君の幸せを全力で祈ろう
お読み頂き有難う御座います。
前世がドアマット王子だった私は今世を穏やかに生きるんですっ!とかにした方が良かったかな。
お読み下さる方のお考えによると思いますが、私の芸風には珍しく悲恋気味ですね。
特にスカッとも爽やかでも御座いません。
前世では人死にが有りますが、今世では誰も死にません。
私は王子だ。
そして、前世でも王子だった。
だが、前世はとびきりの、甘ったるい考えに沈んだ、お花畑住まいの、阿呆な王子だったのだ。
一応言っておくが、私は今も昔も悪行をしでかして居ない。
女遊びに興じても居ない。
ただ、人の悪意を知らなかっただけだ。人を疑うことをしない、と言う意味のお花畑住まいだった。
結果、親友と信じていた奴に騙されて、身ぐるみ剥がれて、親兄弟から冷たい目で見られ棄てられ、言葉が通じない上困窮する国に婿養子でやられた。
着の身着のままなのは、説明するまでもなく。
王子に対する所業か? 今でも申し立てを起こしたい。
ただ、意外と嫁が大事にしてくれたんで、其処まで悪い人生でもなかったかな。
正直裕福では無かったし、とことん仕事に追われる日々だったけれど、幸せだった。
ただ、次はもうちょっと、何と言うか……。嫁にもうちょっと贅沢をさせてやれるような、世俗をちゃんと渡って行けるような……人になりたいな。
苦労させた、彼女のささくれとあかぎれに痛む指に口づけた。
……彼女が震えて嗚咽し、涙を私の冷え切った青黒い手に落とす。
「行かないで、あなた。そう、船が。あれなら、あなたの病を」
「…… … 」
目尻を拭ってやりたくて、苦笑して手をもう一度伸ばしきれず……私は生涯を終えた。
そして今……。
詩と花を愛する国の王子としてまた生を受けた私は、それなりに慎重に生きましょうと頑張ったのだ。
未だ17年しか生きていないが、フラフラ流されるばかりだった前世の前半部分を改めるべく、悪意有る者達を遠ざけ、良識ある勤勉な者達と交流した。
乳姉弟にして侍女のウィドナは、四角四面でクソ真面目で多少面白く無かったけど、頼りにしたらはにかんでくれる事も増えた。
で、6歳の時に婚約者の候補が出来た。
「あなたは………!!」
会った途端、凄く嫌そうな顔をされたし顔も背けられた。
私が気に入らないんだろうが、親の意向なので拒否権は無いし仕方ない。
派手なのはまあいいとして、初対面だというのに当然の如く装飾品をねだられたのには吃驚したものだ。
思わず、前世の妻との違いに愕然とした。今でもあの衝撃を覚えている。
比べてはならないかもしれないが、こんなことなら前世の妻に贈りたかったと思ったんだよな。
……婚約者の候補の令嬢には気が進まなかったが、赤いリボンを贈っておいた。令嬢の趣味を知る程交流はない。だから、無意識に前世の妻の好きな色を選んでいた。
一目見た途端、恐ろしい形相をされて……実に気に入らなさそうだったと、よく覚えている。
その時から、地味に嫌な予感はしていた……。
違和感が仕事をしつつも、それなりに交流して10年程経った。
しかし、彼女は歩み寄ろうとはしてくれない。それどころか妹を代わりに押し付けられる。
私も顔には出さないように努めてはいるが、いい加減苛々していた。
しかし、私と交流を深めない以外にこれといった決定打がない。それ以外は、非の打ち所がないのだ。個人的には相当な非なんだが。
しかし、王族として、何だか気に入らないとの理由で破棄は出来ない。
「疲れる」
「また逃げられましたか」
王家に忠実なウィドナも、流石に彼女の遣り口には顔をしかめている。
素行を洗い直し、宜しくなければ次の候補を探すかなあ、とウィドナと画策していたその次の日。
事件は起こった。
「ん、んん!」
「ふ、む………」
踏み込むつもりはないが、結果的に踏み込んだ部屋で婚約者の浮気現場を見てしまった。
