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一億と二千年あとも愛してるなんて保証はない

 

「……何も、言い返せなかった……」


「無様ですね」


 結局、理子との答弁に俺は負け、負け犬の心境ですごすごとうなだれた。


 ……若冠16歳にして海外の研究機関で働く天才が『アンタらって、私より頭良いの?』ってそれは禁止カードだろう。


 だからそんな泥のように落ち込む必要はない。ないのだが……


「俺だって勉強しかしてこなかった勉強馬鹿なのに……」


「勉強だけじゃないですよ。馬鹿なのは」


 ……アイデンティティの崩壊。そりゃあ俺だって死に物狂いで勉強してきたさ。たとえ風邪をひいたとしても全国トップは固いくらいの実力とそれに裏打ちされた自信もあった。


 だけど彼女を前にしてはそんな自信も打ち砕かれた。学校のテストなんかじゃ計れない、天才と紛い物の差をありありと見せつけられた様だった。


 ……彼女は空を見上げた事がない。


 それは自分より上には誰もいないのと、これまで生きてきて倒されたことがないから、大地に背をつけたことがないのだ。


 それ故の、全てを見下すような目はありとあらゆる敗北を味わってきた者達にとって畏怖の対象であった。


 ……勝てるわけねー。そんな感じで皆が皆、天才に勝つことを諦めて凡庸に生きる事を目指すのだが、……俺はまだ納得がいかなかった。


「……俺は、馬鹿なんだろうな」


「そうだね。箱根くんは馬鹿だよ」


 ……先程から茶々を入れてくる言問。俺がせっかく物思いにふけ、心のセンチメンタルジャーニーをしてるというのに、馬鹿とは何だ。分からないだろ、俺はまだ16だから。現在形で発展途上だ。


 いくら俺が自分を卑下してバカバカ言おうが俺は一向に構わないが、人からバカって言われたら腹が立つ。そんな身勝手の極意で俺は言問に突っかかる。


「……お前なぁ、人がせっかく感傷に浸ってるてのに邪魔すんなよ。ここから覚醒する大事なシーンになるかもしれないだろ」


「……ハッ!」


 言問はバカにするように文字通りハッと息を吐いた。なかやまきんに君か。筋肉仲間やんか(アナグラム)。


「……何が感傷に浸ってるだよ。ただ自分に酔ってるだけだろ?“あー、弱ってる俺もカッケー”って、別にそんな事ねぇからな。弱ってるお前なんてただのゴミだよ。それと覚醒だかカクテキだか知らねぇけどよ。まあ精々心を燃やしとけよ、燃えるゴミ。勉強ロボのお前は燃えないゴミだけどな」


「…………」


「……うん!もう大丈夫みたいだ♪」


「……????????」


 言問は言いたい事を散々言った後に、とても、この上なく清々しい顔をした。


「これだけ箱根くんに悪口言っても全然苦しくないどころか、むしろスッキリした。……もう完全に、恋は冷めたね。だからあの約束はもう無し。君と僕が付き合う事には、もうならないよ」


「…………そうか」


「うん。……それじゃあ、僕たちは僕たちで、理子ちゃんの手助けをしよう。ただ指をくわえて待ってるだけじゃあ居たたまれないからね」


「……ああ、そうだな」





 ※






 ……俺にとって予想外であったのが、言問に振られた事に対して、思った以上にショックを受けていることだった。


 あの、あやややあややや言ってるバカだぞ?いや、でも可愛いからなー、告白されちゃったからなー、どうしようかなーなんて、常に俺はこちらへ好意を向けてくる彼女に対して受け身であったから、俺に愛想を尽かして離れていって初めて、彼女の大切さに気付いた。


 手に入れられない事より、一度手に入れたものを手放す方が喪失感は大きい。知らない方が幸せなんて言うけどまさにその通りだ。


 そんな未練たらたらの失恋引きずり男みたいな(全くもってその通りなのだが)ことを頭の片隅で考えながらようやく気付いた。


 ……ああ、やっぱり俺は彼女が好きだったんだ。





 ※







「……敵を倒すに舌から攻めるっていうのは、目から鱗ね。よほどの事がない限り、マズイ料理に対する訓練はしないわよね」


 たった今、よほどの事が起きている訳だけど。


 まあ、その原因も私にあるんだけどね♪


 私は芳山理子に接触すべく、今日彼女がいるはずの場所、彼女の友人である十川五月の家にやって来たのだが、


 そこに芳山理子の姿はなく、代わりに出来上がったホットケーキが置いてあったのだ。


「……そこに糖分があったなら、頂いちゃうのが女の子のさ・だ・め♪」


 いくつになっても女の子はトキメキを忘れないの。それがいつまでもキレイでいる秘訣。私はいつまでも永遠の18(+x)歳♪


 ツッコミ御無用!文句があるならかかってきなさい!


 ……なんて言った矢先、ホントに挑戦者が来たみたい。部屋の扉がゆっくり開いた音がした。


「……ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」


「…………」


 ……その影はだんだんと近づいてきて、私を見下ろす様にして立ち止まる。


「……死んだふりか?」


「生きてるわよ!まだ死ぬには若すぎるわ!」


 私はまだまだ健在であることをアピールするために打ち上げられた魚みたいにじたばたした。


「……そうかい。若い女の引き締まった横っ腹なんぞに、二三発お見舞みまいもうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒たおれるだろうねえ」


 ……なによ突然現れたと思えば!出たわね女の敵。まずその気色悪い声が気に食わないし、人がせっかくいい気分でいたのに邪魔しに来るってどういう神経!?最も、私は今マズイホットケーキにやられて既に倒れこんでる訳だけども。


「……おや、よく見れば十川五月ではないようだ。アイツは先程までぼくの食堂で芳山理子と一緒にいたから、何か知ってるだろうと思っていたが、どうやらあてが外れたみたいだ」


「私は本命じゃないって言うの!」


 私はことさらにじたばたしてみせた。


「いや、こちらもこちらで都合がいい。アナタも芳山理子の関係者みたいだから、順番が変わるだけさ。恐らくボディーガードと言ったところか」


「……ボディーガードねぇ、まあ近からずも遠からずって感じ。私はあの娘、芳山理子の母親よ。そして字幕の色で気付かれない、影の薄い女ね……」


 ……あれは少し予想外だったし、少し、傷付いた。


「……ああ、お母様でしたか。これは失敬。先程までの言動及び感想、訂正させて頂きます。……貴方はとてもお若い。とてもとても、今この時代を生きていれば、三十路であった娘を持つ母親とは思えない容姿だ。さぞかしお強いんでしょうね。お手柔らかにお願いしますよ」


「あらどうも。別に年上に気をつかって遠慮する必要はないのよ?……本気でかかってこないと、貴方に勝ち目ないから」


「……どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ」


 ……二人はそこで、ひどく激しく拳をぶつけ合った。







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