説明なんて言葉で充分なのです
疲れた日には寝るのが一番。たぶん直ぐに眠る事が出来るだろう。翌日の朝までに疲れが無くなっていれば、とても良いことなのだが、なかなかそうはいかない。
さてここで一つ。朝の目覚めはどうしているか。普通の家庭では目覚まし時計を使用するだろう。あるいは起こしてもらう人もいたり、自然と起きてしまう人なんかもいたり。
なんにせよ人それぞれ。そんな中、長谷川和也の目覚めは‥‥
「‥‥‥‥んっ‥‥‥」
爽やかな朝日でも、小鳥のさえずりでも、鶏の鳴き声でもなく、
「‥‥‥んぁ?」
イビキをたてながら、寝ているセラミーだった。
和也はベッドから起き上がると、うるさい音がする元凶の前に立った。そしてそれを見て思った。
想像と違う、と。
和也が想像思っていた妖精のイメージは、可愛らしくて、礼儀正しくて、それこそ清楚といったところか。
しかし今目の前にいる妖精は、大きな口を開け、大きなイビキをかいている妖精だった。布団変わりに用意したハンカチも、まるで邪魔物扱いみたいに、セラミーから離れたところにある。
そんな妖精を、悲しそうな目で見つめてから、二本の指でセラミーの頬を強く押す。
セラミーが起きたのは、それをしてから数分後だった。
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「いやー、昨日は魔力を多く放出しましたから、ぐっすりだったのです」
「そうか」
話を受け流すような軽い返事をしながら、トースターでパンを焼く。和也はあまり食べる方ではないので食パンを一枚だが、セラミーも食パンを一枚食べると言うので驚きだ。
「そんな小さな体のどこに入るんだ」と聞いたところ、昨日の必殺技で魔力を消費したので、これくらいは食べれるとか。
思い出したくもない昨日の出来事。間違いなく和也の中の黒歴史になった。
コスプレでも同じような格好をする人もいるだろう。しかしながらそれは、自分の意志があってやっていること。和也の場合は知らなかったとはいえ、意思なんて関係ない。気がついたらあの格好になっていた。
なんて昨日の自分を思い出したら、嫌気が差した。そんな嫌気が差した時に、パンが焼けた。
焼けたパンにマーガリンを塗って、食べる。これが今日の朝食だ。
「‥‥‥‥‥」
普通に食べいていた和也だったが、ふとセラミーも見たら、物凄い勢いで食べていて唖然とした。
もちろん椅子に座って食べることは出来ないので、テーブルの上に置いてある皿の上に乗り、その皿に置いてある焼いたパンを食べている形だ。
セラミーは直ぐに食パンを食べ終えた。和也はセラミーのたべっぷりを見ていたため、あまり食べてなかったため、再び食べ始めようとしたら、視線に気がついた。
じ~~、と、物欲しそうな目で、こちらの食パンを見ていた。
「‥‥‥いる?」
「欲しいのです!」
質問からの返答が速かった。体と胃袋の大きさが絶対に合っていないと、和也は確信をしながら、まだ手をつけてない部分をちぎりセラミーに渡した。
「さて、これから簡単な説明を始めさせていただくのです」
どこから持ってきたのかわからないが、白衣姿のセラミーが学校で使うような指示棒を持ちながら、先生気取りで話を始めた。
先程まで朝食をとっていた、一階のリビングから、二階にある和也の部屋に移動した。
昨日の出来事や、これからのことを話すらしい。昨日は疲れてあの後は直ぐに帰って寝てしまったからだ。幸なことに今日は祝日なため学校がなく、家族も皆、家を空けている。
「とりあえず、概要を教えてくれ」
聞きたいことは沢山ある。沢山ありすぎて、何から聞けば良いのかわからない。なので大まかな説明をしてもらって、理解しようとした。
「簡単に言えば、昨日戦ったスライムみたいな魔物がやって来ますから、倒せばOKなのです」
「‥‥‥すげー大まかだな。で、その魔物? が、なんでやって来るんだよ」
「そりゃー、地球征服を狙っていますからねーー」
セラミーの言葉を聞いて、和也は、ため息が出た。今時、地球征服なんか流行ってねーよ、久々に聞いたわ、地球征服って言葉。と心底思った。