実に濃厚なやつを。
彼女は男の膝の上に大股で乗りあげて、お互いの顔を食らわんばかりにべっろべっろちゅーちゅーやっている。泣き出さんばかりの必死な顔で、もう此処で最後まで突っ走ろうぜ!! って感じだ。
男に頭を掴みまくられたのか、髪の赤いリボンを使った髪飾りが取れ掛かっているのが見えた。
今の私は下世話や世俗のことに染まらないよう育てられた、うら若き王子様だ。が、前世は没落して他国とはいえ世俗で40歳手前まで生きたから、そこそこの知識を備えているのだ。ちょっとばかりやさぐれたがな!前世前半と違い、温室育ち王子ではないのだ。
だから大して衝撃は受けないが……。
まだやっているな。
長い。
ここ、私の住まいなんだけど人様んちで何してるんだ、こいつ等。ジワジワ怒りと嫌悪感が沸いてくる。
その敷いてある椅子の覆い、シワシワになっている。
よし、頭を切り替えて賠償に組み入れよう。
あの勝手に座ってる椅子も不愉快だ。買い替えは勿体ないから張り替え代も出させよう。
前世でまあまあ貧乏をしたから棄てるのは忍びない。
張り替えた布は窓拭きか床磨き用の布にしよう。あ、あいつらの足元に有る絨毯の房は集めてハタキにするかな。
王子の癖に所帯じみていると、よく侍女のウィドナに言われるが、私は掃除が好きな自分が好きだ。住まいは美しくなるし、気も晴れる。
世間は私を掃除屋王子などと呼んでいるそうだ。
偶に暗殺大好きなんだろうと誤解されるので、あまり宜しくない。
さて、現状は……変わっていないね。
婚約者は……フッとかハッとかへッとかしか言ってない、背が高いだけの男に靡いているようだ。うっとりと肩を抱かれて、ハアハアニヤニヤニヤニヤして顔をべとべとにしていた。
他人にお見せするには、実に気持ち悪い顔だ。
こいつの親が散々自慢してたな。お高い教師を雇って最高の教育を施したと自慢してた淑女教育、何処へ行ったんだ。
「……」
いやあ、ウィドナが虫を見るような目でそいつらを見ている。多分私も似たような顔かもしれん。
そして呆れかえって言葉も出て来ない私に向けて、我に返った男の怒涛の言い訳が長々と披露された。
あれは人生で1,2を争う無駄な時間だったと断定できる。
聞くんじゃなかった耳が腐る。でも聞かないとなー。
私は目でウィドナに記録するよう指示して、耳を傾けざるを得なかった。
我が国では……何故か史書や記録を詩的に表現するのが鉄則になっている。
事実を客観的に書きつつ、無駄に装飾し美辞麗句を多く!! それが由とされている。
その心意気、実に無駄だとは思う。重大な所に下線を引くのが習わしとはいえ。
だが、古き因習に否を唱えたところで、未だ政に関わらない私には法を変える術はない。
王子が婚約破棄するにしても、不貞の言い訳を聞かされて涙にくれた、と言う演出が必要なのだ。どうしてか、どうしても。
令嬢の不貞に王子は大変傷つかれ……みたいな文言を折り入れる為だの、後世に憐れさを主張してどうのこうのだの……と、大変面倒。
大体、コイツ女に騙されてやんのバーカ! って評価も絶対付くだろうに。
「貴方には悪いが、私達は幼少期から愛し合っていて」
えーっと、私が国の面倒な決まり事に思いを馳せて時間を潰しているのに、まだ喋っているぞ。
話が長いな。
意識を他に飛ばせる位頭に入ってこない話のようだ。婚約者殿は押し黙ったままだが。
ウィドナの記録を見よう。
彼の長い無駄話を纏めると……何でも、何でも幼い頃に一度出会って、一目惚れして相思相愛でウフフだそうだ。
読む気がなくなるな。清書前だからか、ウィドナも注釈や書き込みに主観が多い。美辞麗句は全く無い。後でコレを修飾するとなると、考えるのが大変そうだな。もうやめたらどうなんだ。
注釈にはえーと、男の方は余所の国の独裁者一族のひとりか?
