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お前ら人間じゃねぇ!

 

「……失望しました。今までの礼儀のなっていない言動は私の仏の心で多目に見てあげるとしても、交わした約束さえ守れないのは人としてどうなのでしょうか?」


 芳山理子は憤然とした様子で言葉を溢した。


 だが理不尽だ。俺が怒られる道理など、一切合切有りやしない。


 そもそもとして、今朝の一件は約束なんて大層なものでは無く、ただの軽口、戯れ言に過ぎないものであっただろう。ご立腹な様子の理子に俺は異議を唱える。


「いや、待ってくれ。誰だってあの状況、本気で言っているとは思わないだろ」


 朝のホームルームでの他愛も無い様な恨み辛みの様なそうでも無いような、つまりはただの駄弁り合いの最中、「おいちょっと後で屋上来いよ」等と言われて、本気にして屋上に行くような奴が果たして本当に居るのだろうか、いや、居ない。


「言い訳無用!結果として貴方は約束を破ったのです!」


「……まあ、確かにそうだが」


 それでも理子の怒りは収まらず、不本意ながら俺は自身の非を認める。


 だが、もし俺に非があるとしてもミジンコ程度のものだろう。つまりは“微塵”も無い訳だ。ははははは。



 ……それにしても、理子の考えと言うのは本当に読めない。彼女の思考の解析はもはや心理学では無く、宇宙誕生の瞬間の考察だ。いくら考えようが答えは出ない、つまり考えるだけ無駄なのだ。俺はそう切り捨て、考えを放棄する。


「はあ、貴方に伝えておきたいことが有ったのに……」


「それなら今言えばいいだろ」


「……ここでは話せない事だから屋上に呼んだんですよ。……それに、先客があちらに居ますので」


「先客?」


 理子が教室の前方、入り口付近を指差す。そこには申し訳なさそうな表情でこちらの様子を伺う、言問文夏の姿があった。


 ……何してるんだアイツ。


 言問と目が合うも、彼女は少しも動じない。何か用事が有るのか無いのか、ただただ黙ってこちらを見ている。端から見ればただの挙動不審者だ。


「……あんなところで何してるんだ?」


「あれ~?もしかして気付いて無かったんですか~?視野を広く持つことが大切ですよ~」


「……何も言い返せねえ」


 随分な時間差でブーメランが返ってきたな。一体何処まで行ってたんだ。世界記録は越えただろうか、ギネスブックを開いてみよう。


 ……そんな冗談はさておいて。


「……アイツを呼ぶか」


 俺は言問に手招きをする。すると言問はその表情を満面の笑みへと変えてコチラヘ向かってきた。


 ……犬かアイツは。





 ※





「……お前ってコミュ症なの?」


「え?」


 開口一番、そんな疑問を俺は言問に投げ掛ける。


 俺と理子の会話に入れず、しどろもどろしていた彼女。もはや新聞部としては致命傷どころか、死因になりうる大きな欠点だろう。


 新聞部、ないし記者等はうざったらしいくらいにしつこく無ければ、とても取材なんて出来やしない。まあ、それにある程度教養が伴っていないともっと悲惨な結果になるであろうが。


「……いやはや、特段話すことが苦手と言うわけでは無いですけど、何と言うんでしょうかねぇ、話す話題がないと話せないといいますか、用も無しに人に話しかけることには些か抵抗がありますね。いやはや」


 その取って付けた様ないやはやは何だ。


「……ところで質問なんだけど」


 そこで会話に割って入るのは、隣の席の理子だ。彼女は不思議そうな表情で俺と言問の顔を交互に見た後、口を開いた。


「……貴方はどちら様?」


 理子は言問の方を指差すと、ばつが悪そうにそう訪ねる。……すっかり忘れていたが、言問と理子はこれがファーストコンタクト、初顔合わせだ。理子は初対面である言問に対して自己紹介をするようにと目で促す。


 ……すると言問は今までの不安そうな表情を一転させ、目を輝かせて語りだした。


「いやはや!申し遅れました、ワタクシ、言問文夏と申します!以後お見知りおきを。所で話は逸れますが、芳山理子さんと妙本箱根さん、お二方が交際なさっているという風の噂をお聞きいたしましたが、それは本当の本当に事実なのでございましょうか?いやはや!」


