第7話 亜空銃士 VS 破砕棍【前半】
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「逃げずに来たな」
翌朝、教室へとやってきた和真たちは、顔を合わせて早々、井頭仙樹に挑発された。
昨日までのセラだったら、きっと挑発に乗っていただろう。
しかし、今のセラは違う。
亜空銃士を手にしたセラはゆっくりと仙樹に迫る。
「先に言っておくわ。今日の私は今までと違って魔導を使う。
もし、予科生の時の実技結果を宛にしているのなら、無意味だから今のうちに忘れないさい」
井頭は一瞬、驚いた顔をしたが、和真と学院長の昨日の発言を思い出したのか、納得したような顔に変わった。
「緋堂。宇津井が魔導を使うのは――」
「お察しの通り、セラは魔術より魔導を極めたほうが大成すると思ったからだよ。
それに、セラが使う魔導は君の知る魔導とは違う。
完全オーダーメイドの術式がどういうものか、直に触れて体験してみるといい」
「待て。完全オーダーメイドだと?」
「ああ。セラが扱いやすいよう、俺が一から調整を加えた。
ちなみに、1級術式調整師免許も持ってるぞ」
実は、魔導師の扱う術式は市販のものを、自分で自分用に簡単な調整をしたものが多い。
完全オーダーメイドは基本的な術式や、まったく新しい術式を依頼主専用に完全カスタマイズした術式のことを指す。
紫法堂は愚か、1級術式調整師に頼むだけで、平民には払えないほど莫大な費用がかかる。
しかし、和真は自らそれをしたとし、本物と思われる免許まで見せられれば、それらが嘘ではないことは一目瞭然だ。
仙樹も卑怯だとは思わない。
和真はセラを一人前にすると言っただけで、その手段に関しては言及していなかったからだ。
それに加え、金に物を言わせたのではなく、自ら調整を加えたとなれば文句の言いようがない。
ホームルームの時間になり、瑞恵が入ってきたことでお互い席につく。
その後、瑞恵から案内があり、全員で訓練場へと移動した。
研究棟の地下とは違い、屋外に設けられた訓練場はスタジアムの様な形状をしている。
実際、年二回ほど開催されるトーナメント式の試合の会場になるのだからあながち間違いではない。
訓練場に着くと、セラと仙樹が中央で向き合う。
他は観測室に集まった。
別に全員が観測室に集まる必要はないのだが、セラの術式が完全オーダーメイドだとすれば、和真の説明は観戦する瑞恵や零組の面々には必要不可欠だ。
そして、和真としては魔工師の面々がどんな分析をしてくるか興味があったため、観測室に一緒に入ろうと決めていた。
そのため、必然的に全員が観測室に集まることになった。
部屋は特別大きい訳ではないが、観測器が設置されているため、それなりの大きさがある。
普通のクラスでは手狭になりそうな広さではあったものの、零組はそもそも人が少ないため大した圧迫感はなかった。
「それじゃあ、授業初日から早速だけど、希望のあった仙樹くんとセラちゃんの模擬戦を始めるよ!」
一瞬、セラの顔が強張った様に和真には見えたが、案外、ちゃん付けで呼ばれたことに何か思うところがあったのかもと思い直す。
正直なところ、和真は余程のことがない限り、今回に限って言えば亜空銃士を持つセラが負けると考えていない。
それは、世間一般的に見て、斬新なアイデアによって生み出された物だからだ。
実際、特殊魔法兵装の製造は、理論こそ紫法堂や御位堂も知っているものの、その特異性から大量生産は出来ない。
そのため、使用者は極一部のテスターに選ばれた者だけ。
初めて対峙した場合に、発動速度と汎用性に付いていくのは難しい。
経験豊富な国防軍の軍人や警察なら話は別だが……
だが、だからと言ってセラが優位に立てるかと言えば、立たせる気が和真にはない。
「魔工師志望の二人は模擬戦システムの使用方法を知ってるか?」
「い、いえ。じ、実は観測器を使うのも始めてで……」
そう返事を返したのは、魔工師志望の女子だった。
ロングおさげな髪型をした彼女の名前は白井燐。
