガーの代行者
"代行者"という変わったスキルで、周りから酷使されて生きてきたレイオスは、幼なじみが勇者に選ばれた後、どのような目にあったのか話し始めた。
そして最初に語られたのは、『勇者の仕事は代わりのお前がやれ』という、言葉だけでイエガーの傲慢さが伝わるものだった。
「イエガーは自分が勇者に選ばれたことで、これから国に色んなことを任されることに気づいて、あなたは勇者の代わりをやらせられたってこと?」
大方を想像できたジェシカはレイオスに尋ねると、彼は静かに頷き、今までの経緯を話す。
レイオス曰く、イエガーは子どもの時からズル賢く、奴隷の自分に仕事を代わりにやらせ、成果を奪って自分の手柄にし続けていたとのこと。更に狡猾さを増していったイエガーは、救世の勇者に目覚めた時、"これから起こる救世の勇者としての任務や面倒ごと"を、全部レイオスに請け負わせようと瞬時に思いついたらしい。
そしてイエガーの読み通り、バロ村の村長から報告を受けた帝国は使者を派遣し、イエガーはレイオスを連れて帝都に赴き、一通りの教養や訓練を受けながら、皇族や貴族達から様々な問題の対処を任されることになった。
最初は世間体を気にして自分で学業や訓練、多くの任務をこなしていたイエガーだったが、ある日イエガーは、身につけた二つの能力をレイオスに使った。
一つは『写身殻』という、術者の姿を殻として生み出し、他者に纏わせて偽装させる最上級の欺きの魔法だった。性能はかなり厄介で、術者の魔力が高いほど写身殻の偽装の力は強くなり、鑑定の魔法やスキルで確認しても当人ではなく術者のステータスが表れる為、見破ることが困難なのだ。
元々の高い能力と鍛えられた力も相まって、イエガーは誰にも気づかれずに写身殻によって偽装させられたレイオスに仕事をやらせ、その間イエガーも姿を変え、遊興にふける日々をおくっていたらしい。
二つ目は『能力奪取』。最上級の盗取系スキルであり、文字通り他人の能力を奪える力である。イエガーはレイオスにこの力を使ったのには三つの理由があった。
一つは任務で魔物や強者と戦い、強くなったレイオスが隷属の魔法を破って反逆を起こすのを防ぐ為。
次に二つめは、レイオスが手に入れたスキルや技、鍛えられた体力や魔力を奪って強化をし、苦労することなく自分のレベルを上げ続けていた。
そして三つめは、前述のレイオスの能力を奪うことによって、ステータスを確認されてもレベルや能力が向上している状態にし、任務や訓練を怠っていないのをバレないようにする為である。
二つの能力は、どれもイエガーが勇者としての力を身につける為に帝都が用意した環境で得られたもので、最悪なことに、その環境がレイオスをより苦しめる結果になってしまった。
本当の姿を封じられ誰にも気づいてもらえず
力を奪われて歯向かうこともできず
隷属の術で逃げることも、死ぬこともできない。
レイオスの言う通り、彼はまさに"地獄"と呼ぶに相応しい境遇を味わってきたのだ。
そしてある日、レイオスは別の地獄を味わうことになる。
遺跡の国『チェウモ』で、山奥に潜む強力な魔物を一人で退治した後、帰り道の途中で休息をとった遺跡で、『写身殻』の力が弱まり、レイオスは本当の姿に戻りかけたのだ。
その時レイオスはイエガーの本性を皆に明かすことができると思っていたが、術者のイエガーはレイオスの異変に察知し、街の外まで戻ってきたレイオスをすぐに捕らえ、"救世の勇者を襲った者"として周りに説明し、レイオスを人目のつかない場所に幽閉することにしたのだ。
レイオスが『チェウモ』で倒した魔物を最後に、帝国や各国で多発していた強力な魔物達は目撃されなくなり、帝国とイエガーは真の平和が訪れたのだと確信し、帝国はイエガーの感謝祭を開くことを決め、イエガーはレイオスの鍛えられた能力を再び奪い、改めて人目のつかない場所、『隠蔽監獄』に閉じ込めた。
「そしてしばらくして、牢屋の中でイエガーにボコボコにされて意識を失った後、なにか温かいものに包まれたのを感じたんだ。なんとか意識を取り戻して目を開けると、きみが苦しんでいる姿が見えて、"助けなきゃ!"と思って、奪われて使えるはずもない治癒術を使おうとしたら何故か使えて、安心してまた気を失ったんだ。……そして今に至るって訳。おれの正体と、イエガーとの関係性の話はこれで全部だよ」
長きに渡る説明に終止符を打ったレイオスは一息をつくと、何故か俯いているジェシカを気にかける。
「……? どうしたのリリ……ッ!!!」
一瞬の出来事だった。
神速の如き速さで、ジェシカはレイオスを押し倒し、首に短剣を突きつけていた。投げ飛ばされたアッシュは受け身を取って床に着地した後、遠くから慌てふためき、状況を理解できていないレイオスは目を見開いて動揺する。
