とらぶる7...飲酒は二十歳になってから
「やぁやぁむーちゃん。さっそくもうお疲れのようだね」
あれから、女性陣の部屋にどうやっても入れず、寝るのを諦めた俺は銭湯の入り口あたりにある憩いの場でタダだった水を飲みながら月を眺めていた。月だったことに特に理由はない。
ありがたいことに、この旅館は二十四時間銭湯に入ることができ、無論、銭湯前のこの憩いの場も二十四時間開放されているのだった。
そうして、俺が今日一日をここで過ごそうと思い水を飲んでいると、何故かビールを飲んでいる理恵さんがやってきた。
「ええ。そうとう疲れてます。特に精神が」
「うーむ。いいことだ」
全然よくねぇよ。
「まぁ、そんなことは私にとってはどうでもいいのさっ」
そんなこと……。
天使の笑顔に悪魔の言葉。っく、ここまでくると清々しすぎる。理恵さんはそう言って、俺の隣に座った。
まぁいいや。とりあえず、思っていることを尋ねることとしよう。
「じゃあ、どんなことが大切なんですか?」
「んー。なんなんだろうね? 君のことは私と全く関係ないし、例え君がこの世に疲れて服を全部脱いで凍死しても私には何の影響もないからね」
「…………」
この人、あんまり過ぎないか? いくらなんでもそれはひどい。
あまりにもショックを受けたという顔だったのか、理恵さんは苦笑した。
「冗談だよ。大体、君が人生に疲れたなんていう理由で自殺するわけないしねっ。もしあったとしてもとても悲しむさ」
「それを聞いて安心しましたよ」
いや、真面目にだよ? 君、死んで美人な女性に悲しまれるのと悲しまれないのでは、天と地の違いがあるぞ。
「さて。じゃあ本題に入ろうか」
「本題って……どうでもいいんじゃないんですか?」
「冗談といったじゃない。むーちゃんは人の話ももっと聞くように」
酔っているのか、少し顔が赤い。しかし、浴衣姿でちょっと色っぽい。自然と、俺の視線はその白い首元に……。
「むーちゃん。今注意したばっかりだよ。人の話はちゃんと聞きなさいっ」
「……ハイ」
拗ねたように言う理恵さん。……いい。
オイ! 何緊張してんだよ俺!
「よろし。んー、じゃ本題なんだけどー。君は今日、香織がむーちゃんのこと嫌いなんじゃないかと言っていたよね?」
「? はい。いいましたが……何か?」
ここで、理恵さんは缶ビールをグイッと飲んだ。CMのお姉さんに負けない飲みっぷりだ。
最後の一滴まで飲み尽くすと、理恵さんは相変わらずの笑顔で、顔を赤くしながら俺に尋ねた。
「君はどうなのさ、むーちゃん。君は香織のことをどう思ってるのさ?」
「どうって……」
そんなの。
「決まってるじゃないですか。友達ですよ」
「本当にそう思っているのかな? 君は香織に散々な目に何度もあわされている。私もよく見てたからね、分かるよ」
うんうんと頷く理恵さん。
「そんな香織を、君は、嫌いと思っているんじゃないのかい?」
「…………」
理恵さんは、笑ってはいるが恐らく真剣だろう。空気が、一気に変わった気がする。
俺は、少し間を開けて答えた。
「俺は嫌いな奴とはつるみませんよ」
アイツが俺をどう思っているかはわかりませんけど、と付け足した。
理恵さんは笑みを浮かべたまま、そうだよねーと言って、やっぱり頷いた。
「ま、私にとって、こんなことどうでもいいんだけどねー」
いいつつ、近くの販売機で缶ビールを二本購入する理恵さん。二本も飲むのか……。
と、思っていると。ずいぃっと俺の目の前に缶ビールが差し出された。
俺は脳がついていかず、顔を上げる。そこにあるのは、酔って赤くなった色っぽい理恵さんの顔。
「まぁ、飲みなー」
「あ、あの。俺まだ未成年です」
「そんなの、全くこれっぽっちもぜんぜーん関係ねぇ」
オイ。二〇〇七年の人気芸能人のネタパクるな。
っていうか滅茶苦茶関係ある! アンタ飲ませたら犯罪者だよ!? 俺は理恵さんにここにいてほしいって!
「いいんだよぉ。バレなきゃ。世の中、バレなきゃなんでもやっていい世の中なのさ」
はっちゃけたよ。
ていうか日本の将来大丈夫かよ。ホント不安になったぞ今。
いや、まぁ間違ってはない気がするが。
隣でグビグビと缶ビールを飲む理恵さん。その様子を見ていると、物凄くおいしそうである。
「じゃあ、いただきます」
俺も、缶ビールを開ける。
そうして、一口。一気に麦色の液体を胃へ流し込む! そうして、俺の感想は……。
「苦っ! いや苦っ! ってかマズっ!」
「ふっふっふ。若いねー、むーちゃん。ビールがまずいって感じるなんてまだまだ子供だなー」
子供かは分かんないけど、俺はまだ一応未成年だよ。
「まぁ、私は一応満足した。これで部屋に戻るとするよ」
隣で座ってビールを飲んでた理恵さんが立つ。俺はビールをどう処理しようか悩む。
理恵さんはそうしてそれと、と言葉を繋げた。
「一応、君布団を敷いといてあげたから。それを飲んだら寝なさいねー。それじゃ、お休みー」
手をヒラヒラと振って部屋へと戻っていく理恵さん。
一瞬、俺は理恵さんが神──中でも女神という種──に見えた。
ありがとう理恵さん。俺はあなたに救われた。
理恵さんが、去り、なんとかビールを処理して俺は寝ようと部屋に戻った。布団は理恵さんが敷いてくれている。
俺は起こしてはまずいと、そーっと戸を開けた。
「…………」
俺の部屋で、気持ち良さそうに寝息を立てて理恵さんが寝ていた。
結局、理恵さんは俺の女神でも何でもなかった。