第6話 セラと空井と異能と【後半】
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あとがきは解説入ってるので、相変わらず長いですが仕様です。
セラは渡された二つの銃を両手に一つずつ持ち、細部まで造りを見る。
「亜空銃士。俺はそう呼んでいる。
俺が幾つか作った特殊魔法兵装の一つだ」
魔法とは何度も言うように、魔術と科学によって生み出された魔導の先にあるもの。
それは東洋魔術の深淵であり、未だ至った者は一人として存在しないとされる。
異能者はそういう意味で、最も深淵へと近づいた者ではあるが、結局のところ、深淵たる魔法師になりえない時点で変わらない。
それがここに来て、魔法なんて単語が聞こえれば平常心を持つことなど出来ない。
だが、魔術に縋るのをやめ、新たな力を求めるセラには、それこそ魔法のような言葉に聞こえた。
「セラは魔法とはどういうものだと思う?」
「あまり考えたことはないわね。
魔術と魔導の先にあるものっていうのは分かるけど」
「その認識で間違いではないな」
魔法とは魔術のような汎用性を持ちながら、魔導のような発動速度を保持した技術とされる。
魔術の汎用性とは式の計算中に別の式を織り込むことで、まったく別の答えを導き出す行為から生まれ、魔導の発動速度は決まったレールを完走することで生まれる。
つまり、現時点で魔法というのは、全ての可能性を最初から術式に書き起こして置く必要があるということになる。
また、魔法技術のもう一つの可能性として注目されているのが、発動体やデバイスが必要ないということだ。
異能者を見れば分かる通り、体の中に式を織り込むことで可能とされる。
しかし、全ての可能性を術式に起こすということは、この世界に無数に広がる平行世界の全てを認識することと同義だ。
普通に考えて不可能だ。
また、途方もない数の術式を遺伝子情報に盛り込むなど、人間の体はそこまで万能ではない。
脳に書き込むという方法も考案されたが、研究の最中、被験者が人としての全てを奪われた人形と化すことが判明し、研究は凍結されたとされる。
「この特殊魔法兵装は、今ある魔法という概念に沿って俺や知り合いが一緒になって開発した代物だ。
部屋で話していた処理の話はここに繋がるわけだ」
「処理の話って、まさか、魔術で無意識にしている処理を術式化してデバイスにプログラムするってあれのこと?」
「その通り。取り敢えず、さっきの戦闘データから術式の処理書式を変更しておいた。
今の亜空銃士には魔術としての側面と、魔導としての側面を持った術式が織り込まれている」
魔導の処理とは予め用意された術式に沿って、演算処理することを指す。
そこに別の術式を最初から織り込む前提で、術式をプログラムすることによって、常に変化をする術式を生み出したのだ。
「この術式には一つだけ欠点がある。それが、生粋の魔導師が使おうとすると、別の術式を組み込む演算処理に時間が掛かるということだ。
だが、セラは今までの経験から、必要最低限の魔術処理が行える。
基本的な魔導処理で全てを進めつつ、割り込ませる術式のみ魔術処理の要領で行うことで擬似的な魔法現象を処理することが出来る」
とは言うものの、言うほど簡単ではない。
処理方法が途中で変わるのだから当然とも言える。
しかし、今回の術式に関しては、セラなら問題ないと和真は考えていた。
それは、セラの持つ異能が関係している。
セラの空間把握能力の場合、遺伝子情報に刻まれた空間を把握するという魔術式を遺伝子情報から読み取り、魔導処理を行い発動している。
対し、和真の用意した術式は二種類に分かれている。
「最初の術式は光線を放つ術式だ」
和真は懐から別の銃型デバイスを取り出すと、それを部屋の端へ向けて引き金を引く。
和真が引き金を引き切るよりも早く――狙いを付けていた壁が爆散した。
「い、今のは?」
「言ったろ。光線だ。
術式は一般的に出回っている軍事術式を、誰でも扱えるように改良して用いている。
本来は魔導アーマーの主兵装に用いられるレーザー兵器に使われるものだが、威力を低下させ、こういった持ち運び可能なサイズのデバイスに書き込んだんだ」
「もう驚かないわ……」
軍事術式は公開されているわけではないが、五大堂家や紫法堂家と関わりのある魔工師一族には提供されている。
和真がそれらの術式を見れるようになってからは、わずか三ヶ月しか経っていない。
軍事術式は並列駆動式大型デバイスを用いれるため、普通ではありえない程の膨大な記述がされていると聞く。
それを個人用に書き換えるなど、とても一人で出来る作業ではないし、ましてやたかだか数ヶ月で行えるものではない。
「でも、ただ真っ直ぐしか撃てない術式は、すぐに対策されるわよ?」
「当たり前だ。だから言っただろ、最初の術式はって」
そう、和真が用意した術式は二つ。
つまり、誰でも扱えるこの術式は、亜空銃士の切り札ではない。
「亜空銃士。そいつの術式の売りは光線ではなく、亜空の扉を生み出すことにある」
「そんなこと可能なの?」
一般的に亜空間と呼ばれるものは、ワープや瞬間転移と言った名で知られる。
転移魔術を研究する課程で生み出された理論で、どちらかと言えば科学の領分になる。
ただし、まだ実現してないとされる。
「実現していないっていうのは、情報が変に広がっているだけだ。
正確には、人を転移させる転移術式が実現していないのと、超遠距離移動が行えないということだ。
この空間での極短い距離における物体転移は今の技術で十分行える。
魔術処理によって割り込ませる魔術は、亜空間を生み出す魔術だ」
