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とらぶる11...たまにはこういうのもアリだろう

 しごかれ続けて一時間。俺は文句を一言もこぼさず、黙々と大量の荷物を運んでいる。文句をこぼしてないのは、ちょっと今そんな余裕がないからだ。

 声にならない呻きを上げて早足の花園達についていく。……正直、もともとカメ並みに歩くのが遅い俺はウサギ並みに速い花園についていくのは厳しい。

 さらに、今この両手の十キロはあろうかという荷物のおかげで、余計に厳しい。腕はとっくに血の気が失せている。恐らく、このままの調子でいくと腕の細胞死ぬ。


 ……さっきの姫ちゃんの涙の誤解は解けたが、状況にさほど変化はない。ちょっとだけ荷物が減っただけで、重量はほとんど変わっていない。

 俺さ、次生まれてくるとき女になりたいな。何、この差は? 非力だからってまったく持たないってのは間違ってるだろ。大体さ、皆なんとも思わないわけ? この様子を見て。

 日頃の鍛錬──花園のしごき、と言ったら分かるか?──のおかげで、今まではなんとか大丈夫だったけど、そろそろ限界のようだった。既に腕の感覚がない。ない、というより腕が元々なかった感じがする。


「ごめん。お願いだから持ってくれ。これ以上これを持ったまま歩くと足もそうだがまず腕がいかれちまう。見ろこの腕を。真っ白を通り越して真っ青だぞ?」

「真っ青ならまだ大丈夫じゃない?」

「バカか! 酸欠起こしてんだよ! このままいくとマジで切断になっちまうだろうが! 真剣にこれら捨てるぞ!」

「うるさいわね、冗談よ。ホラ、貸しなさい。数分でまた持たせるからね。皆も、ちょっと今だけ持ってくれる?」

 目を細くして訝しむように言う。しかし、そんなこと今の俺はまったく気にならなかった。とにかく、この腕の負担を減らして欲しかった。

 腕から大量の紙袋がなくなっていく。血流が再び流れ始める感触が分かった。そんな感触、今までで初めてだ。……当然だよな。ここまで荷物を持つ奴は、いないか。

 血が流れ始めたことによって真っ青だった腕に一瞬で赤みが戻る。段々と腕の感覚も戻って来た。……今気づいたが、かなり握力が低下している。マジヤバだったみたいだ。

 腕の感覚を確かめるように何回も空を握る。その度に何故か痛みが走った。どうやら、長時間のフル稼働によって筋肉が痛んでいるようだ。酸素による回復も出来ないんじゃ、そりゃ痛みが残留するわな。


「っ痛ー」

 いくら頼まれていたからって、流石にやりすぎたようだった。いや、頼まれたというより命令された、と言った方がしっくりくるが、別にどっちだろうと俺は請け負ってただろうし。

 次第にビリビリと痺れ始めた。……腕を伸ばすと関節も痛む。

「痛むのかい、むーちゃん?」

 いつの間にか隣にいた理恵さんが問いかけてくる。俺は引きつった笑顔で大丈夫ですと答えたが、まぁそりゃ引きつってちゃバレるか、真剣な目つきで理恵さんは言う。

「男だからって無茶させすぎてしまったみたいだね。ごめん、むーちゃん。……コンビニがあったら、そこで湿布でも買おうか」

「……はい、お願いします」

 やさしい言葉を、素直に聞き入れる。動かす度に激しい痛みが走るまでだから、結構深刻なんだろうし。無理に我慢するよりもちゃんと休んでいた方がいい。

「大丈夫ですか、お空の兄ちゃん」

「いや……結構痛いな」

 ちょっとやそっとの痛みだったら俺は大丈夫と答える。その俺の性格を知っている花園も一応心配してくれるらしく、ちらりと俺の方を見た。


「無茶は禁物」

「おおぅっ」

 気配もなく、俺の隣にいたらしいネオンちゃんがネオンちゃんなりの心配の言葉をかけてくれた。照れてるらしく、微かに顔が赤い。

 俺は苦く笑った。普段、声をかけてくれないネオンちゃんですら声をかけてくれる状況に、ちょっと困惑したからかもしれない。


 ……その際、たまには無茶をするのもいいかも、と思ったのは秘密だ。


   ♪ ♪ ♪


 結局、その日はそれで買い物は終了になった。たまたまコンビニより近くにあったドラッグストアで湿布を買い、理恵さんに張ってもらって、荷物持ちがいないから帰ろうみたいなノリになったのだ。

 湿布のおかげか、多少楽になった腕をさすりながら状態を確認する。状態異常、瀕死。あれ以上長く持ってたら冗談抜きでやばかったかもしれない。

 ……背筋をなぞられたような悪寒が走る。俺はたった今誓った。……度が過ぎた無茶はしないと。ホント、後悔は先に立たないんだからさ。


「キツいんだったら最初っからキツいって言えばいいのよ。ずっと我慢しているから悪いの。自業自得よ、自業自得」

 ブツブツと言い訳を述べる花園。おもっいきり言ってることとやってることが矛盾しているが、それを言うと何をされるか分からないのであえて言わない。

 いや、病人あいてなら大丈夫かな? ……実験してみるのも、悪く、ないかも……。

「お前、キツいって言ったからって本当に持ってくれたのか? 今までの俺の経験上、とてもそうとは思えないんだけど」

「…………」

「今までの経験上、ですか……。今までどんなことしてたんですか、お空のお兄ちゃん」

 俺の後方で黙る花園前に姫ちゃんがナイスな質問をしてくれる。俺はここぞとばかりに今までの苦労を述べようとしたが、止めた。


 どうやら、あいつはあいつなりにちょっと後悔してるらしい。唇をへの字に曲げて、俯いている。それを見て、何だか追い討ちをかけるのも可哀想になった。

 まぁ、被害者は間違いなく俺だけど、あの花園が反省してるんだ。いいだろ、見逃してやっても。多分、こんなチャンスは二度とないだろうけどね。

「ま、色々あったんだよ、姫ちゃん」

「色々、ですか」

 ちらり、と隣の姫ちゃんは後ろを覗く。あまり聞いてはいけない質問だったと理解したらしく、それ以上の質問はしてこなかった。……姫ちゃんも、空気は読めるようだ。


「……悪かったわよ」


「!!?」

 俺の耳が確かなら、花園は確かに『悪かったわよ』と言った。いや、俺の耳は確かだった。間違いなく花園はそう言ったに違いない。

 ……初めて花園が自分の非を認めた。俺は驚きに目を見開いて、返答に困りつつも適当にああ、と答える。


 今日は、結構いい日だったのかもしれない。かなり働かされたが、それ相応のものはちゃんと帰ってきた。そんな気がする。

 花園はどうやら本当に危ない目に合わせてしまったのならちゃんと謝ってくれるようだ。今日、それを学んだ。うん、結構な情報だよ、これは。

 多少の厄介事はあったけど、まぁそれはそれでヨシとしよう。

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