そういや訪問予定が来てたな。ただ、王宮に訪問予定は無く、我が国の農業施設の視察って名目とのこと。
会えなかった時間が募って燃え上がって炎上して爆発して、ついウチを舞台にして盛り上がったんだそうだ。
…………読めば読む程何で?が止まらないな。
敵の牙城で背徳的な雰囲気を楽しみたかったとか?
「そもそも、何の理由でウチで浮気逢瀬をやるんですか?」
「そ、それは……!! それはだね」
「此処、私の家だけど、王宮で、施政の場所。
連れ込み宿じゃないんですよ?其処の君の実家じゃ女を連れ込める設備なのかも知れないけど、どういう事で?」
「ふっ……。仕方ないでしょう、彼女の家では目立ってしまう」
フッ!じゃないんですよなあ。目立ってしまうって分かってるって事は、前にも家に行ったんだな?
知らぬは私ばかりって?酷い話だ。
「普通にそれは不法侵入で不貞じゃないのか」
「ええ、判で捺したように独善的で模範的な回答で御座います、殿下」
思わず漏れた独り言に、ウィドナが律儀に返す。
相変わらずきっちりしっかり纏め上げたお団子頭が凛々しいな。
「つまり貴女のご実家は、私との婚礼を望んでおらず、其方のお国に乗り換えようと思ってらっしゃるんですね」
「え!? ち、違います!! 何を仰いますの!! 言いがかりですわ!!
大体、私が気に入らないのは其方ですわよね!?」
やっと喋ったと思ったら、現場を押さえた上での言いがかり仰る。コレ如何に。
だっておかしい。
虐待でもない限り、何で海向こうの独裁者一族の子供がひとり(此処重要)で治安も定かではない外国の森をブラつかせる必要が有るんだ。しかも、国内のしがない一貴族の令嬢 (こっちもひとりきり)と出会い、一目惚れするんだ。
現実的に考えておかしいだろう、絶対。
何故、貴族の子供を見張りも無しに観光地でもない森に放す?
確実に仕込みだろう。海向こうと繋がりを持ちたいアイツと、あの男の親辺りのグルで。
調べる気も起こらなかったが、調べりゃ良かった。疑念を持つべきだった。そして、とっととこの面倒なコイツとお別れすべきだった。おおっと、口が滑りそうだ。
「あの、殿下。私は妹が……貴方と愛し合っているのを見るのが辛かったんです」
「いや待て。君の妹は4歳だぞ。愛が生まれるのは無理だ」
勝手にロリコンにすな。
社会的に死なす気かこの女。横で吹き出したウィドナ、ふざけるな。
「貴方は私より………その、その侍女や、ポーラに笑いかけているし」
「君は会うなりポーラを俺に押し付けて、何時も何処に行っているんだ?
俺は何時も子守りじゃないと散々言ってる上に、書状で苦情も申し出ている」
話通じねー!怒鳴りてー!
一国の王子だぞ?王子に子守りさせるってどんな臣下だ?
私のこの、いい加減いい感じの威厳のある王子喋り!無駄過ぎやしないか!
毎回、我儘ポーラの扱いにウィドナと滅茶苦茶困ってんだっての!
「私は、見つけてくださらなくて、寂しかったのですわ!!」
見つけてくださらなくても何も……即座に席を立っていてそう言われても。
寂しかったら浮気をしてもいいんですか?
