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とらぶる12...姫ちゃん

 歩きつづけること十五分。俺の腕はまぁ、それなりに回復していて、とりあえず動かしてもさっき程の激痛はない。かといって激しい運動は出来なさそうではあるんだけど。

 そろそろ旅館が見えてきた、ということろで俺はまた別の異変に気づいていた。ちなみに、俺の腕に関してのことではない。

 姫ちゃんが妙におどおどとしているように見える。俺の気のせいかもしれないが、でも俺にはそう見える。そのことに、花園や理恵さんは気づいていないらしい。当たり前か。だって、明るく振る舞っているだけだもんな。

 何というのか、俺は他人の心情の返歌に敏感なようだ。他の人が気づかない些細なことも見逃さず、そういった些細なことから相手の心情の変化を見抜いてしまうらしい。

 別に、特殊な力、というわけではない。結局分かることは心情の変化であって、実際にもしかしたら今の姫ちゃんはただハイになっているだけなのかもしれないしね。

 ただ、ちょっとさっきとは変わった、ということで。

 もしかしたら、何もないかもしれない。

 ただ、さっきの件が少し気になって。


「姫ちゃん……どうか、したの?」

 一応、尋ねてみる。この質問に馬鹿正直に答えてくれるとはさらさら思っていない。

 だったら何故質問するか。理由は簡単。

「どうかしたって……何言ってんの、空。さっきの腕の件で頭もやられた?」

「お前は黙っとれ」

「姫ちゃんですか? どうかした、と言いますと?」

 一見、普通そうに見える姫ちゃん。だったが……だったんだけど、一瞬だけ視線が泳いだことを俺は見逃さなかった。


 こういう風に、大抵の人は尻尾を見せてくれるからだ。


 まぁ、深追いはしない。

「いや……やっぱり何でもないや。今日は楽しかったかい?」

「はい!」

 明るく、元気一杯に答えてくれる姫ちゃん。


 ……あの時、俺は軽く触れただけだった。叩いたわけでもない。本当に触れただけだったんだ。だけど、姫ちゃんは何故か痛がった。

「……ったく。貧乏性だよな、俺も。関わらなきゃいいのに、いつも関わって損をするんだ」

 誰にも聞こえないように。

 俺は小声で呟いた。


  ♪ ♪ ♪


「皆、先に戻っててくれないか? 俺は姫ちゃん送ってくからさ。ほら、こんな短い距離とはいえ一応危ないだろ? こんな可愛い娘、一瞬で襲われるぞ」

「アンタが一番危ないわよ。いいわ、私が行くから」

「あーもう。荷物は運びは俺一人で充分だ。早く行け」

 姫ちゃんの意見を聞きもせず、俺はひったくるように姫ちゃんの荷物を取る。腕は痛いので、肩に荷物をかけてどうにか荷物を持った。

「行こうか、姫ちゃん」

「え?」

 とにかく、さっさと花園達と別れねばならない。それからじゃないと、色々と聞くことが出来ない。

 俺は早くこの場面を切り上げるために姫ちゃんの手首を握ってそそくさと退場する。その際、花園が何かシャウトしていた気がするが、気のせいでしかないと信じよう。


 速歩きで姫ちゃんの家に向かう。……そして、花園達が見えなくなった頃、俺は止まった。

「姫ちゃん、ええと……君、俺に隠していることあるよね」

「は、はい?」

 これでもし俺の勘違いだったらマジ恥ずい。多分、その場合この旅館の屋上から飛び降りる。

「俺さ、可愛い娘……だけじゃないんだけど、困っている人はほっとけない質でね。ダチに時間って奴がいるんだけど、そいつの悩み事とかを解決したりしてやってんだ」

 ちなみに嘘だ。あんな野郎の悩み事なんか解決なんかしてやらん。

 ……そもそも、あいつは悩み事を作るような奴じゃないし。むしろ俺が悩み事を解決してもらったりすることの方が多いかも。

「先に謝っておくね。ごめん」

 言って、肩に手を伸ばす。

 一瞬の動作で姫ちゃんの肩を掴んだ。そうして、結果予想通り。

「痛っ」

 姫ちゃんは、痛がって俺の腕を払いのける。そうして確信した。

「……痣か傷。どっちかがあるはずだよね。これぐらいじゃ誰も痛がらないんだ。実はさ、本屋の時から気になっててね。さっきまでは余裕がなかったから考えることが出来なかったんだけど……」

 マズイ、って顔をする姫ちゃん。どうやら、ここまではビンゴらしい。

「友達にでも苛められているのかい?」

「…………」


 しばしの沈黙。


 ……どれくらい経っただろう。多分、一分も経ってない。だけど、俺はとても長く感じた。

 そうして姫ちゃんは、笑った。

「大丈夫です。お兄ちゃんが、きっと約束を守ってくれますから」

「────約束?」

「はい。後、少しの我慢なんです。だから、大丈夫です」

 寂しげに笑う姫ちゃんは、どこか危うい雰囲気を持っていた。俺は思わずしかめっ面になり、そうして俺の出る幕はないと、理解した。

 兄妹の関係の方が、強い。

「────なら、安心出来そうだ。輝さんにはもう話してるってことだよね?」

「……はい」

 俺は出来うる限りの笑顔を姫ちゃんに見せた。困っている娘を、ただ俺は見ていることしか出来なさそうだったから、自然に笑えなかったのかもしれない。

 でも……。

「姫ちゃん、書くものと紙。あるかな?」

「書くものと紙ですか? はぁ」

 ごそごそとカバンの中を探る姫ちゃん。カバンから手を出したときには、両手にメモ帳と鉛筆が握られていた。姫ちゃんは理解できないという風に首を傾げ、俺にそれらを手渡す。

 そうしてさらさらとそのメモ帳に俺の携帯の番号とメールアドレスを書き込んだ。

「携帯、持ってるよね?」

「はぁ。まぁ、一応持ってますよ? でも、どうしてですか?」

「気が向いたらでいいからさ、輝さんに相談出来ないようなことがあったら連絡してくれ」

 目を白黒させる姫ちゃん。だけどやがてにっこりと笑ってはい、と頷いた。こうして、俺は自分の番号とメアドを姫ちゃんに渡した。


 午後五時。

 姫ちゃんと別れて俺は長い一日を終え、部屋に戻った。

 ……花園は何となく怒っていたような気はしていたけど、何故かネオンちゃんまで怒っていた……ように見えた。理由? そんなの、分かったら苦労はしないだろうに。

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