 言問は先程の話の通り、話題を振られるや否や、うざいくらいにテンションを上げてマシンガントークを吐き出す。うん、こう見ればコイツは立派な記者だと言えるだろう。


「……新聞部の方かしら?私と、…妙本くんが付き合っているっていうのは何処から聞いたかは知らないけれど、私は今日が転校初日の新参者よ、元々知り合いでも無いし。つまりは有り得ない事だわ。それよりも部外者の私が端目で見る限り、貴女達二人こそ付き合っているんじゃ無いかと疑っているのだけれど?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、理子は言問をからかう。……今朝俺を煽っていた時と全く同じ表情、悪魔的美少女の、悪魔的微笑だ。


「つ、付き、つっつき、って、わ、私達が、付き合ってるって、そ、そそ、そんなわけ無いじゃ無いですか!」


 いや、動揺しすぎだろ。DJのスクラッチみたいになってるぞ。


「……この娘可愛すぎない?」


 慌てる言問を、理子がスコティッシュフォールドを見るような目で見つめながらそう言う。


 理子の意見には俺も同意で、コイツとの関わりはまだ数分程度のものだが、愛嬌、というか、弄りがいが有るというか、大方そんな印象を言問に対しては抱いている。


「もう本当に付き合っちゃえば良いんじゃない?」


「いやはや!からかうのは止めてください!」


 だが確かに、理子の言う通り言問は可愛い。可愛いのだが……


「……いいヤツだとは思うが、いやはやいやはや言ってる奴と付き合うとなるとなぁ」


「えー、勿体無い。こんなに良い娘なのに」


「……お前はどの立場で言ってるんだ」


 滅多に無い、千載一遇と機会を逃した、等と理子はお茶らけながら言う。……もう面倒臭いからコイツは無視していよう。


「そもそも何でここに来たんだ?」


「あー、そうですね」


 俺は閑話休題を試みる為、言問に言葉をかける。


 ……その時だった。


「おーい、文夏!こんなところに居たのか」


 突然、教室のドアがガラリと煩い音を立てながら乱雑に開かれ、一つの高い声が教室中に鳴り響いた。近隣に居た人間はその煩い声の聞こえた方へ一斉に振り向く。


 大衆の視線を浴びるのは、金髪、ミニスカート、イヤリング。いかにも頭の悪そうな見た目の所謂ギャルというヤツであろう女子生徒で、辺りから奇怪の眼差しを向けられながらも堂々とした様子を崩さずに現れた。


「……いやはや、友達が迎えに来たので撤収致します。後は若い二人で楽しんでください。それでは」


 言問は若干ひきつった笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。


「……余計なお世話かもしれないが友達は選んだ方がいいぞ?」


「……ははは」


 言問は乾いた笑みを浮かべたのを最後に、教室から立ち去っていく。……ケラケラと、小馬鹿にするようなギャルどもの笑い声が何となく癪に触る。


「……貴方は選ぶ友達も居ないでしょうに」


「うるせえわ、馬鹿」


 ギャルどもが完全に姿を消したタイミングで、理子がそんな軽口を叩く。地味にブーメランだろ。最も、コイツの事はまだ良く分かってはいないが。


「……所でどうするよ」


「……後を追う他無いでしょう」


 理子は俺の言葉の意を汲んで答える。……俺と理子の思惑は恐らく一致している。明らかにあの不良、言問の友達では無いように思う。


 大方、二人はイジメっ子とイジメられっ子、正当な見返りも報酬も無い主従関係の様なものだろう。言問はあの金髪スケバンに恫喝され、金を集られたりしているのだろう。ならば助ける他あるまい。


 ……まあ、それが取り越し苦労ならそれに越したことは無いのだが。





 ※





「……そんな事だろうとは思ってはいたが、想像以上に酷いな」


 ……言問と金髪ギャルを尾行し、最終的に辿り着いた場所。


 そこには金髪ギャルと他に数人、明らかに非行に走っていそうな、まともでは無い奴等が手にカメラを、あるいは武器を持って立っていた。


「……それじゃあ文夏ちゃん」



「始めようか?」






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