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山本四兄弟の恐怖

 

「だからさ、この戦いというのは、ぼくの考えるところでは、狙った獲物を、勝者であるぼくにたべさせるのではなくて、ぼくを狙った獲物にして、食べてやるとこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくが……」


「……何を言っているのかしら?」


 ……勝負は決した。狭いリビングを戦場とした決闘。勝者はこの戦いに不向きなステージを応用力と身のこなしでものにする者だ。


 自らを勝者と自負する彼も中々の機敏さであったが、私にはてんで敵わない。


 最も、今の私は腹痛で全力の3割も出せていないんだけど。


「……でもギリギリの戦いだったわ。次やったらどっちが勝つか分からないくらいにね。私がこんなに本気を出したのはいつ以来かしら」


 しかし私は汗を拭って本気でしたよ~とわざとらしくアピールしてみせる。これが散々娘に教え込んだ“能ある鷹は爪を隠す”ってやつね。


 ……息子には、まだ隠したままだけど。


「……嘘をつくなよ。ぼくの実力が貴方に全然及んでないことぐらいは流石に分かる。これでも、戦いには自信があるからな」


「あらあら」


 どうやらバレちゃってたみたいね。……だったらこっちも、おべっかぶりっこ可愛い子ぶる必要はない。


「……ならまず名を名乗りなさい。答えなければ1秒ごとに骨を1本づつ折る。さあ、3分半後には貴方はタコになってるかしら」


「ぼくの名はヤマネコ。ヤマネコっていうのはコードネームで、本名は山本猫背(やまもとねこぜ)っていう。芳山理子の研究成果を狙う機関に雇われたいわゆる下請け、エージェントだ。ただ機関がぼくたちに依頼を出したのも誰かに頼まれてのことだったみたいだから、ぼくたちは下請けの下請け。エージェントならぬ、エーの次ってことでビージェントって名乗ってる。とはいっても、先程考えたばっかりのチーム名だから、知らないのも無理はない。今回は隠密作戦だったからこの名を名乗るつもりはなかったが、裏社会で名の知れた、”山本四兄弟“とはぼくたちの事で、ぼくの他にヤママユこと山本眉毛(やまもとまゆげ)、サンゲツこと山本月指(やまもとつきゆび)、ハシメロこと山本王徒(やまもとおうと)がいる。今回の作戦では直接芳山理子と接触し情報を奪う算段だったが、作戦は失敗し彼女に警戒されてしまったからぼくたちはまず外堀から埋めていくことにしたんだ。とりあえずぼくは十川五月の担当。彼女の家を張っておくのが仕事なのさ」


「……めっちゃペラペラ喋るじゃないの」


 ホントにこの人隠密部隊?お笑い芸人でもこの場面は黙ると思うわよ。


「……ともかく、ぼくは話したぞ。だからぼくを離して、ここから逃がしてくれると嬉しいんだが」


「…………」


 男は何食わぬ顔で、仲間を盾に甘い密を吸う極悪プーさんみたいなことをしだした。


「……少し待ちなさい。貴方の処分について今考える」


 ……この男の扱いには本当に悩む、捕らえて情報を聞き出そうにも今言った以上の情報は出てはそうそう来ないだろうし、だからといって始末してしまうのもこれだけ情報を提供してもらった手前ものすごく申し訳ないような気がする。ただコイツはクズだ。


「……うーん、貴方はどうしましょうかねぇ……」


()げ……」


「……でもやっぱり貴方は逃がさない♪」


 私は踵を返す男の襟首を掴む。あれこれと色々と考えてる内にコソコソと逃げ出そうとする魂胆が気に食わなかった。先生が生徒の生死について検討している最中は逃げちゃいけないって学校で習わなかったのかしら。


「……こうなったら貴方の持ってる情報、洗いざらい全部吐き出してもらうわ。暖簾に腕押しでも、糠に釘でも、豆腐に鎹でも何でもいい。とにかく知っていること、全て私に話なさい!」





 ※






「……ねぇ、お兄ちゃん」


 自室を出て、リビングで一息吐こうと階段を降りた矢先、妹の瑞希にぷんすかした様子で声をかけられた。


「……どうした?」


 瑞希は少し朱に赤らめた頬を膨らませて話を続ける。


「……別にお兄ちゃんがいくら女遊びしてようが、妹の私が口を出すのは野暮だとは思ってるけど……おせっせは節制してね?」


「…………」


 ……理子と言問が立て続けにやって来て、俺の部屋でなにやらドタドタとしていたのが気になったのだろう。一応言うが、決しておせっせなどはしていない。


 ……ただそれに近しい事はしていたが。裸の同級生たちとハッスルしていた(語弊)。


「……オゥイエー!オキドキ」


 俺は陽気なイタリア人みたいな返事をした。


「何それ?……もしかしてスーパーマリオオセッセイって言いたいわけ?」


「ヒィアウィーゴー!!!」


 分かりにくいネタにも拘らず、以心伝心で瑞希に無事伝わった喜びでほぼイキかけました。サーセン。


「どこへ行くつもりなの?……全く、変なとこ行かないでよね」


「俺はどこにもいかないよ。ずっと瑞希の側にいる」


「……法廷とか留置場とか」


「…………」


 俺の脳内には、被告人席から見える裁判官席で無慈悲に告げられる有罪の判決と、傍聴人席に女の敵と書かれた横断幕が掲げられた景色が浮かんでいた。


「……やっぱり節制致します」


 ……逮捕は嫌だからな。





 ※






 翌日、やはりというか案の定というか、理子は学校へ来なかった。


 ……もしかすれば学校に来るかもしれない、という淡い期待に一縷の望みを僅かながらにかけたりしないこともなかったりしたのだが……


「……やっぱり理子ちゃんは来なかったね」


 現在、理子の席に座ってるのは隣のクラスからやって来ていた言問だ。朝のホームルーム前、俺達は理子への協力を直談判しに行く算段を立てていたが、教室に理子はおらず、結局、ただ二人で駄弁るだけの時間となってしまっていた。


「アイツ無駄にプライド高いからな。まあ、一夜越して朝になれば頭冷やすと思ってたんだが、結局来ず仕舞いだよ。ヘコヘコ頭下げれば機嫌治すと思ったんだけどなー」


「……女なめすぎ、いや、人間なめすぎ。人の心はそんな単純じゃないよ。だからモテないんじゃない?」


「…………」


 ……そんな他愛もない、愛すらないやり取りをしている最中であった。


「おー、ちょっと早いが朝のホームルーム始まるぞー、今日は転校生が来るからなー」


 教室に入ってきたのは学年主任の教師であった。曰く今日は十川先生は風邪を引いて休みらしい。


「転校生?こんな時期に変だね。超能力者かな」


「どこの機関の小泉一樹だよ。お前は涼宮ハルヒか」


 なんてことを言っているが、お前は隣のクラスだろ。さっさと教室に戻れよ。確かに先生は気付いていないようだが。


「おー、じゃあ転校生、入ってこーい」


「……はい、かしこまりました。ワタシ、転校生の永易と申します。皆さんどうもお見知りおきを」






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