観測器の操作パネルの前に座ってはいるが、瑞恵に負けないほど小さく、微妙に手が届いていないようにも見える。
「少し貸してみろ」
流石に見ていられなくなった和真は、操作パネルを操作し始める。
燐に指示を出しながら幾つかの操作を終えると、仮想ディスプレイを展開するように言う。
燐が仮想ディスプレイを展開すると、そこには操作パネルと同じものが縮小表示されていた。
「それなら、操作出来るだろう?」
「は、はい! あ、ありがとうございます」
そして、和真は別の操作パネルの前に座ったもう一人の方を見る。
……寝ていた。
すやすやと寝息を立てて、これから観測をしないといけないという緊張感もなく、ただただ、寝ていた。
「緊張感がない奴だな……」
「あ、あはは――試合が始まれば起きて観測してくれるはずなので、多めに見てもらえませんか?」
燐にそう頼まれれば、和真は仕方ないと頷くしかない。
その分、燐にしっかりと観測を行うように釘を刺して次の操作を始める。
「今日は俺がやるが、他のやつも今後の模擬戦時に操作できるように流れを見ておいてくれ」
そう言って、和真は審判用の制御パネルの前に立つ。
そして、マイクの電源を入れれば表にいる二人にも声が届く。
「二人とも聞こえるか?」
二人が頷きを返す。
何故、このような問をしたかと言えば、決闘と違い模擬戦は進行役という者が存在する。
そのため、進行役は模擬戦を行う両者と意思疎通が出来なければいけない。
「いいか? 模擬戦システムは零組用に用意されたシステムで、決闘システムと大きく違う点がある。
それは、試合をする者同士だけでなく、進行役――スポーツで言うところの審判に当たる者が存在すること。
試合におけるチップや追加ルールなどを定めるのが進行役の役目と言ったところか」
「し、質問いいですか?」
「ん? どうした白井」
「それって、片方に肩入れしたようなルールにしたり出来るってことですよね?
決闘システムと比べると欠陥だらけの様に思えますけども……」
確かに普通に考えれば欠点だらけだ。
しかし、決闘システム同様、帝国魔術学院特有のシステムだとすれば話は別だ。
「確かに白井の指摘通り、普及させるには問題のあるシステムだ。
しかし、決闘システム同様、帝国魔術学院それも京都で、かつ学院長である獅子堂八重の監視のもとでしか扱えないとすればどうだ?」
獅子堂の魔術師としての歴史は、他の五大堂家に比べると浅い。
しかし、他の五大堂家から注目を集めるのには理由がある。
魔術師としての歴史に武人としての歴史を継ぎ足すと、同等かそれ以上の歴史を持つ一族なのだ。
また、武人としての歴史は日本最古参であるため、正々堂々を体現する一族でもある。
八重の管理下のもと不正の一つを働けば、家の一つや二つは余裕で消える。
その勢いは五大堂家の当主が全員で諌めてようやく止まるか止まらないかだ。
何せ、獅子堂の人間は門下生を含めて、全員が正論しか言わないのだから、反論の余地は一切ない。
実を言えば海藤の当主が慌てていたのもこれが原因だったりする。
「という訳だ。ちなみに、現時点でこの模擬戦システムが使えるのは、俺たち零組だけだ。
個人で使用する際は、必ず獅童先生経由で獅子堂学院長に使用申請をすること。
前置きはこんなものでいいだろう。早速だが、模擬戦を開始する。
魔導師代表は井頭仙樹。魔術師代表は宇津井セラ。
戦闘時間は無制限。チップは勝者サイドから零組委員長を選出する。
勝利条件は……」
――相手を認めさせること
観測室にいる全員が和真を見た。
模擬戦システムは進行役が勝利条件を設定できる。
本来であれば、事前に両者と話し合って決めておくものなのだが、和真はこの条件を付けるためにあえて話していなかった。
何を持って勝利とするか分からない曖昧な条件を突きつけられ困惑する二人を他所に、試合の開始が告げられる。
「試合開始」
二人は訳も分からないままに衝突した。
【後半に続く】
いよいよ模擬戦なんですが、後半の更新は未定です。
なるべく早めに投稿します。