「ど、どうしたの!? おれ、なにか悪い「あなたがやったの?」
レイオスの言葉を短剣に負けないほどの鋭利さで断ち切るジェシカ。瞳の中には復讐の炎を燃やし、言葉は聞いた者の魂を凍らせるほどだった。
「あなたがイエガーの代わりをやっていたなら、あなたがシェラ村を……私の家族を殺したのはあなたなの? ……答えて」
レイオスの説明を聞いてるうちに、ジェシカはある考えがよぎった。それは……
"シェラ村のみんなを殺したのはこいつかもしれない"と。
イエガーの姿と能力を得ていたレイオスならその可能性があると感じたジェシカは、湧き出た激情を抑えられずに襲いかかった。
仮に自分の意思とは関係なくイエガーに操られてシェラ村の人達の命を奪ったとしても、今のジェシカにはそういった可能性を考慮することはできなかった。
しかしレイオスは動揺を止め、何故か驚きの表情にかわる。
「シェラ村って……ッ!? きみッ!! あの村の生き残りなの!? イエガーがあの黒い力を手に入れる為に口封じで消したって言ってた、あの!?」
「……あなたがやったんじゃないの?」
「違うよ! おれじゃない! イエガーがシェラ村に行っている間に、おれは『写身殻』をかけられて『リナアタ』で待機させらていたんだ。あいつがアリバイ作る為に!」
"『リナアタ』で待機"という言葉に、ジェシカは昔イエガーの言っていた言葉を思い返す。
("俺そっくりの代わりがいる"って言っていたわね……。それがこの男ってこと?)
真実が明らかにならないという自信があったからこそ、滅びゆく故郷の中で言っていたイエガーの言葉は本当なのだとジェシカはあの時感じていた。皮肉にも目の前の男を信じる証拠が憎き仇という事実に悔しさを感じながら。
しかしジェシカは、レイオスの首に短剣を突きつけることをやめなかった。それはある疑問が残っていたからだ。
「……それでも腑に落ちない点があるわ。イエガーはあなたを利用して自身の強化をしていたなら、何故あの黒い力をアイツ自身が手に入れようとしたの? さっきまでの説明だと、あなたが代わりに手に入れて、それを奪うことだってできるじゃない」
傲慢と怠惰を兼ね備えているイエガーなら、わざわざ自分の足で向かい、力を手にしたのが不自然だとジェシカは感じた。
そしてその疑問にレイオスは答える。
「おれも詳しくはわからないんだけど、どうやらあの力はとても強力で、イエガーから"お前が身につけたら、『隷属の魔法』や『写身殻』の術が解かれてしまう可能性がある"って言われたんだ。実際にあの力だけは代行者になる時、いつも身につけたことがなかったんだよ」
(……まだ謎はあるけど、シェラ村を襲ったイエガーはこの人じゃないみたいね)
レイオスの正体を徹底して秘匿し隠蔽監獄に閉じ込めるほどのイエガーなら、術を打ち破れるほどの力を身に付けさせないという結論にジェシカは納得し、疑惑が消えたレイオスの首から短剣を離す。
「……ごめんなさい。早とちりして……」
「だいじょうぶ、気にしてないよっと!」
明るい笑顔をジェシカに向けながら、レイオスは倒れた自身の体を起き上がらせる。
「ていうより、謝らないといけないのはおれの方だよ。イエガーの残虐な計画に気づかずに、リナアタでアリバイ作りをしていたんだし、おれにも罰はあるよ」
「でも、あなたは隷属の魔法で歯向かうことができなかったんでしょ? だからあなたを責めないわ。悪いのはあのイエガーなんだし」
「……きみとの会話で、"この人はイエガーに対する嫌な感情がすごく伝わってくるな"って思ってたんだけど、そうか……そういう理由か。きみはイエガーに家族を奪われたんだね?」
「家族だけじゃない。故郷もよ」
ジェシカは短剣を握りしめる力を強めながら、レイオスの言葉を訂正する。
"失った大切なものがそれだけじゃない"と否定するように。
「そうだよね……ごめん。……よし! 決めた!!」
急に何かを決意して大声をあげるレイオス。当然、傍にいるジェシカは驚く。
そしてレイオスは、驚いているジェシカを真っ直ぐ見つめながら詰め寄り、ジェシカに質問をする。
「ねぇリリス。きみはイエガーに対して復讐しようしているんだよね?」
「そ、そうだけど……」
「だったらおれも協力する! きみが復讐を成し遂げられるように、おれも力になるよ!!」
薄い明かりが灯る地下室で、勇者の代わりをさせられていた青年は、勇者に大切なものを奪われた少女の復讐に協力することを決意し、屈託のない笑顔で少女にそれを伝えた。
そして始まる。
これから様々な"代行者"を経験していく青年が、
復讐少女を救う物語が。
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