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第4話 零組集結【後半】

「いい加減にしたら?」


 尚も和真に喰い付く仙樹に、静止を掛ける声があった。

 涼華の隣に座る紅い目と黒髪の少女の名前は宇津井セラ。和真がずっと不思議に思っていた少女だ。

 妙に、涼華と親しそうに見える。

 涼華は従者がいないと生活が成り立たないところからも想像が出来る通り、何でもかんでもいい加減、あるいは、ものぐさであるため、本当の友達は余程の物好きだけだ。

 容姿や家柄、成績の関係で人気者ではあるものの、あくまで表面上での話というわけだ。

 セラが物好きな人間であることは、首を突っ込む必要もないことに首を突っ込んでいることからも伺える。

 もしかしたら、彼女も遥輝の配慮でこのクラスに配属されたのかも知れないと考えた和真は、余計ないざこざに巻き込んでしまったと反省する。 


「学院長がどういう理由で貴方や私をこのクラスに入れたのかは分からない。

 だけど、今朝のあれを見れば分かる通り、緋堂和真の実力は本物よ。涼華の実力は言わずもがな。

 だけど、私や貴方はどう? 少なくとも、実技だけで見ればどう考えても落ちこぼれの部類よ」


「お前と一緒にするな。俺はお前より強い」


「はぁ……、どんぐりの背比べって言葉を知らないのかしら?」


 仙樹の矛先は気がつけばセラに向く。

 セラは自身が魔術を上手く扱えないことに対し、大したコンプレックスを抱えている訳ではないようだが、仙樹の方はどちらかと言うと自身の実力を認められないといったような印象を受ける。

 二人が暫く睨み合ったのち、和真が口を挟んだ。


「なら、俺と一緒だ。決闘で決めよう」


「何?」


 声に出したのは、落ち着きのない仙樹の方だった。

 セラは特に驚いた様子もなく、決闘が手っ取り早いと考えたようだ。


「チップは、委員長に魔術師と魔導師のどちらを添えるかだ」


「おい勝手に――」


「なんだ、諦めて俺に任せる気になったのか?

 そうでないなら決闘で決める。これは現時点で委員長を担う俺の決定だ」


 和真がそう言い切ると仙樹は黙った。

 元を辿れば、仙樹が文句を言ったために始まったことだからだ。

 拒否権はないも同然だ。


「今日は入学式で午前中に終了するから、決闘は明日の午前中に執り行う。

 担任と学院長には、俺の方から話を通しておくから安心して欲しい。

 対戦相手は宇津井セラと井頭仙樹だ」


「え?」


 突然の指名に驚くセラ。

 普通であれば和真が引き続き決闘を行い、仙樹と白黒付けるのが最善だろう。

 しかし、和真はどうせ巻き込んでしまったのだからと、セラを更に巻き込むことに決めた。

 会話を聞く限り、セラも偶然、零組に配属された訳ではなく、落ちこぼれレッテルを貼られているから来ているのだ。

 ならば、やりようは幾らでもある。


「どうした宇津井。お前と井頭が喧嘩をしたのだから当然お前がやるべきだろう。

 大体、井頭は海藤を追い詰めたことがあるのか? 俺相手になんてやるだけ時間の無駄だ」


 毒舌な発言ではあったものの、仙樹としても図星であったために何も言えない。

 それに、幾ら力を誇示する仙樹でも、自身と海藤や和真との実力差は理解している。

 そう考えれば、セラとの対戦は相手が弱くなるのだから願ったり叶ったりだ。

 とはいえ、仙樹も手放しに喜べる状況ではないと感じていた。

 ハンデともいうべき、この状況。

 何かしらの要求を魔術師側からされても断り切れない。


「井頭」


「な、なんだ?」


「お前は宇津井より強いんだよな?」


「……当たり前だ」


 セラの実家である宇津井家は、そこそこ長い歴史を持つ家系ではあるが、すでに没落した魔術師一家というのが世間の認識だ。

 当然、仙樹もそう思っており、実際に実技も大したことがなかったと記憶している。

 かと言う自分も、実技は得意ではないが、生粋の魔導師であるが故に、少なくともセラよりは強いと自負していた。


「なら、一日だ。明日の午前までに俺が宇津井を一人前にしてみせよう。

 間接的ではあるが、これは俺とお前の勝負だ。

 宇津井が勝てば俺が、お前が勝てば魔導師たちの中から誰かが委員長を務めればいい――異論は?」


 特にないのか無言で頷く仙樹と、これで一先ず安心かと安堵する和真。

 そこへ、担任教師がやって来たため、全員が大人しく席に着いた。

 ただ一つ気になったことと言えば、その担任が教壇に立っているにも関わらず、教卓が高いせいで、頭のてっぺんとアホ毛がちょろっと見えるだけということだろう。

 

