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たまにはこんな日常?編

 

 暗澹たる気分の通学路。元気0倍アンタンマン!


 なんて馬鹿なこと言ってんじゃねえぞと、自分を律しつつ重い足を動かす午前8時。


 あの後俺は瑞希の部屋の前へと赴き、なにかと温かい言葉を扉越しに掛けてやったのだが、瑞希は俺の言葉に返事もくれず、引きこもり絶対ジャスティスと檻の中でランデブーしていた。……いや、知らんけど。


 そもそも瑞希は中学生であり、学校に行かねばならないはずなのだが、何故に学校へ行かずに家に籠って狂い咲いているのかというと、瑞希は現在学校を休学中だからである。


 決して、瑞希がオフ会0人の大物ユーチューバーであるからとか、少年革命家、否、少女革命家であるからだとかではない。決して、ない。


 最も、義務教育で休学制度たるものがあるとは露ほど知らなかったが、学校側も瑞希が著名な作家であるという事を認知しての措置らしい。


 で、あるからして、俺が瑞希を部屋から引きずり出す必要はさらさらなく、むしろ執筆作業の邪魔をしないよう配慮しなくてはならないのだが……


 ……なんだろう、あのまま瑞希を一人にしてしまうと、まるで霧のように消えてしまう様な気がしたのだ。


 そんなメルヘンを考えるような質ではないだろうと自分でも思う。だが『私を助けてくれる人なんていない』そう言った瑞希の背中が弱々しくて儚げで、まるで春の日の陽光に照らされた雪だるまのように俺は見えたのだ。


 どうすれば、溶けゆく瑞希を守る事が出来るのか、一体どうすれば……


 俺は儚げで今にも消えそうな瑞希の横顔を思い浮かべる。


 ……いや、今は考えるのはよそう。第一、あの場で瑞希を引き留められなかった俺が何をしようというのだ。


 それに、大事なテストが目の前に迫っている。テストと妹を天秤にかける訳ではないが、今出来ることを優先するべきだ。


 ……瑞希とは、帰ってからゆっくりと話し合おう。


 そう心に決め、歩く速度を1ランク上げて歩き始めた時、


「……あら?確か、箱根くん、だったかしら?」


 突如声を掛けられた。間の悪さに、俺はいやいや振り返る。


 億劫に振り返った先にいたのは、茶色のウェーブの髪、気だるげに口に煙草を加えた、……ヤンママ、というのも柔らかな表現に思える年上の女性だった。


 ……えっと、どちら様です?


「ああ、ごめんなさいね。はじめましてだったわね、わたくし、文夏の母親の、言問千代と申します」


 見た目とは裏腹に、丁重にお辞儀をする女性。彼女は言問の母親との事だった。それにしてはかなり若く見えるな。


「文夏ったら最近、柄にもなくウキウキしてて、私が何か良いことでもあったの?って聞いたら、いつもの仏頂面に戻っちゃったんだけど、これはもしや彼氏だなって私思って、こっそり文夏の日記を覗いたら、妙本箱根って名前が書いてあって、何か聞いた事があるなーって思ったら、保護者便りに写真と一緒に載ってたのよ。全国模試一位とかで。凄いなぁなんて思ってたんだけど、実際に見ても頭が良さそうね」


 人柄の良さそうな喋りにヤニの匂いが合わさって、信頼と不快感が混在している。不思議な感覚だ。


「はぁ、ありがとうございます」


 適当にふわふわとした相槌を打つ。


「……文夏、素行は悪いけど、君みたいな優等生くんが一緒なら学校でも問題無さそうね。これからも文夏をよろしくね?」


「は、はあ」


 色々と突っ込みどころはあるが、空気を読みつつ俺は溜め息と相槌とフィフティーフィフティーな返事を返す。


「それじゃあね」


 そのまま文夏の母は去っていった。


 ……言問が素行不良?ふむ、もしや家ではそうなのだろうか。未だに反抗期が抜けず、親に食ってかかってるのかもしれない。


 するとやはりグロゲー趣味も現実味を帯びてくるな。


 まあ、学校では明かさない秘密の一つや二つぐらい、誰だってあるだろう。


 その事をしっかり理解して、関わっていかなきゃな。彼女の、パートナーとして。


 ……いや、何彼氏面してんだよ。まだ付き合ってないだろ、俺ら。






 ※






 気付けばテストまで残り一週間だ。


 ここ最近は特に事件もなく、瑞希の不穏も俺の取り越し苦労で、つつがなく流れる様に過ぎ去る日々を送っていたのだが、もちろん何もしていなかった訳ではない。


 理子に勝つための特別特訓!!


 なんて言葉で言ってしまえば簡単だが、それは想像を絶する過酷さで、特訓は千代さんと出会った日から続いていた。


 学校からの帰り道、今日も今日とて特訓場へと足を運んでいる訳なのだが……


「おーい、遅いぞー箱根ー!!」


 むしろ向こうからやって来た。こちらへ疾風の如く全速力で向かってくる父親。


「……はあ」


 ……俺は一つ溜め息を吐き、今から向かうよと、駆け足で特訓場へと引き返す父親の背中を追った。





 ※






「……よし、始めようか?」


 父親の両手にはこうこうと燃える蝋燭。素っ裸の上に白い羽織だけを身に付け前すら隠せていない。


 コテージというかログハウスというか、まあ、中から見れば大したことない、六条一間の木造の小屋に立ち、


「第一問!!ポルトガルの航海者で、1488年アフリカ最南端の喜望峰にヨーロッパ人として始めて到達した人物は誰か!!!!」


 ……そう叫んだ。






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