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瞳を閉じて、君を叩くよ

 

「……私は彼、妙本箱根くんのガールフレンドですッ!!貴女に、ダーリンは絶対に渡しませんッ!!!」


「……いや、彼女じゃねーだろ」


 俺は訂正する。


 言問文夏はバイク乗りバッタみたいな決めポーズをして颯爽と現れた。その顔は今にも火が吹き出しそうなほど真っ赤で、どっちかっていうとライダーよりも戦隊ヒーローのレッドって感じ。


 そんなコイツに相対する俺達はさしずめ悪役だな。だが正義の反対はまた別の正義だという言葉を思い出して俺は言葉を続ける。


「……そもそも、オマエは俺にとって何者でもない。何勝手に家に入ってきてやがる」


「許可なら先ほど妹の瑞希ちゃんから貰いました。勝手ではありません」


「…………はあ」


 思わずして溜め息が出た。頭の中でテヘペロ顔の瑞希がこちらを見つめている。うーん、カワイイ。許そう。


「それでも、オマエは俺と理子の勝負の妨害をしただろ。俺はまだ許してねぇからな」


「だからそれは濡れ衣です!私はやってません!」


「…………」


 言問は全く悪びれる様子もなく「俺は悪くねぇっ!」と頑なに罪を認めようとしない。


 ……背後では下着を着け終わった理子が何やらオロオロとしている。お前は早く服を着ろ。目のやり場に困る。


「目を逸らさないで下さい箱根くんッ!」


 うるせぇ!!!!!


 面倒ごとに板挟みにされた俺はもうどうすりゃいいんだ……。翌日冷たくなった俺が発見されて関係ない二人が息を引き取っても知らんぞ。


「私の目を見て下さい!これが嘘をついている人の目に見えますか?!」


「いや、分かるか!」


 ……人の思考が読めるのならば裁判なんぞ必要ないし、現代文の長文問題で筆者の気持ちを答えろなんてそんな問題は出ねぇーよ。


 確かに「ない事」の証明は悪魔の証明と言われるくらいに難解ではあるが……ただコイツはさとりのテストが盗まれた時に笑っていたのだ。それについて未だに訂正の言葉も謝罪の言葉もない。


 ……だから俺はまだコイツを許さない。


「……もういいよ。オマエが犯人だろうとなかろうと、責めるのはやめる。ただオマエ、理子のテストが盗まれたと知った時、笑っただろ?……正直、幻滅したよ。他人の不幸は蜜の味だってのも、分かる。それが科学的に証明されていることもな。でもオマエは、俺がなぜ笑っているか聞いたら、「箱根くんが勝てて良かった」ってそう言っただろ」


「…………」


「……まあ、今さら責めることはしないと言ったけどな、なんで理子のテストの結果が分からないのに、オマエは勝ったと思ったんだ?理子の点数を知り得る手段があったか、はたまた……」


「は、箱根!もうやめなよ!」


 背後から俺の話を遮る甲高い声が聞こえて俺は振り返り、そこで涙を流して肩を震わす理子の姿を見た。


 ……しかしその表情はすぐに驚きの形相へと変わり、不思議に思った俺が理子の視線の先に改めて向き直ると……


 バチンッと、俺の頬は言問に叩かれた。


「……最ッ低!幻滅したのはこっちだよ!さっきからグチグチグチグチ、人の揚げ足とるような真似して、どんだけ僕を犯人にしたいのさ!箱根くんが疑った言葉はただの言い間違いでしかない。そして笑ったのは……ただ僕が箱根くんの事が大好きだっただけだよ」


「…………」


「箱根くん、目、瞑ってください」


 ……突如我に返ったように顔を真っ赤にした言問は上目遣いで俺を見て言った。


「お、おい。一体どういう意味で……」


「いいから黙って目を閉じて!」


 言問のあまりの気迫に俺はたじろぎ後退る。


 ……これは、期待していいのだろうか?


 ふと俺は言問との約束を思い出した。……俺がテストで一位になった時、彼女は再びキスをすると。


 ……これは、期待しちゃってもいいんですか?


 ……甘くとろける様なキスを夢想して、俺はゆっくり目を閉じた。


「……準備はいいですか?」


「ああ、いつでも」


 俺はクールなガイでハードなボイルドにでもなったつもりで声を低くして言葉を返す。





 パァッン!!!!!






「????????」


 しかし俺に降り注がれたのはメルティーキッスではなく2度目のビンタであった。


「何故ッ!?ここは飴とムチみたいに優しくキスをするバメンデェワ!」


「何か文句があるんですか?」


 ……俺の抗議は3度目のビンタによって打ち消された。しかも話の途中でビンタするもんだから語尾が変な奴みたいになってしまった。


「……いえ、文句なんぞあろう筈がございません」


「ならいいんですけど」


 これ以上口答えをすれば4回目となる死のビンタ(デス・ビンタ)を食らう羽目になってしまうので、俺は言問に完全にへりくだった。


 言問が日本生まれの大和撫子で本当に良かった。海外文化が適用されれば顔面に四つ打ちノックは避けられなかっただろう。


「ところで箱根くん」


「……何だ?」


 再び口を開く言問に俺は嫌な予感を覚える。


「……箱根くんが理子さんに勝った時の約束、告白の言葉を私はまだ受け取ってません」


「…………」


 ……それ、今じゃなきゃダメですか?いつの間にかこの修羅場はフリーダム空間に侵食されつつあった。何故言問は素っ裸の理子に一言もツッコまないのか。


「…………」


 ……どうやら理子は例の認識阻害装置とやらを使っているみたいだ。セコい奴め。



「……告白、今ここですればいいか?」


「……!?」


「……え、ええ。お願いいたします」


 言問は合格発表を見に来た受験生みたいな不安げな表情を浮かべているが、俺はそんな言問ではなく、後方で息を潜めている理子の方を向きながらニタッと笑って言った。


「俺の告白。それは……俺は生粋のクズだって事だよ」


「…………?」


「……え、それってどういう事です?」


「悪いな言問、これが俺の“告白”だ。愛の告白って言うか、罪の告白かな。……俺はお前じゃない、他の人を好きになっちゃったんだよ」


「…………は?」


「え、え!?そ、それって誰の事です?」


「……そこにいる、理子の事さ」


「…………え?わ、私?」


 理子は自分は蚊帳の外だと思っていたのだろう。急に矛先を向けられ酷く動揺していた。理子は照れ臭さからか、もしくは混乱からか頭から煙を出している。


「……ど、どうして私、なのかな?だってほら、他にもいい人はたくさんいるわけでしょ?文夏ちゃんだってそうだし、私なんかじゃもったいないよ」


「だって裸見せてくれるじゃん」


「ク、クズすぎる……ッ!」


 思わずあの言問がドン引くくらいのクズっぷり。理子の方も思わずスーッと一歩下がった。


「……だ、ダメだよ。だって私達……」


「いやいや、そんな固いこと言うなって♪」


「や、やめて……!」


 声を震わせながら理子は後ずさる。そんな理子に俺は近づいて肩に手を掛ける。わざとらしいボディタッチを交えながら。



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