(はっきり言って小さ――)


 唐突に悪寒を感じた和真は、それ以上の思考をやめた。

 喋り方まで何処か子供っぽい彼女が、学院長の教え子にして零組の担任だ。

 ただ、あの獅子堂八重が担任に据えたのだから問題はないのだろうと、和真は一人納得する。

 反応はそれぞれで、涼華は興味を示さず、御影は知っていたのか、和真と大方同じ反応だ。

 他は言うまでもなく混乱している。


「ちょっと、君たち? 私はこれでも成人してるし、正真正銘の大人なんだよ!?

 それを、『小学生が教室間違って紛れ込んできたのね。どうやって、先生に説明しようかしら?』みたいな反応とか、普通に失礼なのよ!」


(失礼も何も、まさにその通りなのだが……)


 ただ、確かに見た目に反して、凄い気を纏っている様に見える。

 流石、獅子堂八重の教え子と言ったところだろうか?

 少なくとも普通ではない。

 何せ、この教師。教卓が高いのが使いにくいと感じるやいなや、手刀で教卓を半ばから切断し、高さを半分にしてしまった。

 本人は満足げに、そして「どうだ、見たか!」とでも言いたげに胸を張る。

 身長に対して大きいかと言えば、むしろ断崖絶壁。何も考えずに胸を張るせいで、むしろ、微笑ましい。

 無論、本人は気付いていないのか、ドヤ顔のまま教卓の上に、名簿やその他もろもろを置いた。

 魔術を使っているとは言え、教卓が斜めになることなく、水平かつ綺麗に手刀で切断出来ている上に、それを一瞬でやってみせたのだから見事としか言いようがない。

 しかし、それでも彼女は一つ失念している。

 それは、教卓が小さくなったせいで、余計にままごとに見えるようになってしまったことだ。

 やはり何処か抜けている。

 学院長がここにいれば、腹を抱えて笑ったことだろう。

 実際、自分たちよりも遥かに技量があるとは理解したものの、クラス全員が苦笑いをしている。

 だが、本人は気にした様子もなく、ホームルームの進行を続ける。


「さてと……まずは、自己紹介かな?

 私の名前は獅童瑞恵(しどうみずえ)。この学院の学院長・獅子堂八重の一番弟子だよ!

 今日から零組の担任を担当するからよろしく〜」


(なるほど、教え子(・・・)ね……)


 和真は判断を誤ったことを反省した。

 学院長の教え子と言うから、それなりの人物が担任を務めるのは、考えずとも最初から分かっていた。

 しかし、それがまさかあの“獅童”とは思いもしなかった。

 むしろ、獅子堂の血を引かない八重が、獅童の名を弟子に与えることが出来たことに、和真は驚きを隠せない。

 同じ五大堂家にとっても、獅童とはそれ程に特別な家名なのだ。

 何せ、獅子堂が面倒を見ている全国の門下生の中でも認められた三名にしか、“獅童”の名前は与えられない。

 獅童と名乗った時点で、五大堂家の一角を担う獅子堂と、ほぼ同等に匹敵するであろう実力と能力を備えているということだからだ。

 にも関わらず、学院長は当主でもなんでもない和真を頂点に据えた。

 幾ら五大堂家の人間であろうとも、たかだか一学生に“獅童”の名を持つ者も従えろとは、流石に無理にも程がある。

 和真が『早まったか?』と感じてしまうのも、無理からぬことだ。


「次は、みんなの番だよ?」


 そう和真が思考している間にも、瑞恵の自己紹介が終わった。

 無邪気な笑顔を向けられて自己紹介を促されれば、断れる者など一人もいなかった。


【to be continued...】

ストックがなくなってきたので、明日からは1部ずつの更新になります。

毎日16時更新予定。

よろしくおねがいします。

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