閑話 私、おじゃま虫?
おまけです。
本編とそんなには関係ない感じ。
暇つぶし程度に読んでください。
調整が終わった。
このデバイスは本当に凄いと思う。
和真にそう伝えると本人は「それは失敗作だ。セラの異能の力があって、ようやく構想通りの性能を発揮する。ある意味で真似が出来ないデバイスにはなったがな」と謙遜していた。
実際、デバイスの構想理念と性能を照らし合わせれば、そう言うのも仕方のないことかなとは思う。
だけど、それでも魔導処理に魔術処理を組み込ませるという発想は凄いと言わざるを得ない。
魔術と魔導は相反するものだと考えられているから。
私自身、和真にこのデバイスを渡されるまでは考えたこともなかった。
この亜空銃士を使うには、大まかに三つの工程がある。
一、光線を放つ魔術式を処理して発動する
二、亜空間への扉を開く魔術式を処理して発動する
三、亜空間の出口を開く式を処理して発動する
三つ目だけ、魔術処理になるのだ。
しかし、私には自由に使える異能があるため、三つ目の処理で魔術式に盛り込む空間座標を即座に用意出来る。
そのため、今まで使っていた魔術と違い、魔術処理が瞬間的に完了できるようになり、発動速度も攻撃方法も劇的に進化した。
四方から攻撃可能で、威力もプログラム次第で調整可能らしいし、全方向完全防御をしない限り、私の攻撃を凌ぐ術はない。
更に言えば、例え障壁を展開しても、その内側に出口を設定出来るから、ゼロ距離に纏わないと防ぐことが出来ない。
中々に凶悪な仕様ではあると思う。
とはいえ、弱点がないわけでもないって言われた。
それは、敵に無理にでも接近された場合に、武術の心得がない私はデバイスを撃ち落とされる可能性があるということ。
または、相手も遠距離系の装備をしていた場合に、デバイスを狙い撃ちされる可能性があるとのこと。
今の私は無駄がなくなっただけで、強くなったわけではないし、処理が上手になったわけでもない。
気休め程度の障壁くらいなら術式で対応可能と言われたけども、今の私にはデバイスを二種類使いこなせるほど処理に余裕があるわけじゃない。
あくまで同一のデバイスだから二つ使えているだけに過ぎない。
それもこれも、この指輪に刻まれた呪式のせい。
呪式って聞いたことがなかったのだけど、なんか、常に魔力を吸って勝手に装着者の処理能力を用いて常時発動する式のことらしいのよね。
和真によると――
『呪式って言うのは、達人クラスの人間が修練のために枷を付ける時とかに使うもので、魔術や魔導とも違う呪いの一種だ。
一々、作り変えるのも面倒だからと使われている傾向にある。
ほら、一定値のステータスになるような呪いなら、どれだけ鍛えて強くなっても、呪式を使っている間は一定のステータスになるから楽だろ?』
私の先祖は江戸幕府からの追放以後、注目されすぎてしまったために、子孫からも異能の存在を隠したのではないかと和真は分析していた。
だからこそ、呪式を使い、宇津井の式として継承させることで、全員の空間把握能力をそれなりの力になるように抑えたのではないかと。
確かに、魔術師として名を知られていた頃の宇津井家は、外から優秀な魔術師の血を取り入れていたみたいなことを聞いたことがある。
純粋な宇津井の血は魔術師として優秀とは言えないとなれば、私が魔術を得意としないのも頷ける。
「さて、意外と早く終わったな。
部屋に戻って明日に備えよう」
和真がそう言うと、涼華も戻る準備を始めた。
確かに大分慣れた気はする。
正直に言えばもう少し練習しておきたかった気はするけども、明日が不安だからと根を詰め過ぎるのもよくないでしょうね。
部屋に戻るとテーブルの上に一つ置き手紙があった。
『注文通りの食材を冷蔵庫に入れておきました』
そう書かれた手紙を遠目に見た和真が冷蔵庫を物色し始めた。
「どういうこと?」
「どうもこうも、事前に頼んでおいた食材を持ってきてくれたんだろ。
研究棟には何人かお使いを頼める家政婦的な人たちがいて、軽食を作ってもらっている教員も多いらしい」
そう話しながら和真が食材を取り出した。
手を洗ったと思うと、おもむろに包丁を取り出す。
どうやら、和真が料理を作るらしい。
まぁ、涼華が何も出来ないことは知ってるから、状況的に私か和真しかいないわけだけども……
「そう言えば、涼華の専属は決まらなかったの?」
ふと、ずっと疑問に思っていたことを聞く。
教室で専属の代わりがいるからとは聞いていたけど、多分それは和真のことなんでしょうね。
「何人か候補は来たけど、和真の方がいいから全部断った」
「はい?」
「涼華に良さそうな人を何人かは見繕ったんだが、少し話すなり全員断りやがったんだよ」
和真が調理をしつつ呆れたようにため息をついている。
えぇ……
気に入らないというよりは、和真がお気に入りって感じなんでしょうね。
婚約者なのは分かるけども、恋人でもそこまで依存しないんじゃないかしら?
