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私は浮気されている。

 私は雪島薫ゆきしまかおる。彼氏の真司と同棲しているのだけれど……彼は最近、私という彼女がいながら、突然やって来たメス猫になびいてしまった。


「よーしよしよしよし、んにゃー、んにゃー」


 真司はだらけ切った表情で、猫じゃらしで子猫と遊んでいる。


 そう、私の彼氏を奪ったのは、何を隠そうこのメス猫だ。


 名前はブチ。どう見ても三毛猫なのだが、彼はこの猫をそう呼んでいる。どういうネーミングセンスだ一体。


 ブチが「にゃー、にゃー」と言って猫じゃらしに必死に猫パンチを浴びせている。しかしふっさふさのじゃらしはブチのパンチをいなし、のらりくらりと攻撃を避けている。


「うふふ、かーわいいなぁ、ブッチー」


 真司は笑いながらそう言う。


 くっ……悔しい! 彼のあんな顔、私今まで見たことない!


 なんで!? 高校生の頃から付き合っていて、今までずっと一緒にいたのに!


 楽しいこともあった、辛いこともあった。でもそれを全て乗り越えて、社会人にもなって、もうそろそろ結婚の話もなんて思っていた矢先に! これを浮気と呼ばずしてなんというのか!


 私は彼からこんな表情を引き出したブチに嫉妬していた。そうよ、嫉妬よ! 彼の全てを知った気になっていた私に、こんな悲しい現実を突きつけた猫への嫉妬! バカらしいと笑うなら笑うがいい、私はそれでも悔しかった!


「薫〜、お前もこっち来いよー。ブチ、かわいいぞ〜」


「うん!」


 真司に呼ばれて私は惚気顔のまま、吸い込まれるようにブチの元へと来た。


 真司が私の隣で猫じゃらしを振る。隣から彼の香りが漂ってくる、ああもう、本当に好きぃ!


「薫、ほら、猫じゃらし。お前もやってみなよ」


 マタタビでも決めたんじゃないかってくらい恍惚とした彼が、私に猫じゃらしを渡してくる。私はそれを受け取って、とりあえずブチの前で振ってみた。


「にゃー、にゃ! にゃにゃにゃ!」


 ブチは漫画のラッシュパンチみたいに前足を繰り出した。


 くっ、予想以上にかわいい。でもダメよ、この子は泥棒猫。私が心を許したら、もう全て取られちゃう!


 と、ブチが「んにゃ!」と言って前足を出した途端、バランスを崩してコテンと転がってしまった。


「やーん、かわいいー!」


 気付けば私はブチを抱いていた。真司が「あ、後で俺にも!」と縋ってくる。


 そう、きっとこれが最適解なのだ。奪い合うのではなく、分け合う。私はこの瞬間、真司からの愛を、この子と一緒に共有することに決めた。

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