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こんぐらっちゅぐらじゅえーしょん!

 

 紅白色の横断幕が壁一面に貼り付けられた体育館には、目頭を抑えて泣きじゃくる生徒やこの後の打ち上げをどうしようかなんてくっちゃべっている生徒達で溢れかえっている。


 時は卒業式を終えた後。それぞれ仲間内で写真を撮ったり、高校生活の思い出を語り合っては笑い合う。そんな青春最後の時を謳歌している最中であった。


 ただし俺はその輪の外れ、体育館の隅っこで存在感を消し、解散の時を今か今かと待ちわびていたのであった。忍者だったらお殿様から勲章を貰えるレベル。


「……妙本、お前友達はいないのか?」


「卒業式終わって早々、火の玉ストレート投げるのは止めてくださいよ。十川先生」


 開口一番、俺が今一番気にしていたウィークポイントを豪速球で抉る十川先生はもしかして大谷翔平ですか?


 やめてくださいよ。俺だって居たたまれなさがあるからこうやって空気になっているのに。ただ羨ましいとか、憧れるとかは全然思ってないんですけどね。憧れてしまったら、超えられないんで。今日だけは、憧れるのを、やめましょう。


「はは、まあそう拗ねるな。……しかし懐かしいな。理子が転校してくる前を思い出すよ」


「……?誰が転校してくる前ですか?」


「……ああ、そうだったな。お前は知らないんだったな。昔の生徒の名前だよ」


「はあ、そうですか」


 俺は十川先生の言葉に微かに違和感を覚えたが、卒業式後の浮いた気持ちでは、気に留めようとは思わなかった。


 ……そんな時だった。


「いやー、十川先生、お疲れ様です」


「ああ、伊井国先生。お疲れ様です」


 隣のクラスの担任の伊井国先生が十川先生の元へとやって来た。卒業生とは違い、学校に残る先生でさえ、このお別れムードに当てられたようで、少しばかりセンチメンタルな様子で伊井国先生は言葉を続ける。


「いやー、良かったですね。皆無事に卒業出来て。しかも1人の生徒も欠けることなく」


「……あー、そうですね。はは」


「……?」


 嬉しい話題であるはずだが、ばつの悪そうな態度の十川先生に理由を尋ねようかと悩んだが、大人二人の会話に割って入れる程のコミュ力は俺にはないので、逃げるようにこの場を去るのであった。


 そそくさそそくさ。





 ※






 ……そんな風に逃げた先、生徒が散り散りと集まるエリアにやって来た訳だが、そこに見知った顔がいたので話しかける。


「よっす、言問さん。どうですか、俺に一度もテストで勝つことが出来ずに卒業を迎えた感想はww」


「……最悪ですね。もしも全知全能のランプの魔人がこの世にいたら、3回アナタを殺します」


「そいつは顔面蒼白髭おじさんにも叶えられない願いだぜ」


 そんな軽口を叩き合うコイツとは、あの日、屋上で初めて話した時からの腐れ縁で、テストの度にお互いの点数を突き合わせては膝を着かせてきた。


「……まあ、いいです。高校での勝敗なんて、これから続く私達の長い戦いの歴史から見たら最初の1ページに過ぎません。なんたって、私も貴方と同じ東大に受かったんですからね!」


「おー、マジか!おめでとう!」


 ……東大、東方大学。「全てを受け入れる」なんてキャッチコピーとは裏腹に、多くの高校生を蹴落としてきた日本最難関の大学。そこに、俺と言問は受かったのだった。


「良かったなー。お前も頑張ってたもんなー」


「いえいえ、妙本君が勉強を教えてくれたお陰ですよ」


 ……所で、俺に教えを乞うてる時点で、勝負の方は俺に軍配が上がるんじゃなかろうか?


「これからもよろしくお願いしますね?」


 しかしそんな事は関係無しに、言問は俺に協定関係を結ぼうと申し出るので、


「ああ、こちらこそよろしくな」


 俺も、その手を取ることにしたのだった。






 ※






 タイムマシンは未来への一方通行。このタイムホールは外の世界とは隔離され、未来へと一足先へ歩を進める。


 だから八つ年の離れた弟とは、この時代では同級生で同じクラスだった。流石にこのままでは未来へ行けないので、タイムホールに来る前に、粗方の記憶は消してきたけど。


 ただそのせいで、弟と隣のクラスの文夏ちゃんの恋仲は裂かれてしまった。うぅ、本当に申し訳ない。


 ……ただ、恋路が絶たれた訳じゃない。もう一度、最初からやり直すだけだ。


 ここからは私は関与しない。文夏ちゃんと箱根がくっついてくれれば理春と連絡を取りやすいなんて打算が前にはあったが、そんな事はもう関係ない。


「……さて、二人はどんな未来を歩むのかな?」





 ※






「……おい、止まれ」


 残月の光をたよりに幽霊街の瓦礫道を通って行った時、果して一人の男が廃屋の陰から躍り出た。


「お前は山本四兄弟のサンゲツで間違いないな」


「如何にも自分は山本四兄弟のサンゲツである」


 ……言い終わるや否や、男はとんでもないスピードで殴りかかってきた。


 それを間一髪の所で躱す。


「あぶないところだった」


 しかし男は息をつく間もなく二撃目を鳩尾に放つ。それを身体を翻し、逃れれはしなかったものの、致命傷は避けた。


 ……はずだった。


「うっぷ、な、なんだこれは……?鉄の、拳……?」


 あまりの重い一撃に、自分は意識を失った。





 ※






「……捕まったハシメロを含め、これで山本四兄弟は全員始末したかな?」


「ああ、どうやら古明地さとりに関する記憶は既に消された後だったようだが、危険分子は潰しておくに越したことはないよ。良くやった、“12月の救済マシーン”」


「いや!その呼び方やめてくれよ!第一、その名前って『まるで本物の人間!クリボッチを回避するための恋人アンドロイド』の俗称だろ?そもそも俺はロボットじゃなくてサイボーグだし、さとりさんにはお世話になったけど、三大マシーンの一つに数えられるのは納得いかねぇ!」


「……正しくは“12月の救済マシーンを初めとした自立歩行アンドロイド技術及びヒトの身体と代替可能な機械肢体の開発特許”で、世界三大マシーンじゃなくて古明地さとりの三大発明だけどな。おぞましいオゾンマシーンも俗称だし。……まあ、ちょうどいいじゃないか、お前だって“師走”田蓮だし」


「まあ、変態ストーカーマッドサイエンティストよりマシかぁ……」


「そうだな。さ、早くずらかろう。あまり長居するとまずい」


「オッケー!紫苑も待ってるしな!」










「……へくちっ」


「…………花粉症?」




 大学編へ続く……






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