第一話 復讐を誓った十二歳の少女
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少女は走っていた。
青黒い髪と、可憐な顔立ちと、今はもういない母が作ってくれたお気に入りの服は、血で汚れていた。
少女は泣いていた。
いつも悲しくなった時は、父の形見のペンデントを握りしめて抑えていたが、いくらやっても頬を伝う大粒の涙は止まらなかった。
走り続けた少女は、燃える火の手から逃げ延び、たどり着いた丘の上から、夜の空を明るくするほどの炎に呑まれている村を見下ろし、あらためて絶望した。
燃えている村が少女の逃げ出した場所であり、この世でたった一つの故郷だったのだ。一夜にして、自分の大切なものが全て消えたという事実を目の当たりにして少女はさらに大泣きをした。涙が枯れてしまう程に。そして、血で汚れた腕で涙を拭いながら、自問自答を始めた。
なんでこんなことになったのか
わからない
どうして村が消えたのか
わからない
なんで友達が殺されないといけないのか
わからない
どうして家族が殺されないといけないのか
わからない
なんで自分がこんな目にあわなければならないのか
わからない
わからない わからない
わからない わからない わからない わからない
必死に原因を考えるなか、ある人物に焦点を当てる。
「村のみんなであいつを……止めようとして……助けようとしたのに、あいつが……あいつがぁ……あいつがぁあッ!」
たくさんの疑問が憎悪に変わるのに時間はかからなかった。
「あいつは……絶対に……許さない……誰かがあいつを許しても……わたしは許さない……絶対に……絶対にぃいぃッ……!」
救世の勇者ぁあぁああああぁあッ!!!
少女の名前はジェシカ 故郷のシェラ村は
世界を救う使命を持つ者によって滅んでしまった。
ジェシカの怒りの叫びは、燃えるシェラ村の燃えかすと一緒に夜の空へと昇り、そして、消えた。
それと同時にこの世界『ルクアーディア』から
復讐を誓った十二歳の少女の故郷が消えた。
そして5年の月日が流れ、ルクアーディア暦3065年
人の国で一番深い歴史と国土を持ち、世界の中心にある大陸に国家を築く『バルガレフト帝国』では、数々の活躍によって帝国を助けた救世の勇者を称える為の感謝祭が計画されていた。なんの罪もない村が勇者のせいで滅んでしまったという事実を民衆は知らぬまま着々と準備が進めている。
そして感謝祭の本拠地になる帝都『アダルバリエ』では、晴れやかな空の下、あちこちで色んな人達が躍起になっている。
商業ギルドでは、感謝祭によって露店や出店を提案して、「稼ぎまくる!」と意気込んでいる人達が溢れている。なかには他国の商人達も商業ギルドに来ている。やる気に満ちてるのは良いと思うが、一攫千金や億万長者という欲丸出しの商人だらけで、若干引いてる者がいるとかいないとか……。
冒険者ギルドも剣使いの演舞や冒険譚を語るなど、商業ギルドに負けず様々な計画を立てている。だが……ある噂によると、大型魔獣の解体ショーを行うとか……。子どもが泣かないことを祈るばかりである。
そんななか、帝都の西区の大広場では踊り子達が感謝祭のイベントに備えて、舞踊の練習を行なっていた。この踊り子達は、感謝祭の為に帝国の各地から民や領主に選抜、厳選されて結成した特別帝都踊り子団
『アダルバリエの名花』である。
美女から美少女までいる踊り子達の舞踊は、練習の舞踊でも男達の目線を奪っていき、サービス精神がある踊り子は目配せや投げキッスなどを披露し、男達は恍惚されていく。そのパフォーマンスが踊り子達の客を逃がさない技法と計算とも知らずに。
見物している男達の反応は様々だ。踊り子と目が合った若い男は初心なのか、目を咄嗟に逸らしたり、赤面を隠そうと両手で顔を覆ったりする男もいる。ある意味そんな男達の反応も立派な見せ物とも言える。その男達の反応に面白く感じた踊り子達は笑みを浮かべるので、男達はさらに魅了されてしまっている。さっきのサービスなども自然にできるこの踊り子達は良い意味で恐ろしい集団だ。
練習が終わった途端、見物していた(心を奪われた)男達は、自分が気に入った踊り子に声を掛けにいく。
ご想像のとおり、ナンパである。男の性には逆えないのか、国と民を守るという立派な職務に務める男兵士や男騎士も踊り子に声を掛けている。見物していた女達から呆れてる視線が送られているが、男達は気にせず踊り子達をナンパしている。白昼堂々と。あとで痛い目に遭う男達は少なくないことだろう。
そして帝都を巡回していた一人の新米兵士も踊り子達の練習に見惚れていて、練習が終わり、気になった踊り子に声を掛けてみることにした。誰にも声を掛けられてない状態で佇んでいたので、チャンスだと感じて声を掛けた。
「や、ゃあ!!(声が裏返る)あっ、えっとっ、とっ……とてもステキな踊りだったよ! よ、よかったら一緒に昼飯食べに行かない? いい店知ってるんだ!」
おそらく人生初のナンパなのだろう。
緊張で新米兵士は声を裏返ってしまい、言葉を詰まらせる失態を犯した。それが聞こえていた数人の男達は、新米兵士のナンパを心の中で馬鹿にしていた。
だが、若い頃は浮名を流した事がある中年男だけは新米兵士の言葉を耳にした時、心の中で応援をしていた。
(たとえ言葉を少し失敗しても、赤面状態で一生懸命のお誘いをしたお前には愛らしさがある!それは女性には効果は抜群だぞ!……たぶん! 諦めずに頑張れよ!!)
甲斐性なし丸出しの感想だが、新米兵士に気付く術はない。
新米兵士の声を掛けた踊り子は、顔をヴェールで隠していたが、踊りの際に見えた可憐な顔立ちは新米兵士の心を鷲掴みしたのだ。そして踊り子は答えた。
「お誘い、とても嬉しいわ……ふふ、喜んでお受けします。……だけど、一ついいかしら? 兵士さん」
「ん? なに?」
「食事のお誘いってことは、それってデートでしょ?なのに私達、お互いの名前がまだわかっていない状態でデートするなんて……悲しいわ……」
名前がわからなくて困ってる踊り子に新米兵士は慌てて答えた。
「あっ、ごめん! 自己紹介がまだだったよね?
オレは(トニー)って言うんだ! キミの名前は?」
「ふふ……私は……(リリス)……よろしくね? トニー」
青黒い髪をなびかせ、胸元にペンダントを潜ませている踊り子は、微笑みながらそう答えた。
中年男 「よくやったな青年! 励めよ!」
周りの男達 「何様だよ」
トニー 二十歳 特技 剣術と槍術
帝都で生まれ、士官学校を卒業後、帝都アダルバリエの専属警護兵士に配属された期待の新米兵士
本来は中央区に所属しているが、新人は週に何回か他地区の勤務も経験しなければならない。
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