魔物退治で地球を守ることだと思うが、さっぱりやる気がおきない。むしろやりたくない。その理由は‥‥‥。
「‥‥‥あの格好はなんとかなんないの?」
一夜にして黒歴史ランキングを、ぶっちぎりで一位になったあの格好。言葉にするだけでも恥ずかしい。あの格好のせいで、全く乗り気にならない。
「無理ですね。契約も受諾してしまったので、どう足掻こうが無駄ですね」
「契約の解除ってのは出来ないのか?」
無理だと言われても諦めない。無駄と言われても足掻く。それほど、あの格好をするのが嫌だということが良く伝わる。なんとかならないのか、解決の糸口を探る。
「契約の解除には、双方の、もしくはいずれかの死亡が確認されなければならないのです。ちなみに、今ここで、私を殺害しても、殺人の罪になりますから。変なことは考えない方が良いのです」
解決の糸口は見つかりそうもない。大きなため息をついて、先程から座っていた椅子から、机に向かって寝そべる。認めざるをえないのか、あの格好をすることを。
そんな諦めムードと、絶望のオーラがむんむんと出ている和也を見て、セラミーは飽きれ口調で言った。
「そんなに嫌だったら、あの格好をする前で戦えば良いのです」
「ん? 今何て言った?」
「だから、変身する前の状態でも、一応武器となるステッキがあるのですから、それで戦えば良いのですって」
「え? あんなので攻撃できるの?」
寝そべりの諦めムードだったがセラミーの言葉を聞いて体を起こした。
和也があんなのと言ってしまうのは仕方がない。変身前のインフォームド状態の時に持っていたステッキなのだが、見た目は子供のオモチャそのもの。
そんなもので攻撃が出来るとは到底思えない。少なくとも、ボタンが一つあるぐらいなのだから。
「さすがに必殺技は出せませんが、簡単な魔法ぐらいならできるのです」
「それは朗報だな、変身しなくても戦えるじゃん」
「それでは、早速試すために外にレッツゴーなのです!」
窓に向かって指を指した。外へ行く気満々なセラミーを他所に、和也の視線は机の下にある鞄に。そのまま鞄の中から学校の教科書を取り出した。そしてそのまま机に広げた。
しばらくの間、セラミーは窓を指し、和也の目線は教科書にあった。
「……あの、もしもし和也さん?何をしているのでしょうか」
「見ればわかるだろ、勉強だよ。大事だよ、勉強は」
「そうですよね。大事ですよね。関心関心、じゃないのです!!! なんでこのタイミングで勉強なんですか! 普通は外に行くパターンですよね!」
「知るか、そんなパターン。チュートリアルを、クリアしたんだから、今はログインボーナスを貰う時期なんだよ、俺にはまだクエストの進行は早いの」
「そんなことしてたら、いつまでもランクが上がらないパターンなのです! 運営からの詫び石を貰ってガチャを回すクソ野郎なのです! ちゃんとプレイするのです!」
「おい、一部のユーザーに謝れ、バカヤロー」
先程から、話の内容がスマホのゲームになっている。二人ともよくゲームをするのか、話に熱が入っている。
しかしながら、今はスマホのゲームの話で盛り上がるのは、元の話題からだと、完全に話が逸れている。元々外で魔法を使うか、使わないかの話だったのだから。
このままでは、埒があかないので、セラミーは強行手段に出た。
「だったら、ジャンケンで決着をつけるのです! 私が勝ったら、外に行く。和也さんが勝ったら、そのまま家にいるのです」
これがセラミーの強行手段。その名はジャンケン!万国共通。簡単なルール。そしてセラミーにはジャンケンには自信があるから、強行手段なのだ!
「俺が勝ったら、もうなにも言うなよ」
「それは、勿論なのです。ただし私が勝ったら、外に行くのです」
数秒の沈黙があった後、絶対に負けられない戦いが始まった。人はそれを、ただのジャンケンと言う。しかし今の二人には、今日の予定が懸かっている。
「「ジャーンケーン、ポンッ!!!」
このジャンケンの勝敗が、これからの物語を語るのだった。