そもそもお会いしてくれないのは誰?こっちだってお会いしたくないですけどねーと言いたかった。待ちぼうけの間な。
「メモラを悲しませないでくれ! 私が彼女を愛してしまったのが罪なんだ」
そうですね。貴方は、不法侵入と不貞と私の椅子と絨毯を汚した器物破損の罪ですね。
悦に入ったそのお姿、話にならねえとしか言いようがない。
衛兵を呼ぼうかな、そうしようかな。
「殿下、大声で涙混じりに叫んでください。悲しみにくれる所を踏み込ませますので」
「無茶言わない、ウィドナ」
「………殿下、………あなた」
ウィドナ、楽しんでるだろ。
私は彼女の催促には乗りたくなかったが、婚約者殿に引導を渡さなければならない。
「さよなら、メモラ嬢。
こんなことになって残念だが、君の幸せを心から祈ろう」
結局な話、衛兵は呼ばずに破談になった。やはりあの令嬢の親は独裁者の国とお近づきになりたかったらしく、彼らの出会いはお膳立てだったそうだ。
賠償がどうの、という話になったが私が求めたのは椅子と絨毯の処置のみ。
他は関与せず、放置しておいたら、何故か私が泣き暮らしている評判が立った。
勘弁してほしい。そんな暇はない。
そして彼女はひっそりとあの彼の元へ嫁ぎ、人の口の端にも上らなくなった。
伯爵家もかの国に移り住んだそうだ。
だが、ひとつ腑に落ちない。
空気を読まない上機嫌な男に連れられて、彼女が退出する前。私が声をかけた瞬間の彼女の顔が気になる。
何故、あんなに悲しそうな顔だったんだろう。腐れ縁かつ好きでもない私との縁が切れて喜ぶかと思ったのに。あんなに情熱的に口づけをしていた相手には目もくれず。
ただ、肩を落として涙を湛え唇を噛み、絶望していた。
何処かで見た表情だったが、思い出せない。
そもそも世間的に泣きたいのは私の方では。
もういいのに、終わったはずだ。
しかし、気になる。
「腑に落ちませんね」
ウィドナが手渡してくれたカップには、紅茶に少しリンゴ酒が垂らしてあった。私の好物だが、酒精で背が伸びないと滅多に淹れてはくれない。
彼女なりに私を慰めようとしているのだろうか? 地味に心遣いが沁みる。
前世の妻も僅かばかりのへそくりを使い、私の故郷の茶を求め、淹れてくれたことが有ったな。
茶葉が足りず物凄く薄かったが、物凄く感激したら面白かったのか彼女が吹き出して、ふたりで笑いながら啜ったのを覚えている。
「メモラ・モーラ伯爵令嬢は、確かにスサ国の侯爵令息と小さい頃に出会ったそうですが、そもそも乗り気なのは令息とメモラ嬢のご両親で、御本人は逆に消極的だったそうです」
「交流を深める内に盛り上がったのでは?」
私を放って交流をしていたそうだし。
「それにあの髪飾り……。殿下が幼少期に贈られたリボンで拵えたものでは」
「しているのを見たことがないから、よく似た違うものでは?」
「そうでしょうか……」
随分と食い下がってくるな。
現実的なウィドナにしては珍しい。何か引っかかるものでもあったのか。
「そういやウィドナにもリボンをやった気がするね。君が黄色が好きだから、黄色を」
「ええ、とても嬉しかったんですよ」
「その割にあまり反応はしなかったけど」
「あの時は、婚約者では有りませんでしたから、大っぴらに喜んではいけないと、母が」
そうなのか。私が知らない間に色々裏では大変だったらしい。
「そもそも、もう他国人で既婚者なんだ。私は遠くから彼女の幸せを祈っておくよ。
変な逆恨みされたくないから、全力で」
「殿下もおひとよしですね」
微笑むウィドナは、幼少期の頃のように可愛らしいと思えた。
恐らく、次の婚約者はウィドナになるんだろう。
彼女が控えの立場で、妃教育を施されているのは知っている。
ウィドナには……そりゃ、面白味はないが、気心は知れているし、派手でもないし、物識りだ。
さぞ、有能な妃になるのだろう。祖父のとんでもない好色のせいで、浮気には物凄く厳しい。彼女の生家も穏やかだ。