「私、魔術処理は落ちこぼれなのだけども?」
「俺は、どうやって魔導を発動してるって言った?」
「無意識に行っている魔術処理に合わせて術式を――え? そういうこと?」
これが和真の秘策――魔術処理を軽減させるために、亜空の扉を生み出す処理に関しては術式によるサポートを付けるということだ。
そして、亜空の扉は銃の目の前に一つと、出口となるもう一つをどこかに生成する必要がある。
「この出口となる扉の生成座標を魔術処理で術式に組み込む。
座標の指定はセラの異能があれば簡単だろう?」
「それって、私はこのデバイスを引きながら、どこから対象を狙いたいか考えればいいってこと?」
セラの導き出した答えに、ニヤリと笑みを浮かべた和真は突然、セラの手を掴み、強引に引き金を引かせた。
「ちょっ!?」
しかし、何も起きなかった。
当然だ。
光線が発生してから、亜空間へ飛び込むまでは術式制御なのだから、絶対に当たらない。
放たれた光線は亜空間を彷徨い。扉が閉まれば魔力の供給を失いやがて消滅する。
「魔導師との戦いにおいて、発動速度で劣る魔術師が勝ち筋を見出すなら、その汎用性を最大限に活かす必要がある。
逆に、魔導師が魔術師に勝つには圧倒的速度で、魔術師の魔術発動を妨害し致命傷を与える必要がある。
基本的に一つの術式しか用いれないために、第二次世界大戦に用いられた兵器のような、単調な攻撃になりやすい。
だからこそ、変化を与える必要がある。
セラが武術の一つでも心得があれば、別の方法もあったが、異能の力を使う気があるのなら、これが一番の近道だろう」
そう言って和真は手にした端末を操作する。
和真の背後には六つの的が現れた。
正面は全てバラバラで高低差もある。
更には障害物も設置され、まるで戦場を想定したような配置だ。
しかし――次の瞬間には、全ての的が正面から撃ち抜かれていた。
「なんだ。説明は不要か」
「お膳立てはして貰ったから。
亜空銃士――私にピッタリのデバイスね」
「気に入ってくれたのなら良かった。
それで、明日は?」
「絶対に勝つ」
その後、幾つかのシチュエーションを用意しつつ、亜空銃士の術式調整を細かく施す。
準備は万端。
あとは、明日の決闘でセラが今出せる全てを出すだけだった。
「ところで、結局、私が倒れた理由は?」
「セラ自身が自分の異能を制御しきれていないんだろうな。
指輪の呪式で常時、抑制魔術を発動させることで、異能の力を抑え込んでいるようだ。
逆に言えば、意識して異能の力を制御できるようになれば、抑制魔術に使う魔力を回せる分、戦闘における魔力使用許容量が増えるし、異能の力が強くなればサブデバイスで別の戦略を展開することも出来るはずだ」
セラは一つ安心をする。
私はまだまだ先へ行けるのだと。
止まっていた時間がまるで動き始めたかのように、セラの向上心はただただ前へ前へと向かい始めていた。
【to be continued...】
何とか間に合いました。よかった……
内容に関しては、正直自分でもこんがらがりそうな感じに仕上がってます。会話文多いのは仕様です……
おかしいな……「星の花」だった時も、実際に書き始めてからもこんな面倒な設定になる予定なかったのに……
何で、Wikipediaと睨めっこしながら書いてるんだろう?
というわけで、亜空銃士と呼ばれる新たな特殊魔法兵装なんてデバイスが出てきました。
攻撃自体は単純で、人には認知できないほどの速度で直進する光線です。
しかし、亜空間による転移を利用することで、デバイスの銃身が向いている方向とはまるで違う方向から攻撃が出来るという仕組みです。
そもそも、ワープとは色々なものがあり、今回の場合は空間歪曲型ワープで書いています。
宇宙戦艦ヤマトが使用するワープもこれに該当するそうです。
よくある例えをするなら、二つの点を重ねて穴を開けると一瞬で移動できるという感じです。
作品例を挙げるなら「賢者の孫」の魔法“ゲート”や「異世界はスマートフォンとともに。」の“ゲート”――仕方ないこととは言え、有名作と言ってもどうもネーミングが似ますね……
攻撃形態は少し違いますが、ある意味で「魔法科高校の劣等生」の七草真由美の使用する“魔弾の射手”に近いです。
攻撃の発生源を設定する魔弾の射手と違い、発生源をそのままに攻撃が歪曲するというイメージですかね。
なので、四方から攻撃されるという意味では一緒ですが、司波達也からすれば攻撃の発生源が一つの亜空銃士の方が対応しやすいということになります。
最も、この亜空銃士は術式と術式を掛け合わせて出来ているという特殊なものです。
何故、魔導師が術式と術式を掛け合わせてなんてことをしないかと言えば、術式を重ねれば重ねるほど発動が遅くなるからです。
それに、どれほど術式を格納し重ねたとしても、即興が出来る魔術に汎用で叶うことは絶対にないのですから、無意味に重ねるだけ無駄という……
速度を重視する魔導師としては邪道な一手。
果たして、決闘の行方はどうなるのか?次回――と、言いたいところですが、疲れたので、次回は私の息抜きを兼ねて閑話を書く予定。
普通に、セラ視点でお泊まり会の話を書こうかと。
なお、明日の更新は資料集のみとしておきます。
自分でも馬鹿か?って言いたいくらい、魔術やら魔導やら異能やらと出てきましたから、本編では書いてない私自身のイメージも含めて書ければと思います。
あと、多分、今回と前回の更新分は修正入れる。魔導処理に関して少し設定を変えようと思ってるので(汗)
詳しくは明日の更新ってことでお願いします。
では、また次回。