「というわけで、セラにもたまにでいいから涼華の面倒を見て貰えると助かる。
流石にこの歳で何もかもとはいかないからな」
「そこで素直に頼ってくれて嬉しわ。
元々、色々と面倒は見てあげてたし、任せておいて」
事情は聞いていないけども、涼華の前の従者は三ヶ月ほど前にいなくなった。
噂によれば亡くなったそうなんだけども、何となく聞くのが憚られて聞いていない。
それ以降の春休みに入るまでの短い期間は自宅から通っていた涼華だけども、学院内は私が面倒を見ていた。
何だかんだで三年の付き合いになるから、そこら辺はお手のものよ?
和真が料理をしてくれている間、私は何をしていたかと言えば、異能の力を制御する訓練をしていた。
私の空間把握能力は無意識のうちに常時発動している状態で、自分の意志でオンオフ出来ないのよね。
そのことを相談してみたら、魔力の流れを掴むと制御しやすいと言って一つの棒が渡された。
この棒には魔力を通す見えない脈があって、空間把握能力を持ってしても、その脈の全容は見えない。
魔力を流し込みながら、脈の構造を理解して、棒全体に魔力を行き渡らせられるようになれば、自分の中の魔力を扱うのも無駄がなくなるらしい。
そうすれば、より複雑な制御の必要な異能もオンオフ出来るんじゃないかということだ。
というのも、異能は本来であれば感覚的にオンオフ出来るものなんだとか。
私の場合は力を強く受け継いだせいで、上手く扱いきれていないんだろうって和真は言っていた。
もしかしたら、そのせいで呪式に割り当てられている処理能力も大きいのではないかとも言われた。
つまり、異能の力をマスターすれば、異能を抑えるのに使っている処理能力が返ってくるから、他の魔術や魔導に回せる分が増えるということ。
私はまだまだ強くなれる。
そう思うと少し安心した。
それから暫くして、机の上には夕食が並べられた。
メニューは和食。どれも美味しそうだ。
一口食べてみる。
「おいしい……」
魔術に関する知識を多く持ちながら、料理もこれほどの腕前。
なんか、世の中って不公平よね。
食事を終えれば、部屋に備え付けられていた風呂を勧められる。
流石に寮の共同浴場と違ってただのシャワーだったけども、部屋で汗を流せるのはありがたい。
和真は洗い物をするからと、涼華を私に押し付けて台所に引っ込んでしまった。
まぁ、流石に涼華の髪を洗うのは私しかいないものね。
風呂から問題なく上がれば、和真がドライヤーを用意していた。
「二つ?」
「二人共髪が長いから、早く乾かさないと風邪をひくだろ?」
そう言って、和真が一つを私に押し付けてくる。
自分の髪を乾かしてろってこと?
涼華が着替えを終えて浴室から出てくると、和真を見るなりおもむろに目の前に座った。
和真も最初からそのつもりだったのか、慣れた手付きで涼華の髪を乾かし始める。
涼華の顔はどこか落ち着いていて、心地よさそうにすら見える。
なんだろう。この疎外感。
あれね。私って完全におじゃま虫じゃないかしら?
更新少し間あくかもしれません。
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