身分差もそこまで不自然ではない。
何も問題なく進むのだろう。波乱万丈な前世とは違って。
だが、何故だろう。
この、チリチリと胸の底を焼く痛みは。
そして私とウィドナは婚約をし、婚姻することになった。
「殿下、最近顔色がお悪いですね」
婚約者となったウィドナは、侍女の時とは逆の明るい色のドレスを着て私に寄り添うようになった。
地味で、真面目で、面白味がないと思っていた彼女は案外感情豊かに接するようになった。
「………オルセン?」
そして、私の名前を子供の時のように呼ぶようになった。
そう言えば、元婚約者殿は私の名前を頑なに呼ばなかったな。
常に私を睨み、喉に物が詰めたような顔だった。
「寒いのが苦手だからかな」
「何故庭に出ようなんて言うんです」
「外が好きなんだ」
軽口のつもりだった。
だが、ふと合わせた視線に、あまりにも強い怒りが込められていて、一瞬私は言葉を失った。
「もう、外には出しませんよ」
もう、とはどういう事だろうか。
その晩、私は夢を見た。
「あなた」
私の前世の妻だ。艶のない髪が濡れた頬にくっついて、酷い顔色だ。
ああ、この髪を飾ってやりたかった。
「あの人から手紙が来ていたの。あなたを追いやった人。
此処に来てからひと月置かずに、ずっと来た。あなたの名誉を取り戻した。迎えに行きたい。そんなことをずっと書いて来ていたのよ。あなたにした行いを心から悔いていると。
でも、腹が立って、捩って破って、暖炉の焚きつけにしていたのよ」
あの人、とは。
家族だろうか。かつて友人と呼んだヤツだろうか。
もう、日々の生活で途切れて、思い出せなかった。
……妻の怒りは有難い。見せられたところで、同じように憤慨しただろう。
君が謝る事なんて何もないんだ、大丈夫だよ。
言いたいのに、声が出ない。
「でも、私は今は悔いている。
あなたを診て貰うお金もないのに、あなたを向こうへ返せない。あなたと離れたく無いの」
私も君と離れたくは無いよ。大丈夫だ。何を誰に言われようとも絶対君から離れないよ。
そう言いたいのに。
「私の国のせいで、家のせいで、私のせいで。
苦労をさせて御免なさい。あなたを愛しているわ」
彼女がすがり付くボロボロの布を縫い合わせた敷布は、私のものだ。
横たわる私は手を上げようとして………体が動かないことに愕然とする。
「今度生まれ変わったら、私なんかとは関わらず……穏やかに生きてね。きっと、優しい人生を」
どうしてそんなことを。
否定しようにも、口が動かない。
せめてもう一度、顔を。
顔が。
……きみは。
「……」
「オルセン、どうしたんですか?」
横には、婚約者となった優しく微笑むウィドナ。
随分と心を赦してくれている。そう、前の彼女と違って。
夢の内容を鵜呑みにしても、私は何処へも行けない。
今の婚約をも手酷い形で裏切られた私には、もう後がない。
あの夢が気になるとて、最早私にはどうすることも出来ない。
今の私には私の責務がある。投げ出す訳にはいかない。
今、私の心を占めるのは、前世の妻。
だが、もう彼女は居ない。何処にもいない。彼女との薄い縁がぼんやりと見えるだけ。
きっとこれからはウィドナが、彼女との子供が、占めていくことだろう。
婚約者だった、メモラ嬢とは何の思い出も無いのだ。
だが、この苦く心を乱す感覚を飲み込んで、今を生きるしかない。
物語の、意気地ある登場人物ならば、きっと夢の中で泣き止まぬ妻を迎えに行ったのだろうか。
それが、誰だったとしても。
「君の幸せを全力で祈ろう」
今も私は何処にも行かない。
個人的に、前世がどうであれ、今にシカトされたり嫌な想いをさせられた相手に
「貴方、前世の愛するダーリンですよね!?覚えてるでしょ!?奇遇!私、前世で貴方に愛される妻だったんですよ知ってたー?」
「HAHAHA信じるよ!急に前世の好きが溢れてHAPPYEND!」
な展開が宜しく思え無いのでこういう感じになりました。




