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Q.“ひとつなぎの大秘宝”ってなーんだ?

 

「第一問!!ポルトガルの航海者で、1488年アフリカ最南端の喜望峰にヨーロッパ人として始めて到達した人物は誰か!!!!」


 一部屋の木造建築。その中心で仁王立ちする半裸の親父。手には燃え盛る蝋燭。未だかつてこんなカオスがこの世に存在し得ただろうか。


 親父はまるで空に羽ばたく大鷲の様な大声で問い読みをした。端から見れば全くもって訳の分からない状況だろう。第一俺もよく分かってはいない。


 ただ親父曰く、これこそが最強の勉強法であるとのことだ。


『人の記憶はエピソードと強く結び付く。例えば昨日食べた朝ごはんの献立は忘れても、先月行った家族旅行は強く記憶に残っているみたいな、そんな感じだ。つまり必要なのは記憶に残るようなエピソード、非日常性だ。お前は今まで父親が半裸で躍り狂うような地獄を見たことがあるか!?』


 ……だ、そうだ。


 無論そんな光景は見たこと無いし、見たくも無かったよ。


 だが実際効果はあって、テスト前にして俺はかなりの学力を身につけた。ただ答えを思い出す度半裸の親父が頭をよぎるという重すぎる代償を払うことになってしまったが。


「さあ箱根、答えをどうぞ!!」


 クイズ番組の司会者の様に親父は問いかける。デデン!というセルフ効果音を口にしながら。いや、それ問題出すときのヤツだし、そんな連呼するもんじゃないし。


 もはや親父がデデン!で曲を奏でる中、俺は答える。


「……バルトロメウ・ディアス。もしくはバーソロミュー・ディアス」


「正解です!!」


 ピンポン!と言いながら親父は卓球してる時の仕草をする。……親父の親父ギャグにはもう慣れたよ。


「チョレイ!!」


「うっせぇわ、馬鹿」


 そんな感じでテンポは最悪で問題は続いていく。


「第二問!!1805年10月21日にスペインで行われたナポレオン戦争における最大の海戦は何だ!!!!」


「トラファルガーの海戦」


「正解だ、箱根屋」


「はいはい、次だ次」


「第三問!!黒髭の愛称でも知られる……」


「エドワード・ティーチ」


「正解!!ゼハハハハ!」


「はい次」


「…………」


 と、ここまで問題を解いてきたが、いきなりふぅと親父が息を吐いて腰かけた。


「……ちょっと休憩しようか」


「いやまだ三問しかやってねーじゃん」


 絶対にネタ切れだろ。なんで出題範囲がワンピースなんだよ。しかもワンピースクイズとかでもなくワンピースに関する世界史問題とかすぐ尽きるって分かるだろ。


「ワンピースの好きなキャラの話でもしようぜ」


「…………」


 親父は完全にお休みモードである。俺ももう集中力が切れてしまったので、仕方なく親父に付きやってやることにする。


 まあでも、ここまで親父は俺に勉強を教えてくれたんだ。おかげで学力も上がったし、親父には世話になったから、ちょっとくらい親父の言うことを聞いてもいいかな。


「ちなみに俺はロビンちゃんが好きだ。ロビンちゃんにキ○タマをにぎにぎされたい……」


「おだまりShut up!!」


 親父に抱いた感謝の気持ちは音速を越えてどっか行き、俺は親父にラウンドハウスキックを繰り出す。俺ガイルかよ、いや、ラノベの方じゃなくてね。


 そういえば俺ガ○ル縛りで神奈川の地名クイズとかもあったな。絶対テストに出ないけど。


 親父は俺のキックなどものともせずに、マトリックスの様に華麗に躱す。裸でその姿勢はまずいですよ。


「さあ、お前も好きなキャラを言ってみたまえよ!おっと、もちろん女性限定であるからして、もしもし」


 親父は最低なポーズのままでそう言う。なんだその変なしゃべり方は。それよりまず下半身をしまいたまえよ、もしもし。


「……女性キャラで言えば、ハンコックかな」


 ハンコックは強いし美人だし、かなりの人気キャラだろう。それより親父の今の姿勢がハンコックの見下しすぎのポーズに見えてきたよ。つーかいつまで続けてんだその姿勢。


「ふむ、なるほど」


 もう親父が……よく分からん。


「じゃあ箱根、性別関係なく決めるならどのキャラが好きなんだ?」


 まだやるのかよ、ワンピース談義。


「……コラソンさんかな。ドンキホーテ・ロシナンテ。親父がこんな人だったら良かったってつくづく思うよ」


「ハハハ、そりゃあ残念だったな」


 俺が冗談めかしくそう言うと、親父は口調こそ明るく装っていたが、ガチでへこんでいた。その作り笑いがあまりに切なく、あまりに痛々しかった。


「……なぁ、親父。そんなにへこむなら、せめて瑞希の前では、良い父親でいるべきなんじゃないか」


「…………」


 ふと、親父の影を見て俺は、瑞希が消えてしまいそうに呟いた言葉を思いだして言った。


「瑞希が言ってたよ、私の前じゃ素っ気ないって」


「……確かにそうだな」


「別に瑞希のことが嫌いって訳じゃないだろ?」


「ああ、むしろ瑞希の事を考えすぎるが故に、どう接すればいいか分からないんだ」


 親父は先程までのふざけた態度とはうって変わって真剣な口調で答えた。


「年頃の女の子の感覚なんぞ、俺には全くもって分からん。だからこそこいしには女親である母さんが付くべきだと俺は思ったんだが、母さんと意見が対立して、そのまま決着がつかず、やむを得ずじゃんけんで議論を決したんだ。だけどもこれが正しかったのか今でも俺には分からない。“神様が決めたこと”そう自分に言い聞かせても、俺にはそうは思えないんだ」


 父親は子煩悩に頭を悩ませていた。


「……どれも言い訳に過ぎないがな」


「……まあ、なんだ。親父なりに色々考えてたんだな。でもこうやって俺と話してるみたいに、お互い腹割って話せばそれでいいんじゃないか?」


「……それが出来ればどれほど楽か……」


 そうして親父はまた頭を抱えるのだった。


 ……まあ、頑張れよ。俺は親父の背中を叩いた。


 ※


 遂にテスト当日の朝である。家を出る前玄関にて、家族総出で労いの言葉を描けてくれた。


「お兄ちゃん、もし勝利の女神がお兄ちゃんにチュゥしてなくても、代わりに私がギュッとしてあげるからね」


 そう言って瑞希は両手を合わせるジェスチャーをして……ってその動きは完全に首を狙ってるだろ。なるほど、勝たなきゃ殺すってか、これは負けられないな。


「箱根、頑張れよ」


「ああ、親父もな」


 そう言って俺達はサムズアップを掲げ合う。蚊帳の外の二人が首をかしげているが、男同士の秘密ってヤツだこれは。


「……はーちゃん」


 最後に母親が静かな声で、


「今までの努力は今日この日の為のものよ。……勝ちなさい」


「……はい、承知しました。母上」


 俺は強く首肯する。母親は軽く微笑んだ。


「……それじゃあ、いってきます」






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